ひだまりスケッチ~百合の花が咲く~   作:ゴズ

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ひだまり荘

 やまぶき高校入試前日。

 電車に3時間乗った後で試験を受けるのは無理と母さんが言った為、近くのホテルにあたし達はいた。

 受験票ならなんやらの確認はとっくに終わっているから、後は寝て明日を待つだけだ。

「じゃ、あたしは先に寝るから。おやすみ」

「ええ、しっかり眠るのよ」

 言われなくとも、寝るのは昔から得意分野だ。

 試験前だろうとなんだろうとあたしは通常運転。

 今日も5秒で夢の中へ旅立った。

 

 

「………………」

 

 

 不思議な夢を見た。

「ゆの?」

 学校前のアパート、ひだまり荘で、同級生と、先輩と、後輩がいて……もう1人の、あたしがいて。

 外見は同じだけど、あたしみたいに無愛想じゃなくて、ころころ表情が変わって。

 夢は願望の現われってよく聞くけど、本当だとしたらあたしは、あんなあたしになりたいと、思ってるのかも知れない……。

「ゆの? どうしたの? 気分でも悪い?」

 起き上がらないあたしを心配した母さんが顔を覗き込んでくる。

「大丈夫だよ。すぐ仕度するから、待ってて」

「……ええ」

 詮索はせず、母さんは荷物の整理を始めた。

 顔を洗ってタオルで水気を取り、鏡を見れば、そこに映っているのは紛れもないあたし、ゆのがいる。

 例えどれだけ望もうと、結局今のあたしがあたしであることは、何があっても変わらない。

「…………宮子」

 金髪の同級生。

「沙英。ヒロ」

 あたしと、宮子の先輩。

「なずな。乃梨」

 1年後、ひだまり荘にやってくる後輩。

 どうしてかは分からない。

 けど、あたしはこの夢を疑わなかった。

「――行くか」

 

 試験は無事終わり、2週間後。

 結果は合格だった。

 人だかりから抜け出し校門を出て、なんとなく視線を上へ。

「「あ……」」

「…………」

 正面に建っているひだまり荘の2階廊下から、2人の住人があたしを見下ろしていた。

 紫の髪に眼鏡を掛けた女と、薄い茶髪のウェーブ掛かった髪に寝巻き姿の女。

 

「――――沙英と、ヒロ」

 

「え」

「いま……」

 周りが妙に静かだったからか、大して大きくないあたしの声でも聞こえたらしい。

 2人共に目を見開いている。

 まあ良いか。

 さて、さっさと帰ってニャン太と戯れよう。

 

「まだまだ寒いな……」

 

 こうしてあたしは、この春からやまぶき高校美術科に通うことと相成った。 

 

 

 入学式を間近に控え、今日からあたしはひだまり荘で暮らすことになった。

 現在引越し業者のトラックが来ており、母さんと父さんに見送られている所だ。

「じゃ、行ってくる。GWは帰ってくるから」

「ええ。待ってるわ」

「う~……ゆのー! 色々気を付けるんだぞー!」

「おとうさん。ゆの、もう行ったわよ」

「なに!?」

 

 たく。

「賑やかなご両親ですね」

「…………だな」

 ホント、2人の子供に生まれて良かったよ。

 

 数時間後、ひだまり荘に到着し、軽い荷物を持って201へ向かった。訳だが……。

「……誰だよ、みさとって」

「あぁ、前に住んでた人の表札でしょう」

「はぁ、一応とっとくか」

 鍵を開けて表札を取り、業者共々部屋の中へ。

 全ての荷物を運び終えた後業者を見送り自室へ戻ると、

 

 ぴんぽーん

 

