くっそー!今度こそ早く仕上げたいぞー!!
ブロロロロロロロ・・・
雲ひとつ無い晴天の青空、一機のレシプロ機が小さめのエンジン音をうならせながら上空を行ったりきたりしている。
レシプロ機、と言うにはやけに小さくまるで模型店に売られているかのような大きさ・・・しかし、ただのラジコンにしては妙に現実味のある飛行性能を感じさせる動きであった。
その小さなレシプロ機のパイロット―――通称“装備妖精”が、操縦桿を握り締めながらも下にある海を怪訝な表情で眺めていた。
正確には、人の通った形跡を感じさせないはずの海の上にある“金属製の不純物”をだが。
その場所から数十キロ離れた海域。
「・・・偵察機から連絡が入ったわ。報告によると、この周辺から数キロにかけて敵影はなし。駆逐艦一匹いないんだけど・・・」
海の上に立っている謎の集団が、緊張した顔つきで海の上に“立っていた”。全員が美しい女性の姿をしていて、そのどれもが何故か、船の部品のようなパーツをつけていた。
「妙ね、このあたりは『エリート』級がうようよしていて並の艦隊では迂闊に近づけないはずなんだけど・・・」
「どころか、さっきから敵との交戦もほとんどないわよね。折角それ相応の装備を引っさげてきたというのに・・・」
そのうちの2人の発言に、皆が頷いて同意する。
そうなのだ、ある『任務』を受けてこの女性達はこの海域まで足を伸ばしたのだが、先程から敵艦隊はおろか、駆逐艦の一匹さえ遭遇していない。順調といえば耳障りはいいのだがここまで来ると却って気味の悪さまで感じるほどだ。嵐の前の静けさとも何か違う、穏やか過ぎる波の動きまでもがこの辺りの海域をあらわす様だ。
「そのことなんだけど・・・」
「?」
最初に発言した女性が、僅かな困惑の色を浮かべながら口を開く。
「報告によれば、『深海凄艦』のものと思わしき破損した『艤装』が多数浮かんでいるのを発見したそうよ。それも、少なく見積もっても50以上はあるだろうという数をね・・・」
「っ」
「本当なの?」
半信半疑で尋ねるのを、自信なさげに頷く。
「つまりどこかの艦隊か何かがそんな大規模な数を壊滅させたと?」
「けれどそんな報告、耳にした覚えはないんだけど」
女性の報告に、困惑が伝染したように皆々がぼそぼそと言う。ここにくるまでにまともな交戦がなかったのに疑問を感じたが、その原因が、なぜか『深海凄艦』が一箇所に集まって轟沈させられたからと?一体なぜ?誰が?どこの『艦娘』が?
「驚くのはまだ早いわよ、偵察機の装備妖精にその艤装の残骸を慎重に調査してもらったんだけど、妙なことになっていたらしいの・・・」
「妙とは?」
「・・・『轟沈』し損ねたその艤装に、弾痕の跡がまったく見当たらなかったのよ」
「は?」
「その代わりに何か鋭利なもので切断されたような跡、なにかの高熱で変形したり焦げたりしたような跡、・・・中には何か強力なもので殴打された跡が・・・」
「おいおいおいおいおい待て待て!!」
そのうちの女性の一人が、慌てた様子でタンマと言わんばかりに手を上げる。
「じゃあ何か!?その『エリート』を壊滅させた誰かさんは、砲撃をまったく行わずに剣かなんかでぶった切ったり、ぶん殴ったり、火炎放射かもしくは怪獣みたいに口から火を吐いて戦っていたとでも!?ありえないだろ!!」
その女性の言葉に、他の皆も同意するように戸惑った表情で頷いている。無理もない、報告をした女性だって困惑しているくらいだ。多数の『エリート』を相手に砲撃もせずに、白兵戦で仕留めるなんて一体何の冗談なのだろう?だがしかしその冗談を、その場で発見された『深海凄艦』の艤装が事実を物語っているからますます困惑が広がるばかりだ。
「・・・ひとまずこうしていてもしょうがないわ。全員、その位置に向かいましょう。ただし、敵影はないからといって警戒は怠らないように」
女性の言葉に、その場の全員が一斉に頷く。
(一体、この海域で何が起こっているというの?)
所変わって基地内
「みんな、おはよう」
「おはようございますなのです!
