目指すは超サイヤ人   作:ひつまぶし。

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 久し振りでございます。内容は期待しないでね。

 本当は十月のブルーレイ出るまで投稿しない予定だったけど内緒で。






第十三話 押し寄せる異変の波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 構えを取り、動いて再び構えを取る。流れるように拳を突き出し、円を描くように足を回す。この動作において精神を落ち着かせ、気を静める。

 悟空から教わった演舞は亀仙流、昔の亀仙人に弟子入りした際に学んだ舞らしく、不思議と俺に合って精神と荒ぶる気を落ち着かせる効果が望める。何度もそれを繰り返していると、美しき舞に昇華される。以前に見せてくれた悟空の演舞は金を取れるほど美しいと感じたのが何よりの証拠である。

 普通なら気を荒ぶらせ、怒る事で全力を出せる。赤いサイヤ人の場合だとその逆、完全に心を落ち着かせる事で目に見えぬ力を引き出せる形態らしく、最近では日課になっている。

 

 

「わふっわふっ」

 

 

 パタパタとノキが尻尾を揺らしながら合いの手を打つように嬉しそうに鳴く。犬のようにお座りしながら演舞を舞う俺を楽しそうに眺めている。

 相変わらず人の声は発せないが、何となく心は通わせられる。今は演劇を楽しむ気持ちでいる。そろそろ人の言葉を覚えて欲しいんだけどね。テレパシーだけではどうしても会話のやり取りに不便だ。

 

 演舞をしている最中、うっすらとオーラが出てくる。完全な赤色になったと思えば、少しずつ金色のオーラも混ざり始めて綺麗なオーラになってきた。心を落ち着かせる度に美しいオーラへと変わるのは赤いサイヤ人の真の姿に近付いている証拠なのだろうか?

 ババッと片足を上げ、右手を下げて左手を上げる構えをして演舞は終結させる。トトン、とステップを刻んでボクサーのように構える。オーラは消えず、ゆらゆらと陽炎のように揺らめく。

 

 

「ちょあっ」

 

 

 ボビュッと音が立つ。目にも止まらぬ速さで拳を突き出せば轟音と共に、離れた位置にある壁が陥没して中心に拳の形ができる。

 マジか。何度見てもマジか。俺の腕が伸びたわけでもないのに離れた場所を殴れるとは普通は思わんよ。悟空が天下一武道会でチチを吹き飛ばしたみたいに拳撃が飛んだりしたと考えるのが最も考えられる事だろう。

 

 

「ふふっ。凄い凄い。流石はぼくだね……っとと」

 

 

 口を叩き、頭を叩いて正気を取り戻すように調子を整える。どうも赤いサイヤ人になれるが、まだ口調やら性格は矯正できないようだ。

 赤いサイヤ人モードは悪人絶対滅ぼすマンとも言える正義を過信するめんどくさいモードでもある。前に悪人を相手にすると拷問して苦しめるように甚振って消した事がある事が本当にめんどくさい。悟空達の超サイヤ人第一形態に似た副作用なのだろうか。

 悟空と悟飯のように超サイヤ人状態を慣らすのを真似して赤いサイヤ人を慣らそうと考えたが――。

 

 

「いぇぁー」

 

 

 へにょへにょと体から力が抜けてへたり込む。クウラの時と同じようにパワーダウン現象を起こし、欝に似た状態になりながら床にうつ伏せで倒れた。

 その隙を待っていた、とばかりにノキが馬乗りになって顔面をprprしてくる。ペロリストに成り果てた彼女のprテクニックは凄まじく、prprしながら俺の口をこじ開けて舌をprprしてくる。普通の女の子が相手が良かった、と思ったが美人だし、相手も期待できなかったからノキが相手でも良いかーとなされるがままにしておいた。

 

 ……しまった。思い出したが、クウラに時計を壊されていたんだった。これではブルマの作ってくれたビーコンの場所まで行けないではないか。

 赤いサイヤ人へ至る方法を何となくわかっていまったせいで修行の時間を増やしたせいでもあるが、先に連絡をするべきだったか。これでは悟空を馬鹿にはできない。修行に割く時間を増やして家族サービスを怠る悟空のようじゃないか。俺は。

 

 

「わんっ」

「そんなに舐めるのが好きか」

 

 

 舌を出してハッハッと息を繰り返すノキの顔が間近にある。赤いサイヤ人の副作用なのか、変身の最中は力が溢れるのに対して変身が解けると脳からの伝達がカットされているのではないかと思えるくらい一切の力が入らずに脱力状態に陥る。

