キミと彩る   作:sumeragi

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実技テストの日

 4月21日

 

 春の麗らかな日差しのもと、Ⅶ組のメンバー十人は事前にHRで告知されていた《実技テスト》を行うため各々が自身の得物を手に持ちグラウンドに集まっていた。とはいえ、彼らは内容までは聞かされておらず、サラ教官が来るまでの間いつもの武術訓練とは違うのか。どんなテストなのだろうと話し合っている。

 遅れること一分。サラ教官が到着した。

 

「それじゃあこれから《実技テスト》を始めるわよ」

 

 これから行うのは単純な戦闘力を測るものではなく、『各々が状況に応じた適切な行動』が出来るか否かを見るためのものだと続けられた説明に納得する。その意味で、何の工夫もしなかったらいくら個人で相手を圧倒しようが評点は辛くなる。

 どういった行動をどういったタイミングでとるべきか。自分に合った役割とは何か。剣技や射撃、アーツの実力そのものが重視される武術訓練とは毛色が違う。

 

「単純な力押しじゃ評価には結びつかないわけね」

「ふふ――それではこれより、四月の《実技テスト》を開始する」

 

 最初にリィン、エリオット、ガイウスの三人が呼ばれて前に出る。この三人は先日の自由行動日にオリエンテーリングが行われた旧校舎地下へ再び潜り、探索を行ったことは聞いている。それを知っての人選だろう。

 サラが指を鳴らすと得体の知れないT字型の傀儡めいたものが突然何もない空間に現れた。一言で言うならば機械の人形。忙しく横にも縦にもリズミカルに揺れている。

 

「これは……」

「魔獣なの!?」

「いや……この人形からは命の息吹を感じない」

「こいつは作り物の"動くカカシ"みたいなもんよ。そこそこ強いけど、アークスの戦術リンクを活用すれば決して勝てない相手ではないわ」

 

 常に互いの行動を把握し、最高以上のチームワークを発揮する。アークスの実用試験のため増設されたⅦ組らしいテスト内容だ。

 三人が機械人形――戦術殻に向き合い武器を構える。

 

「――それでは始め!」

 

 サラの掛け声で戦術殻がヒュンヒュンと縦に回転しながらリィンに迫った。リィンはそれを軽く避けると、リィンとエリオットを繋ぐ光の線が現れた。タッタッと軽やかな着地と踏み切りがほぼ同時にされ、今度はリィンが斬りかかる。

 戦術殻は腕から光の剣を出すとリィンの太刀を受け止めた。鍔迫り合いの後、後ろに飛んで距離をとるとエリオットのアーツが戦術殻を襲う。一瞬動きを止めた戦術殻の背後からガイウスの槍が一突き。

 直撃だったがまだ鈍くも動く。そしてリィンが太刀の剣先を後ろに下げ、一気に刀で戦術殻を振り払う。

 

「ガイウス!」

「ああ!」

 

 体勢の崩れたところをガイウスが続き戦術殻をなぎ払い、すかさず両手に持ち直し勢いよく槍を突き刺した。戦術殻が大きく後ろに吹っ飛んだところでサラが「そこまで!」と制止の声をかける。

 クラスでもよく話している三人であり、旧校舎地下の探索の成果も大きいか。戦術リンクを状況に応じてスムーズに繋ぎ直し、彼らはまだ会って3週間とは思えない息のあった連携で戦術殻を倒した。

 

「うんうん、悪くないわね。それでは次! ティア、マキアス、フィー、アリサ、前に出なさい!」

「はい」

「……めんどい……」

 

 満足そうに頷いたサラ教官は、次の組を指名する。遠距離武器に偏ったメンバーだ。

 マキアスの散弾銃から発射された弾が戦術殻に当たり、カキンカキンと音を立ててグラウンドに落下した。フィーが速攻をかける。アリサはアナライズを発動させる為アークスを駆動しているティアの援護と、前衛のフィーの補助。

 

「解析しました! マキアスくんはそのままフィーちゃんの援護を! アリサさんは能力低下のアーツを!」

「わかった!」

 

 駆動を終えたティアが指示を出す。前で戦うフィーを避けての射撃は難しく、スラッグ弾を装填し直すが連射はできずつい攻撃が単調になる。戦術殻が剣を出すと受けきれず攻撃を避けるしかなくなり、全員が思ったように動けないままじわじわとダメージを与えて何とか倒したところでこの組のテストは終わり。ふうと息をつき導力銃に安全装置をかけホルスターにしまった。

 そして最後の一組はラウラ、エマ、ユーシス。個々の技量により倒すことはできたが後方支援のエマが狙われていることに気付かずひやりとしたり、援護のタイミングが合わずと課題は山積みだ。

