鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

23 / 32
「(更新が)遅れたな…岳海」
「フッ…だがまだ生きている」

驚きのそして驚きの14975文字…こんなはずではなかったのに…。


第十五話 Growth , hope , and disaster

「はわわ!いつの間にかお兄さんがいないのです!」

 

 昨日の戦いで、天龍さんを守るために大怪我を負ってしまったお兄さん。いつ目覚めてもいいように夜なべして看病したはいいのだけれども、電がうっかり寝過ごしたせいで気が付いたら、お兄さんがどこにもいなくなってしまってた!怪我が完治していないのに、あまりうろついてたらいけないったら!

 

 

「もぉー!一体どこに行ったのです!?」

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 マルナナイチゴー、俺とあの男は体育座りをしながら、仲間たちの墓地へと腰を下ろしていた。

 本日は晴天ナリ、暖かい日差しの中で、北北東から南南西へ微風がとても心地よい。妖精達によると今日は一日中晴れで、雲一つない穏やかな天気がずっと続くと言っていた。…まぁ、それはいいとしてだ。

 

(…どうしよう)

 

 ようやく覚悟決め、あの男と話をするために、落ち着いて話ができる所まで行ったはいいものの、いざ話し合おうとしたらどう切り出していいのかわからない…。お陰でこうやって二人で並んで10分間体育座りしてさっきから、龍田達の墓を眺めているまま時間がいたずらに過ぎ去っていく。隣にいるこいつもこいつで、俺から切り出すのを10分間ずっと待っている。

 そこで問題だ、この緊迫した状況からどうやって話を切り出す?

 3択一つだけ選びなさい。

 

 

 

その1

 

「へ、そんなボロボロでよく生きていたじゃねえか!しぶとい野郎だぜ!」

 

 いやいやいやいやいや!また喧嘩を売るような口調は無しだろ!あの流れで!

 

その2

 

「お、お前はいったい何者なんだ…?」

 

 …確かに気になるところはあるけれど、今する会話の流れじゃねえ…。

 

その3

 

「…嫌な天気だな。今日は雨が降るらしいな」

「本当か?ならば早く被害者を助けに行かなければ…」

 

 …もはや論点からずれてる。しかもなぜか変な電波が飛んできたし、大体今晴れだって言ってんじゃねえか!つーかお前もそんなボケかますな!

 結論、どれもボツ。

 ………………………………。

 ど、どうしよう。どう言えばいいんだ?おお落ち着け天龍、クールになれ。お前は世界水準クラスの軽巡艦娘じゃねえか。お、落ち着いてどう切り出すか考えるんだ…。お、俺ならそれができる……。

 …………クールな天龍は休暇取ってベガス行ってるぜ。つまり今どこにもいない。あ、成程、そういう事ですか。はい。

 ………………。

 

 

 ああああぁぁぁぁぁぁどおしよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!どうやって切り出せばいいんだよぉぉぉぉぉ!!!第一コイツに対して散々嫌な態度とってきているから、それがますます話しにくさを増長させているよぉォォ!!!!もう頭の中がごちゃごちゃしていて、今まさに視界がグルグル回っている錯覚さえ覚えているんだけどぉ!!??

 やばいやばいハライタァァイ!なんか顔から冷たい汗が流れてきたし、時間が経てば経つほどますます言い出しづらくなっちゃうじゃないかぁぁ!

 

 

「天龍」

 

 と、突然アイツが俺を呼ぶ声が聞こえる。まだ冷静さが戻らない状況さで振り返り…そして。

 

 

 

「落ち着け」

 

 

瞬間、俺の意識とは無関係に変な声と唾が飛んでいくのが感じた。

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

「………ブフォォ!!??」

 

 …完璧だ。顎に指をあて、メガネのレンズを光らせながら満足げな笑みを浮かべる。

 こっそり妖精に作ってもらった、特製の『鼻眼鏡』。見事に天龍の弱点にヒットしたらしく、口から大量の唾を噴き出して、WEAKされた『シャドウ』みたいにひっくり返る。その際ゴンっ!と後頭部を地面にぶつけていたけど大丈夫かな?

 

「大丈夫か?それと、スカートめくれそうになっているが、女の子がそんなはしたない格好をするのは…」

「誰のせいだと思ってやがるんだゴラァ!?」

 

 腹筋で上半身を起こして、ぶつけた後頭部を両手で押さえながら、涙目で訴えかけてくる。あ、やっぱり痛かったか。

 

「てかなんだその眼鏡!?一体いつそんなの作ってやがんだよ!?」

「備えあれば憂い無しとかいうだろ?そして、やはり用意して正解だった」

「このためだけに用意してたってのかよ!?」

「当然です」

「っっ~~@+?/}#%&!!!」

「落ち着け、あと痛い」

 

 顔を『アギダイン』で炙られたみたいに真っ赤にして尚且つ、面白いことになりながら、ついでにポカポカとグーでこちらを殴りながるその姿は、どこか微笑ましさすら感じられる。これもまた意外な一面だ。というか、俺がまだ怪我人だってことを忘れてやしないだろうな?艦娘って皆、力強いからポカポカでもきついんだよ…。