 つまり、この状態だと赤子でも好きにできるほど抵抗力がなくなる。何をされようとナニをされようと抵抗も許されないのだ。この欠点だけはどうしても改善できない。

 大体は七分ほどで脱力状態から回復する。ゆっくりと力が戻り、元の状態に戻る。それを何度も繰り返していると体が慣れるのか、回復までの時間は変わらずとも脱力の度合いが軽くなるのだ。この調子なら脱力する事はなくなるはずだ。

 

 

「エリン様。準備ができましたが……」

「ふぐにいみゅー」

「はあ。よろしければお助けしましょうか」

 

 

 馬鹿。それはフラグだ……と言う前に忠誠心を示したそいつは、ノキの体に手を付けた瞬間に吹き飛んでしまう。バウバウと威嚇する彼女は四つん這いになりながら彼女から見て邪魔者を排除しようと構えている。何なんだよもう。

 

 

「ノキッ!」

「わうーん」

 

 

 叱り付ければ萎縮して伏せるノキ。尻尾も丸まって小さくなるのを見てしまうと、どうしてもノキを女性としてではなくペットとしてしか見れなくなる。仕草も犬っぽいし。

 様々な遺伝子を組み込んだらしいが絶対犬とかそこら辺の動物の遺伝子だけ組み込まれていないのではないかと思えてならない。俺、エリンの遺伝子も混ざっていると書いてあったが本来の俺はこんな感じなのか、と落ち込むしかない。

 赤いサイヤ人の練度が高くなるのを感じてはいるが、このノキと付き合う事を考えればメリットとデメリットは両立しているよなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、地球に向かう事にした。ノキは無論、お留守番。あんなのを皆に見せれば勘違いどころか地球人組がボコボコにされて仙豆の数を減らす事になるのは目に見えている。

 

 

「じゃあ、もう人造人間は破壊したわけ?」

「そうらしいわ。直接見たわけじゃないからわからないけど悟飯くんはそう、と言ってたわ」

 

 

 確実にいるであろう、カプセルコーポレーションで仕事をしているブルマの所に真っ先に訪れた。ブルマの仕事を手伝いながら会話を弾ませる。話題の内容はもちろん、人造人間について。

 倒された。と彼女は語る。直接見たわけではないが、その一戦を見ていた悟飯が詳しく語ってくれたらしく、ブルマは取り敢えずの経緯を教えてくれた。簡単に言えば、悟空が無双して19号と20号を破壊したらしい。二対一を引っ繰り返す悟空は多分、もうセルにも勝てるんじゃなかろうか。

 

 あれ? 人造人間を破壊したのはいいけど17号と18号は? 16号さんは動いてないの? 稼働阻止してしまったのだろうか?

 

 

「え? まだ他にも人造人間がいるの?」

「ほら。あの未来から来た奴がいたでしょ? 彼から聞いたイメージには合わない気がするのよ。それに未来で暴れている人造人間はエネルギーが無限で吸い取る機能もないと聞いてたんだが」

「……ちょっとベジータ呼んでくるわ」

 

 

 あれ? ベジータいるの? 素朴な疑問を抱いて素っ頓狂な顔をする。今のベジータなら家に帰らずにカカロット打倒だとか言って家庭放棄状態だと勝手に思ってたんだが。

 それよりも超サイヤ人にはなれるのだろうか。本来なら人造人間の片方をベジータが壊したはずだから変身は出来ているはずなのだが、家にいるのならどうなのだろう。

 ベジータ、ベジーター? とブルマが作業をしながらベジータを呼んでいるがベジータは来ない。あれ、と首を傾ければブルマは笑いながら待ってれば来るわよ、と作業を続ける。手伝っているが何を作ってるのだろうか。

 

 

「うるさいぞブルマ」

「ああ、ちょっとベジータ。お願いがあるんだけど大丈夫?」

「あまり面倒な事は頼むんじゃないぞ。暇じゃないんだ」

 

 

 嘘を言えベジータ。家にいる間は修行しかしないニートヒモだろうが。金を稼いでくれ、養ってくれるブルマを少しでも助けるって事をだな。そう思いながらベジータの声が聞こえる場所に首だけを向ければ――。

 

 

「 」

「……ねえ。少しだけ右に動かして」

 

 

 なん、だと? あれがベジータ? 嘘だ。俺が知っているベジータはまだ家族サービスをしないクソ野郎のはずなんだ。となれば、俺の目が腐っているのだろうか?

