鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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はぁ…お待たせして申し訳ありません…やっと投稿できました…。
後今回から少し文章を変えてみました。


第九話 What in the world is the matter?

「…チェンジ!!」

 半ば心の中で無駄だと悟りつつも、もう何回目かも分からない掛け声がその場に響き渡る。

 電たちから逃げるようにして離れた後に、行く当てもなく彷徨い続けた結果、基地からすぐ近くのあの砂浜へといつの間にか俺は立っていた。特に理由があったわけではない、加えていうが、ここにきたのは本当に無意識だった。もしかしたら、心のどこかでこの光景を誰にも見せたくはなかったという思いがあったのかもしれない。それほどまでに、今俺の身に起こっていることが衝撃的だったのだ。

 

「……チェンジ!!……くっそ」

 

 現れた()()のカードを奇行者のように叫びながら浮かべては消して、浮べては消す。傍から見れば何かの手品か、もしくは馬鹿の一つ覚えのような行動を飽きもせずに繰り返す。さっきから流れ出ている汗はこの気候よる熱ものなのか、それとも別のものなのかも分からない。

「何で……っだよ!3日前なら“問題なく”出来たはずなのに!」

 訳が分からない。電と天龍の怪我を治した時、2人にバリアーを張ったときは間違いなくペルソナチェンジは出来たはず!

 

 

『貴方のペルソナ能力は“ワイルド”…他者とは異なる特別なものだ』

 

 

「ゴホッ…チェンジ!!」

 

 

 

『空っぽに過ぎないが、無限の可能性も宿る。そう…言わば、数字のゼロのようなもの』

 

 

 

「チ…チェン……ジ!!」

 

 ……去年のあの町で幾多の絆を結び、仲間と……と一緒にあの事件を解決してきた!あの一年間があったから……『絆』の力は絶対に消えるわけが……!!

 そんな事、有り得るはずが・・・!

 

 

「チェン…ゴホッ!!ゴホッ!!」

 

 

 

 馬鹿の一つ覚えのように何度も何度も叫び続けてきたツケが回ってきたのか、とうとう俺の叫び声に喉が耐え切れなくなり、焼けるような息苦しさに咽て、その拍子に前のめりにつんのめる。手をついて倒れまいとするものの滑らせてそのまま転がるように、仰向けで俺の体が砂浜に転がる。

 

 

 何度やっても結果は同じだった。去年の時から俺が宿し、幾度も自身と仲間の危機を救ってくれたあの能力が……。

「ペルソナチェンジが………ワイルドの能力が発動しない………」

 ぜぇぜぇと酸素を求める行為にすら忌々しげに思いながらも、認めたくない非常な現実を静かに……そして重く自分に言い聞かせるように呟く。

 訳が分からない、どうしてこうなったのだろう?3日前までには確かに問題なく発動することが出来たはず。それが今日になっていきなりその能力を行使することが出来なくなってしまった。

 寝転がったまま右手に意識を集中させ、呼び出したカードを握りつぶす。次の瞬間には、俺が初めて覚醒し、長く戦ってきた相棒とも言える『イザナギ』がその姿を顕現させ、変わらないその姿で寝転がる俺を見下ろす。

 それを確認すると再び右手に意識を集中させ、カードを召喚する。が、いつもなら描かれているアルカナが真っ白な無地のままで、さっきから何回も握りつぶしてもイザナギ以外の姿に変わることがない。無駄だと思いつつも、無言でカードを握りつぶすも、やはりペルソナはイザナギのままだ。

「どうなっているんだよ、一体……」

 そもそも、考えてみればこの場所に着てから疑問ばかりだった。ここに来てから色んなことが起きたせいでゆっくり考える時間がなかったけれど………。

 そもそも『テレビの世界』とはどこか違うこの世界で、ペルソナを召喚出来る。そのこと自体がまず有り得ない事だった。一部例外を除いて……しかし少なくとも俺達の『ペルソナ能力』は現実の世界では行使することが出来ない。人々の精神が具現化した『テレビの中の世界』でしか扱うことの出来ないはずなのに……。