 …なんとなく、普段『妹』さんに弄られてそうなキャラだなという考えが、頭をよぎる。

 

「で、少しは緊張もほぐれたか?」

「あぁ!?」

「大方どう話を切り出そうとか、座りながら悩んでいたんじゃないか?お前分かりやすいから、さっきから表情に出ていたぞ?」

「~~~~~~~~!」

 

 ……この時の顔、録画しとけばよかった。携帯は妖精さんに預けちゃってたからなぁ。ナース物のほかに、陽介にいいお土産ができたのに…。

 

 

  

 

 

「…落ち着いたか?」

「………」

 

 10分後、足を抱えるように座り込んだ天龍から、返事の代わりにぎろりと睨みを突きつけられる。若干涙交じりの奴をだ。そしてすぐに不貞腐れたかのようにぷいっと、顔を逸らし木でできた粗末な十字架達への方へと顔を向ける。普段勝気な少女でも、こうやってへそを曲げているいる様は本当に子供みたいだ。昨日までなら見ることのできなかった光景だ。それを見せられるくらい、少しは心境が変わってくれたのだろうか?そうなのだとしたら、昨日の俺の行動も全くの無駄ではなかったかもしれない。よかった。

 

「風、気持ちいいな」

「…………」

「こんなところでこういうのも不謹慎だけどさ、ここだけは静かなところだ。ほんの数日前までは戦いがあったなんて信じられないくらいに…」

 

 聞いているのかどうかはわからないが、この場所で感じた虚飾も嘘偽りもない感想を述べる。

 数日前に俺が大半の深海棲艦を退治したとはいえ、焼け石に水だ。恐らく今までとは状況は変わっていないのだろう。いまだにこの島は大きな鳥籠の中。それでも、ここだけは本当に静かだ。ここだけは、争いというものを忘れられそうだ。

 

「俺が一年間だけ住んでいた八十稲羽という所でも、ここと似たようなところがあったな。街全体を見渡せるような高台でさ、そこから仲間とのんびり自分たちの家を探したり、花火を見たり、謎解きをしたり、何をするでもなく駄弁ったりしてさ…ははっ、懐かしいな、ここにいるとそのときの事が思い出しそうだよ…」

「…今まで戦いばかりしてきたんだからな。せめて最後はゆっくりと、静かなところで眠らせてやりたいと思ってここを選んだんだよ。戦いのないときは、よくここでみんなで集まったりしてたから安らぐんじゃないかなって思ってな…」

 

 去年の思い出に浸りそうになったとき、ようやく天龍が口を開く。どこか遠い昔を見ているような…静かな声だった。

 

「…そうか確かにそうだな」

「電も上の三人の姉達もここが好きだったな…」

 

 思わず、続きを言おうとした口が重くなる。

 

「あいつ、どこかそそっかしい所があるだろ?そんな性分だからよく遠征で失敗してここの元・提督によく怒鳴り散らされてさ…よくここで一人べそ掻いていたのを、一番上の姉や残る二人の姉からよく励まされたり慰めてもらってたりしてたんだ。ちなみにもうわかっていると思うけど一番上の姉は、お前が見つけてくれたあいつだ」

「……………」

「『一人前のレディーはそんな簡単に泣かないの!』だの『Потушить Genki』だの『もっと頼っていいのよ!私がいるじゃない!』とか言いながら泣きじゃくる電をあやしていたんだ。電が泣き止んで、笑顔で『次は頑張るのです!』と言うまでずっとな…時には、俺や妹の龍田が代わりを務めてやった事もあったな…ははっ」

 

 …ロシア語で『元気出せ』と励ましていたんだな。あの時の少女と、顔もわからない二人…その三人に囲まれて励まされながら泣きじゃくる電が、容易に想像できた。確かに、あの電ならありえそうだな。確かにと、天龍の言葉を苦笑しながら肯定する。

 

「遠征ばっかでなかなか実戦には出られなかったけれど、今思えば満たされた毎日だったんだ。取り巻く状況は決して良い訳ではなかったけれども、辛いとは思ったことはなかった。あいつらがいれば頑張れる。そんな毎日がいつまでも続くと思っていた…。そんな筈ないのにな…。」

 

 口元を抱えている膝で隠して、視線を下に向ける天龍。僅かにのぞかせるその目は、辛そうな色をしていた。自分の古傷を抉り出そうとするような、痛そうな顔。

 

「ある日の事だ。いつものように四人が遠征に向かっていた所…丁度俺が別の任務に出ていたときの事だ。遠征から帰る途中で、Flagshipの深海棲艦に襲われたという報告が入った。」

「!」

「帰還できたのは電だけだった。自分を逃がすために皆やお姉ちゃんが犠牲になったと…どす黒くなった瞳から涙流しながらぶつぶつと、譫言のように繰り返してやがったあの時の表情が今でも忘れられねえ…。急ぎ救出部隊が駆け付けた時には、誰のものかわからない艤装『だったもの』だけが、波の上にぷかぷかと虚しく浮いていたそうだ…」

