東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~ 作:新影正虎
時雨子の社~祟り神『天瑞時雨子』
雨雲の発生源でもある、幻想郷の外れに位置する山。そして、その山の中腹の森の中にひっそりとたたずむ古びた社。それが二人の目的地でもある天瑞時雨子が住まう社。
そして二人はその社のそばにある大木の前に立っていた。
「これは‥」
その大木は途中から不自然に二つに分かれており、その様から過去、この木に何かがあったことは明らかだった。
「雷が落ちた木‥‥どうやらこの木が天瑞時雨子の御神体みたいね」
「え?」
「‥‥空ではなく、地上において雨と雷が合わさる場所。荒ぶる雷を受けてもなお生命を絶やさず、大地に水をもたらす雨を受け止め、山に命と潤いをもたらす巨木‥‥」
「先輩?」
「‥‥雨は生き物にとって恵みの水をもたらす。でもそれは雷も同じ。落雷は海に落ち、その力で命を生み出し、地に落ちては火を生み出す‥‥火は森と命を焼くが、それは新たな命の苗床となる‥‥‥そう、雨も雷も決して不幸や悲しみを生み出すだけの存在ではないのよ」
そう言うと嵐はゆっくりと後ろを向く。それに早苗も続き‥そこで彼女が見たのは‥‥
宙に浮いたまま、憎しみに満ちたまなざしで早苗達をにらみつけている一人の少女の姿だった。
「あんたね、天瑞時雨子っていうのは」
「‥‥そうよ」
身構えることも無くお互い正面から相手を見据え、にらみ合う嵐と時雨子。一方‥‥
「‥‥感じます、前よりも強い力を‥でも‥これは‥‥なんて禍々しい‥‥」
早苗は前に倒した相手から感じる異様な気配に思わず後ずさり、身構える。そんな早苗に対して時雨子は、あからさまに見下した態度を見せる。
「‥‥よくこんな所まで来たわね、よそ者の巫女。調子に乗って次はここからも追い出すつもり?」
「そ、それは違います!」
「じゃあ何?‥‥あんた達の下につけとでもいうの?」
「!‥‥それは‥‥」
時雨子の指摘に早苗は口ごもる。
「‥‥あんた、人間のくせに神だとか言われていたわね。本当にあんたが神ならわかるはずよ。神として‥‥あんな屈辱を味合わされた相手におめおめと従うつもりは無いわ!
‥‥‥それでもあんたがあたしを従わせたいのなら前みたいに力でねじ伏せてみなさい!
‥‥もっとも、今度はそう簡単にはいかないわよ!」
そう言うと時雨子は内に秘めていた力を解放し始める。空を覆う暗雲がいっそう黒く、厚くなり、怪しい光を放ち始める。
「‥‥もうやめて下さい!復讐からは何も生まれません!復讐ならわたし達だけを狙うべきです!関係の無い幻想郷の人たちにまで災いを振りまかないでください!」
そう必死に訴える早苗。だが時雨子はそんな早苗の様を鼻で笑い飛ばす。
「復讐?‥‥何を勘違いしているのかしら?
今、あたしは最高に気持ちがいいの!あたしの存在を思い出し、畏れる人間や妖怪の存在があたしに力を与えてくれているのよ!」
時雨子の表情が先ほどまで見せていた憎しみから狂気じみたものへと変わる。
「もっとよ!もっと畏れさせてやる!そうすればあたしの力はさらに増し、ここの奴等はもう二度とあたしのことを忘れられなくなる!」
その瞬間、その場に激しい閃光が走り、轟音が響きわたる!どうやら彼女達の近くに雷が落ちたようである。
至近での落雷におののく早苗、一方の嵐は表情一つ変えずに時雨子を見上げ、睨み付けている。そんな二人に対し時雨子は二人の様子など意に介さず一方的にしゃべり続ける。
「あははははっ!畏れろ!もっと畏れろ!そうすればどいつもこいつも皆あたしを恐れ、崇め、祀り上げる!そして‥‥そして、あたしはこの世界を支配するわ!」
「し‥時雨子さん‥‥」
時雨子の変貌ぶりに呆然となる早苗、一方の嵐は時雨子の言葉に顔をしかめる。
「‥‥‥まずいわね、人々の彼女に対する畏れの感情が、彼女自身に悪影響を与えているのかもしれない。このままじゃあの子、妖怪か祟り神‥‥いえ、最悪、悪魔になってしまうかもしれないわ」
「そんな‥‥」
嵐の言葉に早苗は返す言葉を失う。
「‥‥何が何でも彼女を止めるわよ。そうしなければ彼女自身が異変の元凶として、これからもこの幻想郷に災いを撒き散らすことになるわ」
それを聞いた早苗は、大幣を握る手に力をこめ、嵐の前へと歩み出る。
「‥‥わかりました、これはいわばわたしたち守矢が引き起こした異変、わたしたちがその責任を取らなければいけない。そう言うことなのですね」
「そうよ」
そう答えた嵐の声を聞くと、早苗は彼女を制して空へと舞い上がり、時雨子と対峙する。