鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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一か月以上もかかってしもうた…もはやセプクあるのみ…。


Flowerbed of calamity . Fool of flower beds  中編

 嫌な冷たい汗が、目の端を流れる。それを拭う余裕すらない。

 視界の先では、アイツがレ級に組み伏せられ何かぼそぼそと話をしている。楽しそうに手を銃の形にして突きつけると、アイツが驚いたような表情を浮かべる。一体何を話しているのだろう?風に流れて微かに、『アルカナ』だとか『世界』とかよくわからない単語が断片的に聞こえてくる。どういう意味かは、俺には全く理解できなかったが…。

 というかあのレ級、やはり60体のeliteを倒したときに突然やって来たあのレ級だよな?あの時、俺はすぐにのされて実際に見たわけではないけれど、話によれば普通の深海棲艦とは何か違う行動をとっていたとか…。

 と、傍にいる電の体が揺れる。

 

 

「電」

 

 がしっと、電の肩を掴んでこちらに引き寄せ…というよりは今にも走り出しそうな電をその場に留めて置くために…。

 

「…どうして、ですか?」

 

 こちらに振り向かずに、低い声で唸る電。その視線の先は恐らくレ級と、そのレ級に組み伏せられている〝アイツ”に視線が向いているのであろう。兄のように慕っている〝アイツ”の危機に、いてもたってもいられずに今すぐにでもにでも、駆け寄らんとするのを必死に抑える。今にも駆逐艦とは思えないパワーだ、肩を掴んでいる手が気を抜けば外れそうだ。何処にこんな力を持っていやがるんだと突っ込み入れたいところだ。

 …こんな状況じゃなければな。

 

「どうしても何も、お前が今行ってどうなるんだ…?そのまま走ってあいつの元に辿り着くよりも先に、あのレ級に砲撃されて木っ端微塵になるのがオチだ。そうでなくとも、あいつがレ級に捕まっている今、そのまま頭を握りつぶされるか尻尾で首の骨折られる可能性だってあるだろう…」

「…っ」

 

 他の深海棲艦とは〝何か”違うとはいえ、相手は姫クラスと遜色ない力を持つ『戦艦レ級』のelite。

 事実、いくら昨日の負傷がまともに癒えていないとはいえ、化け物みてえな強さを持ったアイツがあっさりやられてしまったんだ。悔しいが、俺ら如きが向かって行ったところで…。

 

 

「今は堪えろ…俺達が今動いたところで…」

「…だからと言って、お兄さんを見殺しにするんですか!?」

 

 電が振り返りこちらを見上げる。昨日、俺が基地を飛び出していったときに口論した時と、同じような瞳をだ。

 …分かっているよ。もっともらしい正論を吐いたところで、都合のいい建前なんてそんな事は分かっている。俺自身、こちらに背を向けたままの電ですら直視することすら出来ない。

 羨ましいよ、すぐに飛び出そうと向かっていけるお前が…。たとえ後先考えない直情的な事だったとしても、俺も同じことをしたい…。

 けどな、俺らが全滅して誰もいなくなってしまうことが、アイツが最も悲しむことなんじゃないのか?…とはいっても、これだって向かって出ていけない弱い俺の言い訳なんだろうけれど…。何でだろうなぁ…昨日までだったら、命を投げ捨てる行為自体怖くもなんともなかったのに…。

 たった1日だけの…事だったのに…。

 

「お兄さんがあんなことになっているというのに……!!」

「ンな訳あるかよおッッ!!俺だって出来ることなら今すぐにでも飛び出していきてえっ!」

 

 思わず、電の事も、自分自身の胸中も誤魔化すように声を張り上げてしまい…。

 

 

 

 

「ウルセーな、ピーチクパーチク…こっチが楽しク秘密のお喋りを楽しんでいる時ニヨォ…」

「「っ!」」

 

 

 地の底から、響いてくるような声だった。

 先程までこちらに背を向けていたレ級が、顔だけをこちらに向けている。正体不明の軟体動物に不意に這い寄られたかのようなおぞましさに、背筋が凍る感覚。食物連鎖の下位に立たされる立場を理解してしまう。それとも氷でできた手で心臓を鷲掴みされた感触か。アイツが本気で怒っていたときとは違う…レ級の敵意という表現ですら生ぬるい絶対零度の眼差しに、足がすくんで動けない。さっきまで息を巻いていた電でさえ身を震わせている。

