二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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母は尚強く

「流石に、全力のお母様を止められるのはお父様位だけれど、サクヤなら貴方の呼び掛けで止められるでしょう?」

 

割と、とんでもない事をさらりと言ってくれるカトレア。

 

全力でと言った、言ってくれた。

 

手合わせの範疇では、最早足りなくなったのか、はたまた紗久弥をライバルと見なしたか(とうにライバルと見なしている)、何れにせよあの『烈風』が『全力』で戦う以上、遠目からでも解るだろう。

 

「学院近郊が荒れ地になる前に行きましょう、ちいねえさま」

 

 

 

 

ルイズとカトレアは竜巻を目印に馬を走らせる、だが時折爆発音も聞こえる。

 

『最近、サクヤに魔法を使わせられるようになりました』

 

カリーヌからそう聞かされ、心底驚いたのは最近の事。

 

余程相性の悪い相手やルイズ達の手に負えない相手でない限り、紗久弥は殆ど武器で戦っている。それだけ実力に差があると言う事で、ルイズ自身いつかは全力の紗久弥と戦ってみたいと言う思いはある。

 

今、それはどうやら母親に先を越された様ではあるが、あの母親なら仕方ない。

 

「そろそろ着くと思うのだけど……」

 

カトレアの呟きに応えるように、新たなカッタートルネードが発生、同時に同規模の竜巻が起こり、相殺してしまう。

 

その光景に唖然とするルイズとカトレアの元に、各々の竜巻を生み出した術者二人、紗久弥とカリーヌが悠々と歩み寄る。

 

「二人ともどうしたのです?」

 

環境破壊を止めに来た……等とは言えないので、紗久弥を呼びに来たと伝えると。

 

「もうそのような時間でしたか」

 

杖を兼ねる予定のマサカドの刀(紗久弥が真宵堂で作った)を鞘に納めるその手捌きは、実に様になっている。

 

「ごめんねルイズ」

 

紗久弥も武器を納め、ルイズに寄り添い笑みを向け、一言そう口にした。

 

「べ、別に良いのよ?お母様と手合わせしていたのなら仕方ないし……」

 

主従のやり取りと言うより、まるで恋人か夫婦のようなやり取りを見て、カトレアもカリーヌも思わず苦笑を溢す。

 

「そ、それじゃ、学院に戻るわよ!」

 

 

 

 

チャリ……

 

 

 

 

学院に戻ったルイズ達は、一先ず入浴する事にした。ルイズは紗久弥の入浴も貴族風呂でと言いはしたが、紗久弥は仕事柄それは出来ないとして、控えるに留まった。

 

実家であれば……とルイズは思う。紗久弥の立場を知りつつも、否、知っているからこそ、紗久弥……平民への特別視を嫌う貴族は狭い学院には少なくとも居る。

 

強権を振るって立場を認めさせることに意味はない、そんな事はルイズ自身が忌み嫌う。

 

「貴族と平民、その格差……ううん、差別……か」

 

いつ以来だろうか、この様なことを……と、ルイズは思う。

 

幼い頃、良く遊んでいた女の子が居た、黒い髪の少女で、名はシエスタ。

 

気立てはいいが、お姉さんぶった女の子。

 

けれどある日姿を見せなくなり、母に聞いてみると。

 

『平民には平民の暮らしがあるのです、ルイズ』

 

そんな言葉に納得はいかなかった、だからこそ踏み込んで聞いてしまったのだ。

 

暫くの沈黙の後、母は一つ溜め息を落として口にする。

 

『あの娘の奉公の期間は終わったのです』

 

当時4歳になろうかと言うルイズに、少し難しいと思えたカリーヌだが、意味は伝わったのだろう今生の別れのように思えたのか、それから数日ルイズは外に出ずに過ごしたのだった……と言うことをつい最近思い出し、シエスタに聞いてみたところ、本人であった事にルイズは喜んだ。

 

そして、学院卒業後改めて専属として雇いたいと伝えると。

 

『サクヤちゃんだけでは足りないと?』

 

と良い笑顔で言われたのが何故かうすら寒かったのを思い出す、雇用の了承は得たが。

 

 

 

 

紗久弥の用意した夕食を摂り、入浴を済ませ部屋に戻る……前に、ルイズは紗久弥と共にロングビルの部屋を訪ねていた。

 

「棋譜抜きでサクヤとですか?」

 

「ええ、目標二人が競うのを是非と思いまして」

 

見取り稽古、と紗久弥が提案したものである。勿論、格闘術等のものとは違い、その駒の動きから如何な思考をしたかを想像し、自身の描く駒の動きとの擦り合わせを行いながら、更なる展開を求めていく事となる。

 

これはルイズの頭脳を見越しての事、尚検討とは異なる模様。

 

「明日の仕度も御座いますので、一局で良ければ」

 

「勿論構いませんわ」

 

 

 

 

始まった対局は静かなものだった。

 

駒が動かされる音のみが部屋を支配する程に、静かなものだった。

 

盤上の思考はルイズには解らない。

 

次の手は既に打たれているのだろう、二手三手先も恐らくは。

 

二十手程進んだ所でロングビルは投了してしまう。盤面で進んだ手は序盤まで、だが二人の思考は最終局面を迎えて投了となったのだと、一手一手駒を進めながらロングビルは笑う。

 

その駒の進みに淀みはない、ルイズはそんな異常とも言える光景をそれでも賢明に記憶していく。

 

「ココで、私の投了……と」

 

チェックを掛ける前、ロングビルは勝ちの目無しと判断したのだと言う。

 

「宿題、にしましょうか」

 

如何な攻防の果てに投了と読みきったのか、ルイズの目に映る盤面は投了に至らないようにしか見えないそれから、そこに至れと課題を出されてしまう。

 

「期限は……そう、ミスがガリアに向かう前日と言うことで」

 

 

 

部屋に戻り、ルイズは着替えてベッドに座り紗久弥の着替えをぼんやり眺める。

 

(むう……見慣れたとは言え……ホント綺麗ね……)

 

ペルソナの補正があると言え、母と対等以上に闘えるようには到底見えない。

 

(いや、お母様も大概アレだけど)

 

「何、ルイズ?」

 

着替え終わった紗久弥はルイズの隣に腰掛け、ルイズを膝枕に寝かせる。

 

「ううん、何でも……そうだ、ねぇサクヤ、何時の間にお母様は本気を出すように?」

 

「んー……あれ、まだ全盛期には程遠いって言ってたよ」

 

ルイズの思考は確実に数秒の時を刻むことを忘れてしまう。

 

紗久弥の話では、戦う度にかつての自分に戻るような気がしているのだと。

 

事実カリーヌ自身、力はかつての頃のように洗練され、強くなっているという自覚がある、そう紗久弥は聞かされたと笑う。

 

我が母の事ながら、底知れない強さに呆れるルイズであった。

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