「…………」

「頭に血が上って冷静じゃなくなっていた俺は、周りが止めるのにも耳に入らないで無謀にも、単身出撃していった。敵うはずがないのにな…そんな傷だらけの俺をかばう為に妹…龍田が敵にそのまま…。あの2日間で電だけじゃなく俺までもが、大切な人を亡くしちまった…俺の…所為で」

「…………」

 

 ……大切な人を亡くした気持ち……。

 

「…その日を境に、偶然なのか狙ってやったのかわからねーけど、深海共の攻勢が激化して、続けて一人、また一人と次々と仲間が倒れていったよ…そしてとうとうある日、あのクソヤローが俺たちを置いて人間の部下数人と…って、その後は聞いたな?」

「……ああ」

「まともに手当てができないせいで、何とか生き残った連中も眠るように次々と死んじまって…残るは俺達二人だけになっちまった…。そんな時だ、お前が何処からかやって来たのは…」

 

 埋めていた膝から顔を上げて、こちらに視線を向ける天龍。眼帯で隠れていない方のその瞳は、縫合したばかりの傷を抉り取ったかのような痛々しいものだった。もし眼帯がなけれれば、その2倍の瞳で受けていたのだろう…。そのとき果たして耐えているのは、天龍なのか、俺なのか。

 

「実を言うと…お前の事が気に入らないと同時に怖かったんだ。戦いも何も知らずにのほほんとやっている、そうでなくとも、俺たちを見捨てた提督と同じ人間だ…信用できるはずもねえ。なのに、お前が発したあの言葉に、あの瞳に、俺は何も返すことができなかった。こいつは本当にあいつと同じ人間なのかと…わからなくなってきた。そのもやもやでさえ、俺は気の間違いだと見ようともしなかった…けど…けどそれは間違いだとすぐに知ることになった!」

「…………」

「お前は…あれから死ぬことばかり考えて、ずっと笑顔を忘れていた電に感情を取り戻させた!俺たちが敵わなかった深海棲艦の群れを、たった一人で退けた!俺が…俺が求めてやまなかった物をを持っていたんだ!なんで…なんでお前が!!どうしてお前なんかがっ!!!俺の中に燻ぶっていたって恐怖って奴が薪になって、今度は嫉妬となって燃えていくのを感じた!憎かった!!!悔しかった!!!俺たちがしてきたことは何なんだったんだと!!!!!そんなことに頭がいっぱいであの時、差し伸べられたお前の手を振り払ったんだ!」

 

 会話を続けるごとに、感情を爆発させて叩きつけるように放つ天龍。止めようにも堰が切れたように止まらない。吐き出した感情は、一向に止まらない。俺に対して溜め込んできたものを、言葉として、涙として…。

 

「分かってたんだよ…これが俺の独りよがりな嫉妬だってことは…。そしてそれを面と向かって告白する勇気もねぇ…。俺は卑怯だ、卑怯者の臆病者だ…。薄っぺらい本分なんかで俺の気持ちを誤魔化して、守るべき存在だったはずの電達にも当たり散らして、俺の命のみならず、電や古鷹の命まで奪っちまう所だった…本当に許せなかったのはお前なんかじゃなかった、弱虫の、意気地なしの俺だ、俺自身だったんだ…!」

「…………」

「昨日、俺の胸倉を掴んだ時のお前の言う通りだ…そんなことで仲間を巻き込んだ俺なんかには『仲間』なんて持つ資格なんてねぇ…ましてやお前が言っていた叔父さんとやらの足元にも及ばねぇ…俺は…俺なんか……!う、ううぅ……!」

「…………」

 

 とうとう、こみ上げてくるものに耐え切れなくなってしまったのか、抱えた膝に顔を埋めて嗚咽を垂れ流す。

 天龍があえてここを選んだ理由はもしかすると、これは懺悔の意味もあったのかもしれない。仲間たちの魂が眠るこの墓の前で、自分の弱さ、醜さを…俺でなく、本当は仲間たちの前で告白したかったたのかもしれない…。

 …陽介も叔父さんもこんな気持ちだったのだろうか?大切な先輩や妻を亡くして…事件の解決という名目でそのことから目を背け続けて…このままではいけないという葛藤を抱えながらも、それと向き合うのが怖くて…。

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

「みっともねえとこ、見せちまったな…」

「…気にするな」

 

 それから何分経っただろうか、ようやく泣き止んだ天龍が立ち上がって、目をこする。赤く腫らした瞳が、力なくこちらを見下ろしている。自嘲気味に力なく口角を上げている。

 

「…軽蔑したろ?俺の事。無理もねえな、今までさんざん突っかかってきた理由が、こんな下らねえことだったなんてな…」

「……そんなことないさ。むしろ、安心した」

「…は…っ?」

 

 意外そうに眼を見開かせる天龍。口元を天龍よりも吊り上げながら俺も立ち上がり、困惑する天龍の顔を見つめる。

 天龍、女子にしては身長が高めだと思っていたけれど、こうしてみると俺の肩ぐらいの身長か。やっぱりちゃんと向き合っていないと、わからないこともあるんだな。

 

「お前はさ、そうやって隠し事をしているせいか、どこか無理している感じがあったのが気になっていたんだ。言いたいのに言えない、弱音を吐くこともできずにどんどん溜め込んでいく…いつか風船みたいに破裂してしまうんじゃないかって気になっていたんだ」

「…………」

「案外、今回の件はいい機会だったのかもしれないな」

「…お前何言ってるんだ?」

 

 何言ってんだと、怪訝そうな視線を向ける天龍。そんなに俺の言っていることは変だろうか?