 

「大人しクしてロッ、ていうのが理解デキてねぇのカ?アァ?ムカつくンダヨなぁ、人がお話に夢中になっテイルときに横から割り込んでクル奴」

「ッ!!」

 

 アイツの首に巻き付いていたレ級の尻尾がするすると、蛇のように伸びていく。そしてその先端部分についている頭をこちらに向けている。さっき、こちらに対して威嚇砲撃を繰り出し奴だ。 

 

 

 

 

 

 

「ぬ……あぁっ…!」

 

グン

 

 

 レ級の体が僅かに傾く。尻尾の主砲から発射された巨大な弾が俺達を逸れ、その後ろの木々に直撃する。後方からの爆発音と衝撃に、反射的に掴んでいた電の肩を引き寄せ、爆風から守るかのように抱きしめる。ものすごい風圧が背後から襲い掛かってくるも、何とかこらえて立つ。

 

「…させる…かぁぁ!!」

 

 〝アイツ”の声が聞こえてくる。抱きしめた状態から顔を上げてみてみる。

 遠くで、首を尻尾で絞められ押し倒された状態からでも何とか空いている手で、レ級の尻尾の先端部分の根本あたりを掴み、地面に押し倒すアイツの姿。そして僅かに引っ張られてきょとんとしているレ級。俺達に主砲が撃ち出される瞬間咄嗟に、あの化け物頭を動かして射線をずらしたのだろう。現在首を絞められている状態だというのに、アイツは…。

 

「イザナギ…今のうちにこの尻尾を…っ!?」

 

 もう片方の手で例のカードを出現させ、それを握りつぶそうと…。

 

「切っちゃイヤン」

「ぐぅ…!?がっ…あぁ…!?」

 

 次の瞬間、アイツの首に巻き付いていた尻尾の力がギリギリと力が籠り〝アイツ”が苦悶の表情を浮かべる。顔が次第に赤色に染まり、めの焦点が上を向いてカード握りつぶそうとした手が空を掴む。

 

「怖い怖い、やっぱりアンタはちょっトデも目を離すと何するかわかラネぇな…そんな状態でマサカそんな力が残っているナンて…」

「ぁぁ……くくぅ……」

「ダカラ……」

 

 ゆっくりと、レ級が跨ったまま右手で手刀を作り、剣を太陽にかざすようにゆっくりと真上にあげる。

 

 

 

「危なイカら、〝切っちゃオウか”」

「…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボキャン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やけに鈍い粉砕音。そして声がうまく出ていないにもかかわらず響く絶叫。それがアイツの物だったのか、それとも俺の物なのかは分からなかった。確かな事は、レ級の振り下ろした手刀がアイツの右手首に振り下ろされた後、『曲がってはいけない方向』に曲がっていた事。

 

 

「駄目押しニ……左ィィ!!」

 

 再び手刀を作り、次に無理やり引き抜いた左手首にそれを振り下ろす。そしてビスケットのように容易く、それよりも鈍い音を放ってあらぬ方向を向く左手首。

 

 

 

「ツイデニ、両手足もやっトクか 」

 

 

 

 

 

 

『お前はさ、そうやって隠し事をしているせいか、どこか無理している感じがあったのが気になっていたんだ。言いたいのに言えない、弱音を吐くこともできずにどんどん溜め込んでいく…いつか風船みたいに破裂してしまうんじゃないかって気になっていたんだ。一人で何でも考えすぎずに、今度は誰かに頼ることを憶えればいいさ。』

 

 

 

 

 

「やめろ……」

 

 

 

 

「驚いタ、マジで切断するツモりダッタのにその程度カ。ガ、コレデ『ペルソナ』の召喚モ出来ねぇーダろ?できたトシテも、武器も持てねぇ『愚者』ナンザ、何も怖くネェ…ナァ!?」

「っ!?がぁ…!?」

 

 

 

「やめろ……!!」

 

 

『愚痴聞く相手くらいなら、俺でよければ引き受けてやるぞ?お前の妹さんのようにいかないかもしれないが…』

 

 

 

 

 

 

