東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~   作:新影正虎

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記憶の残滓

それまで全く会った事も無い嵐の顔を見た瞬間、なぜか早苗の心には引っかかるものがあった。あの時は気にも留めなかったが、もしかしたらあれは‥嵐が言うところの『前』‥‥前世に彼女と出会った記憶の残滓だったのかもしれない‥‥

‥‥だが、それよりも早苗の心を締め付けたのは、自分が嵐と初めて出会った時、彼女の事を何も知らず、どこか彼女を不審の目で見ていた自分を見る嵐の表情が、どこか寂しさと悲しさを伴ったものだったように思えたからである。

‥‥それは、あるいは彼女の気のせいだったのかもしれない‥‥だが、早苗は確信していた。嵐は永い‥‥永い時の果て、再び出会った早苗(じぶん)が自分の事を何も覚えていない事に内心、悲しんでいたのだと‥今までも、そして‥‥これからも‥‥自分以外の『東風谷早苗』に出会う度‥‥彼女はその思いを‥‥味わう事になる‥‥

そう思うと早苗の心には、何とも言えないやりきれなさと無力感が生まれる。しかし‥そんな早苗の心中を察した嵐は‥‥

「‥‥‥‥それこそが『永遠に生きる者』が背負わなければいけない業なのよ、早苗。あたし達は例え、この宇宙が終わりを迎えても滅びを迎える事無く、未来永劫、永遠に生き続ける。だから、どんなに辛かろうとも、苦しかろうとも死によってそこから逃げる事も、生きることを終わらせる事もできない。

‥‥‥不老不死が人類究極の夢?笑うわね。こんなものが夢だなんて‥‥‥」

珍しくそう毒づき、不快感を露わにする嵐に早苗は絶句する。

 だが、そんな早苗を見た嵐は表情を穏やかにすると‥‥‥

「‥‥でも、あたし達はその業をマイナスではなく、プラスに考えた。永遠に生き続ける事で得た膨大な知識や経験をあなた達、有限の生を持つ者達の役に立たせる事を自分達がするべき使命とした。それによってあなたたちが『より良い未来』を得られるようその手助けをし、礎となる事。それこそあたしたち自身が決めた自らの務め。

そして、その務めを果たしたら‥‥あたしたちは消え、その存在は誰の記憶からも、あらゆる記録からも抹消される。決してその世界の歴史に名が残ることの無い夢・幻の存在、それが‥‥あたしたちなのよ」

‥‥だから‥彼女達がどれほどの事をしようとも、例えその行動が世界を救い、何億もの命を救う礎となろうとも、その事が知れ渡る事は無い。名誉も栄光も‥‥‥全て他人のもの‥‥だが、それはある意味当たり前の事。なぜなら‥‥彼らはこの世界の存在ではない‥‥彼らがいない事の方が正しい世界なのだから‥‥‥‥しかし‥‥にもかかわらず嵐は変わらず穏やかな表情を浮かべている。それを見た早苗は、駄々っ子のようにかぶりを振る。

「ダメです!そんなの‥‥それならなおの事、絶対に!先輩の事忘れません!忘れたくありません!」

 もう一度、先程よりも更に強い口調でそう叫ぶ早苗。だが‥‥

「‥‥無駄よ。忘れると言う事はね、それについて忘れた事すらも忘れると言う事なの。自分が何を忘れたかも分からないようじゃ‥‥思い出しようが無いでしょ?」

 そう悟りきっている嵐に対し、早苗は懸命に首を振る。

「‥‥それでも‥‥それでも!無理だと‥無駄だと‥不可能だというのなら!‥なおの事、その奇跡‥起こします‥‥起こして見せます!」

 涙目のまま、しかし力強く嵐を見据え、そう宣言する早苗。そんな彼女の真摯な態度を見た嵐は苦笑し‥

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