拙い文章ですが、どうか暖かい目で見守ってください。
大帝国
この宇宙には多くの星域が存在しているが現在から遡ること遥か昔、人類はその中の限られた星域に点在するに過ぎなかった。星域間の距離は途方もなく大きく、彼等にはそこを移動する術がなかったからだ。
そして、一星域に集まった人々はそこで“国家”という集団を形成し始めた。
伝承によれば、その先駆、最古の国家は日本帝国だといわれている。ついで、エイリス帝国が誕生し、ヨーロッパの国々が生まれた。
それらの国々は自分たちの星域から出ることなく、細々と一星域内で栄えていき、大きな転機を迎える……。
統一宇宙歴0年
エイリス帝国において星域内にある不思議な空間の研究がすすみ、その空間を利用すればこれまでほぼ不可能とされていた星域間の移動が瞬時にできてしまうことを発見した。
その空間は、ワープゲートと名付けられ人々はこぞってそれを潜り、まだ見ぬ星域へと進んでいった。
大航海時代の幕開けである。
そして、幾人もの勇敢な冒険者達の手により、各地でワープゲートが発見され無数の星域は数珠のように繋がれていった。
未開の地に降り立った人々は次々とその地で建国を宣言し、多くの国が産声をあげた。
しかし考えを異にする集団が無数に出来れば、そこには争いが生まれる。皮肉にも人類は広大な土地を手にいれたせいで、土地を取り合って争いを始めたのだ。
各地では常に戦火がくすぶり、多くの国が栄え、敗れ、滅んでいった。
その中でも、真っ先にワープ航法を発見したエイリス帝国は世界の先頭に立ち、次々と侵略、併合を推し進め一時は全宇宙の半分以上をその領土にした。
その繁栄っぷりは”パックス・ブリタニカ“と呼ばれ宇宙はこのままエイリス帝国のもとで統一されるかと思われる程であった。
だが、それも長くは続かない。百年も経たないうちに嵐のごとく反乱、革命、独立が起こり、エイリス帝国の繁栄は陰っていった。中でも最も大きな出来事はガメリカ共和国の誕生だろう。
エイリス帝国による秩序を失った宇宙には再び、戦火の種が生まれる。その火は徐々に煽られ、大きくなり途徹もないほどになり…………爆発した。
宇宙の各国は連合国、同盟国の二つの陣営に別れ、激突した。
人類は初めて世界大戦というもの経験したのだ。
文字通り総力戦であったそれは多くの命と金を費やし、また同時に莫大な富も生み出した。
そして同盟国側の敗北で戦争が終結すると、各国は反省し、大戦を通して巨大な力を得たガメリカ共和国、正確には前の大戦で巨額の富を得た各国の資本家たちの指導のもと、国際協調がすすめられた。
仮初めの平和を手にして息をするのも束の間、永遠の繁栄とも称されたガメリカ合衆国において空前の恐慌が発生した。
これまでの富を全て吹き飛ばす程のそれを前にし、戦争によって生まれた富も消え失せてしまった。
突然富を失った人々は怒り、焦り、なんとかして富を得ようとした。
その時、彼等の頭には一つの恐ろしい考えが浮かんだ、
“そうだ、この前は戦争によって儲けたのだから、もう一回あの戦争を起こせば……
”
少し前までは”パックス・ガメリカーナ“と高らかに唱え国際協調を自慢気にすすめていた彼等はもう、ただ富を取り戻すことに腐心し始め、戦争の火種を世界にばらまいた。
所詮、彼等にとって重要なのは己のことでしかなかったのだろう。
彼らの巻いた火種は、確実に芽を出した。
敗戦国ドクツでは一人の天才による独裁で、急速な復興を果たし再軍備を始め、
北の凍土、ロシアン平原では資本家たちを排斥する共有主義が燃え上がり、初の社会主義国家、ソヴィエトが誕生した。
そして、不安な情勢を見たエイリス帝国は世界管理プログラムという計画を議会で採択し、他国への介入を深め始めた。
かくして、世界は再び戦火の道を進み始めたのだ、裏でほくそ笑む多くの者たちと共に……。
ーー大帝国ーーー
統一宇宙歴939年
日本星域。帝都東京。
日本帝国の首都である、この街は活況であり、夏の昼間であるというのに多くの人が道路を行き交っている。
人々がごった返す、街の中心部から少し離れたところに小さな公園があった。その公園のあたり一画は自然が溢れ、緑の葉を生い茂らせた木々が影をつくるそこは街の人々にとって格好の避暑地となっている。
「お兄ちゃん~、まってよ~」
その公園の中、テケテケと走る一人の少女がいた。右手には器から溢れんばかりのかき氷を持っているため、その走り方は危なっかしい。