 勝てないとか、慎重に、なんて考えは頭から吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「テメェェェェェェアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 震えは、いつの間にかない。抱えたままの電が腕の中で蠢いている。何か叫んでいる。でも鼓膜には届かない。

 気が付けば、抱えていた電を放して一目散にあの高笑いしている悪魔の元へと走って行き、腰の剣をすらりと抜く。目頭が熱い、熱いものがどんどん流れていく。敵うはずがないのに、頭ではそうと分かっているのに湧き上がる感情がそれを無視して暴走特急のように止まらない。

 ちらり、とレ級がこちらを向く。アイツの面なんざ一秒たりとも見たくねえぇ!そのムカつく顔面にこの剣をぶっ立ててやる!!切り裂いてやる!!串刺しにしてやるッ!!よくもっ!!よくもォォ!ヨクモォォォ!!!!

殺す!殺す!ぶっころして……!

 

 

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 やがて目前へと迫ったレ級に向かって振り上げた剣を力いっぱい振り下ろし…!

 それは、空ぶった。

 

 

 

「五月蠅いコバエガ…」

 

 

 頭上から、癪に触る声が聞こえててきて空を見上げる。真っ赤になった視界が、急速に青くなってきた。

 陽の光を背後に、いつの間にか頭上へと飛び上がったレ級が、汚らしいものでも見るかのようにこちらを見下ろしている。だらりと四肢を投げ出したままのアイツの首に、尻尾を巻きつけたまま…。

 次の瞬間には、アイツを巻きつけたまま尻尾がうねりを上げて鎖分銅のようにこっちに迫ってくる。分銅は…あいつ自身。意識があるのかないのか、口を半開きにして突っ込んでくるその様子が、やけにゆっくりに見えた。

 やめろよ、今度はお花畑が見える程度じゃ済まないんだから…。

 

「大きすぎるんだよ…お前は…」

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「そ、そんな…天龍さんや、あの人まで…」

 

 妖精さんが力ない声で呟いている。呼吸が苦しい。さっき天龍さんに抱きしめられたせいとかそんなんじゃない。呼吸しているだけで苦しくなってくる。涙も溢れてくる。視線は、数メートル先の積み重なっている二つのひとたち(・・・・)と奥で尻尾を立てて海藻のようにゆらゆらと揺らしている者に釘付けだ。天龍さん、私に動くなと言っておきながら、お兄さんの両手足の骨がおられるのを見た瞬間…勝てるわけがないのにレ級に剣一本で立ち向かって…あんな…。

 どうしてこうなったんだろう?天龍さんとお兄さんが仲直りして、よかったと一息ついて、そしてこのまま三人でこの場を離れて粗末だけれど、楽しい朝ご飯を食べるはずだった…。それが終わったらこれからどうするとか、そんな事の前に三人ともベットから抜け出しては駄目なのです!と、二人を叱って休ませて…。それで怪我が治ったらどうするかゆっくりと考えようと……その筈だった。

 久しぶりに、また新しい一日が始まるんだと……また頑張ろうと思っていた…その筈だったのに…。

 

「ううっ…ううっ…」

 

 …泣きたくない…どうしてこんな気持ちで瞳から涙を流さなければいけないの?どうしてみんなが眠っているこの場所が荒れ果てて、大切な人達がこんな目に遭わなければいけないの?

 あの強いお兄さんがあんなぼろぼろに…昨日の怪我が治っていないにもかかわらず、私達を守るためにあんな…。天龍さんが、せっかく元に戻って仲直りしたというのに、お兄さんを助けるためにあんな…。

 

「サテサテ…」

 

 尻尾を立てているモノが、積み重なっている上の物()を邪魔なものを転がすかのように乱暴に蹴り飛ばした。蹴られた物が、車輪みたいにごろんと転がって倒れ伏す。さっきお兄さんと衝突した時、打ち所が悪かったのだろうか?ぐったりとした表情の天龍さんが苦悶の表情で瞳を閉じている。地面に転がったとき、意識がないはずなのに『うっ…』と苦悶の声を漏らしていた。

 

「…意外だナ、まだ息がアルのかヨ?首の骨でも、折っておけばヨカッタカ?」

「……っ!」

「い、電ちゃん!?」

 

 首の骨を折る。その言葉に反応して反射的に立ち上がる。隣で妖精さんが慌てて声を掛けてくるも無視だ。

 アイツの…アイツの所為だ…!あの深海棲艦が二人をこんな目に…満足に動けない二人をこんな目に…!

