東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~   作:新影正虎

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別れ~涙と共に流れ落ちたもの

「‥‥‥早苗‥‥その気持ちだけはありがたくもらっておくわ。でも‥‥」

 そこで嵐は言葉を切り、しばしの沈黙が場を包む‥‥だが‥‥やがて彼女は重い口を開く。

「‥‥‥どうもこれ以上ここにいても、名残が尽きないだけみたいね。だから‥‥そろそろ行くわ。

‥‥でも‥‥早苗‥みんな‥さよならは言わない‥‥‥『ちょっと行ってくるわね』」

 

『!』

 

 ‥‥まるで、隣家にでも行くかのような気安さでそう言うと、嵐は一同に対して背中を向け、さっそうとした足取りで歩きだす。だが、それを見た早苗は‥‥‥はっと何かに気づき‥‥

「!‥‥‥ま、待ってください!ま、まだ行かないで!わたし‥‥‥わたし!」

 とっさにそう叫んで駆け出し、無意味と知りつつも再び嵐に向かって手を伸ばそうとする‥だが‥

‥‥‥まるで‥それを制するかのように‥一陣の風が‥一同に向かって吹き、皆が一瞬『そこ』から目をそらす‥‥そしてその風が止んで、再び一同が『そこ』に目をやると‥

 

 ‥‥‥もう‥その場には‥‥‥誰もいなかった‥‥‥

 

‥天風嵐と言う存在が‥‥まるで‥初めから‥‥存在していなかったかのように‥‥きれいさっぱり‥‥足跡一つ残さず‥‥

その‥‥誰もいなくなった光景を早苗は‥‥しばし呆然と見ていたが‥‥やがて‥

「‥‥言え‥なかった‥『どうぞ、行って来てください』って‥‥笑って‥‥送り出せ‥なかった‥‥あ‥ああ‥う‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 早苗はその場で膝を折って崩れ落ちると、雲一つ無い夕焼け空の下、人目もはばからずに泣きじゃくる。だが‥それに対して‥誰一人‥‥何も言わない。

いや‥‥それどころか、エラミーとアスメルは早苗につられて大声で泣きじゃくり、萃香と時雨子は拳を握りしめ、にとりは大空を見上げてぐっと何かを堪えている。

そして‥‥文もまた、そんな彼女達の様を写真機に収めようともせず、閉じた手帖を持つ手をわずかに震わせ、黙ってその場に立ちつくしていた。

 そして‥‥どのくらいの時間がたっただろうか‥‥宵闇の足音が‥‥ゆっくりと近づき始めた頃‥‥

 

 「‥‥おい‥守矢の巫女、何‥わんわん泣いてるんだよ?」

 うっすら目を赤くした萃香が泣きじゃくっていた早苗に声をかける。

「え?‥あれ?‥‥わたし‥どうして‥‥」

 萃香の言葉を聞いた早苗は、そこで初めて自分の行動に首をかしげる。なぜ、自分は泣いていたのか、『全く身に覚え』が無い。

 そんな早苗の様を見た萃香は呆れた様にため息をつく。

「‥‥とぼけるなって。あんたがあの荒ぶる雨神にてこずっているのを『たまたまあたしが見つけて助太刀』したんだろうが?」

「あ‥‥そう!そうでしたね!」

 さも当然と言わんばかりにそう言う萃香に対し、早苗もなんら疑問を抱かない。

「で、何とか弾幕勝負で倒したはいいが、それでもあいつの怒りが収まらないから、あの古びた社をわたしらが建て直す事であいつにこっちの誠意を見せ、それでなんとか鎮まってもらおうって話になったんだろうが」

「‥‥はい、『そうでしたね』‥それなのに‥わたしったら何で泣いていたんでしょうね?」

 いまだ自分自身の行動に全く合点がいかない早苗はしきりに首を傾げている。

「全く~しっかりしろよな~」

 だが、萃香自身も気づかない、周りも気づかない。彼女の目が‥自分達の目が‥‥まるで『直前まで泣いていた』かのようにうっすら赤くなっている事に。

 そんな早苗の様子に目をつけた文は早速手帖を開き、熱心にメモを取り始める。

「‥‥なるほどなるほど‥守矢の巫女の性格は‥いわゆる天然である‥と。これはこの先新聞のいいネタになりそうですね~」

「ち、違いますよ~」

 文の言葉を聞いた早苗は、顔を真っ赤にして反論する。だが‥

「だいじょ~ぶです!今後もあなたの活躍はきっちり面白おかしな記事にして幻想郷中に広めてあげますから~」

 にこやかな笑顔で親指を立て、そう宣言する文。そんな彼女に早苗はますます顔を赤くし、

「面白おかしくしなくていいです!ちゃんと!事実を!ありのままに書いてください~!」

「いや~事実も何も、これは目の前で見たことですからね~ありのままに書きます、書きまくりますよ~そして‥‥ばら撒きます!この号外を幻想郷中にばら撒きますよ~」

 にこにこと、心底愉しげに文はそう言うと、ふわりと宙に浮かび、早苗の周りを漂う。

「だから~」

「見出しは~ずばり!『奇跡を起こす守矢の巫女!その素顔は実は天然!』いやぁ~ばっちりです、傑作の予感がします!」

「何で見出しがそっちなんですか!異変解決の方を記事にしてください~!」

「あ~まあ、その辺は‥‥大丈夫、適当に書いておきますから」

「適当!適当って何ですか~!」

「何って‥‥‥適当は適当です。そのままの意味ですよ~」

「開き直らないでください~」

 そんなやり取りをしながら文は、のらりくらりと早苗からの訴えをかわす。そんな彼女を赤い顔のまま追い掛け回す早苗。だが‥‥文も気づかない。なぜ自分の目がうっすらと赤くなっているのか、なぜ自分の心がこれほどまでに昂ぶっているのか、に。そして、それを遠巻きに見ていた萃香は‥‥

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