鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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今年初投稿でゴワス…さて、どこまでいけるのやら。


第十七話 Eye of the storm  前編

ギュロロロロロロ……。

 

 所々凹みや傷が目立つ艤装が、嫌な色の煙と駆動音を吐き出しながら前へ前へと、大海原を走り出す。何とも頼りない…というよりは、まるでボロボロの桟橋を渡るような、爆発寸前の心臓のような危うさを彷彿させる。無理もない、数日前に大破した艤装を騙し騙しで使っているのだ。応急修復材も無い中、妖精達がジャンク品を使って何とか『マシ』にはしてくれたものの、それでも20~30年も経った工業機械と同等…もしくはそれ以下と考えた方がいいだろう。まあとにかく、今俺が使っている艤装は故障一歩手前の物だという事だ。

 …せめて入渠施設が使えたら…愚痴っても仕方ない。それら含めて、今こうやって『行動』しているのだから。

 

「確かもうすぐだったな。『天龍』が言っていたポイントは…」

 

 車は、最低速と最高速が最も燃料を喰う。艤装も同じかは知らないが、スピードを出しすぎず、遅すぎずに目的地へ向かう。

 

 

 

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「…やはり少し重いな」

 

 それも当然か。人を殴り殺せそうな鉄の塊みたいなものがゴロゴロと入っているのだから。

 背負っているドラム缶の中の、沢山採れた方なのか少ないのかよく解らない量の『鋼材』が、ガタゴトとぶつかり合ってそれほど大きくない反響音を響かせている。採集自体は初めてなので不安があったけれども、思ったより簡単に事が済んでほっと胸をなでおろす。昔取った杵柄…という程でもないけれど『素材』集めに奔走していたことがあったから、この手の事に慣れていたのがよかった。とはいっても、入手の方法が違うからどちらかといえば地道な作業をやり通せる『根気』が役に立ったかも。していてよかった『タフガイ級』…決して完二の影の取り巻きだったアイツの事ではない…ないったらない!ついでに言えば、あの時とは状況も服装も思いっきり違うけれどな。

あの時は学ランだったが、今は緑の迷彩ズボン(海なのに)と黒のタンクトップに、腰には迷彩服の上着を巻いているという、ここ数日で増えた腕の傷跡と相俟って本当に軍人と間違えられそうだ。どうみても今年大学受験を控えている高校生とは信じてもらえないだろう。これじゃあ裸マントじゃない真田さんだ。家族や叔父さん達にどう説明したらいいだろうか…いや、案外菜々子には『お兄ちゃん格好いいね!』とか言われるかもしれない…うぉっふ。

 

「…今の所採れるのは、これだけか」

 

 

 恐らくこの程度の量ではまだまだ先は長そうだ。この海域の先にある、『キス島沖』と呼ばれるところは、こんな所よりもより多くの『鋼材』が取れると妖精から聞いたことがある。時機を見て、向かうことにするとしよう。

 …それも出来るだけ早く。『奴』が再び、ここに来るまでに備え無いと…。

 基地に戻ろうと、俯かせていた視界を上げてドラム缶を背負い直そうとしたとき、視界が、耳の鼓膜が、捉えた。

 遠目に、キス島沖方面に向かって進んでいる黒と白の団体が横切るのが見える。艦娘か?と一瞬思ったけれど、どこか禍々しいフォルムに、あの格好…見たことがある。確か依然戦ったeliteの艦隊に確かに見覚えがある。

 黒い頭髪にビキニの水着を思わせる格好をした確か…『リ級』に…タッちゃn…いや『タ級』だったか…?それに、下半身を黒いタンクのようなものに埋めて、飛び出している上半身白いロボットとも巨大な妊婦を思わせるアイツは、輸送『ワ級』…だったか?

