大帝国~Restruct~   作:アギナルド

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第三話 胎動 ~明暗~

 

 

 

日本帝国 東京 三宅坂

参謀本部。

 

日本帝国軍は海軍と陸軍から成る。

これは当然のことに思えるかもしれないが、日本の場合、他国とは大きく異なっている点がある。

日本の海軍、陸軍は他国のそれと違い、各々の指揮系統が独立しているのだ。

 

勿論、どちらの組織もトップは大元帥、つまり帝である。しかし、実際に指揮をとるのは海軍省と軍令部および陸軍省と参謀本部だ。

 

一つの国でここまで複雑な指揮系統をもつ国は、世界広しと言えども日本帝国だけだろう。

 

これは分業という観点からするば、お互い専門分野に専念できるというメリットもあるが、デメリットもある。そもそも、戦争というのは陸、またわ海ーー宇宙空間のどちらかだけで起こるのではなく、そのどちらもで起こるのだ。其れゆえ、今回の作戦のように陸、海の両方で展開するようなものの時は、双方で意志疎通を図る必要がでてくる。今、ここで開かれている会議はまさしくそれであるのだ。

 

 

 

「……北京の制圧、占領が終わった時点で侵攻を停止。中帝国の反攻に備えます」

 

そして今、俺はその会議で今回の作戦の説明をさせられている。

 

この場にいるのは海軍及び陸軍の将官クラスの人物たちである。俺から向かって右側には黄土の士官服を着た見るからに屈強な人たち、陸軍の上級将校。彼らと机をはさんで対面するのが、純白の士官服の海軍の上級将校。

 

居並ぶ人物は、誰もが軍属ならば一度は聞いたことある程の壮々たる面々だ

そんな方々の前で、一提督にすぎない俺が作戦について長々と語るなど、本来はあり得ないことだがある御方の、

 

“お前がたてた作戦なんだ、お前が説明するのが一番だろ”

 

という一言で俺は今、ここにたっている。

 

胃が痛くなるような話だったが、なんとか大過なく終えることが出来たようだ。

各人の反応は上々、これならこのまま上手くまとまりそうだ。

 

 

「少しいいか?」

 

会議場の面々を見渡して、安堵してい俺の耳に、突如として澄んだ声が飛び込んできた。

 

 

「なにか問題でもありましたか? 山下長官」

 

「いや、問題というほどでもないが、一つ尋ねたいことがある」

 

声をあげたのは、並びいる陸軍将校の中でも最前列、つまり前倉長官の前に座る彼女は山下利古里、陸軍の長官である。

 

俺とさほど変わらぬ歳でありながら四大長官の一角を担う彼女は海軍の中でも有名であり、その名は幾度か聞いたことがある。なんでも彼女の祖父は非常に著名な陸軍軍人であったそうで、彼女の異常ともいえる出世はそれと関係しているとか。そして、彼女自身、その事を気にしているため陸軍内では彼女の祖父について触れるのは厳禁だとも聞いた。

 

 

「はい、遠慮なさらず何なりとお聞きください」

 

しかし、確かに異例の昇進ではあったものの彼女自身の実力は折りがみつきであり、ただ単純にコネだけで長官になったのではないことは、誰も疑いようのないことだった。 なんと陸軍大学校を首席で卒業している才媛である。

 

 

だからそんな彼女がひっかかった点があるのならば、それは俺にとっても非常に気になる。俺は、山下長官に先を促した。

 

「では、仮にこれでいくのならば作戦の根幹、”囮の艦隊を率いて敵を誘い出す役割“を果たす者の危険が些か大きくないか?」

 

そう言って山下長官は手元の資料を一瞥する。

 

 

 

その通りである。

 

今回の侵攻戦において、クリアしなければならないことは、大雑把にいうと北洋艦隊の殲滅。二度と再起できないほどの被害を与えなくてはならないのだ。故に撃ち漏らしがあってはならない。

 

そのために俺は一つの策を講じた。

 

退役寸前の艦船を寄せ集めた部隊を先行させ、索敵する。そして、敵艦隊を発見しだい攻撃。その後、機を見計らったところで囮の部隊は撤退するように装って戦線を離脱する。

この時は、間違いなく中帝国は追撃をかけてくるだろう。

そこで、後方にいた日本の主力艦隊が前進し、両翼から追撃にきた中帝国の艦隊を挟撃する。また、囮の部隊も反転、攻勢に出ることで三方向からの射撃によって敵艦隊を包囲、殲滅する、という手筈である。

 

 

単純だが、効率的であるように思えるこの策には一つ問題点があった。

 

囮となる艦隊にかかる負担が大きく、危険が伴う。そして同時に作戦の成否もその結果にかかっている。

非常に難しい任務になるにちがいない。

そして、その任に堪えるであろう人物も必要となる。

 

 

だから山下長官の質問は同時に“このような役を一体、誰に任せるつもりか?”ということ意味だろう。

 