 もちろん、ここが『テレビの中の世界』という可能性は捨てきれていない……が、だとしても何か違う。確かに『シャドウ』とは別に自分の理解を超えた存在……『艦娘』だの『深海凄艦』だの、俺達の世界で聞きなれないモノはいるものの……彼女達の話では、確かに人間も存在する世界だ。そもそもテレビの中の世界でこんな風に『生きている肉体』が存在する時点でテレビの世界とは違うのだ。そんな場所で、どうしてペルソナが召喚できるのだ?

 加えて、新たに浮上した問題、『ワイルドの消失』

 イザナギは召喚できるからペルソナ能力は失われてはいないものの、3日前までは問題なく行使できた筈の『ペルソナチェンジ』が全く使えなくなった………別に俺のほうからペルソナを『心の海』に還した覚えもないし、そもそもマーガレットの手助け無くそんなことが出来るはずもない。新しくペルソナを会得して所持しきれないとか言う理由で『還す』事はあるものの、生憎そんな事も起こっていないはず………。

 一体なぜ?この眠っている間に一体何が起きたと言うんだ?

 俺は、一体どこに飛ばされたと言うんだ?

 ……せめてベルベットルームが使えれば何か分かったのかもしれないが、生憎と『契約者の鍵』も無いし、彼らともしばらく連絡を取り合っていない……ここが外部と連絡を取り合うのが絶望的なように、今のところイゴールやマーガレットと連絡を取り合うのも絶望的だろう。

 どうやら、八方塞りは俺も同じらしい………体の疲れもあって…(もしくは、急に他のペルソナがいなくなってしまったせいもあるのかもしれないが)そんなことを考えてたら途端に虚無感が俺の体を支配し始め………。

 

 

 

 

「……ん?」

 寝転がる俺の耳に、何か奇妙な音が聞こえる。

 気のせい?いや、その割にはさっきから途切れることなく俺の鼓膜を僅かに揺らす。本当に、耳に神経を傾けないと気がつかないほどの本当に僅かだが………何だろう、ざざざー……というかバシャーといった……水音?

 不審に思って頭を上げて辺りを見渡す。と、海の向こうの一点に、視線が止まる。と、同時に勢いよく立ち上がる。

 

 

「あれは………天龍……か?」

 

 

 遠すぎて豆粒ほどの大きさにしか見えないが、薄っすら見えるあのシルエット……あの格好といい色合いと言い、この基地には天龍以外に思い当たる人物はいなかった。先程チラッと聞いた『応急修理材』とやらのおかげなのか、3日前の怪我だらけの弱々しい姿が嘘のように、元気に海上を走らせていた。

 ふと、遠目で見えにくいが、彼女の右腕に3日前にはついてなかった『何か』がついているのが、かろうじて捉えた。双眼鏡があればよかったのだが、あいにくと手元にない。どっかの奇妙な冒険よろしく、イザナギの視界がはるか彼方の物まで捉える事ができたら………何を考えているんだ俺は。

 それにしても、あの右腕についてるもの………気のせいか、どこかで見たことがあるような……?やけにごつくて黒くて大きくて………さっきからしきりにその『何か』をさすったりたたいたり……しかも、その『何か』に向かってやけに笑顔で何か話しかけているような………しかもその笑顔ですらどこか違和感を感じる。

 

 

ゾクリ

 

 

 ふと、背筋に氷を滑らせたような何かを感じる。

 なんだ、この感じ…どこかで覚えがあるような………そうだ、去年の話だがよく『刈り取るもの』が潜んでいる宝箱を開けようとしたときに感じた感覚……それによく似ている。色んな経験をしてきたせいかそういう感覚がやけに過敏になったというか、鋭くなったと言うか………

「……あいつ、何しに海の方へ向かっていったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆!」

 

 3日前と同じように全力疾走で基地に帰って、先程の母港の扉を再び開く。先程と同じ面子が、突然荒々しく駆け出してきた俺に一瞬ビクリとなるも、すぐに我に返る。

 