電を伴って基地のあの母港へと足を踏み入れる。視界に広がるのは相変わらず秘密基地を思わせる設備の数々。その中で、何かの作業中だったあの妖精四人が一斉に顔をこちらに向ける。
「あ・・・・」
妖精の集団が、こちらを見て目を大きく見開かせる。
「それと、心配掛けたようですまなかった。でももうこの通り・・・・」
「目が覚めたんですね!?」
「よかったー!!ほんとによかった!!」
「うわああああああん!!!!」
四人共何かの作業を中断して一斉にこちらに駆け寄る。小さいから犬みたいに飛び掛ってこられても、どうということはないものの、それでもやっぱりびっくりする。というか、意外と跳躍力すごいな。
「無事に帰ってきたからいいものの、貴方も天龍さんもボロボロだったから心配しましたよ!!」
「しかも帰ってきても中々目を覚まさないからこっちはもう心配で心配で・・・・!
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「あ、ああ、すまない」
戸惑いながらも涙ぐむ妖精達を何とかなだめる。が、なかなか泣き止んでくれない。
「妖精さんたちも、皆心配していたのです。お兄さんが寝ている間にも、時間をみて看病に行ったり・・・」
「そうなのか・・・」
俺が気絶している間にそんなことがあったのか。
「えーと、ごめんな?心配かけたみたいで。あと、心配してくれてありがとう」
涙に濡れた妖精達の顔をいつぞやのように、着ている服の裾で四人の涙を拭いてやる。が、拭いたそばから次から次へと涙がこぼれてきてきりが無い。涙の数だけ、迷惑かけてしまった・・・って所なのかな?
そういえば去年、菜々子が入院したときも俺たちもこんな感じだったんだよなあ・・・。
「そろそろ、落ち着いたか?」
「ぐす・・・は、はい」
まだ涙ぐんではいるものの、一応肯定の返事を返す妖精達。それを確認してから頷いて、適当な木箱に腰をかけ、電もそれに倣う。
「そういえば、姿が見えないけど天龍の方は無事か?」
あの時、応急処置はしたものの、なんかその後でダメージを食らっちゃったみたいだからな・・・まさかとは思うけど・・・。
「ご心配なく。大破はしていたものの、その後のこちらの処置で何とか持ち直しました。艦娘を修理するための入渠施設が壊滅していたおかげで、虎の子の最後の『高速修復材』を使い切ってしまいましたが・・・」
それは杞憂だ、といわんばかりに妖精がにこりと笑う。
聞きなれない単語に首を傾げる。入渠・・・て、『船渠』のことか?まあ人の姿をしているからそういうことなのか?あと、高速修復材・・・?
「よく、分からないけど・・・とりあえず無事と言うことなんだな?」
「はい。今はすっかり、日常生活を送るくらいには回復しています」
「そうか」
ひとまずそれだけ聞ければいいか。聞きなれない部分もあったけれど話の腰を折るのもなんだし、後でいいか。お互い話したいこともあるだろうし。
「電から聞いたよ。わざわざ船でこっちに向かってやってきてくれたんだって?」
「ええ、何もできないことは承知の上だったんですけれども、やっぱり心配になってきてしまいました・・・ごめんなさい」
「構わないよ。むしろそのおかげでこっちは助かったみたいだしな」
頭を下げる妖精に、なんでもないという風に手を振る。
電から聞いた話だがあの後、気絶している俺たちを頑張って曳航している所を、妖精さん達が脱出に使う予定だった船を使ってここまで来てくれたの事だった。俺たち2人を運び込んだ後、安心と気力を使い果たした所為なのか、電も気を失ったと聞く。あんな小さな体で大人2人を曳航してくれた姿を思い浮かべると、ますます申し訳なさが『毒』状態のようにじわじわと効いて来るなぁ・・・。
「皆には世話になってしまったな。俺も結局乱入してきた『深海凄艦』にのされてしまったしな。情けないったら・・・」
「そんな事無いのです!」
改めて皆に頭を下げて謝罪するのを遮るように電が言う。同意するように妖精たちも頷く。
「お兄さんが来てくれなかったら電も天龍さんも、この基地の皆も今頃、『深海凄艦』に為すすべなく殺されていたのです・・・・」
「電ちゃんの言うとおりですよ。むしろ、たった一人で60ものエリートの艦隊から、この基地を守ったこと自体が凄いことですから!」
「お礼を言うのは、むしろこちらのほうです!貴方は紛れも無い、命の恩人です!」
「本当にありがとうございます!!今この場にいない天龍さんの分も含めて!」
「ああぁ・・どう、いたしまして」
電を含むその場の全員が、俺に深々と頭を下げてくる。なんだかむず痒いな。けど、その後のこともあるからきちんと守れたのかも疑問が残って複雑な気分だけど・・・まぁ、とりあえずこの結果に満足するとしよう。誰一人死人を出さずにこの基地の人達を守ることが出来たんだからな。
が、いつまでも喜んでばかりもいられない。まだ問題は残っているからな。例えば、俺自身とか。
