二人の『ゼロ』   作:銀剣士

20 / 54
変わった日常にただいま

「ところで姫様、この証書何ですが……折り目一つ『付かない』んですけど?」

 

先程から力一杯折り畳んでは開くを続けてみるも、折り目が付く様子がない。

 

「当然でしょう?それはオールド・オスマンにミス・ロングビル、ミスタ・コルベールお三方。私にお母様、貴女のご家族四人の固定化と硬化を力の限り掛けたのですもの」

 

焼く事も、切る事も出来なさそうである。

 

「後はサクヤに管理して貰えば完璧ね」

 

にこやかにそう言うアンリエッタは何かを思い出したらしく、ぱんっと手を打ち、何処からか麻袋を取り出す。

 

「ルイズ、これ渡すのを忘れるところでしたわ」

 

と言ってルイズに麻袋を手渡す。

 

「これは?」

 

金貨……と言うには膨らみに比べて軽い、しかも角張っている。

 

疑問に思いながら、アンリエッタに開いても?と訊き、首肯を得たので開けてみると、出てきたのは一つの箱。

 

その箱を開くと、中にはオルゴールの機械。

 

ゼンマイを巻いてみるが……

 

「姫様、これ音がしないんですけど?」

 

「ええ、ですがそれは『始祖のオルゴール』アルビオンの国宝です、間違いはありません」

 

危うく落としそうになったが辛うじて堪えた。

 

「な、ななな、何でそんな!?」

 

「ウェールズ『陛下』がサクヤに命を救って頂いた感謝だという手紙が添えられていたのよ、これね。で、その感謝に応えられそうな物が、そのオルゴールだと言う事」

 

「なるほど……『陛下』?」

 

ウェールズは皇子だった筈、アンリエッタが間違える訳がない。そう思ったルイズは訊いてみる。

 

「ああ、貴方が眠っている間にアルビオンでは王位継承の儀が執り行われたの、略式ではあるけれどね。戴冠式はもう少しアルビオンが落ち着いたら行うそうよ、貴方とサクヤは勿論招待するとも、その手紙にしたためられていたわ」

 

ウェールズは皇子から国王になっていた、新体制となったアルビオンがこれからどう変わるか。トリステインとの関係も……

 

「ま、さておいて。ルイズとサクヤの二人は今日付けで私の女官となりました、色々と仕事をお願いする事になります。その際は証書をオールド・オスマンに見せて任務である事を伝えれば公休になりますので安心してください」

 

「はあ……」

 

ルイズは思う、私の日常は何処にと。

 

本当に紗久弥召喚からこっち、日常が大きく変化している。

 

カトレアに関しては予想もしていなかったが。

 

でも、変わらないものもある……筈。

 

「さあルイズ、早速任務です」

 

考えに耽っているといきなりそんなことを言われた。

 

「任務ですか?」

 

「はい、私はここでもう少しだらけていますので、一緒にだらだらするのです」

 

任務とはなんなのか、ルイズは若干痛むこめかみを押さえて、ため息を吐いたーー

 

 

 

 

ーートリステイン魔法学院に戻ったのはアンリエッタ付きの女官になった翌日の夕方であった。

 

「ああ……何だか凄く久し振りだわ……」

 

正門に立ち、ルイズはそう言葉にした。

 

半月近く学院を離れることは長期休講でもなければまずしたことがない、真面目なルイズである。

 

それがアルビオン行きを切っ掛けに、最終的に超法規的権限を持つ王女付きの女官となるに至るとんでもない事態に発展してしまった。

 

ましてやウェールズ国王陛下より『命を救われた感謝』として国宝『始祖のオルゴール』まで賜る等、夢にも思わなかった。

 

 

 

部屋に戻ると。

 

「ハァイ、ルイズとサクヤ」

 

つい昨日聞いたような挨拶をしてきたのはキュルケ。

 

タバサは椅子に腰掛けて本を読み更けている。

 

相も変わらず二人は一緒に行動している、それはルイズに変わらない日常の一つ。

 

それを見てホッとするルイズだが。

 

「主不在の部屋で寛いでるんじゃないわよ」

 

「良いじゃないの、この部屋妙に居心地良いんだもの」

 