「お、お兄さん!」

「ど、どこに行ってたんですか!?急に駆け出して」

「ちょっと自分探し」

「はぁっ!?」

 冗談半分本気半分で妖精からの質問に簡単に答える。俺の身に起きた変化については疑問やモヤモヤは残るけどもそれは今置いておこう。それよりも、さっきより重くなったこの空気のほうが気になるからな。

 何より、折角希望を指し示しておきながらみっともない表情も浮かべれない…今は…忘れよう。

「そんなことより、さっき天龍が海の方へ向かったのを見たんだけど………どうかしたのか?」

「っ!」

「………!」 

 瞬間、皆の表情が暗いものに変わる。電に至っては元々が純粋な分、分かり易いくらい落ち込んだ様子が顔に浮かんでいるからな。それと同時に、先程俺が感じた嫌な予感が現実を帯びていることを実感していく。勘が鋭くなっているのは結構だが、できれば外れてくれたほうが有難いんだがなぁ、今回の場合。

 

「…詳しく話を聞かせて貰ってもいいかい?」

 

 そしてその願いは、すぐに崩れ去ってしまったのをすぐに知ることになる。このところ、碌な事が起こっていないと思っているのは俺だけか?

 

 

 

 

「……そんな事があったのか」

「本当にお恥ずかしい話ですが……」

「いや、こちらこそすまない……話しにくい事を話させてしまったな」

先程起こったという出来事を説明して貰った後、皆に頭を軽く下げて詫びを入れる。

「それで、一悶着あった後アイツは何処へ?」

「分かりません…なんか喧嘩別れで出て行ってしまいましたから何処へ行ったのかは…」

「そうか…」

 あのお嬢さん、あからさまに俺に対して敵対心を向けていたのは嫌でも感じられたけど……いや、今の話を聞いてたら俺というよりかはむしろ、人間不信とも言うべきレベルだな。しかし、そのとばっちりを回りに撒き散らしていたというのは解せないな。人間が嫌いな以外は根は真っ直ぐな奴ぽかったしそれは3日前の単独出撃からも伺える程だ。だからこそこの基地の皆から慕われていたんだからな…。そんな奴が自分のイライラを部下にぶつけるタイプとも思えないが…。

「電の所為なんです…」

 電が顔を俯かせてスカートを強く握り締めながらポツリと言う。思わず電のほうに視線を戻す。

「天龍さんが、最近歯がゆい思いをしていたのは知っていました。それを知らないで電は勝手なことばかり…こんなことになったのは全部電が悪いのです…」

「…電は悪くないさ」

 電に近づいて頭を軽く撫でる。

「天龍だって、君たちの事を心の中から悪く言っているわけじゃない。君達と同じようにね…まぁ、部外者の俺が言うのもなんだけど…」

「お兄さん…」

「ただ、すこし苛立ってカリカリしているだけだ。案外、こういうことだってたまには必要なんだよ」

 電が申し訳なさそうにこちらを見上げる。やっぱり、こういうことはあれこれ悩んでいても仕方ない。こういうことは直接、ぶつかり合ってみないと始まらない。おそらくアイツもその方が手っ取り早いだろう…」

 

 

 

「もう一度、“あの時”のように河原で殴り合ってみるのもいいかもな…いや、仮にも女の子相手にそれはまずいか…」

「「「「……はい?」」」」

「なんでもない」

 妖精が耳を疑わんばかりにこちらを驚いた表情で見ている。電もだ…。

 …そっとしておこう。

 

 

「さてと、俺からももう一つ聞きたいことがあるんだが…」

「…?な、何でしょうか…?出来れば暴力沙汰以外の方向でなら…」

 ある意味、それに近いかもしれないが…。

 

 

 

 

「俺の使っていた艤装って直っている?あと燃料。出来れば…刀剣の類も欲しいんだが…あるかな?」

 妖精と電がすっごい不安そうな顔でこちらを見ている。俺はそれを『オカン級』の笑顔でやさしく包み込む。

 さて、何事も無く終わればいいんだけれど…。 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、遠く離れた海域

 

 

 

 

 

 

 眠たくなりそうな心地よく…静かな波音が鼓膜をくすぐり、海鳥達の鳴き声が辺りに木霊する。

 持っている時計で現時刻を確認する。ちょうどイチマルマルマル、早朝からここまで約3時間は走ってきたかな?