「なあ、早速で悪いんだけれど、外部と連絡できるものは無いかい?」
「・・・・え?」
「色々あったからすっかり考える暇も無かったんだけどさ、俺も、何でこの場所にいるか謎なんだけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。だからせめて、知人とも連絡を取り合いたいんだけど俺の携帯も調子が悪いのか知らないけどずっと圏外でさ・・・ほら」
そういいながらポケットから電池の残量がやばい事になっている携帯電話を取り出し、待ち受け画面を皆の前につきつけ、妖精達や電が集まってまじまじと待ち受け画面を覗き込む。ちなみに待ち受け画面には、自分を含む特捜隊とマリーがそれぞれ笑顔で映っている。
「あ、お兄さんとなんかいろいろな人が映っているのです!」
「なんか一人、前科持ちみたいのがいるんですけど・・・どんな人なんですか?」
妖精が俺の仲間の一人を指差す。
「俺の後輩で、意外と礼儀正しくて良いやつなんだぞ?たしかにちょっと柄悪いかもしれないけど・・・」
「へー・・・なんだろう、男と密着して喜びそうな顔してますね!」
「・・・」
「あの、冗談ですから。ていうか、どうしてなんともいえないような顔して黙るんですか?」
・・・そっとしておこう。なんともいえないもやもやを抱えたまま携帯をポケットに仕舞いこむ。
「と、とにかく俺の携帯がこの通り使えない状況だから、とにかく外部と連絡を取らせて欲しいんだ。だから、通信機でも電話でも貸して欲しいんだが・・・どっちにしろ、君たちも軍の大本営とやらに応援を頼んだほうが良いんじゃないのか?」
全員の視線がこっちに向く。
「だって、この基地は今まででも度々襲撃があったんだろ?今回はうまく敵を退けることが出来たけれど、またこんな様なことがあるって可能性があるということだよな?」
「う・・・」
「俺は軍のこととかよく知らないけれど、今後もこんな事があるとするなら応援を呼ぶとか、上層部に対処してもらうとかしたほうがいいんじゃないのか?連絡手段くらいあるんだろ?」
どっちにしろ外部への連絡が必要なのは何も、俺だけの話ではない。ここにいる皆だって応援を呼ぶなり何なりしてこの状況をどうにかしたほうが良いに決まっていると思うのは当然の判断だ。ましてや、唯一この基地に在籍する艦娘ですら満足に補給も人員も足りていない状況があったとはいえ、この周辺の敵に対処しきれてないのだ。今回は俺自身だけで何とかなったものの、いずれこのままでは数の暴力に押しつぶされて・・・なんて誰だって自然に思いつくことだろう。敵が今どんな状況で、どんな風に仕掛けてくるのかは分からないけれどおそらく、一時的にだが、敵の隊列が崩れて手を出しあぐねている可能性が高い。俺が気絶しているこの3日間で敵の襲来が無いのが良い証拠だ。俺だって、いつまでここにいれるか分からないしな。
「・・・・・・」
返答は、返ってこなかった。それどころか、皆が暗い表情でうなだれながら、言いにくそうに地面を見ている。
あー・・・まさかとは思うけど、なんか嫌な予感が。
「大変、言いにくいんですが・・・」
青髪の妖精が、言葉通り言いにくそうに重たい口を開き・・・
「先日の襲来でここの通信設備も壊されてしまって、外部と連絡をとる手段が無いんです・・・」
「マジか・・・」
俺の嫌な予感を、苦虫を噛み潰した表情でばっちり肯定した。
「外へ直接出向こうにも、深海凄艦がうようよいた状況じゃあうかつに外に出られないですし・・・新しい艦娘を『建造』するための設備も駄目になってしまいましたし・・・」
「この基地に残っていた艦載機や偵察機も、何一つ残っていない状況でして・・・あったとしても、迂闊に出せば敵に打ち落とされてお仕舞いですし・・・」
「八方塞がりだな・・・」
「ついでに言ってしまえば、敵に囲まれて遠征や任務もまともに出来ない始末で、残っている資源もギリギリなんです。艦載機どころか、満足に行動するための『燃料』だって残っているのかどうか・・・」
・・・よくこんな状況で今日まで生きてこられたもんだな。むしろ皆の生存能力に感服するよ。
「外にいる大本営とやらは、連絡が途絶えたこの状況に調査なり援軍なり送ってくれないのか?」
「連絡が絶えてしばらくたっていますけど、未だにそれらしいものは来ていないです。ここまで来るのが困難なせいか、もしくはこの島の生存率が絶望的なため調査を打ち切ったのか、もしくは両方なのか、どちらにせよ援軍の線は絶望的ですね。3日前だって、もし貴方が来てくれなかったら・・・なんて、考えたくも無いです」
本当にギリギリの状況だったんだな・・・。
「あ、でも、今なら残っている『燃料』をかき集めて誰かが助けに行けば・・・」
