あるとしたら名前くらいです。
あと、今回R-15G注意です。そうでもないけど、一応。
やる気があったのは初めの三行ぐらいで、あとは流すように書いてます。
没にしようとも思いましたが、もったいなかったので軽く書き上げました。
「おーい早苗ー。お前終業式もサボったのかー?」
常時開放されている学校の屋上。夏真っ盛りでただただ蒸し暑い屋上に人がいるわけもなく屋上は閑散としており、白いコンクリートの床は影を欲する様に強く光を反射させている。最近の学校は生徒の安全の為に屋上が閉鎖されているが、当然そうでない高校も存在する。その屋上に、少々腑抜けた男子高生の声が響く。早苗と呼ばれた女子高生は屋上で見渡せる景色から目を逸らし、地毛である緑髪をふわふわと靡かせながら入口の方にいる男子高生へと振り向いた。早苗は男子高生の姿をその緑色の瞳で捉えると、小さく笑みを浮かべた。
「あ、誠司君…」
「…どうしたんだ?元気ないじゃん」
誠司と呼ばれた男子高生は早苗の表情が暗いのを感じ、声のトーンを落とした。誠司が自身の透き通った黒の瞳で早苗の顔を覗き込むと、早苗は早苗でバツが悪そうな顔をして目線を落とした。
「真面目なお前が理由も無しに終業式をサボる訳がないし、何かあったのか?」
「………」
誠司が話しかけるものの早苗の表情は暗く、何かを思い詰めている感じが見受けられる。誠司は早苗の行動に疑問を持った。だが、ここでズカズカと早苗の心へと踏み込んでいく程の勇気は、誠司には無かった。
「…まあ、無理に答える必要も無いけどさ」
誠司はふと歩き出し、早苗の横を抜けて屋上端の手すりへ前のめりに寄り掛かる。早苗はそれを目で追うが、体では追わなかった。
「この景色も、たった一年じゃ変わらないか」
それは当然と言えば当然なのだが。
誠司は屋上からグラウンド越しに正門を見下ろす。現在、多くの生徒達がその正門を通っており、その半数が複数人でまとまっていた。ある生徒は暑さで制服を着崩しているし、またある生徒は大袈裟な動作をしながら歩いている。
「まあ、見慣れてるからこそ些細な違いに気が付いていないだけかも知れないけどな」
「………」
早苗は無言で振り返ると、誠司の後ろへと歩み寄る。何か決心したのか、早苗の表情はいつになく真剣だった。
「誠司君」
「ん?どうした?」
誠司は早苗の呼びかけに反応し、早苗の方へ体ごと振り向いた。だが、誠司の顔を見て何か思うことがあったのか、早苗はまた暗く目線を落とした。
「……やっぱり、なんでもないです」
「…なんか、今日のお前はお前らしくないな」
「そうですか…?」
「ああ、いつものお前ならそこまで声小さくなったりしないし、言いたいことは言いきるタイプだと思ってるからな」
「そう、ですか」
──悩むことくらい私にだってあるのに。
と早苗は呟いたが、小声すぎて誠司には聞き取れなかったらしい。
「まあ、何はともあれ夏休みだ。早苗は何か予定あるのか?」
「私は…ありますね。誠司君は?」
「いや、俺は親も兄弟も先月の交通事故で亡くなってるから、今年からずっと一人なんだよねぇ。幸い金はあるんだけど、どうしようかな」
「………!」
誠司の言葉を聞いた早苗の表情が若干だが変わった。それと同時に何かを思いついたらしく、早苗の表情は明るくなっていた。
「な、なら、今日から家に来ませんか!?」
「べ、別に良いけど…急に元気になったな」
「じゃあ、今から行きましょう!」
「あ、おい、落ちつけって」
早苗は誠司の手を取り、走り出した。
──これで、未練はないです。
◇◆◇◆◇◆◇
「へぇ…中々じゃないか」
「それで、その後はどうなるのよ?」
場所は博麗神社の境内。
現在そこには三人の女性が立ち話をしており、字の通りとても姦しくなっている。
一人は黒白魔女。一人は巫女。一人は緑色の巫女。今は緑色の巫女が語り手のようだった。
「お話っていうのは、大筋だけを聞いて細かいところを自分で補完するから面白いんですよ?」
「ぬぐぐ…続きはないと?」
「勿論続きもありますが、それは内緒です」
そう言って緑色の巫女は微笑んだが、他の二人は難しい顔で首を傾げた。
「それでは、私はこれで」
「今日も布教か?」
「そうです!頑張ってきますよ!」
「…まあ、程々にね。あんまりやりすぎると、また私が動くことになるんだから」
「あ、あははは…肝に銘じておきます」
また今度、と言い残し、緑色の巫女はふわりと飛び去っていった。
残った二人は何か気にかかることがあったのか、まだ首を傾げていた。
「…なんか、今日の早苗おかしくなかったか?」
「奇遇ね、私もよ。なにかがおかしかったわ」
──早苗って、ずっと目を閉じてるような人だったか…?
◇◆◇◆◇◆◇
「…早苗、目は大丈夫かい?」
「神奈子様ですか?はい、大丈夫ですよ?きちんと見えますし…」
「そうかい。ならよかった」
その日の夕方。早苗が台所で夕食を作っていると、神奈子が訪ねてきた。
振り向いた早苗は目の前にいる神奈子に微笑み返し、いかにも平気そうな顔をする。対する神奈子は、早苗に悟られないようにゆっくりと近づいていく。
「…神奈子様?この手はなんですか?」
神奈子は早苗の顔に両手を添えると、親指で瞼を押し上げた。早苗は驚きこそしたもの、早苗の両眼は神奈子の顔を捉えていた。少しの間が空き、神奈子は両手を離した。
「…いや、最近ずっと目が閉じたままだったから、きちんと目が開くのかと思ってね」
「もう、目を怪我してる訳じゃないんですから、きちんと開きますよ」
「ならいいんだよ。じゃあ、私はそろそろ諏訪子を起こしてくるよ」
「はい。お願いしますね」
神奈子は先程目にした得体の知れない恐怖を若干感じながら、台所を出ていった。早苗は神奈子が訪ねてきた時と変わらず、夕食の準備を再開したのだった。
──黒く透き通った目と緑色の目を閉じたままで。
◇◆◇◆◇◆◇
「痛い…目が、痛い…」
声が響く。
「足も、痛い…腕も、痛い…」
とある部屋に、青年の声が響く。
「でも…心は、痛くない…」
コンクリートで囲まれた部屋に、青年の声が響き渡る。
「どうしてこう、なったんだろうな…」
その部屋には、四肢を切断されて、その切断箇所を赤く染みた包帯で巻かれている青年がいたのだった。
「はは…ははは…」
──諦めたように微笑する彼の左目からは透明な液体、右目からは赤い液体が垂れていたのだった。