温泉へ
「温泉旅行?」
「そうそう!ブラッド隊のみんなも明日から長期休暇でしょ?俺達第一部隊も休みだから一緒に行こうかなって」
コウタから相談があると言われラウンジに来てみれば、今度の休暇の話だった
まぁ長期の休暇と言っても2、3日なんだけどな
自分で言うのも難だが現在の極東主戦力でもあるブラッドと第一部隊の全員が同時に休暇なんてことは、フェンリルにとっても不安なのだろう
それこそ、この間の夏祭りのようなイベントでもない限りほぼありえないかもしれない
「滅多にない機会だし仕事が休みのときは思いっきり羽根を伸ばせって言うしな…いいぜ!行こう!みんなに確認とってくるよ」
とまぁ、そういう事情でブラッドの隊員に声をかけて回り、特別な用事があるというメンバーはいなかったので俺たちは全員参加となったのだった
それは第一部隊の方も同じようで、向こうも欠席者がいないということはつまり…
「せんぱーい!温泉だって!私、初めてだからすごい楽しみ!」
最愛の彼女…エリナもいるということだ
「ははっ!そうだな。貴重な長期休暇だ。たっぷり休ませてもらおうぜ」
「うんっ!」
ギューっと腕に絡み付き満面の笑顔を浮かべるエリナの頭をワシャワシャと撫で回しながら、俺は休みの予定に想いを馳せるのだった
出発当日のお昼頃、俺達はラウンジに集合していた
「コウタさーん。温泉って聞いたんだけど、そんなものどこにあるんですかー?」
ブラッドと第一部隊が全員集合している中、ナナが手を高らかに挙げながら陽気に質問する
「お前…話聞いてなかったのかよ」
「え?たいちょーは知ってるの?」
「当たり前だろ」
まったく…昨日休暇中の予定を聞いたときに言っておいたはずなんだがな
その背中に担いでるでっかい袋の中身が、まさかおでんパンだけだとか言い出さないだろうなコイツ
「聖域に露天風呂ができたんだよ。実際にはまだ見てないけど…だから今日の目的地はそこだ」
もう一度、念のためナナ以外のメンバーにも聞こえる声量で俺は今日の目的地を伝える
聖域が発現してからすでに短くはない月日が流れ、あのアラガミに荒らされる心配がない場所は人々が安心して暮らせるよう日々開発されていた
その結果、なんと温泉を掘り当てたということらしい
まぁ俺もこの情報は昨日聞くまで知らなかったのだが
「露天風呂!たっのしみぃ~!」
「そうですね~。今のご時世、外で入浴できる機会なんてそうそうありませんからね」
目的地を理解したとたんハシャギ始めるナナにシエルが笑顔で同意した
そりゃそうだ
屋内にいたって安全とは言えないのに、アラガミどもが彷徨いてる外で風呂なんてまともな思考じゃないもんな
「そうそう!だから今日はゆっくり日頃の疲れをとろうぜ!な!たいちょーさん!」
コウタに肩に手を回されながら、俺は胸の前で小さな握りこぶしを作り落ち着きなく小刻みに動くエリナに微笑ましい視線を送っていた
「とうちゃーく!」
聖域まではヘリでひとっ飛びであっという間だ
トンっ!と地に足をつけ、座りっぱなしで固まった体をほぐすべくググッと背筋を伸ばす
この時期ということもあり、若干肌寒いがここに来た目的を考えればちょうど良いぐらいだろう
「それじゃーまずは荷物とかを置いてこようか」
全員降り立ったあと、コウタが指差しながらそう言った場所を見てみると、ふた組の木造の小屋…というよりもペンションといったものに近い建物が建ててあった
「へぇ…こりゃ立派だな…」
近づいて見てみると、予想より遥かに大きな規模だ
前にカレーパーティーをやった時に建てた小屋の2倍近くの大きさはあるだろう
内装もこの分だと余裕があるに違いない
普通に考えて男女別だとしても比率の多い俺達の方でさえ6人…ははっ、贅沢な使い方ができそうだ
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「…っしょっと!」