 

「確かに過程だけを見ればとんでもない事なんだろうけれども、一応誰も沈むこともなく終わったし、こうやって思っていたことをぶつける、いい切っ掛けになったはずだ。いい感じに雨降って、地固まったんじゃないか?」

「……?」

「一人で何でも考えすぎずに、今度は誰かに頼ることを憶えればいいさ。愚痴聞く相手くらいなら、俺でよければ引き受けてやるぞ?お前の妹さんのようにいかないかもしれないが…」

「………」

「もしまた、道を違えそうになったら、俺がまたひっ叩いてやるから」

「………笑顔で言うな。つーか今のお前の顔、マジで龍田を想像しちまったよ…」

「そうか?なら今度からは気軽に聞き相手になれそうだな」

「へ、言ってろ…」

 

 軽く笑う天龍。相変わらずどこか影があるものの、その一方でどこか吹っ切れたような印象も感じられる。今度こそ、彼女の隣に立つことができるだろうか?ああ、懐かしい、この感覚。

 …天龍とほのかな絆の芽生えを感じる。

 

 

 

 

 

「なぁそれともう一つ、昨日電に聞いたんだけどよ…」

「なんだ?」

「おまえ、しばらくこの基地に留まるんだって?」

「…ああ、帰る方法が分かるまでにここにいさせてもらう代わりに、力を貸すことにしたんだ。俺でよければ、皆の力になりたいんだが…」

「…………」

 

 そういえば、天龍にその事を説明してなかったな。色々あって話すタイミングがなかった。あ、そういえば俺の考えた『案』を天龍に伝えたかったんだが…。

 

「…なぁ」

「ん?」

「もし……よかったらでいいんだが…その…無理強いはしねえけど」

 

 …どうしたのだろう?珍しく歯切れが悪いが。なぜか慎重に言葉を選んで、戸惑うような…。

 

「お前が、ここで『提と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天龍さ~ん!お兄さ~ん!」

 

 

 

 

 と天龍の声を遮るように幼い声が聞こえてくる。基地の建物の方から、こちらに向かって近寄って来る。

 

「電?」

「ああ!やっと見つけたのです!…あ!天龍さんも一緒でしたか!どうしたのです?」

「ちょっと二人で、レーゾンデートルについて相談していたのさ」

「「………?」」

 

 小粋なアメリカンジョークを飛ばしてみるも、電のみならず天龍にすら、いきなりフランス語で喋りかけられたかのように思いっきり怪訝な表情を浮かべられた。…中学生の秀は知っていたのに。

 

「あ、でも!いつの間にかお二人が打ち解けているのです!よかったのです!いつもお二人の仲が険悪でしたから、心配していたのです。ようやく仲直りできたのですね!?」

 

 険悪、というよりは一方的に嫌われた感じだったけれども…ま、ようやく一歩歩み寄ることができたってところだな。天龍も少し照れくさいのか、鼻の頭を軽く掻く。

 

「…ま、色々あってな。んでどうしたんだよ?電」

「茄子の栄養素でも聞きに来たか?望むところだ」

「頼むからお前は黙っていろ…」

「押忍」

「はわわわわ!!な、ナスは嫌いなのです!…って天龍さんとお兄さん!二人とも病み上がりなのにそんな歩いていたら駄目なのです!」

「お、おいおい…だから俺は大丈夫だって……」

「慢心は駄目!なのです!」

 

 天龍が自身の無事を訴えるも、電にとっては問答無用。ぷくーと、頬をフグみたいに膨れる電。…微笑ましいことこの上ないが、意外にも頑固なところあるかなら、ここは大人しく従った方がいいだろう。天龍はともかく、確かに俺も本調子じゃないしな。天龍も、渋々といった感じで同意しているみたいだ。

 

「…あ、やっぱりちょっと待ってほしいのです!」

「あ?」

 

 早く行こうと急かしておきながら、急に俺たちの脇を走り抜ける。どこへ行くんだと思っていながら行き先を見ると、木の十字架達の元へ走っていくのが見える。その中でも、俺が発見した長女がいる場所へ行くと、行儀よく座りなおし、手を合わせる。

 

「…毎朝、こうやって墓参りするのが電の日課なんだよ」

「成程な」

 

 そういえば4日前の朝も、こうやって同じように手を合わせていたっけ。いつまでも彼女達を引きずってはいけない…だけれど忘れてもいけない。彼女は彼女なりに、姉たちの死を乗り越えることが出来ているということなのだろうか?