 俺の目に映るのは、ベジータ。だがベジータの腕の中にはベジータとブルマの子である赤ん坊のトランクスがいる。まるでパパのようだ。間違いない。俺の目が腐ってるんだ。L状に曲げた腕にトランクスが乗ってるはずはないんだ。そうなんだ。

 思考が完全に停止した。そう言えるほど上の空になってしまった。

 

 

「エリンが言ってたんだけど、もしかしたら人造人間がまだあるかもしれないのよ。ドクターゲロの研究所の場所は教えるから調べてくれない?」

「ふざけるな。それよりもトランクスの世話が大事に決まっている」

「……あのベジータ、ロボット? 偽物?」

「どうやら俺に殺されたいらしいなクソガキ」

 

 

 あ。このキレ芸はベジータだ……って事は本物のベジータなのかこいつ。ありえねぇ。俺が知っているベジータはこんなパパじゃない。ラノベみたいに俺の知っているベジータがこんなはずじゃない、とか言えるわ。

 青筋を立てるベジータから目を逸らしてブルマに向き合う。目で訴えかければその思いが通じたのか、苦笑しながら事情を説明してくれる。

 

 

「ベジータ? ちょっと聞いてよ。この人、超サイヤ人に変身できて孫くんに喧嘩を売ったらあっさり負けてチチさんトコの夕飯をご馳走になった時に美味しい料理が気に入って孫くんに八つ当たりしたらまた負けたのよ」

「某掲示板に草が生え乱れるわ」

「で、再戦する時に孫くんが条件を出してね。家に帰って私の言う事を聞けって言われたからとことん命令してあげたのよ」

「俺の腹筋にビックバン・アタック」

「茶化さないの。で、ベジータには育児を頼んだの。後は逆らわないように、って頼んだわ」

 

 

 もう腹筋が捩れそうです。ベジータのこれの裏にそんな事があったとは、と笑いを必死に堪えて声が出ないように二の腕で口を塞ぐ。ブルマの手伝いをして、抑えている手も笑いを堪えているせいで少しだけ震えてしまい、ベジータにも睨まれる。

 あのベジータが、あのベジータが、と思っているとブルマも同じ考えなのか、大笑いしていた。ベジータはそれを見て顔を赤くし、器用に青筋を立てたままトランクスを抱えていない手を震わせる。

 

 

「笑うな貴様等!」

「いいじゃないのベジータ。丸くなって。今の方が好きよ、私は」

「これからパパータと呼ばせてもらいますね。パパータさん」

 

 

 スッと顔を横に傾ければ、ベジータのパンチが通る。トランクスを抱えたまま殴るに来たのだが、トランクスは何だか楽しそうだ。

 青筋ベジータの顔が一気に近付いた。憤怒といった言葉では足りない怒りを見せる表情をしている。どうやらブルマが弄るのはいいが、俺が弄るのは駄目らしい。うーむ。ここからでもベジータが何となく妻のブルマの優先順位を上にしているのがわかる。結婚してトランクスを生んでからは気付かないだけで大事にしてたんかな。

 

 

「ごめんなさいね。ちょっとやり過ぎましたわ」

 

 

 あまり反省はしていない。今の内にベジータで遊んでおく。

 何だかな、と感じる。悟空と相対する時はかなり緊張したのにベジータは悟空の時よりも緊張感が足りない気がしてならない。やはり王子(笑)の運命なのだろうか。サイヤ人の王子と言う割には良いトコないのがベジータだからかもしれない。

 グミ撃ちの開祖。フラグ建築王子。噛ませ犬っぷりを見せつける超ベジータ。更には戦犯認定もある。

 

 あ。これは駄目ですわ。Zのベジータはそんなもんだから、って言葉で済ませられる御方ですわ。

 魔人ブウの元気玉の時と悟空にお前がナンバーワンだ、って言う時だけが輝いているような気がする。後は劇場版のヒルデガーンから市民を守る時がベストなのは間違いない。

 やっぱりなんだかんだでベジータ好きなんだな、俺。

 

 

「お詫びの印です」

「ふんっ。誰が貴様の――いいだろう。それで許してやる」

 

 

 ちょっと態度を変えようと心に決め、第一歩として俺と悟空が好きな果物を献上した。同じサイヤ人だから多分気に入られるだろうと思い、渡したが過剰に反応をしてくる。びっくりした。

