二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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気だるく過ごす日

「ルイズが目覚めた力を『ペルソナ』といい、さっき見せた女の子もまた『ペルソナ』です。ペルソナとは個人の心を守る鎧、誰しもがもつ心の象。今、こうして話している私やエレオノール様の内に在る『異なる自分の姿』」

 

紗久弥はペルソナを入れ換えて、スカアハを召喚する。

 

「私のように様々にペルソナを入れ換えられる人も居れば、一体を進化させて使う人も居る。そして、ルイズは私と同じく、様々にペルソナを入れ換えられる『ワイルド』の力を持っています。ですが……ルイズはまだ一体しか持っていないでしょう。それは単純に、シャドウを倒していないからに過ぎません」

 

「シャドウ?」

 

紗久弥は次いで影時間とシャドウを説明する。

 

エレオノールは、研究所に上がってきている『緑色の闇の世界』の調査依頼を思い出す。

 

それは紗久弥の話す影時間の事だと理解するが、そこによもや化物が潜んでいるとは夢にも思わなかった。

 

そして、そのシャドウ討伐がルイズの成長に必要な事だとも。

 

「悪い冗談にしか聞こえないけれど……事実なのね?」

 

「はい、残念ながら事実ですエレオノール様」

 

「そう……サクヤ、貴方も『シャドウ』と言うのを倒していたの?」

 

首肯で答える紗久弥に、エレオノールは意を決したように。

 

「悔しいわ、おチビの力になれるのが平民の貴方位だなんてね、良いこと?擦り傷の一つ作ってみなさい、ひっぱたくわよ?」

 

「それは痛そうですわ、エレオノール様」

 

「当然よ、痛くするのだから」

 

笑いあい、エレオノールは改めてルイズの事を紗久弥に託し、仕事に戻っていった。

 

カリーヌも公爵を仕事に戻し、ルイズの寝室には四人となる。

 

「ルイズ」

 

「は、はい」

 

緩みかけた空気を振り払うカリーヌの真剣な声。

 

「学院への復帰は来週からとしてもらっています、少しずつ体を慣らすように」

 

「はい、お母様」

 

紗久弥にフォローを頼むと、カトレアを連れてカリーヌも部屋を後にした。

 

 

 

残ったのはルイズと紗久弥の主従。

 

ぼんやりと外を眺めていたルイズだが、ふと思い付いたように。

 

「サクヤ、お願いがあるの」

 

とリンゴの皮を剥く紗久弥に呼び掛ける。

 

「なあに?」

 

「私を、強くしてほしい。暗い心に負けないように」

 

「私に出来ることはやるけれど、最終的に心を鍛えられるのは自分だけだよ。リンゴ食べる?」

 

差し出されたリンゴを食べて、ひと心地。

 

「うん……でも……いざって言うときは助けてね?」

 

「勿論ちゃんと助けるよ、できる限りね?」

 

「そこは言い切りなさいよ」

 

もう、と頬を膨らませてそっぽを向いたルイズの頬に、紗久弥は唇を軽く付ける。

 

「ちょ!?」

 

「ふふ、忠誠の口付けだよ?」

 

「ふぅん……じゃあその忠誠には応えてあげなきゃね?」

 

ルイズの瞳が獲物を見つけた猛禽類のように妖しく艶めき。

 

紗久弥の腕を掴んで引き寄せて唇を奪う。

 

(今度こそ!)