 …気が付けば無言のまま、俺の足も電の元…いや、彼女たちが眠る場所へと足を運ばせていた。それを見た天龍も、一拍子遅れて俺についてくる。 

 

「俺も報告…しなきゃな?」

「あ?」

「二人は元気でやっていますよと…それともし知り合っていたらだけれど、菜々子のお母さんと知り合っていたらそちらにも宜しくと…な?」

「…なんだそりゃ?」

 

 首をかしげる天龍。可能性はあるさ。きっと彼女達も、天国にいるんだろうからな。

 それに応えるかのように、北北東から南南西の微風が吹く。

 本当に、いい風だ…。

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 墓参りもほどほどに、俺たち三人は並んで立つ。そろそろ部屋に戻らないと、また電が騒ぎ出すだろうからな。

 

「体が回復したら、また花を摘みに行こうな?」

「はい!その時はお願いしますのです!」

 

 

 

 

 

 

 ぐぅぅぅ~~~。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の腹が、空腹を知らせる合図を鳴らせる。数秒の間、沈黙が続くと二人の視線が俺の方へと向く。

 …そういえば昨日、朝食を食べてから何かを食べた記憶がないな…。結局半日は気絶しっぱなしだったし…。

 

 

「…とりあえず飯だな。そろそろ朝飯の時間だし何か食うか」

「…だな」

「なのです!」

「よ~し、んじゃあ早そ…く……ッ……!」

 

 

 振り返った天龍が息を呑んで、目を見開かせている。その時だ、俺の背筋にも何か違和感が感じられたのは。その感覚は不快感か、もしくは薄気味悪さなのか。

 

 

「……っ!??」

 

 何事かと電も振り返り、そして天龍とシンクロしたように同じ反応をとる。その元凶を確かめようと、遅れて俺も振り返り…。

 そして、それ(・・)を見た。

 

 

 

びちゃり……びちゃり……

 

 

 

 

 目の前に広がる草の緑を覆い隠す毒々しい『青』。それが奇妙な色の『血液』だということを理解するのには、さほど時間はかからなかった。そしてその姿は、今まさに地面から這い出てきたばかりの『亡者』だと言われても、納得せざるを得ないであろう。ここが艦娘達の墓地ということも相成って、皮肉にも一番ぴったりとくる風貌だった。

 

 

 

「ヲ……ヲヲ……」

 

 

 全身から青い血を垂れ流し、奇妙なことに、傷だらけで所々罅が入っている青白い皮膚。普段奇妙な被り物で隠していたはずの白い髪を垂れ流し、力ない足取りで本当に『亡者』を思わせる足取り…光を宿さない虚ろな瞳。だらしなく開いた口からは、壊れたレコードのように譫言を小さく繰り返している。声帯が破れかかっているんじゃないかと思わせるような、小ささで。

 

「く、空母『ヲ級』!?なんでこんなところに!?」

 

 天龍が慌てて立ち上がって、『シャキンッ!』と鋭い音を立てて、腰に下げていた剣を抜き、切っ先を突然現れた招かれざる客に対して向ける。が、陽光を受けてキラリと光る刀身を向けられても、当の向けられている本人は意にも介さない…というよりは、まるでそれが目に入っていないかのように、相変わらずゾンビのような足取りでフラフラと近づいてくる。

 

「はわわわわ………な、なんでこんなところに、『ヲ級』がいるのです!?」

「くそっ、電探係は何してやがる!?電、俺から離れるな!!」

「…………」

「ヲ…ヲヲヲ……ヲ…」

 

 …なぜ、こんなところにヲ級が?なんなんだこのボロボロの姿は?どこかの艦娘にでもやられたのか?いや、そもそもこいつは何をしに来たんだ?そんなボロボロの状態でこの基地に襲撃しに来たとでもいうのか?しかも手勢を一人も連れないで?

 …馬鹿な、そんな状態では俺はおろか天龍に…下手すりゃ電にだって勝てないじゃないか?どう考えても、自分からのこのこやられに来たとしか考えられない。どうせ死ぬなら仇敵に一矢報いにここにまでやって来たとでも……?

 いや、それにして何だ、この違和感は?なんか、引っかかるような……。

 

「ヲヲ……」

 

 急に、ヲ級がゆっくりとぎこちない動作で左手を向けてくる。電と天龍がびくりとする。しかし肝心のヲ級の興味の相手はこの二人ではなく……。

 

「ヲヲ…ヲ……」

「……?」

 

 その腕と虚ろな視線の先は、紛れもなくいまだ困惑している俺に向かっていた。

 それと同時に何を思ったのか、ゾンビみたいな足取り(いくら敵とはいえ、死にかけている女性に失礼だが)の方向もこっちに向かってくる。

 

「お、おい!」

「はわ!?お、お兄さん!」

 

 二人が驚いた声を上げる。ひとまず防衛手段として、イザナギを呼ぼうかと考えが浮かんだその時…。

 

「ヲヲ……」

 

 ヲ級と、再び目が合う。そしてその時、瞳に浮かぶ空虚とは別の、何か違う感情が僅かに浮かんでいるのに気づく。本当に、気のせいかと見間違ごうばかりのこの…濁った瞳の奥底に眠る僅かな…『ナニカ』

 ……まさか、この『ヲ級』は…。

 と、見かねた天龍がどこからか、単装砲を取り出して悪態とともに構える。

 