「それはいいが誰が行くんだ?本土との距離の関係もあるけど、向かった道中で『敵』と遭遇する可能性だって十分ありえる。天龍や電だって危ないというのに・・・俺が行くにしても、留守の間に敵が攻め込んできたらどうするんだ?守りきれるか?」
「う・・・・・」
緑髪の妖精が自信満々に出したアイデアを、ばっさり切り捨てる。電や天龍に対して嫌な言い方になってしまうけど事実なのだから仕方ない。
とりあえず、体力と魔力とアイテムがほぼ尽きかけている状況で『刈り取るもの』の集団に追い掛け回されているみたいだということが分かった。おまけに逃げるための『トラフーリ』も『カエレール』も無しときた。考えられる限りの最悪の状況だな。
ふと、俺の服が引っ張られる。振り向くと、先程から黙って俺たちのやり取りを聞いていた電が、不安そうに顔を俯かせている。
「電・・・」
改めてこの状況に不安に思ったのか、次第に俺の服を握り締める力が強くなり、口元を強く結びつける。先日の決意を篭めた姿が嘘のように・・・まるで子犬のように不安そうに震えている。
「・・・落ち着け」
握り締める手と頭にそっとやさしく手を置く。電が戸惑うように俺の顔を見上げるのを見て、にこりと笑みを浮かべる。
大丈夫だ、心配しなくていい。落ち着け。そう目で諭してこくりと頷く。俺の意図が伝わったかどうかはわからないけれども、俺の服を握り締める手がわずかに緩んだのを感じた。それを確認すると、改めて皆に向き直る。
「なあ、その資源とやらは、ほかに増やすことは出来ないのか?」
「へ?」
「不可能なのか?」
「・・・一応、遠征や任務の他にも海域で取ることも可能です・・・前の調査でも、この海域でも取れないことは無いです・・・一部を除いては、本当に微々たる物ですが・・・」
「成程」
妖精の言葉に頷いてみせる。
「ひとまず今は、守りを固めてアイテム・・・いや、資源を集めようかと思うんだがどうかな?まずは、この基地の設備を回復させることから始めよう」
「で、ですが、集めるにしても肝心の『燃料』が・・・」
「それについては、考えが無くも無い・・・」
そう言って、青髪の妖精の耳に俺の考えたアイデアを耳打ちする。それを聞いた妖精は一瞬驚いた顔をして、そしてすぐに顎に指を当てて考え込むようなそぶりを見せる。
「どうだ?可能か?」
「・・・一応・・・出来なくは無いと思いますけど・・・でも肝心の・・・」
「その言葉が聞けるならいい。大丈夫、君の考えている問題点についても考えがあるから」
「?」
もっとも今言ったアイデアは、一度天龍の許可を得てからしたほうがいいだろう。アイツの事だから無断でやると快く思わないかもしれないし・・・。
「それから・・・」
皆が疑問符を浮かべながら青髪の妖精と俺を交互に見つめる中、一度仕舞った携帯電話をポケットから再び取り出して妖精達に差し出す。ますます戸惑いの色を顔に浮かべながらも、携帯電話を受け取る。
「これは?」
「よければ、この携帯電話も改造してみてくれないか?これも本来、ほかと連絡を取るための道具だ。もしかしたら、これで外部と取れるかもしれないし、無駄かもしれないけど、好きに使ってくれ」
「いいんですか!?」
「こんな状況じゃあしょうがないさ。どうせこのままでも、何の役にも立たないんだしな気にせずに使ってくれ・・・俺も協力する」
全員が携帯電話から俺に目線をがばっとした勢いで向き直る。
「一人彷徨っていた所を助けてもらった恩もあるし、これも何かの縁だ。今更だけど、俺でよければ力になろう」
「!!!」
「それとも、俺じゃあ力不そ・・・」
「そ、そんなことないのです!!!」
勢いよく立ち上がりながら、電が俺の言葉を遮るように否定する。
「こちらこそ、お願いします!!悔しいですけど、今この基地を守ることが出来るのはお兄さんだけなのです!どうか・・・どうかお願いします!」
「電・・・」
深々と頭を下げる電。そこまで頭を下げることも無いのに・・・と言おうと口を開こうと・・・」
「こ、こちらこそお願いします!新しい戦力も期待できないせめて、せめてこの基地が復旧するまでの間だけでも・・どうか!」
「「「お願いします!」」」
電だけでなく、その場の妖精達までもが一斉に頭を下げた。
一瞬その気迫に圧倒されもしたが、次の瞬間には気を取り直して・。
「ああ、任せろ!」
と、彼女達に負けない大声で返してやった。頭を上げた女性達の顔には、まばゆいばかりの期待と笑顔が、自分に向けて放たれていた。
「あの、所でこちらからも聞きたいことが・・・」
「?何かな?」
「これも電ちゃんから聞いたんですけど、何か特別な能力で『深海凄艦』を撃退したとか・・・」
「あ・・・ああ・・・」
ちらりと電のほうに視線を向ける。見られていることに気づいた電がにこりと微笑む。参ったなぁ・・・話してしまったのか。あまりひけらかす話じゃないんだけど・・・ま、いずれは知られてしまうことなんだけどさ・・・。
「・・・『ペルソナ』と呼ばれる能力なんだが、聞いたことがあるかな?