 下半身の代わりにある黒いタンクのようなものに様々な補給物資を貯蔵している深海棲艦。戦闘というよりもむしろ燃料などの運搬が役割。しかし装甲が見た目に反して硬くelite以上にもなると攻撃手段を持っているとは妖精達の談。補給輸送が担当である故に、艦娘達の間で撃墜の優先順位には上位に上がるほどの存在らしい。それを聞いて深海棲艦に補給なんているのか?と首をかしげたのはまだ記憶に新しい。が、もしそうであれば成程、物資を運んでいる敵を優先的に狙うのは理に適っている。敵の士気を下げるだけでなく戦力、戦意の低下、それだけでなくもし全ての補給経路を完全に断って包囲を完成させれば輸入が出来ない日本みたいに人が減るか、もしくは滅亡させるなんて事も容易だろうしな。

 遠くにいる6体の敵艦隊は遠くにいる俺に対してまだ気が付いていないらしく、悠々と俺達の基地がある逆の方向へと進んでいっている。それを見て思わず、背中に背負っているドラム缶へと左手を添える。補給物資か…。

 

「…丁度、『鋼材』だけでは足りないと思っていたところだ」

 

 徐(おもむろ)に、背中とドラム缶の間に仕込んであった『得物』に右手を伸ばし…。

 

「…ペルソナッ!」

 

 もう一人の俺を呼び出して、駆けた。

 

 

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「…で、見つけた『ワ級』を纏めて撃沈しないよう虫の息にした挙句に、持っていたロープで曳航して帰ってきたと…」

「立派に海賊してきた」

「海賊に立派もへったくれもないでしょう…」

 

 イザナギの両手のロープの先にある二体、俺の右手のロープ一体計三体のワ級が時折弱々しく抵抗しながら、こんがらがっているように締められている姿を見て、感心とも呆れともとれる溜息を妖精さんが漏らす。ちなみに取り巻きのリ級やらタ級は開幕『アグネヤストラ』や『ブレイブザッパー』で手早く仕留めた。どちらかというとこの三体を『轟沈』させずにギリギリ生かして連れ帰るのに苦労した。あと縄で括りつけたりとか。ペルソナチェンジが生きていれば゛状態異常”にさせて動きを拘束させることができたんだが、そこがやっぱり痛いな。クマだったら氷漬けにして運ぶことも出来たし、ラビリスだったらロケットパンチの鎖で締め付けたりできただろうから楽そうだな。力も陽介が顎にワンパン食らって白目剥いて気絶するほどだし。

 …さっきも思ったことだけどこの格好といい、去年までの俺なら海賊行為をとは思ってもみなかっただろうな。仲間たちや叔父さんは勿論、菜々子には鋼のシスコン番長どころか、鋼の海賊番長やっていたなんて口が裂けても言えない。

まあ、『シャドウ』相手には似たような事してたけど。

 

「俺の仲間達や身内には内緒にしてくれ。あと、大学受験を控えている身だからマスコミや報道陣にもどうか内密に…」

「『違う世界』のあなたの知り合いに、どうやって伝えろと?」

「…あ」

 

 そういえばそうだった…そうだった…な。あまり実感がないからすっかり忘れていた…。

 

 

『だカラこそ、オ前をこの世界ニ連れてきたンダ(・・・・・・・・・・)

 

 

 

「それに貴方がやったこれは海賊行為ではなく『鹵獲』です。これが軍だったら非難されるどころか、『よくやった』といわれる可能性が高いですよ?まぁ、あなたの行動力には驚かされましたけれ…あの、どうかしました?怖い顔して」

「っ!あ、いや、その…こ、行動力に関しては今話題に上がった仲間達からも偶に言われたよ」

 

 誤魔化すように下手くそな笑みを浮かべて、慌てて何でもないと手を振る。振り回すこの手で頭の中のレ級をかき消せればよかったのに…。ワ級を拘束しているロープから手を放して、近くの木箱に腰を掛ける。その際に、背中に背負ってあったドラム缶をドスンと下す。文字通り重荷を降ろした気分だ。伸びをしながら首を回すと、パキポキと小気味よい音がする。

 

 

 

 

 

 早いもので、レ級がこの基地を攻めてきてから3日…最初に俺が陽が爛々と照らす蒸し暑い砂浜で目覚めてから1週間が経った。結果的には、未だに怪我で動けないものが殆どであるものの、誰一人として欠けることなく今日という日を迎えられることが出来た。流石に俺でさえも、あの時は冗談抜きで死を覚悟したもんだ。今この場にはいない天龍や電も同じ気持であっただろう。