「いや、然程変わらないでしょ」

 

呆れながらも何処か嬉しそうなルイズである。

 

 

 

紗久弥の入れた紅茶を啜るルイズ達三人。

 

「にしてもあんたが王都で倒れたって聞いたときはビックリしたわ」

 

「私も起きて家族が集まってたからビックリよ?」

 

それから一週間の間に起きていた出来事をざっくり聞いた。

 

レコン・キスタは崩壊、改めてウェールズ国王主体のもと、アルビオンの再興を目指すと言うのは、アンリエッタが教えてくれた。

 

キュルケが教えてくれたのは主に学院での出来事である。

 

ギーシュが新任の女性教諭に弟子入りした。

 

モンモランシーが新任の女性教諭と作った新作香水が流行っている。

 

マリコルヌとヴィリエが変態王座を賭けて決闘した。

 

等々。

 

「新任教諭?」

 

キュルケの口振りから察するに二人居るようだが……随分と変わった時期に入ってきたものだ。

 

「一人はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール、もう一人はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ」

 

要はルイズの二人の姉である。

 

「何でまた……」

 

「さあ?でもまあ男子諸君は大喜びよ、特にミス・フォンティーヌに目をつけてる男子は多いんじゃないかしら?」

 

いてもたってもいられなくなるルイズではあるが、キュルケの話は続きがあった。

 

やたらとカトレアになつく使い魔に不安を覚えた一部の生徒が、カトレアに対して決闘騒ぎを起こしてしまったと言う。

 

恐らくヴァリエール姓ではない事が災いしたのだろう。

 

だが、健康に不安の無いカトレア。

 

元々水のスクエアの彼女であるし、風の魔法もそれなりに使えるのは母の血だろう。

 

更には母からの戦闘訓練を受け、そこそこに戦えるようになっている彼女。

 

はっきり言ってラインが精々の学院の生徒に負ける要素はなかった。

 

「タバサ何て弟子入り志願した位よ、断られてたけど」

 

「残念」

 

「ちぃねえ様……随分と逞しく……」

 

 

 

 

ルイズが王都から学院に着き、部屋に戻った頃、エレオノールはカトレアの部屋に来ていた。

 

「おチビが帰ってくるのは今日だった筈よね?」

 

不満をありありと顔に出してカトレアに聞いては紅茶を啜る。

 

「ええ、そろそろ戻ってきている頃だと思いますよ?」

 

「なら、どうしてここに来ないのかしら?」

 

居るとは知らないから、とは思いも付かない様子に、流石に苦笑を浮かべるカトレア。

 

(……少し嫉妬しちゃうかな?)

 

思えば病が治る以前から、エレオノールにルイズのことばかりを聞かされていた、殆どが愚痴ではあったが、それだけ気にかけていると良くわかった。

 

自分の体も気にかけてくれてはいたが、何処か触れないようにしていた気もする。

 

ぶつぶつと呟き続けるエレオノールを見かねて、カトレアはルイズの部屋に行ってみることを提案すると、エレオノールは紅茶を飲みきって勢い良く立ち上がり。

 

「いくわよカトレア!」

 

 

 

ゾクリとした。

 

「どうしたのルイズ」

 

キュルケ達が部屋に戻った後、姉達に挨拶をしに行こうとドアノブを捻った所で、激しい悪寒に襲われたのだ。

 

「う、ううん、何でも……」

 

改めてドアを開けようとノブに手を……伸ばすのを紗久弥に止められた。なぜと訊く前にルイズはドアから離されて瞬間、ドアが開いた。

 

「あ……姉様!」

 

「戻ってきているのなら、真っ先に私達の所に挨拶に来るものではなくって!?」

 

出会い頭に頬をつねり上げられる。

 

「ひ、ひまひっひゃほほろへ、いまはらほあいはふにふはうほころはっはのへふ……」

 

「今知ったところで、今からご挨拶に向かうところだったのです、と申しています」

 

紗久弥の訳を訊いて、エレオノールはルイズを解放する。

 

「……そう言えば知らせていなかったかしら?」

 

カトレアに振り向くと、首肯で返ってきた。

 