 

三度目の正直とばかりに……

 

「んむ!?」

 

二度あることは三度ある。

 

結局、負けたーー

 

 

 

 

ーーはだけたメイド服を着直す紗久弥に、同じくはだけたネグリジェを直したルイズはついに『それ』を訊いてみる。

 

「あんたのメイド服のポケットどうなってんのよ?」

 

常々思ってきたことである。紗久弥が本格的に自分付きのメイドとして働き出したのはフリッグの舞踏会より少し後。

 

カリーヌから正式にメイドとして働くようにと、今着ているヴァリエール家のメイド服(洗い替え含めて五着)を送られてきてからである。

 

そしてその頃から不可思議な現象を目にすることになったのだ。

 

そう、ポケットから色んな物を出すのだ、明らかにサイズの合っていないような物まで。

 

一番驚いたのは紗久弥の武器がポケットから出てきた時。

 

「あの時はホントに驚いたわ」

 

「あはは、スゴく食い付いてきてたもんねぇ」

 

腰のリボンを結び直して仕度が終わる。

 

「で?どういう理屈よ?」

 

「理屈はよくわかんないの、メニューからアイテム欄開いてるだけだし」

 

もっとよくわからない事を言われた。

 

でも……何故だろう、同じことが出来そう、そんな気がした、ルイズであった。

 

 

 

くぎゅうとルイズのお腹が可愛く鳴ったのは、紗久弥にストレッチをしてもらっていた時。

 

「一週間食べてないから仕方無いね、軽いもの作って持ってくるから」

 

ルイズをベッドに寝かせて、部屋を出る紗久弥。

 

ルイズはとりあえず、寝て待つことにした。

 

本当は本でも読みたかったが、一週間の寝たきり状態と言うのは想像以上に筋力を低下させるようだ。

 

「まさか一人で立って歩くのが覚束ないなんて……」

 

立って歩けない、そんな程ではないが、一歩歩くのにフラフラとしてしまい、紗久弥の支えなしで歩かない方が良いとした。

 

なので、現状出来ることは窓からの景色を眺めるか、天涯を見つめるか、寝るか。

 

その中で一番楽なものは寝る。と言うことで、ルイズは枕に頭をおいて、目を閉じる。

 

 

 

ハシバミのお粥をもって部屋に戻ると、ルイズは眠っていた。

 

(よく寝てる、起こすのは忍びないけど、ご飯は食べてもらわなきゃね)

 

ルイズを軽く揺すって声をかけると、すぐに目を覚ます。

 

「ん……サクヤ?」

 

「ご飯だよ、ゆっくりと食べてね」

 

差し出されたスプーンには、リゾットにしては随分と弛い、米の蕩けた物が掬われている。

 

「これなに?」

 

「お粥だよ、リゾットのように味は濃くないね」

 

恐る恐るお粥を食べるルイズ。

 

結構熱い、だが、舌触りは滑らかで、粒の食感も解る。

 

ほんのり苦い、しかしその苦味は鼻を抜ける息を爽やかにしてくれる。

 

そして確かに薄くはあるが、塩が効いているのだろう、あっさりとした味わいで美味しいと言える。

 

「はい、これで最後だよ」

 

「え……」

 

最後の一口をゆっくりと味わう。

 

咀嚼しながら舌で転がしながら飲み込んで、仄かに温まったお腹と吹き抜ける息がとても心地良い。

 

ミントとはまた違う爽やかさ、この正体は……

 

ルイズはついそれを聞いてしまう。

 

「ハシバミだよ?」

 

「ハァ!?」

 

紗久弥曰く、少量(葉を三枚)を丹念に灰汁抜きしてペースト、それを塩味付けたお粥に混ぜたと言う。

 

信じられなかった、あの苦いだけのハシバミ草が、ほんのり苦い程度の苦味とあの清涼感を出していたなど。

 

ましてや、それを美味しいと感じるなどと。

 

ルイズ・フランソワーズ一生の不覚であった。

 

 

 

それから数日間、ルイズは復学の為に紗久弥サポートのもと、体を健康な状態に戻していった。

 

メシアライザーを使えば一発全快何じゃ?と思うなかれ。身体の衰弱を、体を動かして戻していくと言う行為は、以前よりも体幹の状態を向上させる機会とも言える。

 

そしてルイズは、以前よりも調子が良い気がした。

 

紗久弥は、これからも続けていくからねとルイズに伝えた。

 

正直言うと、紗久弥はタルタロスのようなダンジョンが在ればと思っている。

 