 それからというものの、ここに来てからぶっ通しで戦いの連続だったのが嘘だったかのように、小規模の深海棲艦が2,3回攻め込んできたこと以外は取り立て大きな事件も無く(ちなみにその深海棲艦は俺とイザナギで返り討ちにしてやった)こうして俺が直々にこの基地の設備の修理に必要な資源を集めに行ったり、偶に体を休めたりなんかを繰り返す日々を送っている。残念ながら基地の壁やら工廠やら入渠施設やら妖精さん曰く、『鋼材』や『ボーキサイト』が必要らしいとの事なので、怪我や体調などの理由で他のメンバーが動けないので幸か不幸か、レ級との戦いの時に一部復活した『ペルソナチェンジ』によって、完治することが出来たし(それでも先述した傷跡が残ってしまったが)、俺がこうやって不器用ながらも動いているというわけだ。更にはその時レ級が連れてきた深海棲艦の遺体から『燃料』(とその他諸々)を回収することが出来たので、資源探しに海へ出ることもできた。レ級がこの基地にきてもたらした悪影響は決して軽くはなかったものの、こういうのを、不幸中の幸いというのだろう。

 そして少なからずレ級が関わる中で、別の変化があったりもした…それは…。

 

 

 

 

 

「…提督」

 透き通った声が工廠に響いて、妖精と俺の首がそちらに振り向く。

 三つのお握りと沢庵が乗った皿と、氷水の入ったコップが乗ったトレイを持ちながら、少し背の高い一人の艦娘が労いの言葉と共にゆっくりとこちらに近づく。

 青と白を基調とした中華風なんだか陰陽っぽいんだかよく解らない軽装…というにはいささか露出の面積が多い服とミニスカートを纏い(録画しとけばよかった)、長く束ねた三つ編みの銀髪がゆらゆらと揺れながら、窓から差し込む陽の光を浴びて僅かに反射している。『りせの影』程ではないが、年頃の女性がそんな恰好でうろついていていいのかとツッコミ入れたくなるが、整った顔立ちに浮かんでいる眠たそうな表情から滲み出てくる天然さが、格好については無頓着なのかとなんとなく納得できるかも…ないのか?もし稲羽で叔父さんに見つかったら怒鳴られるか、もしくは呆れた表情で職務質問されるだろう。足立さんは…面白がって話しかけてくるかもしくは、心中『コイツ馬鹿じゃないのか?痴女?』とか思われるだろうか?

 

「今日も一人でお疲れ様です…。戦闘糧食ですが、軽食をお持ちしました。」

「ただいま『雲龍』。そっちこそ留守番ご苦労様。あと俺は提督じゃないからな?」

 

 そんな心の声を表情にもおくびにも出さず、妖精から受け取ったタオルで顔の汗を拭いたのち“戦闘糧食”の乗ったトレイを受け取る。

 

 というか、それって戦闘糧食とは呼ばないんじゃ?まあ、いつ敵が攻めてくるかわからないこの状況なら、間違っていないのかもしれないけれど…。

 

「…そうなの?」

「やっていることは、提督以上なんですけどね~」

「ふっ、ハイカラだろ?」

「ハイカラって、そういう時に使う言葉じゃないんですよね?」

「…ふふ」

 

 俺と妖精のやり取りを見て、眠たそうに差し入れを持ってきたその艦娘の口元が、僅かに微笑む。

 

 

 

 レ級との戦いの後、この基地に仲間が増えた。

 それがこの目の前ではにかんでいる女性、名を雲龍。雲龍型という正規空母のネームシップ。錯乱したレ級を天龍と二人で唖然として眺めている所を、どこからか突然現れたこの女性が自らそう名乗った。なぜあの場所にいたのか、『失敗作』と呼んだレ級との関係性、そしてどうして俺を提督と呼んだのか?それを彼女に問いかけてみたものの、わからないと、眠そうな表情に僅かに影が差した俯いた状態でそう答えた。分かっているのは、気が付けばあの場所でうつ伏せで倒れていた事、そして何故か、発見したこの俺を『提督』として認識していること。俺は提督じゃない、そう否定している俺の言葉を首を振って、『私は貴方の艦娘です…よく解らないけれど、確かに、そう思えるんです』とそう否定し返して俺の両手を包み込むように掴んでそう言い切った。