「ちっ!何してやがる!ぼさっとしてんじゃ……」

「待て!!天龍!!」

「っ!?」

「はひゃ!?」

 

 あまりにも大きな声で言ったので、驚きのあまり電が変な声を上げ、天龍が単装砲と剣を取り落としそうになる。…電の驚いた声、ちょっと可愛かったと思ったのは心の海に還しておこう。

 それはさておき再びヲ級の方に目を向けると、もはや2mの距離まで近づいてきている。もはや目と鼻の先の距離だ。しかしその距離ですら今のヲ級の足では難儀だろう。…ならば。

 こっちから、近づいてやろう。

 服の内側に包帯が残る足で、ヲ級より少しだけ早く、確かな足取りで歩を進ませる。隣で電と天龍が声をかけてくるが無視する。ようやく傍まで近づいて、伸ばしてきた左手と向かい合う手で絡めとる。雪のような冷たさだった。

 

「……ヲヲ」

「……ペルソナ」

 

 足元から生じる青い光を纏いながら、『イザナギ』が召喚される。昨日から休んだせいか、ずいぶん回復した印象が見える。

 ヲ級が俺の背後にそびえたつ、イザナギを見る。空虚な瞳に浮かび上がる僅かな驚き、僅かな恐怖、そして僅かな…。

 改めてヲ級の体をよく見れば、火傷や砲弾のような傷にも、それとは別の傷があるのが今更になって分かる。そして、それを見て俺の中である確信が生まれる。

 

「……お前、もしかして昨日戦った『ヲ級』か?」

「…!」

「……は!?」

 

 背後から、実際戦った天龍の驚きの声が上がる。当のヲ級は、俺の問いに対しても昨日のように、何も答えないまま口を半開きにしている。それでもあくまで冷静な声で語り続ける。

 

「もしかして、そんなボロボロの状態でわざわざ俺に会いに来たのか?まさかそんな状態で昨日のリベンジをしに来たわけじゃあ、あるまいな?」

「…………」

「それとも何か、他の用事があって来たんじゃないだろうな……っ!?」

 

 言葉の途中で、ヲ級の右手が俺の左肩を掴む。背後で単装砲を構え直す音が聞こえて、驚きながらも掴んでいたヲ級の手を放して、背後に『待て』と改めて二人を制す。

 

「俺は大丈夫だ。手は出さないでくれ…」

「……っ」

 

 これで納得したかは、背を向けたままで分からないが、ひとまず二人を信じることにしよう。

 改めてヲ級の瞳を見る。絶対とは言えないが、今のヲ級には敵意が感じられない。いや、それどころか昨日まで感じられた筈の『知性』というものすら希薄になってきている。昨日このヲ級と戦った時の、邪○眼ちゃん達の反応を見ると、普通の深海棲艦では意思疎通ですらできない筈であったが、昨日のこのヲ級ははっきりと確固たる意志をもって俺に話しかけてきた。話の内容は理解できたかどうか別としてだ。しかしそれが今、昨日から現在に至るまでいったい何があったのか、死神のペルソナ『グール』を連想するような変わり果てた姿で今、俺にしがみついている。

 

 

「ペルソナ……」

「っ!」

 

 僅かにヲ級が反応する。『ペルソナ』という単語に確かに反応している。

 

「ペルソナだよ、ペルソナ。ペルソナ出してみろ」

「……ア」

「出せてただろ?昨日…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『要らねえヨナァ?『ペルソナ』お前ニハヨォ……?』

『ア……アアァ……ア…!』

『気まぐれニ、試しニお前ニ『与えて』みたけれドモ、相性ノせいカ、それとも資質かワカラネエけど、お前には無理ダッタナ。適応モデキズ、与えられタ命令もこなせないお前ナンザソーヤッて這いつくばってロヨ…ナァ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コノ、『失敗作』ガ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「アア……」

「っ!?」

「あ、アアアアァァァァァァァァ!!!!!!」

「っ!?なぁ!?」

「ど、どうし…ぐうぅゥッッ!?」

「なぁっ!?」

「お、お兄さん!?」

 

 突然何の前触れもなく、取り乱したかのように喚き散らすヲ級。驚いて声をかけようとした次の瞬間に、肩に太い注射針で刺されたかのような痛みが走る!ヲ級が掴んでいた俺の肩に爪先を立てて、布を貫通し俺の肩の皮膚を破っていた。

 

「ッおい!一体何が……!?」

「ヲヲヲヲ!!!ヲヲヲヲヲッ!!!!」

「お、お兄さん!!」

「っ!?て、テメー!!!何しやがって」

 

 こちらの問いかけが耳に入っていないかのように喚き散らしながら、焦点の合っていない…どこか遠くの天を仰ぐように見つめるヲ級。口からだらしなく涎を垂れ流して、奇行に身を任せるその姿は、本当にこのヲ級に『悪霊』か何かが取り憑いているような印象さえ感じさせる。

 

 

 

「イザ……ナギィ……!!!」

「ヲ……ッ!!??」

 

 

