ひだまりスケッチ~百合の花が咲く~   作:ゴズ

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やまぶき高校入学

 さて、今日は待ちに待った訳でも、楽しみにしていた訳でもない入学式。

 着替えを終え朝食を作っていると、隣からドタバタと騒がしい音の後にドアを開く音。次いで駆けて来る足音が聞こえた。

 いい具合に焼けた目玉焼きを皿に移した所で、

「ゆのっち! おはよー!」

 相変わらず元気な宮子が挨拶と共にノックなしで我が家を訪れた。

「おはよう。手洗って待ってろ」

「はーい」

 何が良いことがあったんだろう。

 手を洗った宮子はスキップしながらテーブルへ向かった。

 朝食を済ませ下に降りると、そこにはヒロと、その隣で欠伸を堪えている沙英がいた。夜更かしでもしたのかも知れないが、そんなことより、やまぶきの入学式に出席するのは1年だけで、2・3年は自由参加な訳だが、2人は何をしているのだろう?

「おはよ~! ヒロさん、沙英さん!」

「うふふ。おはよう。宮ちゃん、ゆのさん」

「ふわぁ……おはよ~……っと、きみがゆの? 201の」

「ん? ああ」

「よろしくね。知ってるみたいだけど、あたしは沙英。部屋は102ね。ねぇ、ヒロから聞いたけど、あたし達のことを夢で見たって言うのは、本当なの?」

「本当だよ。そうだ、ついでに教えとく」

 首を傾げる3人。

「来年で、このひだまり荘は全室埋まることになる。じゃ」

 時間がある内に校内を見回りたいと思い歩を進め、歩道を渡り切った所で2年組みが

「「えーーーっ!!?」」

 朝から元気な大声を上げた。

 多分、今までひだまり荘が全室埋まったことは無いんだろう。あったとしても、あの2人は知らないのかも知れない。

 昇降口前に貼り出されているクラス表を見ると、あたしはA組で、そこには宮子の名前もあり、どこを見て回ろうか考えていると後ろから抱きつかれ、宮子が頭に顎を乗せてきた。

「背が縮んだらどうしてくれる?」

「引っ張る」

「程々にしてくれ」

「うん。ゆのっち、何組?」

「お前と同じA組。あたしは校内を少し見てくる」

「あ、あたしも行く~」

 そんな訳で、宮子共々校内探検を決行することに。

「――竹林……入って」

「あなた達」

「ん?」

「お?」

 この声は……入試の時の?

 竹林に入ろうとした所で聞こえた声に振り向くと、そこにはみつあみを左肩から前に流している女生徒がいた。入試の時に、監督をしていたそいつの名前は確か、な、なつ…………あぁ。