「……お昼に門前で待っていたのです」

 

「馬車の手配が遅れてしまいまして……」

 

馬で戻ろうと思ったが、それは紗久弥に止められたそうで。

 

エレオノールは自分がつねり上げた場所を優しく擦る。

 

「と、ともかく、良く戻りましたルイズ」

 

誤魔化した、カトレアと紗久弥の心が無駄にシンクロした瞬間だった。

 

 

 

「あら、美味しい」

 

カトレアが誉めたのは紗久弥の作ったクッキー。

 

作ったのはトリスタニアでルイズのリハビリをしていた時である。

 

「ふうん、流石だわ」

 

エレオノールは気に入った様で、結構手が進む。

 

「姉様、少しペース早すぎますよ?」

 

「また明日作るよ」

 

ルイズの隣に控えた紗久弥の言葉を受け、エレオノールは自分にも作りなさいと伝え、カトレアもお願いした。

 

それを快く承けて、紗久弥は微笑む。

 

「所でサクヤ、ちょっと来なさい」

 

ティーカップを置いて、エレオノールは控える紗久弥に声をかけ、手招きする。

 

招かれるまま近寄ると、エレオノールは紗久弥を改めて見つめ、ため息を吐く。

 

「エレオノール様?」

 

「それよ、それ」

 

「はい?」

 

何だろう、そう思っていると、エレオノールは紗久弥からの自分に対する態度が些か堅いのではないかと言う。

 

「もう少し砕けてくれて良いわ」

 

「私への態度も砕けてくれて良いですよ?」

 

カトレアもどうやら同じ事を思っていたようだ。

 

「しかし……」

 

「あら、ルイズやお母様とは十年来の友人のように振る舞っているのに?」

 

カリーヌとの関係は極力秘密にしていたつもりだが、どうやらばれていたようで。カトレアは『構わないでしょう?』と。

 

「口調も私達だけの時は砕いて良いですよ」

 

「カトレア、幾らなんでもそれは……解った、そうねサクヤは公私の区別をしっかり付けれる様だし……私も……」

 

十も年が離r

 

 

頬を赤く染めて、エレオノールも友人のように接するように伝え『親しい友人はエルと呼ぶ』と言い、紗久弥にもプライベートな時はエルで良いと言う。

 

それに食いついたのはルイズである。

 

「私でさえそんな風に呼んだこと無いのに、サクヤだけズルいです姉様!」

 

それを訊いてエレオノールは半ば呆れた風に、貴方も好きに呼べば良いじゃない。と言う。

 

そして、ルイズは。

 

「え、エル姉様……」

 

顔を真っ赤にして上目遣いでそう言った。

 

 

ーーカトレア嬢はその時の様子を語ってくれたーー

 

「ええ、あの時は本当に驚きました。父譲りの厳格さ等はなりを潜めて、姉様はルイズを……ああ、あれが猫可愛がりと言うんでしょうね、とにかく引き剥がすのが大変でした(笑)」

 

「引き剥がしてもルイズを抱き寄せようと手を伸ばすんです、亡者が生きている者を求めるように」

 

「ええ、恐らく『厳しい姉』の仮面が剥がれちゃったんですね、これ迄可愛がってこれなかった反動なんだと思います(笑)」

 

 

 

 

何とかエレオノールを落ち着かせた紗久弥は肩で息をしていた。

 

「ルイズ、髪梳いてあげるからベッドから出ておいで」

 

ちちち……と、カトレアは猫をあやすように、ルイズを呼ぶ。すると布団から顔を出して、辺りを伺い、恐らくエレオノールを探しているのだろう。

 

姿が見えないと、ホッと息を吐いてベッドからのっそりと出てくる。

 

「うう、えらい目にあった……」

 

「取り合えず姉様はサクヤがたしなめて居るから、安心してね?」

 

「は、はい……」

 

髪を梳かれ、漸く一心地ついたのか、ふぅ……と息を吐いてルイズは改めてカトレアに質問する。何故学院の教諭となったのかと。

 

「そうね……私が生徒として、ここに通ってみたいと言った事に端を発するかしら」




カトレアさんに関しては強化してますが、強化になってんのかな?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。