東方零短録   作:零ミア.exe

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サブタイは思い付かなかったんで適当です。本編と関係ないです。


萃められないもの

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

私は鬼だ。泣く子が黙って恐怖する妖怪。

鬼は鬼でも、私は酒呑童子。その昔、多くの場所で暴れまわったりもしたさ。

人間が知ってる事と言えば、私がその昔に打ち取られた、ということくらいなんだろう。

でも、事実は小説よりも奇なりってやつで、私は今もこうして生きている。

そんな私でも、恋はする。私にも『女』という性別がある以上、恋愛感情は湧いて出てくる。

 

「やっほー」

 

今日も私は、『彼』の()に姿を現す。いつもの私は能力で霧状だから、日常の中で私の姿を見るのは、少し珍しい事でもある。

彼は床に寝転がっていたけど、私が来たことに気付いたようで、ゆっくりと体を起こした。

 

「お、萃香じゃん。こんな時間に来るってことは、今日も酒の肴は僕?」

「まあ、そうだね。いつも面白い話が聞けるし」

 

勿論、これは建前。でも、嘘は言ってない。彼の話が聞きたい。彼と話しながら酒を飲みたい。彼と一緒にいたい。だからここに来たのだ。

彼は最近、この幻想郷に落ちてきたのだ。最近…と言っても、既に二カ月も前のことだが。

そんな彼の右目は、驚くことに偽物だった。

彼はこのことを誰にも言っていないが、彼の右目は動かないのだ。

左目を動かしても、右目が動くことがなかった。これは、私が一週間の間観察して気付いた事。この事を知っているのは、恐らく私だけ。

これは、彼を近くで見る事がないと分からない。遠くから見れば、あまり違和感がないのが原因なのもあるが。

これに気付いた時、外の世界の技術は、目へとはめ込む義眼すら違和感のないように作れるのか、と驚いたのは秘密だ。

 

「面白い話って言ってもねぇ…?」

 

彼からすると特に面白い話ではないとは言うが、私達からすれば十分面白いものである。私達妖怪は長生きである。それ故、変化や刺激が欲しい為、面白い事や興味深い事を求める。

だから、どんな些細なことでも気になったりするものである。

 

「それでさ、鉛筆はそろそろ幻想郷に慣れたかい?」

 

鉛筆。彼のあだ名だ。彼がそう呼んでくれと言っていたから、幻想郷の人々は彼の事を鉛筆と呼ぶ。他意はない。

由来は何なのか聞いてみた事もあったが、彼は『外の世界でもそう名乗ってたから』と言って、答えなかった。

少なくとも、外の世界でそういう名前で呼ばれることの方が珍しいんじゃないか。

もしくは、本名は別にあるのか?

…まあ、彼がそう呼んでくれと言っている訳だし、そう呼ぶんだけども。

 

「近所の人も優しいから、人里の中だったら慣れたかな」

「…妖怪にはまだ慣れない?」

「そんなことないよ。妖怪は怖いものだと思ってたけど、萃香みたいな妖怪もいるからね」

 

私みたいな…か。私は酒呑童子なのに。昔は人を平気で殺していた鬼なのに。

なんだろうか、心が痛む。恨みとか、負の感情ではない痛み。それによって、私も丸くなったんだな、と再認識させられる。

 

「じゃあ、もう慣れた?」

「まあ、慣れ始めてはいるかな。こういう世界なんだなーと」

「そうかそうか」

 

取り敢えずは一安心といったところか。心の何処で一安心しているのかは自分でもわからないけど。

ここらで一口っと…。うん、酒が旨い。彼と話しながら飲む酒は、やっぱり違う。一人で飲むのよりも比べ物にならないくらい旨い。

そういえば、彼は私が酒を飲んでいるのを見て、酒を飲みたくはならないのだろうか?