「早くしろよー、置いてくぞ!」
そんな少女の少し先には兄だろうか、幼い少年がいた。ぐずぐずしている妹に苛立っているのかその声は少し刺々しい。
「す、すぐいくから~……キャッ!!」
少年の苛立つ態度に少し怖がったように少女は言うと、足を早めようとした。その時、前ばかりに気をとられていた少女は足元の小さな段差に気づかず、それに躓き、前に倒れるようにバランスを崩してしまった。
「ーー、ーー!!」
先にいる少年がなにかいっているようだが少女には分からない。とっさのことであり受け身をとることもできず、彼女はただ、ギュッとその眼を瞑った。
ポフッ
しかし少女が想像していたような痛みはやってこず、ただ柔らかく温かい感触がした。
不思議に思い、ゆっくりと眼を開けると目の前には雪のように白く綺麗な服を着た男の人がいた。
この人が支えてくれたのか。
そう思いお礼を言おうとしたところで、視界の端にあるものが映り、少女は顔はみるみる青ざめていった。
右手に持っていたかき氷を相手の服に押し付けてしまっていたのだ。押し付けたかき氷は真っ白な服に赤い染みをいくつもつくっていた。
それを見ると、徐々に思考が明瞭になってくる。
(この白く綺麗な服って、たしか軍のお偉いさんが着ているものだ、ってことはこの人は…… うぅ、どうしよう)
事態をのみこんだ少女は、自分がとんでもないことをしてしまったように思え、戦々恐々とする。
とにかく謝らないと、そう思って顔をあげた時、やさしく頭を撫でられた。膝をつき自分と同じ目線に合わせられたその顔には、少しも怒った様子は見受けらず少女はほっとする。
「大丈夫か?いくらはしゃいでいるとはいえ足元には気を付けてな」
男性は微笑みながら話しかけ、少女はなんとなく恥ずかしくなり赤面する。
「す、すみません」
「ははっ、なに気にするな。それよりもお兄ちゃんが待っているようだ、早く行ってあげな」
男性は快活に笑うと少女を助けおこし、先で待っている兄に目をやった。
そちらにはこちらを心配そうに見ながら待つ兄の姿があり、それを見た少女の顔はパっと笑顔になった。
「うん!ありがとうおじさん!」
少女は駆け出す。
「!!もう転ぶなよ」
男性は一度、驚いたように目を開いてから走り去る少女に声をかける。
(もう、なにやってんだよ)
(ごめんなさい)
(はぁ~ほら、さっさと行くぞ)
(うん!)
兄は呆れたように手を差しだし、妹は満面の笑みでそれをとる。手をつないで歩いていく二人を見て、ウンウンと二三回頷くと男性もその場から立ち去った。
そして一陣の風が通りすぎたあと、その場には再び静けさ戻っていた。
ーープロローグーー
頭上で煌々と照りつける太陽がいらだたしい。なんで夏というものはこうも暑いのだろうか。無駄に厚着をしているせいもあり、なおさらだ。俺は額に手をかざして、非難の目をその元凶へと向けるがもちろんそれで暑さが和らぐわけもなくすぐに諦める。
だが、それにしても……
「さっきの子、絶対将来は美人になるだろうな」
隣に誰かがいるわけでもないが俺は一人、呟く。
つい先程の出来事を思い出す。
おそらく兄妹であっただろう二人の子ども。
思いかけず支給されたばかりの仕官服をよごしてしまったが、それ以上のものが見れたと思えば惜しくない。
二度の人生においてどちらも一人っ子として育った俺にはあのように仲睦まじき兄弟はすごく輝いて見える。
羨ましいものだ。
ところで、今、“二度の”人生と言ったがこれは言い間違いでもなんでもない。事実である。
俺こと“東郷毅“は元々、この世界の人間ではない。
おおよそ理解できる話ではないかも知れないがとりあえず聞いてほしい。
最初の人生は、21世紀の日本人だった。特筆すべき点もなく、いたって普通の人だったと思う。
強いてあげるなら、多少勉強は出来たことぐらいだ。
そして中央の省庁に勤めることになった俺だが、海外へ出張している際そこで自爆テロとやらに巻き込まれ人生に幕を閉じた。
自分事ながら、なかなかに呆気ない最期だったなと思う。
ともかくそこで俺は死に、それ以上の人生はないはずだった………、
はずだった……
気付いたら俺は、病院のベッドの上にいた。
助かったのか?とも思ったがすぐにその考えを否定する。
一言に巻き込まれたといっても俺の場合は直撃、としか言い様のないほどもろに爆発をくらった。あれで生きていられる訳がない。
では、ここは?
