9巻編、もうちょっと続きます。
「――――そこまでだ! エレメリアン!!」
エレメリアンが現れたイベントホールに、今日もテイルレッドの叫びが響き渡った。
そこで行われていたのは、ジャンルが限定された小規模な同人誌即売会だ。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
エレメリアンの奇怪な姿にテイルブルーは悲鳴を上げ、そぐわぬ場に出てきてしまったツインテイルズたちの可憐な姿に参加者たちも悲鳴を上げた。
「レッドちゃんたちこんなの見ないでええええええええええええええええ!!」
サークルスペースに林立するポスターや、展示された同人誌の表紙は全てがバリバリの成人指定――――十八歳未満参加禁止の特殊性癖オンリーイベントだったのだ。
そして現れたエレメリアンの属性もまた――――
「俺はペ――――」
「言わせねえよ!?」
名乗る暇も与えられずテイルミラージュの猛烈なタックルで退場させられた、皮被ったアレとしか形容できない太い棒状のエレメリアンは、吹き抜けからのダイビング地獄車で何度も床に叩きつけられながら会場の外へ放り出され、ミラージュマグナム・ライフルモードのプリズムシュートで汚い花火として爆散する。
大きさだけなら天空にそそり立つ巨人は、一皮剝けることなくその生涯を終えた。
「なんか……すごいエレメリアンだったな。結、お疲れ」
「おう」
「――――どうやら奴はユムシのエレメリアンで、属性は……見た目通りのアレでした」
帰還した基地で告げられたトゥアールによる解説。
ユムシとは海中の砂に潜む環形動物で、男性のアレそっくりの姿をしている。
英名はそのものズバリ、ペニスフィッシュ。
最初の一文字だけでテイルミラージュが、身体の一部を模したエレメリアンと誤解したのも頷けよう。
そして、得られた属性玉は幸いというべきか純度が低く使えなかった。
「こんにちイースナ……うわ、テイルミラージュがでっかいちんちんと戦ってるのじゃ」
「せっかくみんな言葉濁してたのにストレートに言うんじゃないわよ!!」
収録から合流したイースナは、記録映像を見て思ったままをポロリと漏らし、赤面する愛香に叱られる。
「見慣れてるくせにキャーキャー騒がないでくださいよまったく愛香さんったら……」
トゥアールは呆れ、未春も恋香も結も、愛香は純情ぶっちゃって可愛いなウフフ。と笑みを浮かべた。
□□□□
異空間に浮かぶアルティメギル基地の祭壇で、今日も黒ローブに身を包んだ
数日の時間をかけて、唯々無意味な罅が刻まれた眼鏡の山が出来上がるだけだった。
「どうして!? 何故うまくいかんのだああああああああああああああああああ!?」
スランプに陥った巨漢エレメリアンは、蹲って喉も裂けよと慟哭した。
そこへ歩み寄る細身の影。
同じく黒ローブで身を包んだ無限の円環構成員の一人だ。
「いい加減にしなさいよね! アンタがこんなくっだらない占いごっこに夢中になってる間、他所の部隊の連中まで勝手にこの世界にやって来ちゃったじゃないの!! こんなことなら無視してさっさと出撃した方がよっぽどましだったわよこのグズ! ノロマ!! ドンガメ……!!」
――――ガッ!!
溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させ、罵倒と共に放たれた針のように鋭い蹴りが巨漢エレメリアンの背中に音を立てて突き刺さると、細身エレメリアンは箪笥の角に小指をぶつけたかのような言葉にならぬ絶叫を上げて転げまわり、駆け付けた仲間に介抱されながらその場を去った。
一方、混成部隊の暫定指揮官を務めていた老参謀スパロウギルディは、基地に接舷することなく近傍の空間に停泊している他部隊の移動艇と通信を交わしていた。
「――――この度は協力に感謝する」
『我らはアルティメギルの同胞なのだ、困ったときは助け合うのが当然というものよ』
「現在我が混成部隊の指揮を執っている連中はこだわりが強くてな……まともに出撃することもままならんのだ」
『ダークグラスパー様……いや、テイルブラックのせいで立場を追われた眼鏡属性の独立愚連隊か……』
「そちらの隊員を死地に送り込むようで心苦しいが、宿敵たるツインテイルズになんとしても一矢報いたいのだ……!」
『気にするなスパロウギルディ殿。四頂軍を半壊させる魔境と言えど、これほどの属性力の輝きを前にしては極楽同然というものよ……!!』