 

「なあ、鉛筆は酒を飲まないのかい?」

「僕?僕はいいよ。そういう歳じゃないし」

 

ああ、そういう人だったか、彼は。

外の世界では、未成年者達の体の成長を止めないようにするため、酒を飲む事が禁止されているらしい。外の世界は法律というものに守られているが、同時に拘束されているようだ。

酒が飲めない人がいるなんて、外の世界の人達は悔しく思わないのだろうか。

 

「幻想郷じゃ法律なんてものはないよ?やっぱりまだ慣れてないのかい?」

「む。僕には僕の価値観ってやつがあるんですー。慣れてない訳じゃないです―」

 

なんか頬を軽く膨らませて怒っている。

でもまあ、彼の価値観なら仕方がない。何かしら自分の中でルールがあるんだろう。

…でも、その価値観も、法律というものに縛られたものなのだと私は思う。

 

「そういえば、萃香って酒ばっかり飲んでるイメージがあるんだけど、他に何か好きなことあるの?」

 

油断してたらこっちに質問が飛んできた。しかも、すぐには答えられないようなやつ。

恥ずかしくて、彼が好きだとは口が裂けても言えない。

だからと言って嘘は吐きたくない。

 

「そうだね…私は酒を飲みながら楽しく会話できれば、それでいいかな」

「それ、いつもやってることと変わらないんじゃないの?」

 

ぐう、痛いところを衝いてきたね…。彼はカラカラと笑ってるし。

むう…。

やられたら倍にしてやりかえす。喧嘩でもそうだ。今回も例外ではない。

 

「じゃあ、鉛筆は好きな人いるの?」

「うぇ?」

 

もし彼に好きな人がいなければ『いない』と答えるし、もし仮にいるのだとしても、私の前で嘘は吐けないから名前が出てくる。

まあ、『言いたくない』って言われたらそこまでなんだけど。

 

「えっと、その…」

 

多分、この反応で時間を稼ぐつもりなのだろうが、時間稼ぎは意味がないぞ?まあ、今攻めるのもあれだし、少し簡単にするか。

 

「その反応、この幻想郷に好きな人がいるんだね?」

「…まあ、いるよ」

 

しまった。これじゃあ名前まで聞き出せないじゃないか。簡単にしすぎた。

…まあ、聞き出せないなら、質問を追加するまで。

聞きだしてやろう。彼の好きな人の名前を。

 

「で、誰が好きなんだい?」

「そ、そこまで聞くの!?」

「そりゃあ、気になるからねぇ?」

 

彼をあと一歩まで追いつめた。まあ、弾幕ごっこと同じで突破口はいくらでもあるんだろうけど。

 

「…や、やっぱり言いたくないッ!」

 

顔真っ赤にして拒否された。まあ、そんなにうまくはいかないか。

それにしても、彼の好みって何なんだろうか。

全く見当がつかない。

 

「じゃあ質問を変えようか。鉛筆の好きな人の特徴は?」

「…まあ、特徴くらいなら大丈夫かな」

 

よしきた。後は連想げーむとやらの要領で突き止めれば…。

案外、この状況も楽しいかもしれない。

 

「特徴は、いっつもふわふわしてて…」

 

いつもふわふわしてるのは大体の奴に当てはまらないか?幻想郷の奴らは殆ど空飛べるし。

それとも、ふわふわは性格の方か?

何にせよ、始まったばかりだから、まだまだ情報は足りない。

 

「能天気で…」

 

能天気ときたか。

幻想郷で能天気なやつと言ったら、幽々子とかか?あいつ亡霊だからふわふわしてるし。

 

「背が低くて…」

 

背が低い?

いつもふわふわしてて能天気で背が低い…あの宵闇の妖怪か?

いつもふわふわ飛び回ってるし。そーなのかーとか言ってるから多分能天気ってところも当てはまるし。

 

「思考が読めなくて…」

 

思考が読めないだって?

古明地のところの妹さんか?

