東方零短録   作:零ミア.exe

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はい。今回は友人Jからのリクエストです。
あくまでもリクエストはキャラだけなので、中身は俺任せです。すごい理不尽。
なんか知らんが途中から方向性が迷子になった。ヤンデレを書いていたはずの俺はどこに消えたんだ…


苦労を積み重ねて

「んん……」

 

脳が深い眠りから目を覚ました。俺はいつの間にか眠っていたようで、壁にもたれた状態で眠っていた。目を覚ました直後は視界が曇っていたものの、徐々に脳が目覚めて来きたのか体が活性化し始めた。それによって、徐々に視界がクリアになる。少し経つと、俺の置かれている状況が俺にとってマズイことに気付いた。

 

「…どこ?」

 

俺が今いるのは、自分の部屋ではなく知らない部屋。

右を向けば、何やら機械の置かれた作業机。正面を向けば、横に長い折りたたみ式のコルクボード。左には出口がある。

そして、冷たい感触のする右手には枷が付けられていた。その枷からは鎖が伸びており、蛇がうねっているかのようにして壁へと向かっていて、壁にはめ込まれた金属部分に溶接されていた。

窓が一切無く、明かりは天井から吊り下がっている電球だけ。出口の扉から光が漏れていないところをみると、今は夜か、ここが地下だという事になる。しかし、前者である可能性は低い。そもそもとして、俺が今いるこの部屋が地上にあるのなら、窓の一つくらいはあるはずなのだ。この部屋の持ち主が吸血鬼などでない限り。

 

取り敢えず、ここから出るためには動かなければ始まらない。考えるのは壁にブチ当たったときだ。

どうやら枷が付けられていたのは右手だけのようで、鎖の長さは大体部屋半分程度だろうか。恐らく、鎖を全て伸ばしきって、そこから手を伸ばしたとしても、コルクボードには到底届かない。そこで、出口に手を伸ばしてみるが、取っ手にも触れることすら出来なかった。

となると、残るは作業机のみ。作業机には引き出しが四段あり、一段目が机にくっついている。四段目は底が深いつくりになっている。

俺は作業机の前に立ち、一段目の引き出しに手を掛ける。

何が出てくるか分からない恐怖の中、手を掛けた引き出しを手前に引く。引き出しに鍵は掛かっておらず、ゆっくりとその中身が明らかになる。

 

「これは…」

 

一段目に入っていたのは、ひとつの小さな鍵だった。だが、俺の手の届く範囲には鍵穴なんてものは無いし、この鍵が刺さりそうな穴もない。

手の届く範囲ではないが、折りたたみ式のコルクボードは南京錠で閉じている。恐らく、この鍵はその南京錠のものだろう。ちなみに出口の扉に鍵穴はない。

鍵を机の上に置き、二段目に手を掛ける。二回目だからか、不思議と怖くはなかった。二段目には何も入ってはいなかったのだけども。

二段目を閉じ、三段目に手を掛け、開く。中身は何かの手帳と万年筆だった。この手帳と万年筆、何処かで…。

でも、この状況下で出てくるんだ。何かしら手掛かりが書かれているはず。そう思い、俺はその手帳の一ページ目を開いた。

 

──が、開いてすぐに、開いた事を後悔した。

 

その手帳には、俺の本名が真っ黒になるまで書かれていたり、俺と俺の母さんの行動が分単位で一週間分ほど書かれていたり、俺の人物画と思わしきものが描かれていたりなど、かなり俺の事を追いかけ回していたと思える内容が書き込まれていた。手帳をめくり続けて分かったことだが、俺の一週間分の行動が書き込まれたあとに、この手帳の持ち主の考察が書かれており、その後にまた一週間分行動が書き込まれる、の繰り返しになっている。それを四回で一冊分。つまり四週間、一冊で1ヶ月分になる。その次は1ヶ月分の行動をまとめた後に、その月の行動パターンが箇条書きで書き込まれ、また考察。