全長三千cmに及ぶ巨艦を根城とし、三名に及ぶ大部隊を率いる総大将のむくつけき肉体は歓喜に満ちていた。
モニターに映る地球と、ツインテイルズの映像を眺めてほくそ笑む隊長エルダーギルディは、張り切って配信準備に取り掛かった。
□□□□
テイルミラージュとユムシのエレメリアンが戦う動画が話題を呼び、総二たちが辟易する放課後、空中に見慣れたウインドウが展開しエレメリアンの宣戦布告が始まった。
『ツインテイルズよ! 我が配下ペニスフィッシュギルディを倒したからと言って調子に乗るなよ? 次は我が腹心が相手をしよう!!』
『我が名は
「お前らそんなんばっかりかよおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
隊長と思しき星形頭のエレメリアンと、副将を名乗った角の生えた蝉のエレメリアンの宣言に、世界中は大混乱に陥ったという。
『前回の卑猥な外見の怪物と言い、今回の卑猥な名前の怪物と言い! あんなのと戦うツインテイルズがかわいそうですよ!!』
テレビではエレメリアンを非難するコメンテーターや、インタビュアーにツインテイルズの擁護を訴える町の人々の声が絶えない。
「なんで蝉っぽいのにあんな名前なんだ……?」
「ボッキディウム・チンチンナブリフェルム、ヨツコブツノゼミの学名ですわ」
「ボッ……!? チン……!? そんな蝉が居るのか……」
「アレか……ものの本で読んだことがある……!」
そんな名前を平然と発した慧理那に総二は戦慄し愛香は赤面、結は合点。
慌てる尊を他所にトゥアールと結維、未春は視線を交わし無言で頷き合った。
――――翌日。
「チンチン チンチン――――」
「コラ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
慧理那の可愛らしいチンチン発言が、エレメリアン発見アラートとなって基地のコンソールルームに響き渡り、尊の怒声を背に受けてツインテイルズは総員出撃した。
「現れたなツインテイルズ」
エレメリアン、昨日の宣戦布告で名乗りを上げたチンチンギルディが現れたのは絶海の孤島だった。
やはり観測された幹部級の属性力ゆえに、被害の大きさを自覚しているのだろう。
ふざけた名前とは裏腹に、蝉らしさを残していながら甲冑姿の武将のような重厚なシルエットは、オーラのように威圧感を全身から放っている。
「――――ぬわああああああああああああああああああああああああああああ!?」
勇ましく武器を手にするテイルレッド、テイルブルー、テイルミラージュを視界に収めた瞬間、チンチンギルディは目を見開いて何かに吹き飛ばされたように勢いよく後ずさった。
「なんと凄まじい勃気……これほどのチンチンを持ちし戦士には今まで一度たりとも出会ったことが無かった……今日貴殿らと相まみえたこと、この上なき誉と思うぞツインテイルズ!!」
「お、女にチン……アレがあるわけないでしょ!?」
「いや、ある! 人間は皆、婦女子と言えども心に大小の差は有れチンチンを持っているのだ!!」
臆面もなくツインテイルズのチンチンを称賛するエレメリアンに、ブルーは赤面しながらその言葉を否定するが、チンチンギルディは女子にも心のチンチンがあるのだと熱く語る。
「貴殿らからはまるで男子と相対したかのような色濃いチンチンの存在が感じられる……ううむ素晴らしきことよ」
こいつは……俺たちが男だということまで気付かれそうだ!
戦慄するテイルレッドたちは、臨戦態勢を整え油断なく眼前の敵を見据えた。
チンチンギルディの手にも、燃え盛る炎を模した巨大な七支刀が出現する。
「そのご立派、我が愛刀
唸りを上げて迫るレーバテインと、迎え撃つブレイザーブレイドが火花を散らし、テイルレッドは顔をしかめた。
(コイツ……すごいパワーだ……!!)
「あたしたちを!」
「忘れてるんじゃ!!」
「無いのじゃ!!」
そこへウェイブランスが、ロングロッドが、ダークネスグレイブが加勢し、レーバテインを跳ねのける。
「助かったぜ皆!!」
「こいつはオマケよ!!」
「お喰らいあそばせ!!」
「受けてみいや!!」
すかさずテイルイエローとテイルサンダー、メガ・ネプチューンの火力が集中し、チンチンギルディを爆炎に飲み込んだ。
やはり幹部級エレメリアンというべきか、レーバテインが爆炎を振り払い、傷ついてはいても健在な姿を見せつける。
「――――なんだそのへっぴり腰は!? 俺はこの程度ではまだまだ果てぬぞ!!
