東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~ 作:新影正虎
そのアスメルや農民の一言を聞いた嵐は内心で風と言葉を交わす。
‥‥ああ言っておいてなんだけど‥‥この人たちにライターとか見せたらどう思うのかしら?‥‥
‥‥それが八坂様の狙いなのでしょうな‥‥外界の『科学』を幻想郷に持ち込み、広める事で人々の生活を豊かにし、それによって自らに対する信仰を得る‥‥
‥‥神奈子‥‥なりふり構っていないわね‥‥科学というのは元をただせば自然の法則、そしてそれを活用できるようにしたのは人の創意工夫‥‥それを神の施しとするなんて‥‥ほとんどペテンじゃないの‥‥それが神のする事かしら‥‥
‥‥神だからこそでは?‥‥ギリシャ神話で人に火を与えたプロメテウスのように神にとって人の知恵・創意工夫・発明などは所詮『自分たちによって与えられたモノ』に過ぎない‥つまり元をただせば自分たちのモノという事なのでしょう‥
‥‥ふん‥‥人の努力や発明も皆、自分たちの恩恵って訳?‥相変わらずね、連中は‥‥
嵐達が内心でそうしたやり取りをしている一方で、助けられた農民たちは‥‥‥
「‥‥それにしてもこの雨はやっぱり雨神様の崇りなんだろうか?」
「‥‥違いねぇ、俺たちがこれまでずっと雨神様の事をないがしろにしていたから怒っておられるんだ‥」
「‥‥俺たちは一体、どうすればいいんだ‥」
‥‥嵐が熾した火を囲み、口々にそう言い合っては途方に暮れている。
だが、嵐はそんな農民たちよりも、さっきから彼らの視界に入らないように影でこそこそおとなしくしているエラミーの行動に違和感を覚え、ふとそちらへと意識を向けた‥‥‥そんな時。
「‥‥あ‥だめ!逃げてください~!」
相変わらずの口調ながら、はっきりと危機を伝えるアスメルの声が聞こえてきた。
「もう‥‥抑えられません~」
「え?」
そのとき!上流の方からおびただしい規模の土色の濁流が押し寄せて来る!
今までアスメルの力で『ある程度』に押しとどめられていた流れが、彼女の力の限界を超え、一気に押し寄せて来たのである。
「ああっ!」
その濁流は瞬く間に川岸を浸食し、川原一帯を飲み込もうと迫り来る!それを見た嵐は‥
「まずいわ!こっちにも来る!‥‥‥早苗!早く川から離れなさい!」
そう叫ぶと同時に風を呼び出すと、近くにいる助けた農民達を掴んで急上昇する。それを見たエラミーとアスメルもあわてて後に続く。
そうして彼女たちが宙に浮かんだ次の瞬間、濁流が焚き火ごと彼女達のいた森と川原との境目まで押し寄せる。
その時、早苗は‥‥
「あなたで最後ですね、掴まってください」
そう言うと最後の農民を連れて、対岸へと渡ろうとしていた。そこに‥
「‥!‥!‥早苗!早く川から離れなさい!」
「え?」
嵐の叫びを聞いた早苗はふと、振り返り‥そして自分たちに向かって猛烈な勢いで迫り来る濁流を見る!
これでは‥もう逃げられない!
とっさにそう判断した早苗にその場で結界を張り、濁流から自分達を守る。
「くっ!うぅっ!」
だが‥早苗はその状態を維持するので精一杯で、とてもそこから離脱する事はできそうに無い。しかも、濁流の勢いは更に強まり、早苗達は完全に流れの中に取り残されてしまう。
今、少しでも結界を維持する力を抜いてしまえばその時点で濁流が二人を飲み込むのは‥‥確実。
果たして濁流の勢いが弱まるのが先か、二人が飲み込まれるのが先か‥だが、結界を張っている早苗の苦悶の表情を見る限り、それが長続きしないことは明らかだった。
「今、手を貸すわ!だから少しの間だけ持ちこたえて‥‥」
そう言って嵐が農民達を濁流から更に離れた森の中に下ろそうとしたとき‥!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
いち早く、絶叫と共に川の方へと飛び出していく影があった!それは‥‥