 ジャコン!と、単装砲を取り出して視界の先の忌々しいものに向ける。その音に気づいたのか、つまらなそうな表情で忌々しいもの―eliteレ級がこちらを向く。ニヤリと、嘲るような笑みが僅かな恐怖と、そして強い嫌悪感を湧き上がらせる。

 

「…怖イ顔しテ今更そんナ玩具を取り出しテどうスルツもりダ?」

 

 小馬鹿にするように鼻を鳴らすレ級。確かにそうだ。手負いとはいえお兄さんを簡単にやっつけてしまったあのレ級に、こんな単装砲なんか玩具と言われても否定できない。でもだからと言って、このまま引き下がるなんてできない。

 

「電ちゃん、無理だよ…そんな武装じゃあのレ級に通用するわけが…ましてや君は戦闘経験が…」

「関係…ないのです…!」

「っ!?」

「お兄さんや天龍さんがあんな目に遭ったというのに、電一人だけ何もせずに…なんて…」

「………」

 

 今回ばかりは少し耳障りさすら感じられる妖精さんの言葉を一刀両断する。恐怖がない、と言えば嘘になる。あそこで厭らしい歪な笑みを浮かべるあの悪魔に立ち向かう、その事を考えただけで震えが止まらない。武者震いとは到底程遠い、寒気すら感じられる恐怖で気をしっかり持っていないとへたり込んで失禁すらしてしまいそう…。でもだからと言って止まるなんてできない。太刀打ちできるかできないかという損得勘定すら、脳内の蚊帳の外だ。『やらないわけにはいかない』ただこれだけ。

 鳴りそうになる歯の根をしっかりと食いしばり、震えが止まらないままの単装砲をゆっくりと仇敵に向ける。そんな私に対し、レ級は…。

 

「ソンナにこの足元に転がっている生ゴミ(・・・・)が大切なノカ?エェ?」

「……!?」

 

 右足をゆっくりと上げ、ガッ!と、倒れて気絶している天龍さんの頭を踏む。側頭部に装着している電探が、ミシリと音を立てる。

 食いしばった奥歯が、僅かに罅が入る音と重なるように。

 

「その足を…どけてください…」

「ア?」

「天龍さんを踏んづけているその足をどかしてと言っているのですっっっ!」

 

 体温が熱くなる!頭の血管が熱で破裂してしまいそうだ。怒りのまま、レ級に向かって単装砲の引き金を…!!

 

 

ガッ!!

 

「っ!?」

「えっ!?」

 

 

 引く前に、構えていた単装砲が何かに掴まれて上へと引っ張られる。驚きのあまり目を見開き、そして次の瞬間には地面へと思いきり押し倒される。

 ぐっ、と思わず声が漏れる。痛みをこらえてもがこうとするも、予想以上に強い力で抑え込まれて手足だけが虚しくじたばたと動く。

 

「オイ、殺すンじゃネーゾ。『ワイルド』と一緒ニ、ソの駆逐艦も確保するんだカラな。その妖精と、あそこで白目剥イテる生ごみハ、好きにしテモイイケド」

 

 いつの間にザッザッとこちらに近づいてくるレ級が、私の後方に向かって少し不機嫌そうに言う。いったい誰に話しているのだろう?恐る恐るゆっくりと、後ろを振り向き…それを見た。

 

「……!」

「あわ、わわわわわわわわ………」 

 

 妖精さんが街を破壊する巨大な怪獣を、まるですぐそばで見上げたかのように恐れ戦いている。いつの間にそこにいたのだろうか、レ級と同じ赤い瞳を持った4体の深海棲艦——お兄さんが先程助けたのとは別の空母『ヲ級』と重巡『ネ級』が2体、音も気配もなく私の後ろに立っていた。それを確認した時、顔から血の気が引いてくるのを感じる、再び体が震えそうだ。0昔聞いたことがある特徴にぴったりと当てはまる。重巡『ネ級』、目にするのは初めてだけれどサイドテールの白く長い髪に、片目を隠すように覆われているその顔。

 eliteの状態でも、同じ重巡の『リ級』のFlagshipと並ぶ強さを持つ厄介者であることを…それが二体も。そしてそのうちの一体が今、私の動きをこうやって拘束している。振りほどこうともがいてみるも力が強すぎて振りほどけない。しかもeliteの『ヲ級』まで…!?