 肩に浮かぶ痛みに堪えきれず咄嗟に、ヲ級の首の下をイザナギの腕が抑えつけ、そのまま地面に倒れ伏させる。『ずるり』と、生々しい音と感触と引き換えに、肩口からヲ級の指を引き剥がす。ジワリと、肩口から血が滲んでいくのを感じながら、視線をイザナギに抑え込まれているヲ級へと戻す。

 

「ヲヲ……ヲヲッ……ヲヲ……!!」

 

 自分がどういう状況なのかを知ってか知らずか、自身を掴んでいるイザナギの腕を解こうとするも、子猫が獅子に抑え込まれているが如く、些細な抵抗にしかならなかった。イザナギを通じて、ヲ級の力加減がこちらにも伝わってきているので、それがよく解る。

 …やはりおかしい。タルカジャをかけていたとはいえ、昨日までこの特別強化されたイザナギにも迫るほどのパワーを持っている筈のヲ級なら、こうして容易く抑え込んでいられるはずなんてないんだ。ましてや相手は艦娘と同等かそれ以上の身体能力を持つ深海棲艦だ。更にはペルソナの力が加わったんなら、そうなってなきゃおかしい…こんな俺の肩に指を突き刺す程度なんかで、終わるはずがない…。

 

「お、お兄さん!」

「お、おい!大丈夫かよお前!?」

「…文化祭の打ち上げの夜、菜々子に痴漢さん呼ばわりされたときに比べれば、かすり傷だ」

「「?」」

 

 駆け寄ってきた二人に軽く無事を報告する。何の事だかわからないようだが、まあそっとしておこう。

 やがて無駄だと悟ったのか、もしくは力尽きたのか、ヲ級が抵抗をやめてぐったりとイザナギの腕から手を放す。それでもイザナギの腕は、抑え込む力を緩めない。急にまた暴れださないとも限らないから。

 頼むから、大人しくしてくれよ?言葉は通じなさそうだから、せめてそんな念を込めた視線を送る。

 

「ヲ…ヲヲ…」

 

 ヲ級が弱弱しく声を上げる。虚ろな目はどこも見ていないようでもあるし、何かを見ているようでもある。ただ何か、何かに求め縋っているような…。

 …あれ、そういえばそんなことをこのヲ級から感じ取ったことがあるような…。

 

『頭ノ中カラ声ガ…『  』ナンダ、『  』デハイケナイ…『   』ナリタイ…肝心ナ部分ガ聞コエナクテイラライラスルヨウナ、ナニカガポッカリ抜ケテイルヨウナ…タダタダ気持チ悪イ、『    』ヲ沈メロ、『   』ガ欲シイ…』

 

 ふと、昨日交わした台詞が思い出される。

 

『モット…『    』ヲ、『    』シナキャ、『     』ニナル前ニ………!』

 

「ヲヲ…ヲヲヲ…」

 

 回想のヲ級から、今目の前のヲ級にその姿が重なる。そのヲ級が再び、自らを拘束しているイザナギへと手を伸ばす。今度は振りほどくためではなかった。意思の希薄な瞳は、イザナギの金色の瞳を、その顔を、ただただじっと眺めていた。

 …一つだけ、昨日のヲ級と変わらないものが一つだけあった。この瞳だ。縋るようなこの瞳…。無念、望郷、そして羨望…それらが凝り固まったような感情…その瞳に、俺は目の前のヲ級の事が気にかかったのだ。あの時は電の単装砲によって中断されてしまったけれど、心の片隅では気にかかっていたんだ。

 ヲ級の、イザナギへと手を伸ばす手を重ねる。冬の海水のような冷たさ…今のヲ級自身とでも言いたいのだろうか?ヲ級が、虚ろな眼をこちらに向ける。

 

「ずっと昨日から気になっていたんだ。お前『達』は一体、何者なんだろうってな?どこから生まれて、どこへ行くのか、そして何を求めているのだろうってな」

「ヲ……ヲヲ…」

「それとも、その答えを探すために…か?」

「お、お兄さん?」

 

 ヲ級の冷たい掌をぎゅっと握る。その手を、ヲ級は振り払わなかった。

 

「お前は昨日、こうも言っていたな。『     』ナンカ……私ジャナイ…ッッ!って。例えどんなものであろうと、『お前』は『お前』なんだ。他の誰でもない。大事なのは、どんな『自分』であろうとも、それを愛し、受け入れられることだ。自分の好きな部分も、嫌いな部分もひっくるめてな…」

「…………」

「恐れるな、ここにお前の敵はいないよ。落ち着け」

「………ヲ」

 

 ヲ級が、こちらの手を握り返す。ゆっくりと、優しい手つきで。意味が通じたのかは分からないが、ヲ級の瞳から一粒、雫が零れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな『自分』であろうとも、それを愛し、受け入れられること……自分の好きな部分も、嫌いな部分も…か」

「?」

「そしてそんな自分を受け入れてくれるのが、『本当の仲間』って奴なのかね…」

「天龍…さん?」

「………なんでもねえ」

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「た、た、大変ですぅぅぅ~~~~!!!!今この基地内に侵入者が……!」

「この子の事か?」

 