聖域に建築されていた、今日から少しの間だけどお世話になるペンション…と言われていた建物
その中の一室に持ってきた着替えやら何やらの荷物を置いて、私は一息ついていた
爽やかな樹木の香りと、大きな窓から見える緑豊かな景色にアラガミの蔓延る世界だということを忘れてしまいそうになる
ふふふ…なんかこういう本格的な旅行って初めてだからすごく楽しみ
それにせんぱいも一緒だし♪
うれしいなぁ~
「エリナさん。早速ですが、一緒に温泉…行ってみませんか?」
「えっ!?あっ!はい!」
シエルさんに肩をトントンと叩かれ、私はコクコクと頷きを返した
一応出発前に簡単な予定表が全員に配布されていたが、ほとんど自由行動で決まってるのは食事の時間ぐらいだった
うん!だからせっかく温泉旅行という名目で来ているんだから、一度体験してみるのも悪くない
「わーい!温泉だぁー!」
「ナナ。はしゃぎたい気持ちは分かるが少し落ち着いたらどうだ」
ヒャッホーイ!と元気に跳ね回るナナさんがお風呂道具一式を小脇に挟んで早くも部屋を飛び出し、やれやれとため息を吐くリヴィさんがその後を追っていく
私とシエルさんもそんな二人を見ながらくすっと笑って部屋を後にするのだった
「…ん?よぉ~エリナにシエル。お前らも温泉行くのか?」
「あっ!せんぱい!」
部屋を出たところで、隣のペンションからこちらを見ていたせんぱいがヒラヒラと手を振って挨拶してくれたのに気づき、私はトタトタと彼の元に駆け寄る
「お前らも…ってことは、先輩も?」
「あぁ、せっかくここまで来たんだからな。どうせ夕飯までヒマなんだし」
ポンポンっと実に自然な仕草で私の頭にもたらされる優しい手の感触
何度やってもらってもあたたかい幸福感を体中にもたらしてくれるこの動作が、私は大好きだ
今更言うまでもないけどね
「っ~♪」
だからつい人前だということも本来の目的も忘れてうっとり甘えてしまっていた
「…コホン。それで、君だけですか?ジュリウス達は今どこに?」
シエルさんの咳払いでハッと我に返り、ちょっとだけ恥ずかしくなってそっと身を離す
「あぁ…ジュリウスなら、この間の畑が気になるとか言って様子を見に行ったよ。ちょうどここから近いしな。で、ギルも同じような感じで井戸が気になるとか言い出して…」
せっかくの休暇なのにと苦笑いしながら、先輩はヤレヤレと首を振りながら話していた
「ロミオとエミールさん…それからコウタさんは?」
「エミールなら荷物も置かずに真っ先に温泉向かって行ったぜ。んで、残りのふたりなら…」
彼が親指を立ててグッと後ろに向けるその先へと視線を向ければ、窓越しに携帯ゲームに勤しむ二人の姿が
「温泉はメシ食ったあとゆっくり入れば良いって聞かなくてな。ご覧の有様さ」
ゲームなんてアナグラでもできるのに…
コウタ隊長もロミオさんもあきれちゃうわね
「つーわけで、男性陣で今から温泉行くのは俺だけってわけさ」
持っていた入浴道具を担ぎ直すと、先輩はもう一度だけ私の頭に優しく手を置いた
「お前らこそ、ナナとリヴィはどうしたんだ?あの二人のことだし、コウタ達みたいなことにはなってないと思うんだが」
「あの二人なら私達より少し先に温泉へと向かいましたので、今頃着いているかもですね」
撫でられて再びふにゃりと笑顔を浮かべる私に変わってシエルさんがそう答えた
「なるほどな。んじゃー俺たちもそろそろ行こうぜ」
「あ、うん!」
くるりと向きを変えられて、肩に手を置かれたと思ったらズンズンと歩みだす先輩の動きに押され、私も自然と前へと歩みを進めることになる
「ふふ…本当に仲がいいですね…おふたりは」
その様子を背後からついてきていたシエルさんが静かに笑いながら見守っていた
次から入浴シーンに移行しますよ(ΦωΦ)フフフ…
でもその前にクリスマスネタを更新…ですかね(´・ω・`)