 トランクスを抱え、果汁が溢れないように注意してるところが驚きだ。完全にパパしてる。

 

 

「ひとつ聞きたい。小僧、これをどこで手に入れた?」

「え? 栽培してますけど。美味しかったです?」

「……小僧。この実の価値を知らんようだな。まさに宝の持ち腐れだな」

 

 

 鼻を鳴らして齧った果実を見せてくる。外見がアボカドみたいで、中身はオレンジ色の身の甘酸っぱい感じの美味しさが特徴の摩訶不思議果物。ナメック星とかに生えてそうなデザインをしている。

 懐かしそうに手に持つ果実を回して観察する。どうやら俺の知らないこの実をベジータは知ってるらしい。

 

 

「普通はこれを栽培する事は叶わん。俺達サイヤ人王家だけが口にできる至宝の果実だ。名はないがその味はサイヤ人だけではなく、あらゆる種族の舌を魅了すると言われている」

「そんな大層なものなのかこれ」

「だから宝の持ち腐れなんだ。最高の贅沢と言える物を普通にデザートとして食べる貴様は感覚が狂っている」

「孫くんとチチさんの家にある物を簡単に渡せるようなものだからしょうがないわ。宇宙のセレブみたいね」

 

 

 俺ってセレブだったのか。他人から見れば。

 ジッカ人は確かに宇宙の金持ちって印象があるが、長年付き合っていると感覚が麻痺するらしい。色々と麻痺し過ぎな気もするが。

 そんな大層な物ならじっくりと味わうものかと思いきや、ベジータは残った物を一気に丸呑みにして頬を膨らませる。リスみたい、と表現できるがベジータがやると笑いを誘っているとしか思えない。

 

 

「売れ」

「え?」

「聞こえなかったのか? この果実を持っているのなら俺に売れと言っているんだ。言い値で構わん」

「あー、はい? いくつ要るんです?」

「あるだけだ。保存状態は長く続くから貯め込んでおきたい」

 

 

 スッと手を伸ばして催促する。クイクイと手を動かして急かすベジータだが、そこにブルマが待ったを掛ける。

 

 

「待ちなさいベジータ。寄越せと言わないだけまだマシだけど買うだけの金があるわけ? 時々小遣いをあげてるけど足りる?」

「良い事を聞いた。値段を吊り上げてぼったくろう」

「……ぶ、ブルマ。前借りは」

「トランクスの世話期間の延長と庭の雑草刈り」

「ぐぬぬ……」

 

 

 何このベジータ。可愛いと言うかほっこりするんだけど。代名詞でもある腕プルプルを何度も見れた事は嬉しいが馴染み易いベジータに違和感しかない。

 や。別にタダであげてもいいんだけどベジータに見えないようにブルマが人差し指と親指で輪っかを作って身長を測るような仕草で上に上げるからちょっとからかっただけなのに。完全に尻に敷いてるブルマが恐ろしいわ。あのベジータ相手に。

 カプセルコーポレーションの発明品を使えば庭の雑草くらいは簡単にできるんじゃないか? それなのにベジータに頼むって事は何かの思惑があるのか?

 あ。ブルマからの指示が来た。

 

 

「まあ、今回は初めましてって事で無料で分けます。持っている半分を」

「ふ、ふんっ! 感謝はせんぞ!」

「構いません。久方の贅沢をどうぞ」

 

 

 隠しきれてない喜びを見るとちょっと奮発もしたくなる。まあ、未来への投資と思えば安いだろう。なんだかんだでベジータも悟空並に強くなるし。

 戦いのセンスだけはピカイチってフリーザが言ってた気がする。正しい鍛え方をすれば悟空よりも強くなれる可能性もある事になる。なんか起きそうな大きなイレギュラーの為に強くしておかねば。

 って、今からベジータはドクターゲロの研究所を探しに行くのか。俺も付いて行った方がいいだろうか。

 

 

「ブルマ。暫くトランクスを頼むぞ」

「はいはい。頑張りなさいな」

 

 

 うーん。やっぱりこの夫婦は良いキャラしてるなぁ。良い夫婦っていうかなんていうか。

 

 

「あ。悟空さんも一緒にどうです? もしも人造人間がいるならどっちが先に壊せるかを競えばもしかしたら一対一で戦ってくれるかもしれませんよ」

 

 

 方向を変えるベジータであった。ちょろい。

 

 

 

 

 

 

 





 良きパパ、ベジータ。早めの覚醒。何故かほっこりした。



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