「もうすぐ、例の位置につくわよ」

先頭の旗艦の艦娘が振り返って自分を含む、他の仲間に大声で告げる。旗艦を任されただけあって、頼もしさを感じさせる油断の無い引き締まったその顔に、思わず見ているこっちが笑みを浮かべたくなる。

「結局あれから戦闘らしい戦闘は無かったよねー」

「そうよねー、なんかこのまま余裕で終わりそうじゃない?早く帰ってさー……」

 先程の艦載機からの報告を受けた直後とは打って変わって、まるで任務と言うよりは、人間のピクニックか園児の遠足みたいな緊張感の無い様子で、移動しながら隣にいる班員が雑談に花を咲かせていた。

「こらそこ、何時になっても敵の気配が無いからって気を抜かない!索敵も気を抜かないで!」

「「はいは~い」」

 返す言葉にも覇気を感じられない。完全に気が抜けているなぁ…もう。本当に最初の緊張感が嘘のようだ。

 提督から『この任務』を受け渡されたときは場所が場所なだけに、ここにいる何人かの艦娘が息を呑んで緊張した様子で敬礼を返していたものだけど、いざ現場に向かうと未だに敵との交戦は無し、あまりの落差に気が抜けたせいか、もはや提督に敬礼を返していたときの緊張感は、時間とともに霧散してこの有様。確かに肩に力が入りすぎるのは考え物だけれども、だからといって気を抜きすぎるのもどうかと思うんだけど…。

「まったく、順調なのはいいけど万が一のことがあればどうするんだか…」

 いつの間にか隣まで来た旗艦の艦娘が、頭痛でも起こしたように頭を押さえながら呆れたように愚痴る。

「まあまあ、いざとなったら皆も気持ちを切り替えて真面目にやってくれるよ。だから大丈夫だよ。…多分」

「多分…ね」

「だだだだだ大丈夫だよ!」

 彼女がジト目でこっちを見ているのに対して、慌ててフォローする。

「皆はきっとうまくやってくれるって!重巡の姉の私が言うんだから間違いなし!…なんて…はは」

 なんとかフォローを入れてみるものの、旗艦さんが不安そうにため息をつくのを見て、僅かに自分の肩が落ちるのを感じた。

 大丈夫だね…うん…。

 

 

 

「……着いたわよ」

「ここが……」

 旗艦の言葉と同時に艦隊の移動が止まり、全員が前方の海を見る。

「…ここが、そうなの?」

「ええ、間違いないわ……そうよね?」

 自分で肯定しておきながら、一拍子置いてから自信をなくしたように、自身の偵察機の妖精に確認を取る。

「いや、確認しなくても分かるわよ…さすがに」

「これは………すごいね」

 誰かがポツリとそう漏らし、他の仲間がためらいがちにその言葉に同意する。無論私も。偵察からの報告は受けていたとはいえさすがに目の当たりにしたら驚きの声を上げたくなる。

 目の前には、先程の静かな海とはかけ離れた、痛々しいほどの凄まじい激戦の残り香が、私達の視線を釘付けにする。不自然に凹凸上に凹んだ装甲、不自然に千切れた魚雷発射管、根元から折れ曲がってもはや修復不能な主砲、数えるのも馬鹿らしい夥しい数のボロボロになった艤装の一部“であった”物が視界に移る海の約八割を埋め尽くすその様はまさに、今この場で、戦闘どころか、『戦争』でも行われていたんじゃないかと疑いたくなるような惨状だった。それでも私達が目を背けることなく見続けることが出来るのは、戦争に対する『慣れ』のような物と、『轟沈』していて死体が残っていなかったおかげとも言うべきか。いかに不倶戴天の敵である『深海凄艦』と言えども、その惨たらしい死体を見て喜ぶ性癖は他の子はどうか知らないが、少なくとも私は持ち合わせていないから……。