 

 

当然、前倉長官は主力艦隊の指揮をとらなければならないため、この役目はできない。

 

だから、この役をすることになるのは……。

 

前倉長官の方をチラリと見ると、”話ても構わない“というように長官は大きく頷いた。

 

 

「おっしゃる通り、この役割は非常に危険を伴います。故にこの任務には発案者である私が当たらせていただくつもりです」

 

俺の言葉に山下長官は僅かに驚いたようだが、直ぐに顔を引き締める。

 

「……それは”海軍“としての決定ですか?」

 

続けて尋ねてくるが、彼女の鋭い双眸は俺を見てはいない。

その目は“海軍”の長たる人物、すなわち前倉長官を捉えていた。

 

「うむ、此度の人選は私も許可を出してある。海軍の総意と受けって頂きたい」

 

その視線に気づいたように、俺が返事をするよりも早く前倉長官は、静かに断言した。

そして、真っ直ぐ山下長官を見つめた。

 

 

 

 

実際には数十秒程でしかないだろう。この両者の対峙は体感で数時間にも感じられるほど緊迫感があり、室内の空気はこれ以上なくはりつめた。

 

「……分かりました。それが海軍の決定であるならば我々から言うことはありません」

 

「ご理解感謝する」

 

しかし、永久に続くかと思われたそれも山下長官が納得するように呟いたことで終わりを迎えた。

 

確かに、このような大作戦の肝要となる役を俺のような若輩に任せることに陸軍としては心配になるのも致し方ないだろう。しかし、前倉長官の言葉を聞いて、渋々ながらも山下長官、陸軍は承知してくれたようだ。

 

 

 

 

「では、他の方々のもよろしいか?」

 

前倉長官は続けて居並ぶ諸将を見渡して確認をとる。

陸軍側からは山下長官が認めたのだから、これ以上の異論が出てくることはない。海軍も言わずもがなである。

 

「うむ、では本作戦の発動は、四日後の0814とする。それまでに各員は作戦の成功の為に万全を期して頂きたい!」

 

確認した後、張り上げんようにいった言葉に部屋にいる全員が大きく頷く。

 

これにて会議は終了となり、俺の立てた作戦は正式に採用されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前倉長官!」

 

会議も終わり、参加者たちも次々と席をたち、部屋を去ろうとする中、俺はその内の一人の背に声をかける。

 

「どうかしたのか?東郷」

 

その声に少し驚いたように、前倉長官はこちらを振り返る。

 

「いえ、先程の山下長官の質疑の際は、かばっていただきありがとうございました」

 

「ああ、あれか。何、儂は海軍長官としての任を果たしただけだ。気にしなくてよい」

 

頭を下げた俺に対して、事も無げに言う。だが、あの場面、俺一人の力では山下長官を納得させることはおそらく出来なかっただろう。

 

そう思い、もう一度感謝を述べると、長官は小さく笑ってから、

 

「だがな、東郷。確かに今回の会議で同意を得られたとは言え、山下長官が懸念を抱いたように今回の起用を疑問視する者が多いのもまた事実だ。ならば、お前がしなくてはならぬことも分かるな?」

 

と確認するように尋ねた。

 

もちろん理解している。

俺自身、最近中帝国といくらかの戦闘を経験したとは言え、前倉長官達のように歴戦の勇士というには程遠い(当然、前の人生でも戦争なんて経験していない)。

 

だから、自分の未熟さはよく知っている、そして疑問が出てくるのもよく分かる。だが、もはや会議は終わり、今回の任務は確定した。

やるしかないのである。

 

もし、この任務にしくじるようなことがあらば、俺個人の問題だけには止まらない。

当然、軍全体に多大な犠牲をもたらすことにもなり、さらに失敗の責任は俺を抜擢した前倉長官にも及ぶであろうことは容易に想像がつく。

 

そんなこと、許容できるわけがない。だから今、俺がすべきことはただ一つ、この役目を完遂することだ。

 

俺は決意を新たにし、眼前の前倉長官をじっと見据えながら力強く頷いた。

 

そんな俺の気持ちが伝わったのだろうか、前倉長官も”うむ、よい顔だ“とだけ言うとクルリと踵を返し、去っていく。

 

その後ろ姿は無言ながらも“お前もさっさと動け”と言っているように見えた。

 

 

 

 

 

「秋山!」

 

「はい、東郷少将。会議は無事に終わりましたか?」

 

「ああ、終わった。だから直ぐに準備を始める。手始めに現地兵からの情報をもう一度洗い直して、敵戦力、艦隊編成、行動を分析する。このまま俺の執務室まで付いてきてくれ」

 

「はい!了解しました」

 

部屋を出た俺は、すぐさま外で待機していた相棒ーー秋山を呼び、次の行動へと移る。それに対して秋山は全てを理解しているかのように何も言わず、従ってくれる。

 