「なつめだったな」

「こんな所で何を――え? どうして、わたしの名前」

「また夢?」

「いや。入試の時の監督だった奴。始まる前に、自己紹介してくれたろ?」

「え、ええ……確かにしたけど、よく覚えてたわね?」

 正確には思い出したんだが、別にどっちでも良いことだわな。 

「で、何の用だ? なつめ先輩」

「え? あ、あぁ、こんな所で何をしてるのかと思って」

「えへへ~、ちょっと探検してたんですよ~。あ、先輩は、この竹林の中に入ったことって、あるんですか?」

「いいえ、ないわよ。ここじたい、そんなに来る所でもないし」

 野外授業の時位じゃないかしら。と言って、なつめ先輩は竹やぶに目を向け、その目にちらりと好奇心の欠片を見たあたしは、彼女を誘うことにした。

「まあ、そうか。どうだ? 今から一緒に入ってみるのは」

「…………そうね。偶には、こういうのも良いかも」

「うし。じゃ、行くぞ……っと、そうだ。あたしはゆの。美術科1年A組だ」

「同じく、宮子です」

「わたしは美術科2年B組の夏目。よろしく、ゆのさん、宮子さん」

「あ、あたしは宮で良いですよ。または――よしこ」

「「だれ?」」

 ついハモってしまったが、気を取り直して竹林の中へ。

「ねえ、2人はどこに住んでるの?」

「ひだまり荘ですよ~」

「えっ!?」

「どした?」

 丁度広い場所に抜けた所で振り返ると、宮子に続き竹林から出ようとした格好で固まっている先輩が。

「ひだまり荘って、正面の? 沙英がいる?」

「ああ。なんだ? 沙英のこと好きなのか?」

「なっ!! そ、そそそそんな訳、なな、ないじゃない! 何言ってるのよ!? ばかあ!」

「宮子、どう見る?」

「図星ですな」

「な~」

「~~~~~~っ!」

 誰がどう見ても、丸分かりな反応ありがとうと言いたい程に素直な反応。

「そ、そうよ! 悪いっ!?」

 つうか認めた。

「いや、全然。人が人を好きになるのは当たり前だし、それを悪いなんて言っちまったら、人類漏れなく悪者だ」

「寧ろ素敵なことですよ? 明確に誰かを好きになれるって」

「宮子大先生の言う通りだな。先輩が好きになった奴は、偶々同性だったってだけで、何も悪いことなんてないし、可笑しなことだってない。まあ、同性だったからこそ惹かれたってのもあるかも知れんが」

「ぅ~……」

「またまた図星ですな」

「だな。と、そろそろ行くか」

「ありゃ、もうそんな時間か」

 時計を確認すると、入学式の時間が迫っていた。

 クラス毎に移動するだろうから、色々時間が掛かるだろうし、早めに行っておいた方が良いだろう。

「先輩も戻るだろ?」

「…………うん」

「可愛いな」

「可愛いね」

「な!?」

 顔を真っ赤にしながら、目に薄っすらと涙を浮かべながら小さく頷いた先輩を見ての感想は、宮子と同じ物だった。

 竹林を抜け、靴を履き替えた後、それぞれのクラスへ向かう為に階段前で別れる間際、先輩があたし達を呼び止めた。

「あの……ありがとう。2人のお陰で、なんだか気持ちが楽になったわ」

「そりゃ良かった。これからもよろしくな? 夏目先輩」

「よろしくです」

「うん。困ったことがあったら、いつでも頼って? 出来る限りのことはするから」

「ああ。そん時は、お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃ。また明日、で良いのかな?」

「ふふ、そうね。また明日。ゆのさん、宮ちゃん」

「ん」

「また明日~」

 手を振って別れ、それぞれの教室へ向かう。

 今までがどうだったかは分からんが、これから先輩は、沙英にどんなアプローチをするんだろうな? いざ本人を目の前にすると、思ってることと真逆の言動を取りそうな気がするから、予想が付かないが、まあ、悪い方向に行くことは無いだろうな。

 何となくだが、そんな気がする。

「お、ここだね」

「まだ時間は大丈夫だな……そういや、先輩は入学式に参加すんのかな?」

「え? あぁ、そうえいば……でも、さっきはまた明日って言って別れたから、別の用事なんじゃないのかな? ほら、課題で分からない所があるとか」

「ふむ、可能性はあるな。まあ、明日にでも聞いてみるとしよう」

「そだね」

 そんなこんなで、あたし達は1年A組へと足を踏み入れた。

 

 

「ゆのさんに、宮ちゃんか。何となく来ただけだったけど、来て良かった…………入学式、出て行こうかな? うん、折角出来た後輩の晴れ姿を見るのも、良いよね。よし、そうと決まれば、早く行って席取らないと」

 

 

