東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~ 作:新影正虎
ちなみに副題の
「Wind of the guidance and true faith」
とは『導きの風と真実の信仰』という意味です。
異邦よりの神と楽園から忘れられし神
前編『雨神の挑戦』
人と妖が共存する忘れられし幻想の楽園、幻想郷。そしてその幻想郷を守る使命を担う博麗神社の巫女、霊夢と外界からこの幻想郷にある妖怪の山へと転移した守矢神社とのいさかいが起きる少し前のある日、秋雨降りしきる守矢神社を訪れる一人の少女がいた。
その少女は見かけに似合わぬ不敵、というよりは生意気そうな表情で神社の本殿を睨みつけると‥‥
「ここね!外の世界から来たっていう神社は!誰でもいいから出てきなさい!」
「‥‥誰ですか?あなたは?」
訪問者の勇ましい声を聞きつけて神社の本殿から姿を現したのはこちらも一人の少女。その少女に訪問者は名乗る。
「あたしは天瑞時雨子(てんずいしぐれこ)!この幻想郷に古くから住む雨神よ!あんたたち!新参者の神のくせにこのあたしをないがしろにするとはいい度胸ね!」
訪問者が発したその挑発的な名乗りに対し、相手の少女は傲然たる振る舞いで応じる。
「‥‥そちらこそ言ってくれますね。この守矢神社は外の世界においてははるか古より存在する由緒正しき御方を祀る神社なのですよ」
「ふん!外の世界でどれだけ有名だったか知らないけど、そんなのここじゃ何の関係もないわ!」
そう言い合って互いに一歩も引かぬ両者。その時、神社の本殿の奥から御柱と注連縄を背負った女傑が姿を見せる。
「‥‥ほう、面白いねぇ」
「神奈子様!」
「時雨子とか言ったか?あんたがもし、この早苗に勝てたらあたしが相手になってやるよ」
「‥‥ふん、見くびられたものね!神であるあたしが人間相手に負けるわけないわ!」
だが‥‥‥現実は非情である。
中編『無惨な敗北』
『秘術!グレイソーマタージ!』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
早苗が宣言したスペルカードの弾幕が時雨子を襲い、彼女を戦闘不能へと追い込む。
「‥‥幻想郷の神の力とはこんな程度なのですか?ずいぶんとあっけないのですね」
雨降りしきる神社の境内に崩れ落ちた時雨子に対し、早苗はそう傲然と言い放つ。
「うう‥こんな‥はずは‥この‥‥あたしが‥たかが‥人間‥相手に‥」
そう言いながら時雨子は気力を振り絞って立ち上がろうとするが、その前に悠然と神奈子が立ちふさがり、彼女を見下ろしたまま告げる。
「‥‥残念だけどこの子、早苗はただの人間じゃない。神の力を宿す人間、現人神(あらひとがみ)なのさ。だから、あたしら神と同等の力を持っている」
人でありながら神でもある。その言葉に時雨子は愕然とするが、そんな彼女を見下したまま今度は早苗が言い放つ。
「‥‥そのとおりです。そして私にも勝てないあなたが神奈子様に戦いを挑むなど、100年、いえ1000年早いのですよ」
「‥‥‥う‥うう‥‥」
『たかが人間』と侮った相手に対しての敗北。無残にも傷つけられた神としての誇り。屈辱と悔しさが涙となって時雨子の頬を降りしきる雨と共につたっていく。
「‥‥これでわかっただろう?あんたとあたしたちとでは神としての格が違う。だからおとなしく帰りな」
「‥‥う、うぅ‥‥」
そうして自分の前に立ちはだかる神奈子と早苗に対し、時雨子はボロボロになった心と体に鞭を打ち、その場から逃げ出すのが精一杯だった。
「さてと。早苗、なんか余計な邪魔が入ったが、そろそろ博麗神社の巫女を相手にするよ」
「はい神奈子様、お任せください。見事博麗の巫女を下し、幻想郷の信仰をすべてこの守矢神社へと集めて見せます」
そうして、早苗と神奈子の関心は霊夢へと移り、時雨子の存在などすぐに忘れてしまった。
後編『復讐の黒き雨雲』
一方、そんな彼女たちによって散々に打ち負かされた時雨子がようやく帰りついた自分の家‥‥社もまた、長い年月の末に人々から忘れ去られた事で荒れ果て、無惨な姿を晒していた‥‥‥
それを改めて見た時雨子の心に芽生えたもの、それは人々に忘れられたことで力を失った自分に対する憤り、自分に対する信仰を忘れた幻想郷の住人たちに対する怒り、そして神である自分に屈辱を与えた『早苗とかいう人間』に対する憎しみ。それらが彼女の心の奥底で復讐というどす黒い情念へと変わっていく。
「‥‥あたしに‥‥あたしにもっと力があれば‥あんなよそ者に大きな顔をさせないで済んだのに‥‥‥そうよ、力よ。もっと力を得ればきっとあいつらを‥‥くくくっ‥‥あはははっ‥‥やってやる、どんな手を使ってでも力を得てやる。そして、そして‥‥あの早苗とか言う人間を‥‥必ず地面に這いつくばらせてやる!」
そんな早苗と幻想郷の住人たちに対しての尽きぬ憎しみを募らせる時雨子の情念は、やがて暗雲となって彼女の体から噴き出し‥幻想郷の空を少しずつ、だが確実に蝕んでいった‥‥‥