 外部から来た者を信用できない癖が抜けていないのか、それを聞いた天龍は最初は訝しんだものの、周りの説得や、艦娘なら所持している筈の艤装を持っていないから仮に敵対したとしても、大した障害にならない事で渋々納得してくれた。まあ彼女の場合、相手が『艦娘』だからなんとか許容できたというのも大きいのだろう。もし彼女が人間だったら、頭から完全に否定して完全に敵視していたのかもしれない。最初の俺みたいに。対照的に電は、特に否定することなくすんなりと受け入れてくれた。まぁ、彼女の性格からして問題はないと思ってたけれど。

 しかしそれはいいとして、先述の通り何故か艤装がないという事がこちらにとっても予想外の事だった。艦娘や深海棲艦が所持している筈の艤装どころか、正規空母の必需品の艦載機はおろか、機銃一つ持ち合わせておらず、せいぜい錫杖型の『仕込み杖』があるのみで、戦闘どころか海に出ることすら不可能だった。一から作るにしても今の設備では満足に作ることは妖精さん曰く困難を極めるという事だし、そもそも設備を修理したり艤装の材料となる『資源』だって満足にないのだ。止むを得ず、未だに怪我や体調不良でベッドから起き上がれない天龍や電、青髪の妖精さんの世話や食事作りなど、身の回りの雑事を任せている。世話もそうだが、食事も凝ったものは無理とはいえそれなりの物なら作れるという意外なスキルには少し驚いたものだ。まぁ、本人はちょっと複雑そうな顔をしていたが、こういう状況なのでという事で何とか納得して貰っている。

 

「提督…『資源』は集まりましたか?」

「う~ん、採れるだけはとってみたものの…」

 

 ちらりと、横目で妖精の方へ視線を向ける。ドラム缶の中の『鋼材』の量を調べていた妖精さんが厳しい顔で首を振り…。

 

「言いにくいんですが…これっぱかしでは到底足りるとは…今回鹵獲した『ワ級』からも燃料とか色々取れるとは思いますけど…流石に修理に必要な分を賄う量となると…」

「ですよね」

 

 雲龍が用意してくれたお握りと沢庵を頬張りながら妖精さんの苦々しい口調に頷く。ん、おかかが入っている。普通に美味いな。というより、母親以外の女性からの『まともな食事』が久々かもしれない。去年喰ったお握り何て、ある物はなぜか冷えた牛脂や炭と化した『ユッケ』がこれでもかと入って脂っこいとか不味いとかそんなレベルじゃなかったし、またある物はなぜか刺身用の生のマグロの赤身やらヒトデやらが入っていて(しかも一晩経過の常温保存)生臭いとかそんなレベルではなく、さらにある物は一味がまんべんに振り掛けられ中身はキムチ入りで、辛いじゃなくて痛いレベルの辛味が入っていて散々だった…その後、家の『白みそ』を食べた時のように動けなくなって、一日学校を休んだのは言うまでも無かった…。美味かったな、看病に来た完二が作ってくれた卵がゆ…あれ、急にお握りの塩気が増したようになった気が…何だろう?視界も少し滲んできたし…。

 ただ一つ言えることは、もう女性陣のお握り料理対決審査員なんて二度とやりたくない…。

 

「提督?あの、お気に召しませんでしたか?」

「いや、美味しいよ。女性からの料理はこうあるべきだと思ったら…ついね」

「?」

 

 お願いだから、そのままの貴方でいてください…主に料理面で。決して素人が料理のアレンジなんかするな。絶対するなよ!!