「「「「「ペルソナ?」」」」」
「・・・イザナギ!!」
いつものように、右手にカードを召喚して気合とともに『イザナギ』を召喚する。妖精達が、「うぉ!?」だの「おぉー!」だの、恐怖するような、感嘆するような、はたまた固まって声も出ない様子のそれぞれの反応を見せる。
「・・・これが『ペルソナ』能力だ。困難に立ち向かうための人格の鎧、心の力、数ある俺の中の一面が表層に出てきた存在・・・いわゆる、『もう一人の自分』を呼び出す能力」
近くにある錆びたジャンク品らしきものに視線を向ける。見るからに20~30Kはありそうな大きさと重さだ。
そのジャンク品をイザナギが矛を持っている手とは逆の手で軽々と持ち上げ・・・。
「身体能力が普通の人と比べて上がったり、魔法みたいなものが使えるようになるわけ・・・だ!!」
明後日の方向に放り投げると、すかさずイザナギが持っている矛でそのジャンク品を真っ二つにした後、今まで持っていたほうの片手を、放り投げられたジャンク品のほうへ伸ばすと同時に、どこからか電撃が走って二分割されたジャンク品が黒焦げになる。あまりの電撃の眩しさと音にその場にいる全員が手で顔を覆う。
「もちろん、人によって指紋の形が違うように、ペルソナによっては物理が得意だったり魔法が得意などという個体差もあるけどな。オレのイザナギは電撃も扱えるけど、どちらかと言えば物理が得意かもな」
電撃がやんで、ドスン!と二分割されたジャンク品が落ちてくると同時に、全員が顔を覆っていた手を下ろす。
「すまない、電撃出すとか前もって言えばよかったな・・・勝手に物も切ってしまったし・・・」
「いえ、それは構わないのですが・・」
妖精の達が戸惑ったように、ジャンク品とイザナギを交互に見ている。はじめて見る不可解なものに戸惑っている様子・・・と言ったところか。
「その・・・ペルソナとか言いましたっけ?こんな能力、どこで手に入れたんですか?こっちは艦娘とか深海凄艦やらしか知らないと言うのに、一気に常識が崩されて訳が分からないです・・・」
「ちょっとした複雑な事情があってね、今はそれは伏せさせてもらうよ。俄かに信じてもらえるような話でもないね・・・」
俺自身、まだこの状況について把握し切れてないことが多いからな。
「ところで、この・・・イザナギさん?とかの他に、何か出してましたよね?」
電が『イザナギ』を指差しながら問いかけてくる。
「え?どういうこと?」
「電や天龍さんが傷ついたときにこのお兄さんがイザナギさんとは違うのを出していたのです。イザナギさんとはまた違った種類を」
「えっ、そうなんですか!?」
・・・ああ、そういえば二人にはチラッとだけ出していたっけ。『テトラカーン』と『マカラーン』を張ったときもまた別のを出していたし。
というか電、そんなうれしそうに話題に出されても・・・妖精達もなんか期待するような目でこっちを見ているし・・・。
「・・・見たいのか?」
妖精が四人とも、高速で首を縦に振っている。電も期待するような目でこちらを見ている。あーもう、断りにくいなぁ・・・そんな目で見られると・・・。
ため息をつきながらも、目の前のイザナギを見据えながら意識を集中させて・・・。
「・・・チェンジ」
ん?
