東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~   作:新影正虎

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早苗対時雨子~アジシキタカヒコネとタケミカヅチ

 

『秘術!グレイソーマタージ!』

 

 機先を制すべく勝負開始と同時に早苗はスペルカードを宣言、宙に描かれた上向きと下向き、二つの五紡星の魔方陣が幾つにも分裂、そして弾けて生まれた弾幕が場を鮮やかに彩り、支配する。

 しかし‥時雨子にとってそれは一度見た弾幕、弾の軌道を読んで次々回避すると‥‥

「あなたの力ってそんなものだったの?だったら!」

 

『憤激!巨木を断ち割りし怒り!』

 

 早苗を嘲りながら時雨子がスペルカード宣言をする。

時雨子の宣言がされると同時に時雨子を中心にして天空から雷が見境無く降り注ぎ始め、それが早苗の放った弾幕を次々と打ち消していく。しかも、その範囲は周囲のものすべてをなぎ払うかのように徐々に広がり始める。

 被弾を避けるべく後退して距離をとり、雷攻撃をかわす早苗。そんな彼女を時雨子があざけ笑う。

「あははっ!どうしたのぉ?守矢の巫女?この間みたいに容赦なくあたしを叩きのめしてみなさいよぉ」

「う‥く‥」

「現人神だの何だと祭り上げられていても所詮人間。本物の前では赤子同然と言う事ね」

 そう早苗を罵る時雨子の表情にやがて狂った喜悦が現れ始める。

「‥‥感じる‥感じるわ‥あなたの怖れを‥あたしに対する畏れを!力が‥力が湧いてくる!いいわ!気分がいい!もっと畏れなさい!敬いなさい!あんたみたいな紛い物じゃない!正真正銘の神である‥‥このあたしをね!」

 そう叫び、ますます強大になっていく時雨子の力に対し、焦りの色を見せる早苗。

一方、嵐は風と共に打開策を見出すべく思案をめぐらせていた。

 

「怒り、それに雷‥‥ですか、確か『古事記』に似たような逸話を持つ神がおりましたな」

「‥‥アジシキタカヒコネ(阿遅志貴高日子根神)ね‥確か、死んだ友人、天若日子(アメノワカヒコ)の弔いの場でその友人に間違われ、激怒して喪屋(注・死者を安置するために建てられる建物)を切り、蹴り飛ばした神の名だったわね‥確か彼は鉄器、特に鋤(すき)の神であり、農耕の神、そして雷神でもあったはず」

「八坂様同様、彼女もまた、『この世界における』アジシキタカヒコネに相当する存在ということでしょうか?」

「そう単純でもないでしょう。『古事記』はあくまでも神話の話なのだから」

「‥‥確かに」

「例えばあの木に雷が落ちてアジシキタカヒコネの力が部分的に宿り、神としての力を得た‥とか、色々可能性は考えられるわ」

「なるほど」

「それにしても‥‥同じ雷神でも建御雷(タケミカヅチ)ではないのですな」

「あれは建御名方神(タケミナカタ)‥‥つまり『この世界においては神奈子に相当するだろう存在』を負かし、古代日本を征服した神と『古事記』にはある存在‥‥つまり神奈子よりも格上の存在‥‥と仮に定義すると、たとえ二対一でも早苗と神奈子に遅れをとるのはおかしいわね」

「そういえば‥アメノワカヒコとアジシキタカヒコネは同一の神であり、その死と復活をもって春と秋を現している神である、とかいう説もありましたな」

「‥‥諏訪子と神奈子の関係に近くもあり、遠くもあるわね」

「‥‥ええ」

 そうして嵐達が相手の事を分析している間も弾幕勝負は続いている。

 時雨子が己の周囲に展開させた雷弾幕は周囲をなぎ払うだけではなく、早苗を狙って降り注ぎ始める。それに対し彼女はかわすのが精一杯で、なかなか攻撃に転じることができない。

「‥‥やはり今の早苗に畏れの力を得た神を相手にするのは無理ね‥‥‥ここは『流れ』を変えるしかないか‥‥‥早苗!一旦下がりなさい!」

「‥‥せ、先輩?」

 突然の嵐の言葉に早苗は戸惑いつつも、時雨子が放つ雷弾幕をかいくぐりながら嵐が待つ地上へと降りてくる。

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