 

「雲龍さん、艤装はおろか艦載機すらもまだまだ難しいです。申し訳ありませんがしばらく我慢です」

「…零戦もないの…?天山も?彩雲も烈風も?」

「残念ながら…というかどさくさに紛れて無茶なもん要求しないでください…」

「じゃあ、友永隊…」

「あるわきゃねーだろ!!てめぇ話聞いてんかコラァ!はっ倒すぞ!?」

「妖精さんがキレた…」

 

 『鋼材』の入ったドラム缶をバンッ!!と叩きつけて青筋立てる激オコ妖精さん。艦載機の名前を並べられても俺にはちんぷんかんぷんだが、余程KYな事を言われたのだろうか…。

 と、雲龍がロープで雁字搦めになっている『ワ級』に視線を移す。

 

「…この深海棲艦は、提督が?」

「ん?ああ、補給艦というからには何か持っているかと思って」

「…やっぱり苦労した?」

「やけに硬いとは思ったけれど、そこまで苦労はしなかった…あと、何回も言っているが俺は提督じゃない」

「…そう、どういうわけか知らないけれど提督は強いのね…それともこの間見せてくれたあの『異形』の?」

「なぁ雲龍、聞いてるか?」

 

 何か納得したかのように頷くのはいいが、スルーしないでくれ。この子はあれか、雪子以上に天然なのか?偶に俺でさえも考えが読めない時がある…。

 

 

 

 ブチィブチィッッ!!!!

  

『ギィィッァぁァァアァァぁァァあっぁぁ!!!!!!』

「ッ!?」

「わわわっ!?」

 

 

 縄の切れる音と共に、ガラスを引っ掻いたような嫌悪感の催す甲高い奇声が響く。一体のワ級が拘束されている状態で縄を引きちぎる、比較的近くにいた雲龍が驚きで目を見開かせ、妖精さんが情けない声を漏らす。かなり弱らせた筈なんだが、まだそんな余力があったのか!?そうこうしているうちに残る二体も、どこにそんなパワーが残っていたんだ?と疑問に思うようなパワーで次々と拘束を破る。

 

「雲龍っ下がれっ!」

「っ!!」

 

 慌てて傍にあった『得物』を取り出すと身を屈め、短距離の選手がするスタートダッシュのような瞬発力を生かしたスピードで、未だ棒立ちの雲龍を通り過ぎ拘束を引きちぎった『ワ級』へと肉薄する!

 

「うおおっっ!!!」

 

 ワ級の目前にまで迫ると、タンッ!と爪先の力で跳躍。空中で右手で握っていた『得物』——天龍の剣のように刀身が赤い『薙刀』を両手で持ち直す。

 

 

「ハぁッッ!!」

 

 そのままフルスイングで『ワ級』の首目掛けて薙刀を振るう。辰砂のような赤い穂先がワ級の首に触れた瞬間、そのまま首を通過、すぐに勢いがついた首がバレーボールのようにポーンと飛んで行く。手応えは、殆どなかった。まるでスーパーのハムだ。相手の首が予想以上に柔らかかったのか、もしくはこの薙刀の刃が予想以上に鋭かったのか。

 首を失ったワ級に背を向けたまま膝から着地、右手に持ち直した薙刀を思いきり一振り。刃についた血とも体液ともとれる黒い液体がぴぴっと飛んでいく。それに合わせて、首と力を失ったワ級の胴体が重力に従って、ゆっくりと倒れこんでズドンと、部屋の中で地響きを轟かせる。

 

 

「…イザナギ!」(カッ!)

 

 残る2体に背を向けたまま、右手に意識を集中。現れたカードを素早く握りつぶして、矛を持ったイザナギを向かわせる!

 

「ね、燃料に引火するから電撃は駄目ですよぉー!?」

「承知だ」

 

 敵に脅えているのか、もしくは燃料が駄目になるのを恐れているのか、妖精の上ずった声に答えると同時に、イザナギが敵に向かって行きながら刺突の構えをとる。一体に近づくと同時にフェンシングのように素早く胴体に向けて矛を突き出し、刺さったと同時にワ級の体半分を横薙ぎに裂いて残る一体に向き合う。

 

 

「…ブレイブザッパー!」(カッ!)