「あ、あれ?」
「はわ?」
「・・・?チェンジ・・・」
しーん・・・・。
「・・・あれ?」
いつもやっているように、ペルソナチェンジのためにカードを呼び出そうとしても、カードがやってこない。電や妖精がこちらに対して首をかしげている。
「あ、れ?え、え?あれ?」
「お、おにいさん?」
「ちょ、ちょっと調子が悪いのかな?・・・チェンジ!イシス!!」
しーん・・・・。
「・・・チェンジ!ベルゼブブ!!」
しーん・・・・。
「あ、あの・・・」
「・・・チェンジ!!スルト!!スカアハ!!フツヌシ!!オーディン!!ノルン!!トール!!ヨシツネ!!トランペッター!!ルシファー!!!」
しーん・・・。
いつまで叫んでも、ペルソナは『イザナギ』のままで俺の大声だけが母港内でどこか虚しく木霊する。妖精や電が、俺のただならぬ様子にいつの間にか若干の戸惑いを含んだ表情を浮かべていた。
が、この場で一番動揺しているのは間違いなくなく俺だろう。
「す、すまない!ちょっと調べたいことがあるから・・・!」
イザナギを消して、その場から駆け出して施設のドアへと一目散に向かう。後ろから妖精と電が何か叫んでいたが無視して出て行く。
残された電と妖精達が、彼が出て行ったドアを呆然と眺めていた。
「な、何があったんでしょう・・・?」
「さ、さあ・・・」
皆してお兄さんが潜っていったドアをぽかんと眺める。調子が悪いのかな?
「・・・急に走り出すキノコでも食べたのだろうか?」
「どんなキノコ?それ?」
「・・・・・・」
(お兄さん、イザナギさんとは別のものを呼び出そうとしていたのになぜか出来なかった・・・それにあの表情、一体何かあったのでしょう?)
なにか、心の中で嫌な予感がする。これは一体・・・?
ザバァァァァァァァ
突然、母港のシャッターが開いて、その場にいる者たちの視線がそちらに向く。開けたシャッターの奥から出てきたのは・・・。
「・・・何だよ、いたのかお前ら」
「て、天龍さん!?」
なぜかドラム缶を背負いながら、相変わらずぶっきらぼうな態度と表情をを貼り付けたままこちらに歩み寄ってくる。
「ど、どこに行っていたのですか?まだ病み上がりだというのに・・・」
「別に、3日前のあの海域周辺で資源集めていただけだ。幸い、あの野郎が粗方深海凄艦を海の藻屑にしてくれたおかげで回収が楽だったぜ・・・」
そういいながら、艤装を脱ぐこともせずに背中のドラム缶を面倒くさそうに下ろす。妖精さん達が戸惑うように一瞬お互いに目線を合わせるも、すぐに天龍さんが運んできた資源の入ったドラム缶をせっせと運び出す。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?あのときの怪我は良くなったとはいえあまり無理は・・・」
「くどいな、『バケツ』のおかげで大丈夫だっていってるんだろ・・・」
妖精さんが気遣う言葉をかけるも、当の本人は素っ気無く言葉を返す。
聞きたいことがまだあったけれども、天龍さんの話しかけづらい雰囲気に押し出されて言葉が止まってしまう。「それよりあの野郎はどうしたんだ?まだ寝ているのか?」
「さ、さっき目を覚ましたところなのです!それで今、別れたばかりで・・・」
「・・・あっそ」
自分で聞いておきながらまるで興味なさそうに軽く流す天龍さん。なんだろう、この感じ。さっきから天龍さんと話しているのだけれども、何か違和感が・・・天龍さんが私たちを見てくれてないと言うか、心ここにあらずというか・・・なんだか、最近もそうですけど天龍さんらしくないというか・・・見ていてなんとなくお腹が重くなりそうと言うか・・・お兄さんが来る前も機嫌がいいとは言えなかったけれども最近は輪をかけて酷い・・・。そのせいかまるで、あの『提督』がいたときとは別の意味で居心地が悪く感じられる・・・。
「時に電、お前こそ体大丈夫なのかよ?あの後気絶したとかいうじゃねえか・・・」
天龍さんの声で、はっと我に返る。
「だ、大丈夫なのです!天龍さんやお兄さんと比べれば大したことでは・・・」
瞬間、ピクリと、天龍さんの眉が痙攣する。まるで不快なことでも聞いたかのように。それを悟られまいとしたのか、こちらに背を向けてどこかへ歩き出そうとしている。
「そ、そういえばさっき、この基地に力を貸してくださいとお願いしたのです!外部との連絡も取れませんし、ここの基地の皆だけではとても対処できないと思ったので・・・あのお兄さんがいればとても心強いと思ったので・・・」
そういってどこかへ行こうとする天龍さんの足がぴたりと止まった。あのお兄さんのことで反応したのだろうか?
