二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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せめて、その日まで

ルイズと紗久弥は馬車に揺られて、ヴァリエール領地への街道を進む。

 

ゆっくりと流れる景色を二人で楽しむ為にと、今回ルイズは学院付きの業者に依頼して手綱を取って貰っている。

 

「ねぇ紗久弥、あんた何か隠してる?」

 

「んー胸がちょっと成長した……位かなぁ?」

 

その言葉にルイズは脊髄反射的に紗久弥の胸を鷲掴んで揉み、愕然とした。

 

だが、本来の体ではない紗久弥の体。

 

それが成長(変化)したと言うのが、ファルロスからしても驚くことではあった様だ。

 

(流石は奇跡の体現者……なのかな?)

 

 

 

 

ひとしきり揉まれた紗久弥は疲労を隠せず、ルイズはツヤツヤしながらへこんでいた。

 

「うう、ルイズに辱しめられた……」

 

「全く……なんで成長してんのよ……私なんて……」

 

なだらかな丘を擦る姿は哀愁を誘う。

 

ああ、あの山脈が自分にあれば。

 

そんなどうにもならなさそうな事が、自身の夜の行動に影響を及ぼし始めたのは、ルイズの記憶に新しい。

 

(キュルケに聞いたバストアップ法、間違ってるんじゃないでしょうね……)

 

曰く『愛する方に揉みしだかられれば大きくなる(って噂よ)』最後は何と言っていたかは分からなくなりはしたが、善は急げと紗久弥に胸を揉むように『命じた』のだが……

 

(うーん……このひんそーでちんちくりんな我が体……もうちょっと体鍛えた方がいいのかしら……紗久弥ってばああ見えて結構筋肉質なのよね……)

 

思い起こせば始めてお風呂に引きずり込んだ日の事である、一見して女性らしい柔らかな曲線を描く紗久弥の肉体は、その実ふとした動きで曲線を演出する脂肪の下の筋肉を浮かばせた。

 

二の腕を触れば意外と硬く、腹筋もあまり目立たないがパックになっている。

 

『これでも鍛えてるから』

 

と笑顔で言われれば、自分もと思わざるを得まい。

 

シャドウとの戦いで鍛えられていく物とは違う、自己満足の為のトレーニングは、未だに成果を見せてはくれない。

 

 

 

ヴァリエール領に入ってすぐにある村で一泊する、と言うかしなければ強行軍になってしまうとルイズに言われ、流石に勘弁願いたいと、馬車から着替えを入れたバッグを降ろす。

 

案内された村の中で一際綺麗な建物。

 

ルイズ曰く、ヴァリエール領の村には必ず一軒は建てられている村民の利用する集会所なのだそうで、普段から利用はあるらしい。

 

「良い建物だね」

 

「メイジと平民とで建てたってお母様が言ってたわ」

 

建築の様式までは解らないが、細部に至るまで施された彫刻等は、そのまま美術品としても観ていられる。

 

「フロアの画や彫刻なんかは平民の職人が手掛けたんだって」

 

価値はさておき、以前訪れたマザリーニにしてアンリエッタの私室の美術品もお願いしたいと言われた時、手掛けた職人は畏れ多さから思わず平伏しそうな。

 

しかし折角の栄誉、手掛けた作品は今もアンリエッタの目を癒す物である。

 

「その職人さんは?」

 

「確か……今はここの領内で木彫りの彫刻で生計立ててるって話よ」

 

名誉を得て、それでもなお召し抱えられることを望まず、その彫刻師は平穏を望んだのだろう。

 

こうしてヴァリエール領内における建築関係の仕事を受けつつ、今も何かを彫っているのだろうと、ルイズは語った。

 

 

 

 

村の集会所の一室で一夜を過ごして明くる朝、出立の仕度を終えた頃には村の者達が集い、ルイズと挨拶を交わしていく。

 

紗久弥とも挨拶を交わす者も多く、中には息子の嫁にと冗談混じりに言う者もいたりする。

 

やがて馬車の仕度も済み、村人に見送られて、ヴァリエール城への帰路を行き、城に着いた時は昼をやや過ぎた頃となっていた。

 

出迎えは仕える使用人達とヴァリエール公爵夫妻。

 

「ルイズ御嬢様、お帰りなさいませ」

 

挨拶の中馬車を降り、夫妻の元に歩み寄れば、ピエールは挨拶もそこそこにルイズを抱き上げる。

 

「お、お父様?」

 

「なんだい、私の可愛い小さなルイズ」

 

「流石に紗久弥の前でもありますし恥ずかしいのですが……」

 

紗久弥の方に視線を向ければ、同じように微笑ましそうに見つめる紗久弥とカリーヌの姿。

 

「はっはっは、こうして我が家で愛娘とのコミュニケーションを取るのがささやかな幸せの一つでね」

 

ルイズが学院に入る前は領内各所での仕事に疲れ、癒しが欲しい時など、良くこうしてはルイズが目を回してしまっていたという。

 

「娘の目を回すまで回らなくとも良いでしょうに」

 

呆れたように同意を求められ、ついぞ愛想笑いしか浮かべられない紗久弥に、カリーヌも苦笑で応じてしまう。

 

「さ、いつまでもこんなところに居ないで中に入ってしまいましょう」

 

 

 

 

「……すごいお城だ」

 

王城と比べても何ら遜色のない光景が其処にはあった。

 

屋久島でお世話になった桐条の別荘は歯牙にもかからないだろうその建物は、この世界の公爵、辺境伯とも謂われる家の権力を知るには十分な物。

 

「ヴァリエールの威光は伊達じゃないのよ」

 

ふんすと言わんばかりに胸を張るルイズではあるが、すぐに態度を改め、何だかんだで王家の威光も凄いのだろうと笑う。

 

何せヴァリエール家、今代で男児さえ生まれていれば王位継承権が与えられていた筈なのだが、見事に女児しか産まれなかった。

 

これが幸いしたか災いしたかは解らないが、継承を争う等と言うことにはならなかった。

 

「さ、部屋にいくわよ、着いてきなさい」

 

「あ、うん……一緒の部屋でいいの?」

 

「当然でしょ?」

 

言い切るルイズに、紗久弥はじゃあよろしくと荷物を持ち、ルイズの部屋へと進む、恐らく……最後の時を過ごすその部屋に……

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