確かめるため周りを見ようとして、異変に気が付いた。
どうやら俺は赤ん坊になってしまったようだった。
何の因果か、前と同じ“東郷毅”という名前を与えられ、俺は二度目の人生歩むことになったのだ。
それから現状を受け入れるまでにはいくつもの苦労があったのだが、そんなことをいくら並べたところで意味などないので割愛する。
さて、俺が再び生を授かったここ“日本帝国”は成長するにつれて以前いた日本とは異なる世界であるとわかった。
いくつか日本、というよりもその大正、昭和と呼ばれる時代の頃のそれとよく似ている点はある。
国号も非常にそっくりである。
しかし、俺はここを異世界だと断言する。この世界はなんといえばよいのか、スケールがでかすぎるのだ。
例えば島国であったはずの日本が、ここでは宇宙のなかの一つの星域と呼ばれる地域を支配する国家である。広大な宇宙には他にも無数の星域が存在し、人々はワープすることでその間を移動する。
星域だのワープだのSFの中だけだと思っていたものが数え切れないくらいある世界。
それがこの世界だ。
と、ここまでの経緯を思い返しているうちに、どうやら目的の場所へついたようだ。そこは公園の遊歩道を進んだ少し先にある共同の墓地である。夏の盆を控えた今の季節、どの墓もよく掃除されており綺麗な花が添えられている。
いくつもの墓石が建ち並ぶ墓地のなか、中心部から少し離れた隅にひっそりと立つ墓石がある。周りにあるのはいわゆる三段墓という縦長の墓ばかりであるのにたいして、それは西洋のそれのように平たく横長のものである。
俺は表面についた埃を軽く手で払い、そこに持参した花束を置く。鈍い石の色の上におかれた花々はよく映え、中でも彼岸花の赤はひどく鮮やかに見える。
その赤を視界から消すかのように俺は静かに目を閉じ、暫く黙って祈りを捧げた。
「東郷提督!やはりここでしたか」
どれほどの時間だっただろうか、俺が黙祷していると後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。あまりにも聞き慣れ過ぎたその声は振り返るまでもなく分かる。
「秋山か……、どうした?」
「はい、前倉長官が東郷提督のことをお呼びしており、探しに参りました」
眼鏡に、少しクセのある伸ばした黒髪の男ーー秋山は簡潔にはっきりとそう告げると非の打ち所がないほど美しく敬礼する。
俺にとって部下であり参謀でもあるこの男は非常に優秀である。だが、それゆえ融通がきかず頑固なところがある。この敬礼にしても日頃からしなくてもいい、と言っているのに一向に止めようとしないのだ。
「はぁ、誰もいないこんなところでやめろ、堅苦しくてかなわん」
「はい、ですが……」
「上官の俺が構わんと言っているんだ、従えばいい」
「はい、以後気を付けます」
一応はい、と答えた秋山だが多分次もやるのだろうな、と何度目になるか分からないやり取りに小さく苦笑いする。困った部下持ったものだ。
「……もう何年前のことになりますかね?」
ふと、秋山は視線を俺の向こう側、墓石に向けると帽子を外して胸にあて、しみじみと聞いてきた。
「二年だ」
「もう、そんなに経つのですね……」
目を閉じたまま、感慨深そうに呟く秋山。
この男にとっても、あの事件は深く心に残るものがあったのだろう。
沈黙が辺りを支配する。
「よしじゃあ戻るぞ、秋山」
頃合いを見計らって俺は、いまだに沈痛な面持ちで顔を伏せる秋山の肩に手を置きながら声をかける。
「提督はもうよろしいのですか?」
「ああ、俺はお前が来る前に済ませておいたからな」
帽子をかぶり直しながら尋ねてくる秋山に俺は軽く手を振りながら答え、来た道を引き返す。すると、秋山もでは、と俺に続いてゆっくりと歩を進め始めた。
心地よい風が頬を撫でる。
今日、俺がここを訪ねたのたは“決意”の為である。
俺が10才にもならない頃、宇宙では第一次世界大戦なるものが勃発し、その後、ガメリカ共和国で大恐慌が発生した。
そして現在、三つの大国が戦争を目論見、世界各地では戦火の種が育ちつつある……。
このままいけば、その先に待ち受けるのは、十中八九”戦争“しかない。しかも、先の大戦よりもさらに大規模なものになるのは間違いない。
そうなれば、この日本帝国にも間違いなくその影響は及ぶ。そして、何千何万もの命が失われるのだろう……。
複雑な事情はあれど、ここ日本帝国も俺の故郷であることに違いはない。その故郷が戦争の憂き目に遭おうとするのに、豈に座視し得ようか。
そして、この地には守らなければならない、かけがえなきものがあるのだ。それを確かめることが出来た。
俺一人の出来ることなどたかが知れているかも知れない。
だが、それでも俺は足掻くと決めたのだ。
俺、日本帝国海軍提督、東郷毅は君の愛したこの国の未来をそして君が残してくれた宝を守るため粉骨砕身、奮励努力しようと思う。
だから、見ていてくれ、
ーーースカーレット……。
その瞬間、背を向けた墓地の方から強い突風が吹き、俺の背中を強く押した。
その風はまるで、俺を励ましているかのように思え、俺は自然と足を早め、力強く一歩一歩進んでいった。
その歩みを遮るものなど、なにもなかった……。
統一宇宙歴 393年
陰謀渦巻く世界は濁り、淀み、暗黒の時代へと進んでいく。
しかし、後に”大戦の英雄“と呼ばれることになる一人の男は、確かに前を向きその深き闇を恐れることなく時代の中へと飛び込んでいった。
夏の始まりのことである。
更新は遅めですが、よろしければお付き合いくださいm(__)m