「報告には聞いていたけど、実際見ると驚きを隠せないわね…」

「一体何が起こったんだ?超弩級戦艦か…もしくは『姫』か『水鬼』クラスが隊列組んで大暴れでもしたか?」

 仲間の艦娘が、冗談半分、本気半分でそれぞれに感想を漏らす。確かに、こんなことが出来るのは余程の熟練の艦隊か、今言った『姫』クラスの『深海凄艦』ぐらいなのだけれど………でも。

「ねえ、報告によれば妙な痕跡があるって確か……」

「もしかして、これのこと?」

 仲間の一人が、艤装の残骸を指差すと全員の目がそちらに向かい、私も思わず目がいく。

「……鋭利な刃物で切られたような痕跡、恐らくこれの事ね」

 旗艦の艦娘が、頷きながら身長にその艤装に触れる。機械的で禍々しいデザインの艤装の成れの果てが、太陽の光を浴びてきらりと鈍く輝く。

 いつか見たことがある。この盾を思わせるような砲塔……これはもしかして『戦艦ル級』の艤装ではないのか?戦艦ル級と言えば深海凄艦のなかでも高水準の火力と装甲を持ち合わせる強敵だ。事実、ベテランクラスの艦隊でもこのル級のおかげで大破撤退…もしくは轟沈されたという報告も珍しくは無いという。しかも本来この海域だと、エリートやフラグシップタイプが出てきた可能性が高い。旧式の重巡の私なんかじゃ簡単にスクラップにされてしまいかねない。

 そんなル級の艤装が、一体どうしたらこんな風になるのか…並大抵の砲撃でもびくともしないであろう黒い金剛石を思わせる艤装が、まるで羊羹みたいにバラバラにされている……。

「信じられない、本当に鋭利な刃物かチェーンソーみたいに綺麗さっぱりぶった切られてるわ…しかも砲撃の跡がどこにも見当たらないし…」

「刃物を持っている艦娘は何人かいるけど…果たしてこれほどの斬撃を繰り出せる子なんているのかしら…そもそも白兵戦を仕掛ける時点で前代未聞だし…どういうことかしら…ねぇ?」

 …私に話題を振られても困るのだけれども。むしろ私がして欲しいくらいだから。ってあれ?

「この艤装の断面…なんか変じゃない?」

 仲間の艦娘が、私の反応に首を傾げる。

「変て…何?」

「よく見て、ほんの少しだけど、僅かに焦げみたいのがついてる……」

「焦げ?」

 仲間がよく見ようと眉間に皺を寄せながら、私の指差した断面を見る。元々が黒い色なので少し分かりにくいが、断面を指でこすって見てみると、偽装の色とは違う煤のようなものが、指に付着する。

「えと、どういうこと?ただ鋭利な何かで切ったんじゃないの?」

「だからよく分からないわよ。ただ、それだけだったら断面にこんな煤がついているわけ無いでしょ?つまり、切れ味と熱を持った何か…例えば『電気メス』か何かでこのル級を切り裂いたんじゃないかな…?あくまで仮定だけど…」

「電気メスねぇ…」

 私の言った言葉を復唱するも、その表情は困惑はますます深まるばかりだ。私もそうなんだけれども…。

「おーい…ここに砲弾らしき跡があるのが見つかったよー…」

 まだ眠気が取れていないのか、テンションの低い声で他の仲間が指し示した艤装に皆の視線が集まる。

「本当!?」

「うん、ただ…やっぱりなんか変なんだけど…」

 近寄って見てみると『リ級』のものと思われる艤装の残骸に、確かに砲弾で凹んだような跡が見受けられる。しかもこの凹み具合から相当の威力の砲撃を食らったことになる。恐らくこのリ級はそれが『轟沈』した要因になったのだろう。それこそ戦艦級か、もしくは『球磨型雷巡』の雷撃でも食らったような…。