 

 残る一体に繰り出したブレイブザッパーが、体の胴体と黒いタンクのちょうど境目をぶれもなく切り裂く。勢い余った斬撃がそのままワ級の体を貫通する。

 

「…『ワ級』のトドメプラス、解体作業これで…完了!」

 

 

『ギャアあアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 戦闘終了の合図とともに、断末魔がバックコーラスのように響く。ファンファーレにしては、イージーすぎるしちょっと趣味が悪すぎだがな。

 やはり菜々子のジュネスソングが一番だ。…電でも可。

 

 

 

 

 

-----------------

 

 

 

 

 

 

 

「…相変わらず見事というか、無茶苦茶なお手前で」

「俺、というよりイザナギの力によるものが多いけどな…それにあの『レ級』に比べたらどうという事はない」

 

 苦笑しながら、薙刀の刃の体液を貰った布で拭く。まさか、拘束を引きちぎる余力があるとは思ってもみなかった。海の上で倒したらそのまま『沈んで』しまうから、何とか生かしてここまで連れてきたが、ツメが甘かったか?鍛えまくって強くなりすぎたから、こういう事は今の『イザナギ』は苦手なのかもしれない。

 苦手といえば、この『薙刀』に関してもそうだ。今まで刀で戦ってきたから、持ち手の部分といい、刃の長さや取り回しといい、どうもまだ使いこなせていない部分もある。慣れるために修練が必要だな。もしくは…。

 

「残りの作業と片付けはやっておきますから、貴方は休んでいてください。戦ったり採取行ったりで疲れたでしょ」

「…悪いけどそうさせてもらおうかな。ただその前に、天龍と電と青髪の妖精の所へ様子見に行ってくる。一日一回の『メディア』だ」

 

 …床に飛び散っている血液とも体液とも取れないような黒い液体はともかく、あの小さな体でどうやってこのワ級の巨体を片付けるのだろうか。

 …そっとしておこう。

 

「…あんまり無茶しないで下さいよ?この基地で一番働いて体酷使させているのは、間違いなく貴方なんでから」

「はは、肝に銘じておくよ…」

 

 

 呆れているような、心配するような妖精の眼差し。そこまで無茶しているつもりはないんだけれどなぁ…三日前以前の時と比べたら。昨日も深夜に窓ふきしてたら妖精さんに…。

 

『こんな時間に何やってるんですか!?あんだけ働いたのにさっさと休んでください!!』

『え、でも、窓が汚かったし…』

『いーから!!私らがやっときますからさっさと休んでください!!つーかその清掃員服どっから手に入れたんですか!?』

 

 …とか言われてすごい剣幕で怒られたし。働きすぎなのかなぁ…。この基地であった事を聞いたらどうにかしてやりたいという気持ちが出てきちゃうし、ここのところはだいぶマシにはなったけれど、三日前以前なんか激動続きだったからなぁ…なんか体が慣れちゃったのかもしれない。

 …社畜体質になり掛けてるな。やばい。

 

「…提督、最悪艦載機はいいから、私にその『イザナギ』をくれたら私が代わりに頑張って戦うけれど…」

「パスで。お前イザナギ欲しいだけだろ」

「くれたら、色々としてあげてもいいけど」

「…………夜はパスで」

「今の空白は何すか?」

 

 妖精のナイスツッコミで、心の中のマーラ様が少し大人しくなった。上目づかいで迫ってくる雲龍にグラっとする衝動を何とか堪え、きっぱりと断る。胸すごいなとか思ってない。思ってないぞ!!