 インターホンが鳴り響いた。

「はいよ~」

「こんにちは~」

 ドアを開けると、そこには金髪の同級生。

「――宮子」

「隣の……え、なんでわたしの名前知ってるの?」

「細かいことは気にするな。で、用件は?」

「あ、おそば、まだですか?」

「そば?」

 いきなり何を言っているのか……。

 少し考え、やがて理解した。

「引越しそばな。食うつもりは無かったけど……良いか」

 丁度腹も減ってきた所だし。

 宮子を招き入れ、台所に立ち準備開始。 

「ここに来たってことは、やまぶきに入るんだよね? やっぱり美術科?」

「ああ。お前もか?」

「そだよ。ねえ、それより、おそばまだ?」

「早く食いたいならお前も手伝え。唯で食わせる気は無い」

「…………わたし、料理できない」

 自分で振ってきた話題を自分で斬り捨て飯を強請る宮子にそう言えば、数泊置いてポツリと漏らした。

「なら尚更手伝え。そして出来る様になれ。嫌ならお前の分は作らない」

「手伝う!」

 隣へ飛んできた宮子に指示しながら蕎麦を作り、食べ終わった後ここについて改めて説明された。

「美術科の変わり者が集う、ね……間違っちゃ居ないだろ。既に1人居るしな」

「え、いるの? どこ?」

「気にすんな。あぁ、そうだ。あたしはゆの。とりあえず、3年間はよろしくだな」

 卒業したら関わることは無いだろうし。

「ゆの……」

「なんだよ?」

 何か考え込んでいる宮子の前から食器を取りつつ尋ねる。

「ゆのっちって呼んで良い?」

「呼び方なんて個人の自由だ。一々許可を取る必要は無い」

「えへへ~、じゃあゆのっちって呼ぶ。よろしくね、ゆのっち!」

「ああ、よろしく」

 何が嬉しいのか、宮子はふにゃふにゃと笑っている。

「……食器、洗ってくる」

「うん……あ! 大事なこと言うの忘れてた。工事してるのか、今水出ないんだよ」

「そうか。じゃあ、さっきまで食べてた蕎麦はどうやって作ったんだろうな?」

「…………あれ? もしかして出ないのウチだけ?」

 んな訳ないだろ。

「水道代、払っとけよ」

「……ゆのっち天才!」

「そりゃどうも。別に嬉しくないわ」

 その後片づけを終え、この下がヒロの部屋であることを聞き、挨拶へ行くことになった。

 ハッキリ言わなくてもメンドくさい。

 トラックで寝たとは言え、基本寝たがりのあたしは直ぐに睡魔が再来する。

 さっきだって、宮子が来ていなければ真っ先に寝るつもりだったってのに…………じゃあ何でわざわざメンドくさいことをしてんだ、あたしは?

「ヒロさ~ん、開けるよ~?」

「…………」

 良いか。

 どうせその内やんなきゃいけなかったんだろうし、早い内に済むならそれに越したことは無いだろう。

 宮子に続いて中に入ると、そこにはヒロが倒れていた。

「床で寝たら風邪引くぞ?」

「ちがうの……上の部屋からラップ音がして、怖くて、腰がぬけちゃったの」

 とんだ怖がりだなオイ。

「ちがうちがう。ゆのっちが越して来たんだよ」

「え? あ、あなた……わたしと沙英の名前知ってた人」

「あれ、ヒロさんも? 私の名前も、ゆのっち言ってないのに知ってたんだよ」

「夢で見たんだよ。つか、そんなこと良く覚えてるな」

 まあ、人間、存外どうでも良いことを結構覚えてるもんだけどな。

「……じゃ、挨拶も済んだし、あたしは戻って寝る」

「え、あ、ちょっと待って! ゆのさん、で良いのかしら?」

「ああ、ゆのだよ。で?」

「ゆのさんも、美術科よね? なら、自己紹介も兼ねて、3人でお絵かきでもしない?」

 お絵かきね……そういや、そんな気軽な気持ちで絵を描いたこと、ここ数年一度も無かったな。

 たまには良いか。

「良いよ。うさぎとか、簡単なので良いか?」

「うん」

「うさぎかぁ……ヒロさん、油性ペンある? 極太の」

 何を描く気だよ、お前は。

 突っ込むのは面倒だから言わないが。

 テーブルを囲みそれぞれにウサギを描いていく。

「よし、出来た」

 ヒロが描いたのは、草の上にいるウサギ。

 細かい所まで描かれていて、あたしじゃ上手いとしか言えない。

「ゆのさんは……わぁ、可愛い」

 あたしのは絵本に出る様なキャラクター調のウサギに、服を着せた物。

「で、宮子は?」

「こんなん!」

「へぇ」

 宮子が描いたのは、ウサギかどうかあたしには分からんが、かなりの物であることだけは分かった。

 しかもマジックで一発描き……技術だって相当だ。

 ヒロは何も分からん顔してるが。

 その後、隣の沙英を紹介されることになり、部屋へ向かったが、出てきたのは手だけだった。

「お前が犯人か?」

「違うわよ~! 沙英はプロの小説家で、〆切前はいつもこうなの! もう……とりあえず、今日はこのままにしておきましょうか」

 このままかよ。

 宅配とか来たら通報されても可笑しくねぇぞ。

 と思ったら、ズルズルと引っ込んでいった。

「ホラーっぽいね」

「ぽいじゃなくてまんまホラーだろ……じゃ、今度こそあたしは戻るぞ」

「ええ。何か聞きたいことがあったら、遠慮なく聞いてね?」

「ああ」

「それじゃ、ヒロさん。またね~」

「うん」

 何故か着いてきた宮子と共に部屋へ戻り、あたしはそのままベッドに転がる。

「ボーン!」

「ぶわ……」

 またも何故かベッドに飛び込んできた宮子。

「何がしたいんだよ、お前は」

「ん? ゆのっちと一緒に寝る~」

「……そうかい」

 好きにしろ、と言うと、

「うん、好きにする~」

 またふにゃふにゃと笑いながら答えた。

 

「ゆのっち」

 

 意識が夢の中に落ちる間際、宮子に名を呼ばれたが、最早返事も出来ん。

 のそのそと首だけ動かせば、そこには大人びた笑顔の宮子。

「これから、よろしくね」

「…………」

 不覚にもその笑顔にあたしは、一瞬とは言え目を奪われてしまった。

 くそ、何か負けた気分だ。

「わぷ」

 とりあえず鼻を摘んで背中を向けた。

「ゆのっち?」

「…………よろしくな。おやすみ」

「うん、おやすみ!」

 返ってきた、何処か嬉しそうな弾んだ声を背に、あたしの意識は夢の中に堕ちて行った。

 

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