…駄目だ。もうあいつしか思い浮かばない。

 

「すっごい強い妖怪かな」

 

あ、駄目だ。候補がいなくなった。妖怪ってことは幻想郷にいるんだろう。けれど、私の知る限りではそんな人物はいない。

 

「どう?わかった?」

 

彼がニッコリとさわやかな顔でこちらを見てくる。畜生…してやられた。

 

「全くわからない」

「だろうね。特徴一つ伏せてるし」

 

なんだって?まだ特徴あるのかそいつ。

特徴の多い奴だなそいつ…。いや、幻想郷の奴らはこのくらいあるのか?

いや、彼が好きな人だからこそ、特徴が思いつくのかも知れない。

ふと、彼の方を見ると、何かを決心したような顔をしていた。

 

「それで、その伏せてる特徴って何?」

 

気になることは知りたい。私は攻めることにした。

 

「最後の一つは…頭に角が生えてます」

 

頭に角が生えてる?

いつもふわふわしていて、能天気で、背が低くて、思考が読めなくて、凄く強くて、頭に角が生えてる妖怪は…。

…私?

 

「萃香」

「ひゃい!?」

 

彼がいきなり真剣な顔つきで私の事を呼んだから噛んだ。

えっ、これって、まさかとは思うけど…いやまさか。

 

「僕の好きな人は、萃香だよ」

 

嘘でしょう?こんな私の何処が良いって言うのだろうか?

私鬼だよ?泣く子はいねがーって駆け回る鬼だよ?いやあれはなまはげだ。鬼じゃない。

って落ちつけ私。彼に好きだって言われただけじゃないか。

 

「…じゃあ、僕も質問するよ?」

「な、何を?」

「萃香の好きな人って、誰?」

 

…やっと落ち着いてきたのに、追い打ちをかけられた。多分今、私の鼓動は凄く早いことだろう。

でも、これは彼を手に入れるチャンス!ここで勇気を出せば、彼と一緒にいられる!

 

「…──つ」

「え?」

「…私も、鉛筆の事が…す、好きだ!」

 

私の言葉を聞いた彼の表情が驚きに変わる。私からも告白されるなんて思ってなかったんだろう。

それでも、私の思いは伝えた。

後は彼次第。

 

「そうだったのか」

 

彼は笑っていた。

 

「で、でも、私鬼だよ?襲うかもしれないんだよ!?」

「萃香はそんなことしないだろ?」

 

彼はそう言い切った。

 

「もし萃香が僕を襲うんだとしたら、僕はもうとっくに襲われてるだろうしね」

 

ああ、全部見破られてたのか。通りで笑ってる訳だ。

 

「でも、僕で良いの?」

 

ふと、彼はそんな言葉を投げかけてきた。

どういうことだろうか?

 

「萃香にはもっと相応しい相手がいると思うし…」

「私は鉛筆が良いの!」

「でも、僕は人間で、萃香は鬼。どう考えても、僕が先に死んじゃうじゃないか」

 

そんなの、わかってる。

それでも、私は一緒にいたい。

 

「それでもいいの。私は、鉛筆と一緒にいたい。ただそれだけなんだ」

「…そうかい」

「だから…」

 

私はおもむろに立ち上がり、彼の元へ進む。

疑問を持つ彼を横目に、私は彼の膝の上へと座った。

彼が困惑するが、気にしない。そのうち彼も慣れるだろうし。

 

「今だけは、こうさせてほしいな」

「…ご自由にどうぞ」

「じゃあ失礼して…ってもう失礼してるんだった」

「全く…子供なんだか大人なんだかわからないね。萃香って」

 

子供のような背丈から成長しない理由は私も知らないよ。

 

「…でも、こんなのも悪くはないかな」

 

彼は困っているような、喜んでいるような、中途半端な笑みを浮かべながら、私の頭を撫でていた。

そんな彼の手は、凄く温かかった。




いつもふわふわ→霧状になれる
能天気→酔っぱらってる
背が低い→幼女体型
思考が読めない→酔っぱらってるから突発的
凄く強い妖怪→だって鬼の四天王
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