 第一日曜を犠牲にして強化したこのイザナギをホイホイ渡すわけにはいかない。(というか渡せるものじゃないけど)そんなことをしてマーガレットにばれたら即刻、『明けの明星』か『八艘飛び』の刑…最悪『メギドラオンでございます』の刑に処される。死ぬわ。

 

「こ、こうしてはいられない、天龍達の所へ行ってくる!じゃ!!後は頼んだ!!」

「それが終わったらちゃんと休んでくださいねー!!」

「提督、イザナギ…」

「ガソリンスタンドの店員から握手して貰ってくれ!」

 

 …もういないけどな。そんな二人の声を背に駆けていく。

 

 

 

 

 

-----------------

 

 …鳴上さんは逃げるようにこの部屋から去っていった。残されるのは私と、雲龍さんと、液体垂れ流すワ級の惨殺死体…カオスすぎる。火○スの殺害現場か。もしくはマッドな医者の人体実験の場とか。つーかあのひと、本当に休んでくれたらいいんだけれどなぁ。少し目を離すと何するかわかったもんじゃない。

 体育座りをしながら雲龍さんが、あの人の去っていったドアの扉をどこか寂しげに見つめる。

 

「あのひと、ちゃんと休んでくれたらいいんだけれどなー。変なところで真面目なのはいいけど、過労でぶっ倒れたら元も子もないし…」

「そうね…」

「というか貴方も、あまり鳴上さんをからかったり困らせたりしないでください。『ペルソナ』は無理だとしても、艦載機と艤装は資源に余裕が出来たらちゃんと作ってあげますから…」

「そう…」

 

 こちらには目もくれず、生返事で返答を返す。随分態度が違うじゃないか、天龍さんや電ちゃんみたいに感情を出さないタイプだけど、鳴上さんとの会話ではどこか楽しそうにしているのに対してその他にはそっけないというかなんというか…。

 

 

 

 

 …レ級との戦いの後、彼女が連れてきた深海棲艦の死体はすべて回収できた。…あくまでレ級が“連れてきた”深海棲艦は…。

 あの場所には、深海棲艦はもう一人いた。レ級が来るよりも前に単身虫の息で乗り込んできたflagship『ヲ級』。天龍さんが『深海棲艦化』仕掛けた時に遭遇した深海棲艦。鳴上さんからの話ではレ級を除けば、自分と同じような能力を持った存在。提督に保護されてあの場所で気を失っていた筈の彼女が、どこにもなかった。

 代わりに、あの戦いの最中に突然姿を現したのが、以前の記憶がないという目の前の正規空母艦娘『雲龍』。過去の記憶も、例の『ペルソナ』能力とやらも無い状態にもかかわらず、鳴上さんを提督と呼ぶ。

 あの『ヲ級』は“艦娘化”してこの雲龍になったのだ。あの後話し合った鳴上はそう推測している。『轟沈』した艦娘が深海棲艦になるようにあのヲ級も、何らかのきっかけでこうやって『雲龍』という『艦娘』へと昇華していったのだろう。

 しかしだからといって、この人を信用してもいいのだろうか?いくら今は艦娘だといっても元は深海棲艦…今のように、偶に何を考えているのかわからない時がある。ましてや、鳴上さんにとって因縁のあるあのレ級と何らかのかかわりがあったのには違いない。鳴上さんとは別の意味で、目を離してはいけない。恐らく天龍さんも、同じことを考えて最初は仲間にすることを渋ったに違いない…。記憶を失った?本当にそうなのか?その心の中の本音は、一体どこにあるというのだろうか?

 

「雲龍さん、手が空いているのならこっちを手伝ってもらっていいですか?さすがに一人ではちょっと骨が折れるもので」

「………」

 

 相変わらず何を考えているのかわからない表情でこちらに向き直り、やがて立ち上がってこちらに近づいてくる。一応、手伝ってくれるという事らしい。全く、鳴上さんのいう事は素直に聞いてくれてるようだけれど、他の人にはどこかそっけないな…まぁ、働きに関してはいう事はないのだけれど…。

 鳴上さんは色々あったけれど、電ちゃんや天龍さん、そしてかつての基地の仲間たちと同じように信頼している。助けてもらった恩義もある、彼の考えに賛同しない理由はない。

 けれど本当に、この人を信用してよかったんですか?私の心の靄は、この床にぶちまけられた液体の色のように、淀んだまま…。

 

 

 

 




妖精「所で、初の航空戦力が雲龍って、あんたどういう事なんですか?」
鳴上「…そんなに異常なのか?」
雲龍「?」
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