 と、レ級がヲ級二体に指を差しながら何か指示を与えている。その指の差す方向は…倒れて気絶しているお兄さんと、天龍さん…そして、お兄さんが助けた未だ倒れて気絶しているあのflagshipのヲ級。

 

「…あそコデ倒れて気絶しテイる『ワイルド』を確保しとケ。〝出来立て”のテメーラでもそれクラい出来るだろう?残りの二体は好きニシナ。オメーラの朝飯(近代化改修)にでもシロ。オレッチハ、そこノ駆逐艦を確保スルからヨ」

 

 頭を鈍器で殴られたような衝撃と、死刑宣告を同時に受けたような二重のショックを受ける。ゴーンゴーンと頭の中で鈍い鐘の音が鳴っているかのような錯覚を感じる…。

 最後の方を凶悪な笑みで強調するレ級。それに対して返答どころか、何の反応もせず黙って身を翻す二体のeliteヲ級。

 

「チッ、返事もなシカよ、可愛げモネェ。これだカラ〝出来立て”は…」

「だ……駄目ぇぇ!!」

 

 再び拘束を振り払おうともがくも、蜘蛛の巣にかかった蝶のように無駄な徒労に終わるだけ。ああ、そういえば昨日も青葉さんにこうやって拘束されたっけ…今回の相手はそれより厄介だから性質が悪い…。じたばたするたびに鼻が地面で擦れて、服が汚れていく…妖精さんが解れて縫い直してくれた所にまた穴が空いちゃうと、場違いなことまで考えてしまう。

 それでも、もがくのを辞めない。天龍さんだって勝てない相手と知りつつも立ち向かったんだ。ここで私だけ何もせずに黙っているなんて…。

 

 

「ううっ…は、放し…ガハッ!?」

「っ!?あ、ああっ!」

 

 いつまでももがく私をいい加減に鬱陶しく感じたのか、ネ級が単装砲を装着している私の腕から首の方へと腕を動かし、首を掴んだ手にそのままをギリギリと、万力のように力を入れてくる。

 口から、声にならない擦れた音が漏れてくる。苦しい、喉がどんどん圧迫されて呼吸ができない…このままでは呼吸が出来なくなって窒息してしまうのが先か、もしくは首の骨が折られるのが先だろうか?どちらにせよ、このままでは行きつく所は同じだろうけれど。遅いか早いか、それだけの事でしかない…。次第にもがく手足に力が入らなくなり、だんだん視界が…。

 

 

「殺すナって言っただロウがあアぁァァ!?」

 

 

 

 

バァァァァ!!!

 

 

 意識が刈り取られそうになる寸前、鼓膜が破れんばかりの轟音が響いたかと思えば、体がものすごい勢いで後ろに引っ張られる。そしてやってくる首が自由になったと認識した瞬間尻もちをついて後頭部を軽く地面に打ち付ける。首を絞められていたせいか起き上がるだけの気力もなく、寝ころんだままゲホげホと咳をしながら空気を小さな肺の中に必死に取り込む。涙を瞳に貯めている私の横で、レ級が近づいてくるのを視界の端で捉えてしまう。ああ、とうとう私に止めを刺すのか…やがて数秒後に起こるであろう終末予想は、不機嫌な足取りで私の横を通り過ぎたことによって簡単に覆される。

 酸素不足で未だはっきりしない頭の中に、レ級の怒りの籠った罵声と共に『ガッガッ!』という、何かをぶつけるような音が聞こえる。寝そべったまま頭を僅かに動かして頭上を見上げ、そして意外な光景に口を僅かに開く。

 先程私を拘束していたネ級が倒れている。そしてその体を苛立たし気な表情のレ級が小さな足で踏みつけている。

 …どういう…事…?深海棲艦が同じ深海棲艦を攻撃している?