しかし、その行動は二ヶ月前のものであって、最近のものではない。

ふと、最後のページをめくると、そこには丸に囲まれた『35』の記号があった。まさかとは思うが、この記号は『この手帳が三十五冊目である』ということを指しているのか?もしそうなのだとしたら、俺は一体何時からストーカーされていたのだろうか。

…まあ、まだそうだと決まったわけじゃないけど、そんな気がしてならない。他の可能性が思いつかないってのもあるが。

その手帳と万年筆も机の上に置き、最後の段である四段目に手を掛ける。もう吹っ切れたのか、戸惑うことはなかった。

 

「…思った通りだ」

 

やはりというか、手帳が入っていた。パッと見て30冊くらい。その中で一番古そうなものに手を伸ばす。

もしあの数字が『三十五冊目』を表していて、一冊が1ヶ月分だとすれば、一番古い手帳は35ヶ月前、つまり約三年前ということになる。

確認のために最後のページをめくると、やはり丸に囲まれた『1』の記号。

 

ということは。

 

三年前の俺はこの手帳の持ち主に何をしたのかが、多分この手帳に書かれているはず。そう考えながら、俺は初めの一ページ目を開いた。そのページの一行目から目を通す。

 

『私は今日、天狗になることが出来ました。もう一度あの人に会いに行ける体を、ようやく手に入れることが出来ました。』

 

──と、少し不格好な文字で書かれていた。

…天狗?俺、天狗に何かしたっけか?

 

『あの時、あの人に助けて貰えてなかったら、私は今この手帳を握ってはいなかったでしょう』

 

俺が三年前以上も前に、この手帳の持ち主を助けたのか?

…いや、天狗になったのはこの手帳を書き始めた頃のようだし、それ以前は天狗じゃなかったのか?天狗って、そもそも種族はなんなのだろうか。

三年以上も前に助けた生き物の中で思い当たるのは、鴉が二匹のみ。あとは母さんとか村の人達くらい。もっとも、母さんは先月他界してしまった。

うん、わかんない。そもそも天狗と鴉って繋がりあるの?あったとしても、使役とかじゃなくって?

 

ダメだ。考えれば考えるほと頭が痛くなってくる。

 

──あ、そういえば俺、ここから出る手段を探してたんだった。

すっかり手帳に気を取られていたが、手帳の中身を覗いたのは手掛かりを求めてだったはず。こんなところで時間を取るわけにはいかない。

俺は手帳を元の場所に戻し、引き出しを元に戻す。

これで捜索は振り出しに戻ってしまった訳なのだが、どうにも手帳の持ち主の行動が理解出来ない。

思うに、この手帳は日記帳なのではないだろうか。途中から俺の観察日記にすり替わってはいるものの、考察が書かれているのを見る限り、自分の行動を振り返っているのだし。

 

──ふと、部屋の外から発せられる靴の音が耳に入った。

その靴の音は着実にこの部屋へと近づいており、俺の小さな恐怖心を着実に引き伸ばしている。

俺には、この状況を打破する方法などない。今の俺はきっと、山で遭難した人のような状況なのだろう。何処にいるか分からないし、あまり動く事が出来ないし。

 

一つ、先延ばしにする方法を思い付いた。回避出来るか分からないが、平常心を保てば大丈夫だろう。

俺は先程目覚めた時に座っていた場所へ移動し、元のように座った。そして首を垂れて、狸寝入りをする。そして、時が経つのを待つ。

そうしていると、やがて靴の音が止み、出口と思わしき扉が開かれた。

 

「おはようございまー…あややや、まだ寝てるんですか」

 

女性のものと思われる声が、この部屋に響く。だが、俺に気を使ったのか、急に小声になった。これは…いけるか?

 

「…なんて、私が気付かないとでも思ってるのですか?」

「………」

 

バレてる!?いや、折れるのはまだ早い。向こうがカマをかけてる可能性だってある。ここはじっと我慢をする。

 

「第一、この部屋は外から見えてますし、貴方が私の書いていた手帳の中身を見た事も知ってるんですからね?」

「………」

 

いや待て。この部屋に窓なんて無いし、外から見える訳がないだろ。見たところ穴も空いてなさそうだったし。まだ俺は折れないぞ。

 

「…本当に寝てます?」

「………」

 

寝てますよー。だから邪魔しないでくださーい。頬をつついたって起きませんよー。

 

「仕方が無い人ですねぇ……まあ、寝顔が見れるだけでも良いんですけどね」

 

…何となく思ったことなのだが、目の前にいるであろう手帳の持ち主は、俺の事が好きなのだろうか?