そこがあれば、ルイズをサポートしながら鍛えられるし、お金稼ぎにもなるのだし。

 

(こればかりは仕方がないか)

 

無理矢理自身を納得させて、ルイズの運動を見守る。

 

ルイズは運動をしながら今日までの事を思い返していた。

 

紗久弥を召喚してから、いろいろな事が一気に変わったものだ。

 

魔法以外でどれ程の活躍を見せても、いや、活躍を見せるほど、自分への風当たりは強くなっていったように思う。

 

ただ、魔法をまともに使えないと言うだけで。

 

家族と紗久弥、そして何故かキュルケとタバサだけだった。身近に居て、自分を認めてくれたのはほんの数人の……けれどかけがえのない人達。

 

ルイズの胸に熱い物が込み上げてくる。

 

(最近、泣いてばかりの気がする。けど、悪くないわ)

 

前を向いて、ルイズは軽く汗を拭うーー

 

 

 

 

 

ーー学院への復帰前日、ルイズと紗久弥は再び魅惑の妖精亭を訪れていた。

 

「あの子来てる?」

 

紗久弥はくねくねしている筋肉ムキムキマッチョマン、この店の主スカロンにそう尋ね、首が横に振られたのを見て上の部屋の空いている所で待たせて貰うと言って、ルイズを連れて階段を登っていく。

 

二階の最奥の部屋、そこの扉を小さくノックして扉を開く。

 

そこには『居ない筈の人物』が居た。

 

「はぁい、ルイズにサクヤー」

 

随分軽い挨拶をしてきたのは。

 

「なんと言う挨拶なさっておられるのです姫様」

 

誰あろうアンリエッタである。

 

「良いじゃない、マザリーニも居ないのよ?『お姫様』何てやってられないわ」

 

「左様ですか」

 

深く、深くため息を吐いてしまうルイズ。と言うかため息を吐かなきゃやってられないのだろう。

 

「もー何よーその反応はー」

 

ぷくーっと頬を膨らませるアンリエッタを可愛いと思ってしまい、毒気が抜かれる気がしたが気を取り直し。

 

「で、姫様はどうしてここに?」

 

「貴方に褒章代わりに与える報酬を持ってきたの」

 

機密ではあるが公務だった。

 

「公務だったらもっとしゃんとなさってください!」

 

「嫌よ!言ったでしょう、マザリーニも居ないのよ?思いっきりだらけるの!」

 

公務はついでと言い切ったようなものである。

 

「でね?これが貴方にあげる報酬よ。受け取りなさい」

 

封蝋に花押の刻まれた書簡。

 

それを開いて書かれてある文字を読む。そこには、ルイズ及び付き人である紗久弥にアンリエッタとほぼ同一の権限を与え、証書を呈示された者はルイズに対して速やかに求められた事案を行使する義務が発生する、と言うもの。

 

例えば高級官僚の家に突然ルイズが訪問、面会を求めた場合、如何なる理由をも通せず、面会に応じなければならず。王家が立ち入りを禁じている場所以外は、この証書一枚あれば特に許可なく進入可能と言う、幾らルイズが公爵家の三女であろうとも、あり得ないレベルの権限をこの証書はルイズに与えるのだ。

 

はっきり言ってルイズには過ぎた物なのであるが、アンリエッタは言う。

 

「信じられないのです、城に居る殆どの者を。国を守るべき衛士隊隊長の裏切り、他にも多くの高級官僚と言う立場にある貴族達も……」

 

酷く、悲しそうな呟きは、部屋を行き渡る。

 

「姫様……」

 

「でもね、ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、貴方を始めヴァリエール公爵家は信じています、何があろうと国を裏切らないと……」

 

言って浮かべた微笑みは、少し疲れたように見える。

 

「ルイズ、受け取ってくれる?」

 

「ええ、勿論ですわ」

 

 

 

ーーありがとう、私の最高のおともだちーー

 

 

 

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