 

「クソ馬鹿が、簡単な命令も聞けないナンてとんだ欠陥品だゼ。取り出す(・・・・)前に下手に死ナレテ、そのまま『心の海』ニ還っちマッたらどウスるつもりなンダ?アアぁ?」

 

 一際強烈な蹴りを、うつ伏せに転がっているネ級の腹部に叩き込む。その拍子に仰向けになったネ級の艤装が凹んで、口から青い何かを吐き出している。血……だろうか……。

 

「はぁ……はぁ…」

 

 回復してきたはずの呼吸がまた荒くなってきた。肺が…胸が…また締め付けられるように…。どうして、あの蹴られているネ級を見ていいたら、何故か…。

 

「『力』にも適応できナカった『出来損ない』以下ガ…!黙って言う事をヘーコラ従う事すらできねエノかァ!?ボケが!!!!eliteが聞いて呆れるンダよォォ!アアぁ!?」

「…だ……め……」

 

 相手は、深海棲艦…。先程まで拘束され、首を絞められていた相手なのに…。

 

 

 

「駄目…やめ…て…!」

 

 

 

 ぴたり、と蹴ろうとしていた態勢が止まる。レ級が、怪訝な顔をこちらに向けてくる。相変わらず私の呼吸は定まらない。今私はどんな顔をしているのだろうか?圧倒的捕食者的存在な存在の、強力な深海棲艦に睨まれて脅えているのだろうか?もしくは目の前で繰り広げられていた光景に涙しているのか?分からない。けれども…。妖精さんが何か騒いでいるような気がしたけれども、私の耳には入ってこない。

 

「駄目…やめて…『仲間』を、そんな風にしないでくだ…さい」

「…ア?」

 

 『ふざけんな』と『何言ってやがるんだコイツは』が混ざり合ったような表情をレ級が、不機嫌な声をこちらに向ける。離れた場所に立っているもう一体のネ級は、相変わらず黙ったままこちらを見ている。

 

「ど、どういう意図でそのネ級さんを暴行しているのかは知りませんが、馬鹿とか…役立たずとか…そ、そんな事い、いけないのです…!」

「い、電ちゃん…」

「『仲間』はかけがえの…ないものなのに…どうしてそんなことが出来るんですか…?どうしてそんな簡単に『仲間』を傷つけるとかそんなこと出来るんですか……?」

 

 レ級の眉の皴がますます深くなり、こちらを見据える瞳の紅が鋭さを増していく。砲撃を行わずとも、首に手を回してちょっと力を加えれば簡単に縊り殺せる一介の駆逐艦如きに、好き勝手言われたのは面白くなかったのだろう。例えるなら爆発寸前の爆弾だ、私の放つ言葉次第ではすぐにでも爆炎と破片をまき散らして私に襲い掛かってくるだろう…。そうなったら今度こそ尻尾の砲撃で体が吹っ飛んで行ってしまうのかな…?もしくはあの尻尾を蛇のように巻きつかれてブチンとちぎられてしまうのだろうか?頭の中の片隅の自分は、必死に言葉の続きをやめるよう警告を放っている。

 

「そんな……そんな人なんかに…仲間を…仲間を持つ…」」

 

 でも、言いたい。例えどんなことになろうとも言わずにはいれない…。そうじゃないと、あんなボロボロになるまで戦ってくれた仲間達やあの二人に顔向けが、出来ないから…!

 

「資格なんて、ないです……!」

 

 天龍さんは、今の私を見て感心するだろうか?呆れるだろうか?

 お兄さんは…また怒るかな?

 

 

 

 

 

 瞬間、レ級の尻尾が蛇のような俊敏さでこちらにやってくるのが、辛うじて視界で捉えることが出来た。反応は…また別の問題。

 あっと驚く間もないまま尻尾は私の首に器用に巻き付き、絞首刑のようにギュっ!と力が入る。

 

「お前如きの戯言ナンザ、聞くだけ時間の無駄ダ」

「がふ……うううぅ……!」

 

 芝を踏みしめながら、レ級がゆっくりとこちらに向かってくる。さっきのネ級なんかとは力が段違いだ…もう苦しいとかそんなレベルじゃない…視界が変な色に染まっていって、気を持たないと一瞬で意識が持っていかれそう…。

 

「や、やめろレきゅ…」

「邪魔だゴミ」

 