 教室に入って最初にあたし達に気付いた女子2人、真実と中山の2人を交え4人で話していると、担任の教師と思われる人物が入ってきた。

 吉野屋と言う担任の女教師は、あたし達に自由に座って下さいと言い、全員が座ったことを確認するとこう言った。

「はい。それでは、この席が1年間のあなた達の席になります」

「適当だね……」

 隣の真実が呟くと、聞こえたらしい周囲の何人かが頷いていた。

 それから入学式が行われる体育館に向かい、中に入ると、入り口近くに先輩の姿を見つけた。どうやら式に参加する為に来ていたらしい。

 可愛い笑顔で手を振られ、まさか無視する訳も無く小さく振り返すと、更に良い笑顔になった。

 明日からデジカメ持ってこよう。

 そう決心した。

 さて、肝心の入学式だが、宮子が校長を見て

「顔長っ!」

 と言ったり、あたしより先に眠気に負けた宮子があたしの膝を枕にしたりしたことを除けば、特に何事もなく式は終わり、宮子を起こして教室へ。 

 それから吉野屋の話も終わり、帰ろうと鞄を肩に掛けた所で声を掛けられた。

 宮子共々振り返れば、そこには真実と中山の姿。

「どしたの~?」

「今日、これからカラオケ行くんだけど、2人もどうかなぁって……どうかな?」

 傍から見てもわくわくしている様子の真実。

 カラオケ……カラオケか。

「……あたしは良いぞ」

「やった! 宮子ちゃんは?」

「宮でいいよ~。そだね、ゆのっちが行くなら、あたしもいこっかな」

「じゃあ、決まりだね! 早速――」

 行こうか、とそんな感じのことを言おうとした真実だったが、

「ひゃっ! あ、ごめん、ケータイ」

 中山がいきなり跳ね上がり、ポケットからケータイを取り出した。

 あたし達に一言謝り、画面を見ているその間に、真実は思い出した様にケータイを取り出し、「交換しよう?」とにこやかに言った。

 コイツ……今まで告白されたことってどんくらいなんだろうな?

 なんてことを考えてしまう程度には、可愛い笑顔だ。

 宮子と言い、先輩と言い、真実と言い……何なんだろうな?

 まあ、下らない思考はゴミ箱に放り込み、ケータイを取りして赤外線交換を完了させる。

「次は、宮ちゃん!」

「ごめん、あたしケータイ持ってないんだ~」

「え、そうなの?」

「問題ないって。大抵の場合、あたしと宮子は一緒に居るからな。そうでなくとも、同じひだまり荘だし」

「そっか。なら大丈夫だね。中山さ~ん、もう大丈夫?」

 まだ画面をにらめっこしている中山に真実が問うと、若干気落ちした様子で彼女は振り返った。

「ごめん。なんか、親戚が来てるから、その子の面倒見てくれって……」

「ありゃ」

「ごめんね? わたしは良いから、3人で楽しんで――――」

「ばぁか。どうせ明後日は休みなんだから、そん時に行けばいいだろ。真実は用事とかあんのか?」

 幾らか遅れて反応した真実は、

「あ、ううん。大丈夫。予定は何も無い」

「中山は?」

「え、わたしも、大丈夫。親戚も、夜には帰るみたいだから」

「じゃ、明後日な。どうせ行くなら、賑やかに越したことは無いんだ」

 折角4人で行くことになってたんだ。出来ることなら、誰も欠けない方が良い。

「じゃ、そういうことで。また明日な? あぁ、あたしの連絡先は真実から教えて貰え」

「それじゃ、ばいば~い、2人共~。ゆのっち、待ってよ~」

 ひらひら~と手を振って教室を後にし、小走りで隣に並んだ宮子を見ると、にこやかに笑っていた。

「なんだ。良いことでもあったのか?」

「うん。あたしと、きっと2人にとってもね」

「……? そうか。良かったな」

「うん」

 

 

「ゆのさん……なんか、カッコ良かったね?」

「うん。ちょっと、ドキッとした」

 

 

「……っ!」

「どしたの?」

「いや、何か……変な感じが」

「ん……?」

 背筋がゾクリと……何だったんだ?

 

 さて、翌日のオリエンテーションであたし達の班の引率が先輩だったり、ちょくちょく見せてくれる笑顔をカメラに収めたり、真実達と昼休みに影鬼をしたりして金曜日を過ごし、迎えた土曜日。あたし達は先輩と沙英、ヒロも誘ってカラオケに行き、盛大にエンジョイした。

 どうもガキの頃から音程が取れないあたしの歌だったが、宮子がそれを完コピしたのはあたし含めみんな驚いた。加えて演歌がプロ顔負けの上手さだったことも。

 沙英の隣に座っていた先輩は終始顔が真っ赤で、あたしは歌よりその表情をカメラに収めることに集中していた。宮子や真実、中山。沙英とヒロの写真も大量に撮った。

 ま、あれだ、欠ける所か当初より賑やかになって、良かった。

 

 …………あたしは途中で、奮闘空しく睡魔に負けちまったけどな。

 

 

 

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