恥などかなぐり捨てて貴様らのそそり立つ剛直を喰らわせてみよ!!」
瞳をギラギラと輝かせ、火を噴いてメラメラ燃える得物の切っ先を突き付けて叫ぶチンチンギルディに、一瞬目を閉じたテイルレッドはかぶりを振って刮目した。
「――――恥ずかしがって勝てる相手じゃないよな」
「――――むっ?」
気配の変化にチンチンギルディが目を細める。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
腹の底から絞り出すような、気合を入れた叫びと共にレッドが、ブルーが、ミラージュが突進した。
先ほどとは打って変わった凄まじい猛攻に、それを受け止めるレーバテインが刀身の炎を吹き散らされながらミシミシと軋む。
「滾る……滾るぞッ! これほどの戦いは生まれて初めてだッ!! ツインテイルズよ……貴様らとの兜合わせ、命果てるまで続けようぞ!!」
「兜合わせ言うな!!」
歓喜の咆哮を上げるチンチンギルディをミラージュが押え込んだ隙に、プログレスバレッターを、そしてエクステンドリボンら
ブラックもメガ・ネプチューンと合体し、インフィニットチェインへ。
変形したライトニングイエローに跨ったサンダーが、タイヤを唸らせ爆音高らかに突撃したのを皮切りに、ツインテイルズの大反撃が始まった。
「我が剣とここまで競り合うか……流石はペニスフィッシュギルディを倒しただけはある!」
「あんなのに勝っても嬉しくねえ! よっ!!」
「ぬおお!?」
ロングロッドと七支刀の鍔迫り合いから視線を逸らさず、音だけを頼りにチンチンギルディの腹を蹴って飛び退き、ライトニングジャッジメントを回避するミラージュ。
寸でのところで身体を捩り、直撃を避けたチンチンギルディへ、見越したかのようにインフィニットチェインのメビウスクラッシャーが叩きつけられる。
高速回転するタイヤの変じたモーニングスターの強烈な一撃にたたらを踏んだ隙を逃さぬウェイブランスの刺突で、受けた剣ごとエレメリアンの巨体が吹き飛んだ。
「これが、幾多の強豪を屠ってきた剛槍か……ッ!!」
すかさず、テイルレッドがブレイザーブレイドへプログレスバレッターを装着し懐へ飛び込んだ。
剛剣一閃、ブレイドマイティモード渾身の一撃で遂にレーバテインは砕け散った。
「――――我が愛刀が!?」
「今だ! ――――オーラピラー!!」
チンチンギルディを取り囲む各々が放つ火球が、水球が、電光が、光線が、獲物を捕縛せんと殺到する。
「まだだ! チィィィィィィンチンチンッ!! チィィィィィィィィン!!」
捕縛寸前、チンチンギルディが上げた渾身の咆哮。
流石は蝉をモチーフにしているだけあり、凄まじい密度で放たれた超音波がバリアーとなってオーラピラーをはじき返す。
「往生際が悪いよっ! ――――エレメントバズーカ!!」
「ぐおわああああああああああああ!? 我が雄叫びが跳ね返されるうううう!?」
それを目にしたミラージュの判断は早かった。
ポーチから引っ張り出され、
その凄まじい弾力が捕縛結界をも霧散させる破壊音波を受け止め、放った本人へと跳ね返した。
自らの武器に責め苛まれるエレメリアンに今度こそトドメを刺すべく、ツインテイルズはフォーメーションを組む!
ツインテールに言葉はいらない。
エクステンドリボンを装備したマイティウェイブランスを、敵へ向かって駆け出すレッドへ放るブルー。
装備を脱ぎ捨て、
ダークネスウィップを巻き付け、跳んだレッドを独楽のように回転させるブラック。
イエローを通じて合身巨大砲へエネルギーを供給し、推進ビームを放つサンダー。
その技はツインテイルズの集大成――――かつてリヴァイアクラーケギルディを粉砕した合体攻撃、サイクロンブレイザーのニューバージョンだ!!
自らの剣とブルーの槍を手に、ブラックによる回転とイエローたちの後押しを受け、赤と青の炎を噴き上げ回転するテイルレッドは、裂帛の気合と共に弾丸となって突き進む。
「ニューサイクロンッ! ブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
単純明快、シンプルイズベストな新必殺技が、ミラージュによって拘束されていたチンチンギルディを貫いた。
「み……見事なり……テイルレッド、いや……ツインテイルズよ!!」
胴体に大穴を開け、全身に断末魔のスパークを迸らせるチンチンギルディは、満足げにそう言い放った。
「よもや我が身を貫く戦士たちと巡り合えようとは……エルダーギルディ様! この世界には、素晴らしきチンチンを持ったご立派な女子が確かにおりましたぞ!!」
敬愛する上官へ届けと天地に轟く宣言と共に、チンチンギルディは大爆発を起こして散った。
「名前はアレだけど、凄まじい相手だったな……」
テイルレッドは、手の中で光る属性玉を見つめながら先ほどまでの激戦に、そして来たるべき隊長エルダーギルディとの決戦に思いをはせる。
――――どんな奴が相手でも、俺たちのツインテールは負けないぞ!!
ツインテイルズは決意も新たに、大海原を照らす太陽へ勝利を誓うのだった。
基地のアラートが遂に変わったぞ!