「・・・で?あの野郎はなんて?」
「快く力を貸して頂けるそうです!、天龍さんの意見も聞きたいといっていました!天龍さんも改めて、この基地を救ってくれたお礼もかねてお兄さんと・・・・」
「別にアイツと話すことなんかねえよ」
こちらの言葉を遮って、突き放すように言い放つ天龍さん。
一瞬、何を言っているのか理解するのに数秒くらいかかっただろう。 彼女から放たれた言葉がこちらの予測の斜め上を行っており、聞き間違いかと思ったほどだ。
「て、天龍さ・・・?」
「と言うかお前らは、揃いも揃ってアイツに気を許しすぎじゃないのか?」
「え・・・?」
予想だにしない質問に、私だけでなく妖精さん達まで困惑の表情を隠せない。急に何を言い出すのだろう?この人は。唖然とする私達に溜息一つついて、向き直る。まるで、あの人と話す時のような面白くもない表情でこちらをみわたしていた。
「忘れたのかよ?俺たちがこの基地で『提督』を含む人間たちにどんな目に遭わされたのかを・・・誰のせいでこの基地の仲間やお前の姉妹達が帰らなくなったと思っている?あの野郎だって、あんな面ぶら下げて一体どんなこと考えているのか分かったもんじゃあない・・・うかつに外部の人間なんか信じるんじゃねえ・・・」
「・・・・・・」
「な、何を言って・・・」
「少なくとも、俺はアイツなんか信用できない。この基地を救ったという事実があったとしてもだ」
「だ、だからって・・・」
「何だよ、文句あるのか?」
静かに・・・だけどどこか強い口調で天龍さんは言う。背中越しに放たれた言葉の端に篭った強い拒絶に、何も言い返すことが出来ない・・・。
過去に起こったことを考えればこんな反応をとるのは当然のことなのかもしれない・・・この基地にいた『提督』さんを含む人間さんたちを考えれば、むしろ天龍さんの反応が正常なのかな・・?
でも、あの人は本当にそうなのかな?一人でこの基地を守って、私たちのためにあのレ級相手に身を挺して
くれたあの人がひどい人なんて思えない・・・これも自分の中の甘さが消えていないと言われればそれまでだけど・・・でも・・・。
「・・・そうに決まっている・・・そうじゃないと、俺は・・・」
「え?」
微かに、天龍さんの唇が動いた。何を言っているのかは掠れて聞こえなかったけどあれは・・・あの目は・・・。
「天龍・・さん・・・」
「だからって・・・」
振り返ると、青髪の妖精さんがぼそりと呟く。天龍さんも、どことなく不機嫌そうな顔をして妖精さんに振り向く。一瞬天龍さんの強い視線に気圧されながらもなんとか言葉の続きを搾り出す。
「だからって、あの人までそう決め付けるのは・・・なんというか違うんじゃないですか?見ず知らずの暁ちゃんのために泣いてくれたり、たった一人でこの基地を守ってくれた人が、以前の『提督』と同じというんですか!?天龍さんは本当にそう思っているんですか!?」
ほとんど金切り声に近い叫び声だった。言葉には出さないものの、ほかの妖精さん達も同じ意見だと言わんばかりの視線を天龍さんにぶつけていた。
「天龍さんがどうしてあの人に対して毛嫌いしているのかは知らないですけど、あの人がしてくれたことは貴方にだって分かっているはずじゃないですか!?電ちゃんと一緒にあの人がやっていたことを間近で見ておきながら、まだそんなことを言うんですか!?」
瞬間、私は見た。顔だけで振り返る天龍さんの瞳が、僅かに揺れたのを。瞳に宿っているのが、憎しみだとか、拒絶だとか、それとは別の感情が篭められていたのを。
「・・・天龍さんは・・・あの人のことをどう思っているんですか?本当に、あの人のことを嫌っているのですか・・・?」
すたすたと天龍さんの下へ歩み寄る。天龍さんが軽く睨んでいるけれどもそれすらも今は気にならない。
「・・・聞いてなかったのか?だから人間なんか・・・」
「人間だからっていう理由で、何もかも信じられないっていうんですか!!」
自分でも驚くぐらいの大声が、母港に響き渡る。妖精さんが突然の事で驚いて軽くのくぞっている。
「私達がこの基地で起きた不幸はいつだって忘れてなんかいません!天龍さんがそんな風に人間の人を信じられないのも無理は無いのかもしれません・・・でも!人間だからとかという理由で何もかも否定してしまうなんて・・・・天龍さんが一番嫌いな前の『提督』とどう違うって言うんですかっ!!??」
「んだと・・・・!?」
「ちょ、ちょっと2人とも!!」
こちらの襟首を掴まんばかりに目を見開かせながら歩み寄ってくる天龍さんに対して、妖精さんが間に入って両手を広げる。
天龍さんにこうやって口答えするなんていつもの私なら考えもつかないことなのだろう。だけれど、今の天龍は間違っている。変だ。私の知っている天龍さんは言葉遣いは乱暴でも、いつも思いやりがあって優しくて・・・今の天龍さんはやっぱりおかしい!認めたくなんかない!