 基地の建物から、慌てた様子で走ってくる青髪の妖精さん。それをお姫様抱っこしたヲ級を持ち上げて示す。

 

「そ、そうです!その深海棲艦が…ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「来るのが遅せーし…あとウルセーし……」

 

 溜息をつきながら、やれやれと首を振る天龍。その横で苦笑する電。

 

「いいところに来てくれた。お客さんが一名追加だ。すぐにお部屋の用意を、仲人さん」

「は、はい!すぐにお部屋のご用意を致します…ってちょっとタンマ!!お客様ってまさか…!」

「そのまさかだ。俺の腕の中で安らかに寝息立てているこの子。あと静かにした方がいいぞ?起きるから」

「な、なに考えているんですか貴方は!?」

 

 叫びながら、髪の色と同じように顔色を変化させる妖精さん。まあそうなるか。

 

「て、敵である深海棲艦を匿うなんて…!とても正気じゃない!しかも相手はFlagshipなんですよ!?先ほどまで何があったかは知りませんけれど、そんなことができる訳が…」

「訳なら後でゆっくり話してやる」

「そうじゃなくて…天龍さん!電ちゃん!」

 

 長年戦い続けている不倶戴天の敵を助けるなんてとんでもない事というのはわかっている。そうじゃなくても話が通じない、人間の肉の味を覚えてしまった羆以上にやばい相手を殺さずに、鍵のついてない檻で飼うようなものだしな。あ、飼うって言い方失礼だな。

 同意を求めようと、天龍と電に話を振るものの…。

 

「て、敵であっても助けたいと思うのは変な事でしょうか?」

「変とかそういう以前に…天龍さん!」

「…まぁ、そいつが決めた事ならいいんじゃねえか?」

「はぁぁ!?」

「どこか抜けているけど、こいつだって馬鹿じゃない。何か考えがあるってだろうさ。そんなに心配なら、こいつにこのヲ級の」

 

 期待した当てが外れて、顎が外れそうなほど口を広げる妖精さん。まぁ、提案したのは俺だし責任もってそうするのは構わないんだけれど…。

 

「…何だよ?」

「意外だな…てっきり反対するものだと思ったんだが…」

 

 じーっと見つめる俺の視線に気が付いたのか、きょとんとした表情で見つめる天龍。真っ先にこの妖精さん以上に怒り狂って反対するかと思ったのに…。どちらかというと、俺の反応は今そこであんぐりとしている妖精さんに近いんだが…。

 ぽかんとした顔をしていると、なぜか電が寄ってきて笑顔で耳打ちをしてくる。

 

「天龍さんも、お兄さんと話をして何か思うところがあるみたいなのです。」

「…そうなのか?」

「…へっ」

「…本当に、何があったんですか?」

 

 ぷいっと、腕を組んで顔を背ける天龍。…成程、これがツンデレという奴か。

 抱きかかえられた状態の、眠っているヲ級に目を向ける。すやすやと、先程の取り乱した様子が信じられないくらいに安らかな寝息を立てている。…人間に近い姿形をしている分、こうしてみるとただの少女に見える。人間という割には血色が悪いけれど…。

 …思う所か。少し心に余裕ができたせいもあるんだろうけれども、一度深海棲艦に堕ちた天龍だからこそ、どこか分かる部分があるのかもしれないな…。

 …変わってきているな皆。取り巻く状況は相変わらず最悪だけれども、このメンバーならもしかしたら…っ!?

 

「…痛!?」

「あっ!?」

「お、お兄さん!?」

 

 肩の痛みを思い出して、思わず膝をつく。そういえばまだ何も手当てしてなかったんだっけ。周りの三人が心配そうに駆け寄る。

 

「全くもう、怪我が完治してないのに無茶するから…」

「…そっとしておけ。…とりあえず、建物に戻ろうか?この子もどこかの部屋に入れなきゃいけないし…」

「…結局そうするんですか?」

 

 当然です。

 

「ついでに、替えの包帯も頼む…そうしたら、皆で集まって…」

 

 

 

 

 

 

 

だァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァアぁン!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルナナゴーゴー、我、鎮守府に着任セリ…本日もお日柄もよク晴天ナリ…」

「「「「!!!!!!????????!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 爆撃を連想するような轟音と共に、俺達の目の前に突然何かが降ってきた。

 そしてそれは喋った。やけに片言の日本語をしゃべりながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「なっ………!?」

「て、てめえは…!?」

 

 ヲ級が来襲した時など比べ物にならないほどの驚愕を露にする天龍と電。かくゆう俺もそうだが…。

 

「貴様は…」

「な、なななななななんでこんなところに!?」

 

 『それ』は俺たちの驚く様が余程愉快なのか、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべながらゆっくりと手を合わせながらお辞儀をし…。

 

「ドーモ。カンムス=サンタチオハヨウゴザイマス」

 

 

 

 

 

「カンムススレイヤーこト、eliteレ級でス」

「レ級……!!」

 

 

 

 不気味な赤い瞳を、こちらに向けてきた。

 

  




真の空気詠み人知らず、レ級。まさにお手上げ侍。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。