 きっと見上げて睨みつける進行方向にいた妖精さんを、小石でも蹴り上げるかのように吹っ飛ばす。妖精さんの小さな体が、本当に小石みたいに高々と上がって、やがて地面に何回かバウンドしてうつ伏せで動かなくなった。

 妖精さん…!声を張り上げて近づきたいのに、こんな風に締め上げられているんじゃどうにもできない…。ああぁ、声も出なくなってきて、焦…点…が。

 

 

「…このチビ気絶させたらさっさと運べヨ。そこの言うこと聞かない雑巾も一緒にな『ネ級』…お前は、チャントいう事聞いてくれルヨなぁ…?」

 

 レ級が何か言っている…声は聞こえても、視界が…ああ、段々喋っている事も聞こえな…く。

 ……………。

 

 

「…イ…!!!……ドモモ……手……ニ…何……テイ……………」

 

 

 意識……が……。

 ごめ……さ………。

 

 

 

 

 

 

 

 爆発音と、衝撃が走った気がした…。

 

 

 

 体の落下する感覚、首を絞めつけていた息苦しさももうない…。再び酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。

 …あれ、私…確か首を絞めつけられて…。

 

 

 

「………!」

 

 

 

 見渡すと、首を絞めつけていた筈のレ級が、私から尻尾を解いてどこか一点を見つめている。僅かに、驚いた表情を浮かべて。ゲオゲホと咳をしながら、つられて見ている方向に視界を向ける。

 視界の先にあるのは、2体のヲ級と倒れている男性…お兄さんだ。いまだに気絶して…。

 

 

「オイ」

 

 

 ヲ級が振り返る。次の瞬間顔の横っ面を思いきり殴られ、錐もみ回転しながら漫画みたいに吹っ飛んでいき、2、3回地面にバウンドしたのちにようやく止まる。

 

 

 

「クソったれ深海棲艦共…!」

「ああ…ああ…!」

 

 

 その人物が自ら吹っ飛ばしたヲ級に、吐き捨てるように悪態をつくのを、近くの妖精さんが驚きと感嘆の声を漏らす。と、もう一体のヲ級が仲間をやられたのに逆上したのか、その人物に猛スピードで近づき、持っているステッキを叩きつけるように振り下ろし…。

 

 

バシン!!

 

 

 それにも目もくれずにその人物は、軽々と片手でステッキを受け止める。ステッキを振り下ろしたヲ級が驚きの表情を浮かべた次の瞬間、そのステッキを握力だけで粉々に握りつぶす。誰かが「えっ!?」と声を上げた。それは妖精さんかもしれないし、私かもしれなかった。

 そして皆が驚いている中、素早い動きでしゃがんだかと思いきや、ほれぼれするような無駄のない動きでヲ級に足払いをかけ体勢を崩すと、一瞬のうちに右手と右襟に両手をかけて、そのまま豪快に…そして綺麗な一本背負いを決める。ズドォォン!!!と大きな轟音を立ててヲ級の体が地面に沈む。

 皆が唖然とする中、その人物はポンポンと、手の埃を払うかのように手を叩く。

 

 

 

 

「馬鹿ナ…テメエぇ…!」

 

 …先程その人物を叩きのめしたはずのレ級が、微かに驚愕の声を漏らす。ボロボロで傷だらけなのにそれすらも感じさせぬほどのに生気に満ち、それだけではなく眼帯で隠れていない方の隻眼に怒りのオーラを漂わせて…そして…。

 

「お前らは…ッッ!!」

 

 

 

 それに呼応するかのように、背後に青い光を纏った巨大な幻影が浮かび上がる。…お兄さんがイザナギさんを呼ぶときに出す光と、全く同じ…。

 

 

「マサカ…テメェ…!テメエまで(・・・・・)ナノか!?」

「…俺の仲間が眠るこの墓地と…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍型一番艦 軽巡 『天龍』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の妹分と命の恩人に一体…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルカナ 『法王』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してくれてんだ?ああぁ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペルソナ 「コウリュウ」

 

 

 

 




龍田「これが俺の改ニだぁぁぁぁぁぁ!!!!!って天龍ちゃんが泣き叫んでいたけど、何かあったのかしら~?」
番長「…そっとしておこう」
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