思えば、兵学校時代からこいつには世話になってきた。俺が無茶をしでかしたときも、何だかんだ文句を言いつつも最後までついてきてくれた。今回もまた手を借りることになりそうだ。

 

「秋山、面倒をかける」

 

「そんな、いまさら何を言うんですか」

 

執務室へと向かう途中、右後ろを歩く秋山に、前を向いたままかけた言葉にさも当然のように返される。

 

ああ、そういえばそうだな、なら今、言うべきなのは……

 

「頼りにしているぞ」

 

もう一度、前を向いたまま呟く。そして、俺はその言葉に対する返事も待たず、足をすこし速め、前へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「樋口」

 

「な、なんでしょうか、閣下」

 

会議室を出た前倉は後ろに付き従う”樋口中将“に呼び掛ける。

この男、樋口中将は少し肥えた体に、丸縁の眼鏡をかけ、おおよそ威厳があるとは言いがたい風態をしている。さらに常に腰が引けたような態度をもそれに拍車をかけ、彼が一艦隊をあずかる提督だとパッと見ただけで分かる者はほとんど居ないだろう。

 

だが、この樋口中将、一度闘いとなればその弱腰とも言える姿勢がよい方向に働くのか、大きな損害を出すことなく、手堅く戦果をあげることで知られている。それが中将たる所以でもあるのだ。

 

前倉も彼の平生の態度は将として、上に立つものとして相応しくないと常々思うものの、その性格ゆえの慎重過ぎるともいえる采配、入念な事前調査は決して悪いものではなく、それらを合わせて考えると“まぁ多少は目を瞑るか……”と思いあまり咎めるようにはしない。

 

ちなみに、彼の慎重さは海軍内部で”石橋叩いても渡らない“と言われているほどだ。

 

また、彼は前倉同様に高齢であり、数々の戦線を共に経験した人物であり、前倉からの信頼も厚い。

 

 

「樋口、今の国際情勢は知っているか?」

 

「は、はい、少しは聞き及んでおります」

 

「なら、分かるだろうが、今の日本が置かれている状況は厳しい。そして、今後はさらに悪化するかもしれぬ」

 

「やはり、そうですか……」

 

世間話のように話す前倉とは対照的に樋口はまるでこの世の終わりかのように青ざめた表情で応えている。

 

だが、そんな彼の様子を前倉は、またこいつは……、といつものこととしか受け止めず、特に気にする様子もなく続ける。

 

「だが、もしそのように日本が時代の荒波の中に放り出された時、この国の舵を握っていくのは儂らのような老骨ではなく、奴のような若者であるべきかもしれぬな……」

 

“もうすぐやってくるであろう大火は恐らく、儂たちの想像を遥かに上回るものかもしれない”

 

独白するように言ったその言葉に樋口からの返事はない。

 

そして、前倉も返事はもともと期待していなかったのだろう、そのままなにもなかったかのように足を止めることなく進んでいった。

 

それ故に、彼は気が付かなかった。彼の後ろで、小さく震えながらその樋口が洩らした言葉に。

 

その悲愴に満ちた、呟きはただ虚空へと消え、誰の耳へと届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本帝国 帝都東京

 

夜も深まったとはいえ、数多の明かりに照らされたこの街は、活況を呈している。

だが、それも大通りを中心とした街のほんの一部分のことでしかなく、それ以外の場所には深く暗い闇が広がっていた。

 

「ええ、バッチリですよ!こんな任務、私にかかればよゆーです☆」

 

そんな闇の一角、電話を持って高らかに話す少女がいた。赤を基調とした服に身を包むその少女は明らかに幼く、まだ年端もいっていないだろう。その話す声も年相応に幼さが抜けきっていない。

 

「え?、心配いりませんよ、周りに人はいないし、ここは警官の巡回ルートからも大きく外れているから、誰かに聞かれる危険はありませんよ」

 

確かに、この少女がいる辺り一帯は人通りも乏しく、こんな時間に通る人はいない。

 

「はい、わかってまーす。全てはシュウ皇帝のため、ですよね。じゃあ、また進展があったらお知らせします」

 

少女はそう言い終えたところで電話を切り、そのまま大きくため息をはく。

 

 

「はぁー、何が”シュウ皇帝のため“だよ。ほんとあたしってばなんでこんなことしてるんだろ」

 

電話を切り、腕をだらりと落とした少女は夜空を見上げて自嘲気味に呟く。

その調子は電話をしていたときの間延びした話し方とはうってかわり、暗く諦めがまじったようである。此方がこの少女の素の喋りなのだろう。

 

 

「でも、まぁとりあえず、ちゃっちゃと済ませるとしますか」

 

夜空を眺めながらそう呟いた少女は面倒くさそうに、足を動かして闇のなかを進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ようやく暇ができたので復帰させて頂きます

まだ読んでくださる方がいらっしゃるならお付き合いお願いします
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