・・それから何分間一触即発の空気が続いたのだろう、私達に割って入っている妖精さん以外は、今にも爆発する爆弾でも見るかのように、あたふたした様子で私達の様子を眺めているばかりだ。
「・・・ちっ!」
やがて天龍さんが、舌打ちしながら私達に背を向けて海のほうへと歩を進める。
「そんなにアイツと仲良し子良ししたけりゃあ勝手にすればいいだろ」
「天龍さん!」
「だがお前らが何と言おうとも俺は自分の意見を変えるつもりはねえ!好きにやらせてもらうからな!!」
相変わらず背を向けながら捨て台詞のようにそういい残し、荒々しい足取りで来た道を振り返り、海面へと着水する。
「ま、待ってください!天龍さん!まだ言いたいことが・・・!」
こちらの静止の言葉も聞こえているのかいないのか、そのまま開きっぱなしのシャッターを潜って再び大海原へと消えていった。
天龍さんがいなくなった後も、しばらく放心するように、いなくなった方向を眺めていた。
「天龍さん、どうしてあんなことを・・・」
結局天龍さんは、何も語ってくれなかった。何も聞いてくれなかった・・・私は・・・もっと皆で仲良くしたかったのに・・・。貴方だって、あの人がどんな人かも分かっているはずなのに・・・。
今の天龍さんを龍田さんが見たらどう思うのだろうか?悲しむだろうか?怒るのだろうか?あのときの天龍さんは、もういないのですか?
「どうして、こんなことになったんだろう・・・?」
「あのさぁ・・・」
「?どうしたの?」
緑髪の妖精が気まずそうに青髪の妖精におずおずと尋ねる。
「こんなときにこんなこと聞くのもあれなんだけどさ・・・」
「?何?」
「天龍さんの主砲、なんかいつもと違わなかった?」
「へ?」
本当にこんなときに何を言い出すんだこいつは?
「主砲?あまり見てなかったけどどうかしたのか?何か違ったのか?」
「うん、さっき天龍さんの持っていたのが、いつもの単装砲じゃなくて・・・まるで・・・」
飛沫を上げながら、3日前のように海面を進んでいた。唯一つ違うのは、今の心境だけ・・・。
あのエリートの大群と戦うときだって、まだ心境的にはマシだった。あいつらを守るためなら、どんな事だって怖くなかった・・・たとえ、自分の命を危険にさらそうとも・・・。
なのになんだ、今のこの状況は・・・心の中にずっしり繰るようなこの感じは・・・。
『人間だからとかという理由で何もかも否定してしまうなんて・・・・天龍さんが一番嫌いな前の『提督』とどう違うって言うんですかっ!!??』
「畜生・・・」
先程の会話が、電や妖精達の言葉がさっきから胸にささって息苦しさすら感じる。ほとんど逃げるようにあの場から去ってしまった。どうして、彼女達にあんなことを言ってしまったんだろう?よりによって電にあんなことを言うなんて・・・こんなことならあの大群にもう一度単身突っ込んでいって死に掛けるほうがまだマシだなんてどうして思うんだろう・・・。
分かっているよ、電や妖精が言わんとしている事は・・・だけど、だけどよ・・・!!
ほとんど勢いで出て行ってしまったけれど、帰ったとき、あいつらになんて言えばいいんだ?どんな顔して会えばいい?どんな顔して、謝ればいいんだ?
「くそう・・俺は・・どうしたら・・・」
『決マッテイル・・・』
頭の中に声が響く。なぜだろう、違和感を感じているはずなのに、頭の片隅がそれを当然だと思っている。そのせいか驚きはあまりなかった・・・。
自然と、片手で自身の単装砲に触れる・・・。ああ・・・そうダ・・・。
触れている鉄の感触が心地いい、自慢の『5inch連装両用莢砲』に触れていると心が落ち着いてくるヨウダ・・・。
「『全部、ブッ壊シテシマエバイイ・・・何度デモ水底ニ・・・!」』