 

「苦戦したチームもあるけど、今はこれでよしとしましょう」

 

 サラから実技テストの終わりが告げられ、アリサやエマ、マキアスは溜め息をつく。

 そしてアークスの試験運用と別に、もう一つのⅦ組ならではの特別カリキュラム――《特別実習》が言い渡された。何ともそのままのネーミングである。

 

「……な、なんだか嫌な予感しかしないんだが……」

 

 サラが実習に関する紙を配るとマキアスは引き攣った顔で呟きながら受け取った。

 特別実習の内容はそれぞれA班とB班に分かれて指定の実習地へ赴き、用意された課題をクリアしていくといったもの。記された班編成を見ると、リンクも結んでいないのに振り返り表情を見なくてもそこかしこからドン引きしている感情が伝わってくるようだった。

 

 

 

 

 

 

 一日の終わり。夕餉に湯浴み、明日の準備を済ませたティアは自室の机で今朝届いていた手紙を引き出しから取り出す。

 士官学院に通う兄に手紙を出し始めたのがもう十年前か。まさか逆の立場になるなんて当時は考えもしなかったことだ。

 差出人はオリビエ・レンハイム――懐かしいその名を指で撫でる。丁寧に封蝋を外し手紙を開いた。

 

『親愛なる我が妹へ。学院生活にはもう慣れただろうか』

「ぼちぼちですね。色々と新鮮なことが多いです」

 

 お決まりのフレーズから始まる手紙を目で追う。まだ三週間か、もう三週間か。どちらにとるべきだろう。初日のオリエンテーリングに始まり、時間が思いのほか早く過ぎていったように思う。

 

『入学式はスリリングだったね。ちょっとしたイベントを行なうとは聞いていたが、彼女も随分ユニークな性格をしているようだ』

「もう。まだ残っていらしたのなら、顔くらい見せてくださればよかったのに」

 

 オリエンテーリングの終点。Ⅶ組への参加を正式に決めたあの広間にもいたなんて。

 入学式に出席していることは知っていたが旧校舎では気付けなかった。なんだか悔しい。名ばかりの理事長だったのは一昨年まで。Ⅶ組設立を主導したのはオリヴァルトだからおかしなことではないのだが。

 だから、彼女と良い酒が飲めそうだなんてことは考えないでほしい。きっと気が合うことに違いないだろうけれど、ミュラーが苦々しそうに語ったリベールでの顛末とサラ教官の部屋に大量に転がる空き瓶を類えてしまった。まだ自分だって一緒に酒を交わしたこともないのに、なんて思いははただの気のせいだ。

 

 そのまま手紙を読み進めると、ある文字が目に止まった。

 

「アークス……」

 

 まだ全スロットも解放できていない自身の戦術オーブメントを開く。エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した第五世代戦術オーブメント。中心にマスタークオーツがセットされているだけでまだまだ心許ないが、本当の実力はそこではない。

 戦術リンクはいずれ劇的に戦況を変える。戦場において革命を起こすことが出来る力になる。それが遺憾なく力を発揮する機会はそう遠くないと実感しまうことが、少し怖い。進歩し続ける技術力は止められない。抑止するならば別の方向から攻めるべきだ。

 ――これ以上好きにはさせたくない。固く握り締めた拳がふるりと揺れる。

 

 手紙には当然のごとく特別実習についても書かれていた。特別実習では否が応でもこの激動の時代にある帝国を目の当たりにするだろう。目を背けず、どうすべきか考えざるを得ない。

 しかしあのサラ教官もなかなか人が悪い。苦労を強いられるであろうエマに心の中でエールを送った。

 

『余裕が出来たら帰ってきてほしい。アルフィンもセドリックも寂しがっているし、僕も会いたい』

 

 また手紙を出すよ。そう括られた手紙を見つめると元通りに折り小引き出しにしまい、まっさらな便箋を取り出す。お気に入りのペンを持ち、ゆっくりと手紙を書く。

 

 親愛なる兄へ。どうか見ていてほしい。きっとあなたの力になるから。そして、私が帰るまでアルフィンを宥めてほしい。その内必ず顔を出すから。

 まるで願うように、祈るように。さらさらと便箋にペンを走らせる。まっさらだった紙が立派に手紙と称することができるようになってきた。

 

「もうこんな時間だったの」

 

 時計を見やりながら呟く。明日も授業だ。ペンを置き手紙に封をした。

 カーテンの隙間から夜空を覗く。雲はなく、少し欠けはじめた月がぽうっと光っている。明日も、明後日も晴れたらいい。そう思いながらベッドに横になる。

 

「おやすみなさい、兄様」

 

 そしてティアは目を閉じて眠りに付いた。

 




次回から実習です
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