「やっと馴染み深い跡がこの目で拝めたよ…で、変と言うのは?」

「よく見てみなさいよ、お馬鹿。砲弾の跡にしては範囲が大きすぎる。戦艦クラスの砲弾だってこのサイズは中々無いわよ?しかももし本当に砲撃の跡なら、砲弾の形状と貫通力の影響で、そのまま風穴開いているか、もしくは中心部が大きく抉れているものでしょ?」

 仲間の発言に旗艦の艦娘が呆れたように突っ込みを入れ、指摘された仲間が「あ、なるほど」と言わんばかりにぽんっと手を叩く。

「格好いー、まるで刑事物見ているみたいだよ!鑑識か、『犯人はお前だ!』みたいに指摘するみたいでさー!」

「艦娘ならこのくらい心得て当然でしょ!ふざけてないでまじめになりなさいな!」

「へいへーい」

 ガミガミまくしたてる旗艦に対して適当な返事を返す仲間。それを尻目に私は、艤装の損傷具合に再び視線を落とす。

 確かに、見れば見るほど砲弾とは異なる損傷具合だ。中心部分は抉れていないことは無いけど、砲弾に比べれば抉れが少ない…魚雷?でも魚雷でもこんな風に大きな損傷がありえるのだろうか?例えるならそう…まるで、巨大な岩か何か(・・・・・・・)でぶつけられたみたいな…。

 『深海凄艦』の謎の大量轟沈、艦娘が行ったにしては不自然な切断跡や謎の凹凸…この海域で何が起こったって言うの?

 

「なぁ、どうするんだこれから?」

 思考に耽りそうになるのを仲間の一人の声がそれを中断させ、思わず顔を上げる。

「うーん、この場も気になるけど本来の私達の任務もあるからね…誰かこの場所を簡易的でもいいから撮影、本当なら青葉がいたらいいんだけれど仕方ないわね。それとこの場の艤装をいくつか回収しておきましょ。後で鎮守府へ帰還したときに明石さんに見てもらうわ」

「うわっ、本当に刑事ドラマ…」

「しつこいわね。それが済んだら、速やかに『本来の任務』に戻るわよ。情報どおりならこの周辺からそう離れていないはず」

 旗艦の子が数秒間、顎に指をあてて考え込むそぶりを見せた後に素早く指示を出し、先程の仲間が先程の言い回しでそれを茶化す。

「しっかし、わざわざエリートがゴロゴロしているはずのこの海域で『ある基地』の調査なんて提督は何考えているんだろう?」

「まったくだよ。敵に囲まれているような危険地帯の基地なんて、どうせ生き残りなんているはずが無いのにわざわざ私達を遣すなんて…」

 仲間の2人がそれぞれに愚痴を言い合いながら今回の『任務』に疑問を口にし、他の皆の視線が集まる。

 今更だけど、確かに結果としてここまで無事にこれたから良かったものの、本来ならここは危険地帯であることには変わりは無かったのだ。わざわざそんなところに私達を送り込んだ提督に真意が掴めないのは私や他の皆だってそうだ。任務を受けたときも、旗艦の子が一度その真意を尋ねようとしたもの、返答代わりに『余計なことは聞くな』と言わんばかりの提督からの鋭い視線で、渋々ながらもその場から引き下がらずをえなかったのだ。

 けれどどうしてだろう、こうして思い返してみれば私にはその時の視線が一瞬、泳いでしまったかのように感じたのは気のせいだろうか?まるで聞かれたくも無い事を聞かれたかのように…。

 提督は、一体何を隠しているんだろう?

 

 

パンパン!

