「射的か~」
エリナが最初に目をつけた屋台は、夏祭りでは定番ともいえる射的屋だった
ただ…すっごい奥行きがあるでかい屋台だったけど
「あら?あなた達も来たのね」
「あ、ジーナさん」
先客がいたようだ
防衛班が誇る凄腕スナイパーのジーナさん
普段と違って紫の浴衣に身を包んでいた
ペコリと頭を下げると、ふふふと妖艶に微笑みながら彼女はスナイパー型の神機を模したおもちゃの銃をスチャっと構える
はは…本物じゃないと分かっていても、この人に銃口を向けられるのは怖いな
「射的…楽しいわよ」
「わぁ♪先輩!やろやろ!」
ジーナさんの言葉を聞く前からワクワクして瞳をキラつかせていたエリナだったが、その一言でとうとう我慢できなくなったのか
俺の腕をずるずる引きずりながら屋台の前に移動する
「おいおい。はしゃぎすぎだぜエリナ」
思わず苦笑いを浮かべるが、こっちの声はどうやら届いていないようだった
やれやれ
「元気のいいお嬢さんだね!ほら!これが銃だよ」
気前よく笑う店主のおっちゃんが、ぽいっと一丁の銃をエリナに手渡す
ふむ、このおもちゃはスナイパー型のしかないみたいだな
道理で景品との距離がやけに開いてると思った
このお店の大きさと形にも納得
ちなみにお金は必要ない
今回は一般の方も平等に参加するってことになってる
だからお金を払って遊ぶのではなく、回数制限を設けて万人が等しく遊べる制度を設けているそうだ
つまり外部居住区の配給制みたいなもんだな
「しかし、これじゃスナイパーを扱ってるゴッドイーターの人が有利なんじゃ…」
「それがね…実際の神機とは大きさも反動も照準の位置も全然違うのよ。だから、やってて楽しいんだけどね」
俺の疑問にはジーナさんがそうこたえた
なるほどな…スナイパー専門の彼女が言うのだから間違いないだろう
そのへんは差が出ないように調整済みってわけか
「よし!じゃー…」
テンションの下がらないエリナは意気揚々と銃を構えながらしばらく品定めをしていたが、ギリギリ片手で持てるぐらいの大きなくまのぬいぐるみに視点を固定しグッと握り拳を作った
どうやらあれに決めたらしい
まーたドがつくほど定番のものに目をつけたなコイツは
…俺は特に欲しいものないし、ここは静かに見守らせてもらうかな
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数分後
「…とれなかった」
むすっと頬を膨らませたエリナが、俺を上目遣いで見ている状況が出来上がっていた
あの後彼女は自分の回数分の弾を全部くまのぬいぐるみに使ったのだが、結局ターゲットを手に入れることはできなかった
弾自体は数発当たりはしたものの、ジリジリと商品棚から動くだけで落とす段階まではいかなかったのだ
「んで?その目は俺にお願いしたいってことだろ?」
「うん!」
やっぱりこうなるのか
「よーしよし。じゃーちゃんとお願いしてみろ。ほれ」
「え?…えっと…先輩お願い!あのくまのぬいぐるみとって!」
俺の手をギュっと握り、キラキラと視線光線を放つエリナ
こうお願いされちゃー仕方ねー!
「任せろ!絶対とってやるぜ!」
いつもと違う髪型の彼女の頭を撫でながら、俺はおっちゃんから銃をもらいくまのぬいぐるみに狙いを定めるのだった
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「……ま、無理だよな」
「先輩かっこわる…」
「うるさい」
俺が使える銃弾は残り一発
今までの弾は全てクマの人形に命中自体はさせることができた
が…中心に当ててもビクともしないんだこれが
「おっちゃんこれホントに落ちるのかよ?」
「ああ落ちるとも、既に何人かの挑戦者が手に入れてるからね」
げっ!?マジかよ!
