東方天風譚「裏」風神録編 ~Wind of the guidance and true faith~ 作:新影正虎
謎の幽霊妖精~笑顔の裏に潜む、残酷なる本心
こうして早苗と妖精との弾幕勝負が始まった。二人は互いに光弾を撃ち合い、あるいは相手の攻撃をかわしながら空中を飛び回る。
そんな中、早苗の心は高ぶっていた。しばらくぶりに会った嵐に自分の成長と活躍を見てもらいたい、そんな思いが彼女の心を占めていたからである。
一方、その嵐は風と共に妖精の様子を観察しつつ、その気配の『質』を探る。
「あの子、見た目は妖精みたいだけど‥やはり、どこか違和感があるわね‥それにあの子の回りに漂っているあれは‥霊魂?‥それとこの感じは‥‥そう、魂魄家のものに似ている‥もしかしてあの子は妖精と幽霊の力を合わせ持っているのかしら?」
「幽霊妖精‥‥あるいは外界の西洋民話に登場する死告妖精『バンシー』とでも言うべきでしょうか?‥‥白玉楼を始めとした冥界の辺りならともかく、このあたりにあのような存在がいるとは珍しいですね」
「‥‥問題はあの幽霊妖精に『どんな能力』があるか、ね。そこいらの妖精程度ならともかく、もしバンシー級の能力なら‥‥ちょいと厄介ね‥‥果たして早苗の手に負えるかしら‥‥」
そうして相手を分析する嵐達に対し、早苗は一気に勝負を決めようとスペルカードを発動しようとする‥が、次の瞬間!身の毛もよだつような悲鳴が辺りに響き渡る!
キャァァァァァァァァ!
「な、何ですか!この声は!」
突然辺りに響き渡ったその不気味な悲鳴に早苗は表情をしかめ、思わず耳を押さえようとする:が、その悲鳴と同時に無数の魔力弾が弾幕となって早苗に襲い掛かる!
「くっ!」
聞くもおぞましい悲鳴を聞きながら早苗は何とかその弾幕を回避しようとする。しかし、そんな彼女の耳に突然、聞いた事のある声が聞こえてきた‥‥
「‥‥おい、聞いたか?東風谷の話」
「東風谷?ああ、豆腐屋の事か」
「豆腐屋?」
「東風谷って苗字、そう言う風にも読めるだろ?‥というか、俺はずっとそう言う風に読んでた」
「はははっ」
それは確かに早苗にとって聞き慣れた声、まだ外の世界で学校に通っていた頃にクラスメイトだった男子達の心無い声だった。
「‥‥で、何だよ、東風谷の話って?面白い話なのか?」
「ん?いやなに、この間東風谷が小さい声で奇跡がどうとか、神がどうとかを呟いていたのを聞いたのさ」
それはふと偶然耳にした陰口。だが、その話が通っていた学校中に広まるのにさほどの時間は必要とはしなかった。
「‥‥何だ、東風谷って見た目はかわいいのに中身は残念なタイプかよ」
その嘲りの言葉が刃物となって、ざくりと早苗の心に突き刺さる。しかも、その刃物は一本だけではない。
「笑えるよな~やっぱり家が神社だから幻聴を神の声だとか思うんだな」
「電波系かよ~東風谷は」
「その言い方古いぞ。そう言うのは今、厨二病って言うんだぜ」
何本も、何本も、言葉のナイフが容赦なく早苗の心へと突き刺さる。
「この科学万能の時代に古臭い神社の巫女なんてものをやっているからな~まあしょうがないさ。温かい目で見てやろうぜ」
嘲笑、蔑視、そして‥‥哀れみ。彼女が記憶の片隅へと追いやっていたそれらの記憶が残酷なまでにはっきりと甦り、早苗の心をえぐり、切り刻む。
「やめて‥‥やめてぇ!」
そんな蘇ってきた過去の記憶を懸命に振り払おうとする早苗の耳に、また別の声が聞こえてきた。
「ねえ聞いた?東風谷さんの話。最近あの子の周りで色々変な出来事が起きるらしいわよ」
「何よそれ?怖いんだけど」
「あの子には‥‥近寄らないほうがいいかもね‥‥」
それは級友だった女子たちの会話。
「‥‥それに東風谷さんって、ロボットとかオカルトとかが好きみたいよ」
「なにそれ?男の子みたい」
「おかしいわよね~」
「おかしいおかしい」
「あはははははっ!」
「や、やめてください!一体それの、それの何がいけないというんですか!」
自分の人格、尊厳、個性、それらすべてを否定するかのようなその言葉に対し、必死に反論する早苗。しかし‥‥その声に対して返ってきたのは冷たい嘲笑の渦だった。
「ははは!」「ははははっ!」「はははははははははははっ!」
「も、もうやめてぇぇぇぇ!」
とうとうその嘲笑の渦に耐え切れなくなった早苗は大幣を手放し、耳を押さえてその場で泣き崩れてしまう。