 

「愚痴はその辺にしましょう」

 振り返ると旗艦の子が、大きく手を叩いて皆を見渡していた。私を含む皆の視線が集まる。

「皆の疑問ももっともだけど、私達は提督の言うとおりに任務を果たすだけよ」

「けど…」

 仲間の一人が何か言い出しそうになるのを、彼女が手で制す。

「任務を果たして鎮守府へ帰ったときに、改めて私から提督に尋ねてみるから。今はただ、任務に集中しましょ?」

 彼女の言葉に、どこか納得しない表情を浮かべるものもいたが、やがて渋々ながらに皆が頷く。

「よし、それじゃあ早速今言ったとおりに…」

 

 

ドカァァァァァァァァン!!!!

 

 

 旗艦の彼女が次の指示を言いかけた瞬間、とてつもなく大きい轟音とともに水しぶきと爆風が辺りを襲う。その衝撃に耐え切れずに私の体が宙に舞うのを感じた。

 それでもなんとか、意識が飛びそうになるのをこらえて、空中で回転しながら体勢を整え着水し、自分の状態を確認する。所々服が焦げているものの奇跡的に小破すらしていない…。

「くっ…一体何が…皆!大丈夫!?」

 声を張り上げるも、周りからの返事は無い。嫌な予感が、私の頭の中を襲う…まさか、今の爆撃で皆…いてもいられず周りに巻き起こる爆煙を少しでも晴らそうと艤装に取り付けられている連装砲を取り出し構える。

 その時だ、ちょうど爆煙が晴れてその前方が晴れてきたのは。そしてその目の前に何かがいるのか気づいたのも…。

 それは、いつの間にそこに立っていたのか…そして、それがこの惨状の原因だと言うのを理解したのも一瞬だった。

 

 

 

「………ヲ」

「っ!?」

 それが何かを理解した瞬間、奇妙な驚きの声が小さく自分の口から漏れた。

 奇妙な黒い生物を思わせる被り物、黒いマント、ステッキ、一瞬白い肌と間違えそうなレオタードのようなものを纏って、艦娘や人間と違わぬ可憐な…しかし何の感情も灯さないその表情と瞳。

 正規空母『ヲ級』…そう彼女達は呼ばれている。

 すぐに理解した、こいつが今の爆撃の主犯だと!そう認識した瞬間、他のことが一切考えられず反射的に連装砲を目の前のヲ級に向けようとし…。

「ヲ」

 それよりも早く、ヲ級が持っていたステッキで私の腹部に突き刺す!!

「ガ…ハァ…!!」

 突き刺さるような激しい痛みとともに、不細工な声と若干の唾液が私の口から吐き出される。やけにスローモーションに見える視界の中、ヲ級が駄目押しと言わんばかりに再びステッキを私に向かって振りかざし……。

 

 

「…ギ…イ……」

 

「させない!!」

 

 

 

 ヲ級が何かを呟こうとした瞬間、聞きなれた声とともに、連装砲が火を吹く音とともに、ヲ級の体が僅かに傾く。

「ねえ、しっかりして!」

 腕を引っ張られる感触とともに、飛び掛った意識を振り絞って引っ張った張本人…ボロボロの状態の仲間の一人の姿を確認する。

「無事…だったんだね…」

「と、素直にいえないけどね…他の皆も」

 そういって仲間の瞳が周りを見渡す。目の前の人物の他にも三人の仲間が今の爆撃で中破に陥りながらもこちらを心配するかのように覗き込む。

 ふと、仲間の一人が旗艦の子を肩で背負っているのが見えた。他の四人もボロボロの状態なのだが旗艦の子はそれ以上に酷い…恐らく『大破』していて気を失っているようだ。恐らくあの爆撃を一番近くでモロに喰らってしまったのだろう…『轟沈』していないのが唯一の幸いか…。

 

 

『ギシャアアアア!!!!』

 

 

 奇妙な鳴き声で全員が振り返る。そこにいたのはヲ級だけではなかった…。

 