手帳の中身といい、今の言動といい、思わせぶりなものが多々ある。

俺の事を想ってくれるのは素直に嬉しいのだが、些か歪んでいるような気がする。

 

「さて、記事の続きを書いてこなければなので、これで失礼しますね」

 

記事…?

記事、見たことのある万年筆、手帳…。

──まさか、文さん…!?

だが、俺が顔を上げたときにはもう、彼女は俺の目の前から去った後だった。

 

文さんこと射命丸文は、自分の事を『旅する新聞記者』だと名乗って、村を歩いていた俺に取材をしてきた女性。顔立ちや容姿が整っていて、女性に慣れていなかった俺は、正直目のやりどころに困った。当時、母さんを亡くしてすぐだった俺は、彼女と会話をしていくうちに元気を貰っていたようで、家に着いた時にはかなり吹っ切れていた。

万年筆については文さんの特注品らしく、同じものは存在しないと語っていた為、似たようなものと見間違えている可能性はない。そりゃあ、普通の万年筆に紅葉の絵なんて描かれてないでしょうに。

 

でも、それとこれとは訳が違う。

とにかく、ここから出る手段を考えなければ。そう思って立ち上がろうとした時だった。

 

「やっぱり起きてるじゃないですか」

「……えっ」

 

予想通りというか、文さんが俺の上に落ちてきた。

文さんは俺の上に跨り、俺の顔に手を添える。

 

「やっと会えましたね」

「実際には先月会ってるだろ?」

「そうですね」

 

げっ。文さん、俺の両腕まで巻き込んでる。これじゃあ抵抗のしようがないじゃないか。

 

「私がまだ鴉だった頃、貴方に助けられたんですよ」

「…あの時の鴉かぁ」

 

つまり文さんは、『鶴の恩返し』でいう、鶴のポジションか。薄々勘づいてはいたけど、現実味が無かったから信じてはいなかった。

 

「あの時、私は貴方に一目惚れしたんですよ。でも、その時はただの鴉で、とてもじゃないですが貴方に釣り合わない姿でした」

 

人と鴉だもんなぁ。普通だったらないな。

 

「だから、私はひたすら妖力の使い方を学んで、技術を高めて、今やっとこの姿でここにいるんですよ」

「…そうだったのか」

「嫌なら嫌だと、そう言ってくれたって構わないんです。ただ、私が貴方のことを好きだと、そう伝わったなら、それで…」

 

気付けば、文さんは泣いていた。涙が頬を伝い、俺の衣服へと垂れる。俺は両腕を使うことが出来ないため、何もすることが出来ないでいた。だが、俺は決めた。

 

「文さん」

「…はい」

「俺は文さんのこと、嫌いじゃないですよ」

「え…?」

 

俺は文さんを支えたい。少し力を加えたら折れてしまいそうな彼女を、守ってみたい。そう思った。

文さんは天狗らしいから、俺の力では庇うことなんてできやしないだろう。しかし、それはあくまでも身体的な意味でだ。せめて俺が生きている間ぐらいは、彼女の心を支えたい。守りたい。

そういう感情が、俺の中で生まれたのだ。

 

「でも、最初は友人から、でしょう?」

「…!そうですね!」

 

まあ、俺は恋人でもいいと思うけどね。もっと文さんのことを知ってから恋仲になりたい。

ふと、文さんが俺の胸元に倒れてきた。

 

「でも、少しの間だけ、こうさせてください」

「…わかったよ」

 

俺は開放された右腕で文さんの頭を撫でながら、自分はどの立場にいるのかの心配をしていた。

 

──母さん。俺の人生、面白くなりそうだよ。




「あの人と一緒に、幻想郷を回りたかったですね…」
「文、なんか言った?」
「いいえ何も?」
「…ふーん」
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