どんな猛者だそいつら
「一人は銃を持ったとたんに豹変してね…腕輪をしていたからゴッドイーターの人だとは思うけど、やたら怖かったなぁ…くまのぬいぐるみを狙っていたわけじゃなくてたまたま撃ち落としたみたいだけどね。『また誤射しちゃいましたー』とかなんとか言ってたから」
すんごい心当たりがあるんだけどその人
「まぁとにかく兄ちゃんの持ち弾はあと一発だぜ。頑張りな。一般人でもやり遂げてたやつはいるからな」
くっ…最後の部分は余計だっつーの
プレッシャーかけやがって
そもそもここじゃーゴッドイーターだろうが一般人だろうが大差ねぇんだから
「…ちょっといいかしら?」
俺が銃を構えると同時にジーナさんが一歩前に出た
「あれ?ジーナさんまだ弾残ってたんですか?」
「ええ…あと一発ね…」
ふふっと笑いながら、彼女はなんとくまのぬいぐるみに照準を合わせた
ま、まさか!
「お手本を見せてあげるわ。隊長さん」
すっと静かに銃口をターゲットに向けると、彼女はゆっくりと引き金を引く
ポンッ!
実際の銃声とは似ても似つかぬ効果音が、佇むジーナさんの姿に似つかわしくなく間抜けに鳴った
俺とエリナはゴクリと息を飲んでその結果を見守る
グラリグラリ…
弾はぬいぐるみの左手に該当する部分に命中して大きく傾いた
「あら、残念」
しかし、落ちるまではいかなくあと一歩というところで台座の上に留まる
「大きな獲物は中心より端から攻めていくのがいいわよ…アラガミの場合もそうすればジワジワ追い詰めていけるから…うふふ」
恐ろしいことを恐ろしい笑みを浮かべながら言い残し、彼女はいままでの弾で堅実に手に入れたいくつかの小さな商品を持ってその場を去っていった
「そんな…ジーナさんにも落とせないのに…」
エリナがボソリと呟く
確かに、彼女ほどの腕があれば残り一発とはいえ落とせたんじゃ…
端を攻めるのがいいと言っていたし…
そう、例えば頭なんかを狙えば落とせたのではないか?
「…っ!」
そうか!
そこまで考えて、俺はハッとした
ジーナさんは俺にチャンスをくれたのだ
頭を狙えとアドバイスを残して…
「エリナ、いけるかもしれない」
「え?」
弾自体は全部当てられたんだ
集中すればいけるはず!
緊張に汗ばむ手を一度拭ってから、銃を構えクマのぬいぐるみに向ける
照準はもちろん頭にむけて…
「…よしっ!」
ポンッ!
ふたたび鳴り響く間抜けな発砲音
トンッ!
「あっ!」
命中した弾を見て、エリナが声をあげる
よし!狙い通り頭にヒットしたぜ!
衝撃で上半身を大きく仰け反らせたぬいぐるみは、その揺れに耐えられず
ドスッ!
「おっしゃぁ!」
棚からその身を投げ出した
ジーナさん!
感謝します!
「お見事!こいつは兄ちゃん達のものだ!持って行きな!」
屋台のおっちゃんが手渡してくれたぬいぐるみを、俺はすぐにエリナに差し出した
「ほら。約束通りやるよ」
「わぁ…♪せんぱいありがと!とってもかっこよかったよ!」
満面の笑顔を浮かべて、彼女はぬいぐるみを受け取り大切そうに抱きしめる
…その嬉しそうな顔を見れただけでもぬいぐるみを手に入れた価値は十分あるが、贅沢を言うならそこ代われクマやろう
「まぁまだ来たばっかりだしな。次、行こうぜ」
「うん!私、ちょっとお腹すいちゃった」
「そうだな、なんか食べるか」
クマを片手に持ち替えたエリナの空いた手を取り、俺は次の目的地へと歩き始めるのだった
ホントはこれを後半にして夏祭りネタは終了させる予定だったのに、射的が想定外に長引いてしまった…
次でうまくまとめたい…!