「嘘…」

 誰かが力なくそう呟く。ヲ級の後ろには、軽空母ヌ級が2体、戦艦ル級、そして軽巡ホ級2体がこちらを無慈悲な瞳で見つめていた。

 最悪だ…私を除く仲間全員が中破以上、しかも旗艦が大破寸前…対して相手はヲ級とホ級がフラグシップ、それ以外がエリートで全員無傷という笑うに笑えない状況…先程なら露知らず、少なくとも今この状態じゃあ戦う所の話ではない…。

 

「あの時…この子の言うように索敵を怠らなければこんなことには…」

 気絶した旗艦を背負っている仲間が悔いるように俯き、仲間も同じように俯きながら拳を握り締める。

 

 

 

 

「…落ち込んでいる場合じゃないわ!」

 皆を叱咤するように大声で叫びながら、腕についている艤装をリロードする。顔を俯かせていた皆が私の顔を驚いて見つめる。

「貴方…」

「旗艦はこの通り大破して戦闘行動が不可能!ならばこの場合、即時撤退が原則!」

 敵のほうに一人進みながら右腕の主砲を敵に向ける。

「よって各自、すぐさま反転し速やかに鎮守府へ帰還!」

 恐らく、今から行うこの行動はとても危険が伴うだろう。しかし、他の皆が助かるにはこれしかない…。

 あとは、私の中の勇気がちゃんと奮い立ってくれるかだ。

「貴方…まさか!!」 

「…私が皆の逃げる時間を稼ぐ!さあ、行って!」

 

「な、何言ってるのよ!貴方を…仲間を見捨てて逃げるなんて!」

「今この場で戦闘が可能なのは私だけ!他に皆が助かる方法はこれしかない!」

「でも……」

 私の提案に渋る仲間達…その瞬間、『ヌ級』が艦載機を次々とこちらに飛ばしてくる!突然のことに皆の体が硬直している間にも敵艦載機は、今にも私達に攻撃を仕掛け……。

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

 

 

「「「「!!!!」」」」

 …る前に、私の7・7mm機銃でその艦載機を全て打ち落とす!!!その光景を仲間達が大きく目を見開かせる。

「さあ行って!これ以上来られたらいくらなんでも抑えきれない!今ので敵が面食らっている間に…」

「っ……」

 その隙を逃がさずホ級の一人がこちらに向けて単装砲を向けているのを、そうはさせずと素早く連装砲を発射させる!放たれた砲弾は見事ホ級に当たって仰け反るも、ダメージがあったかどうか確認する暇も無い。

「早く!!!」

 視線はホ級を見据えたまま、思わず怒鳴り声にも近い声を上げてしまい、仲間がびくりと身震いする。数秒間私の一方的な睨みにも似た視線を申し訳なさそうに見ていたが……。

 

「…ごめんなさい」

 やがて涙声にも似た声色が響いて仲間の一人が反転する。その姿に他の三人が何かいいたげに私と、反転した仲間を見ていたが、やがて諦めたかのように一人、また一人とこちらに対して背を向ける。

 そうだ、これでいい…旧型の私が残るよりかは新型で性能のいい皆が生き残るべきだから…。皆が生き残るためにはこれが最良の選択だから…。

「光の速さですぐに応援を呼んでくるから、それまで死んだら駄目だからね!」

 恐らく、望み薄な可能性と本人も知っているのだろう…それでも私は振り返ってにこりと笑みを返す。そしてそのまま去っていく仲間達の背中を見届ける。

 これで、もう大丈夫かな?

 

 

『ギシャアアアア!!!!』

 

 

「待っててくれたんですか?意外と律儀ですね…」

 雄たけびを上げる深海勢に対して軽口をたたく。先頭にいるヲ級は相変わらず何を考えているのか分からない表情でこちらを見据えている。

 青葉、加古、ごめんね。もしかしたら帰れそうに無いかもしれない…でも、皆は私が守るから…!例え、この場で轟沈してしまったとしても…!

 

 

 

 

 

「古鷹型一番艦『古鷹』!本当の重巡の力を見せてあげます!!」

 

 

 

 




古鷹さんの口調、変だったら申し訳ありま千円。
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