さて、クラウドとティファがルフィに同行することになりカーム島を出港した次の日、クラウドはルフィの決定事項で強制的に副船長(仮)、ティファは武道の心得を持っており十分に戦えるということでゾロと同じく戦闘員となった。とはいっても、ルフィもゾロも航海術を持っていないということで結局のところ、クラウドが昔から扱えていた航海術を駆使して船を操縦している。
「お前、海賊の船長のくせに航海術も持ってないのか?」
船のマストに帆を張りながら、クラウドはゴロンと横たわっている麦わら帽子、ルフィに問いかける。
「持ってない!」
「自信満々に言うな」
はっきり言うと、ルフィは何も出来ない。航海術は皆無と聞いたときはそれなのに海賊をするなんてなんのつもりだとクラウドも呆れていた。料理に関してさクラウドも出来ないということでそこはティファが食料の管理をすることとなった。だが、そんな一行は空腹に苦しめられていた。
「にしても、腹減ったな…」
「あ〜あ〜俺も腹減った〜」
『お前が言うな!』
その場にいたルフィ以外の全員の言葉がシンクロした。理由は単純、ティファが旅のために店から持ち込んだ食料をルフィが夜中に皆の目を盗んでこっそり食べていたのだ。結果、大量にあった食料はたったの一晩で姿を消した。
「二日分まで貯蓄した食料まで食べちゃうなんて…ルフィのバカ!だいたいね、食べるにしても限度ってものがあるでしょ⁉︎船長なら船員のことも考えて行動してよね!ちょっと、聞いてるのルフィ⁉︎」
「ご、ごめんなさい…」
そんな船長のルフィは船員であるティファに正座をさせられ説教をされるという、船長の威厳も何もない光景がクラウドの眼前にある。呆れるクラウドにゾロが肩に手を置き声をかける。
「ったく、お互いとんでもない奴について来ちまったな」
「同感だ」
ティファ以外では唯一の常識人であるゾロとは何かと気が合いそうだ。ゾロの方も剣士としてクラウドといつか勝負をしたいと思っており、意気投合している。とりあえず二人とも船に横になると、偶然にも上空に巨大な鳥が飛んでいるのを見つけた。チョコボより少し大きいくらいだろうか。
「わぁ、おっきな鳥……」
ティファも説教を終え、上空に飛ぶ巨大な鳥を見上げる。そこでルフィは何かを閃いたように立ち上がった。
「食おう!あの鳥!」
「え?食べるって、どうやって?」
「俺に任せろ!ゴムゴムのロケット!」
ルフィはティファにそう言うと、両腕を伸ばしてマストを掴むと、ゴムの性質を利用してそのまま上空に飛ぶ鳥にめがけて飛んでいく。ルフィにしては考えたな、とクラウドが感心しながら上空を見上げると、ルフィが逆に鳥に咥えられた。
「ぎゃーっ!助けてーーっ!」
『何やってんだあのアホ!』
本日二度目のシンクロ。そうしている間に大きな鳥はルフィを咥えたまま、まっすぐと飛んで行ってしまう。
「クラウド!ゾロ!このまままっすぐ漕いで!全速前進よ!」
「わかった」
「なんであいつは面倒ごとばかり!」
ティファの指示のもと、クラウドとゾロはそれぞれ左右のオールを手に持ち、全力で船を漕いでいく。男二人が船を漕いでいる中、鳥の向かう方向を確かめていたティファは船の全方に浮かんでいる三つの影を見つけた。
「おーい!止まってくれぇ!」
「そこの船止まれぇ!」
向こうもこちらに気がついたのか、声を張り上げてクラウドたちを呼び止めようとする。ティファも助けてあげたいのは山々だがそうすればルフィを見失う。苦渋の選択だ。
「あれって遭難者⁉︎どうしよう二人とも!」
ティファは困ってオールを漕ぐクラウドとゾロに問いかけてしまう。
「船は止めない!勝手に乗り込め!」
クラウドはオールを漕ぎながら遭難者たちに見向きもせずにそれだけ言う。これには遭難者たちだけでなくティファまで目を見開いた。
「ちょっとクラウド!何無茶言ってんの!」
ティファは反論している中も、船は次第に遭難者たちに近づいていく。そして船が遭難者たちにすれ違う寸前、遭難者たちはなんとか船体にしがみつき船に乗り込めた。それを見たゾロはオールを漕ぎながらへっ、と笑う。
「へえ!よく乗り込めたな」
『ひき殺す気か!』
三人の遭難者たちは揃ってクラウドたちに文句を叫ぶ。すると突然、その中のリーダーのような男が懐からナイフを取り出しクラウドたちに突きつけた。
「おい、船を止めろ。俺たちはあの海賊“道化のバギー”様の一味のモンだ」
「あァ⁉︎」
………数分後、
「あっはっはっはっはーっ、あなたが“海賊狩りのゾロ”さんだとはつゆ知らずっ!失礼しました!」
船を乗っ取ろうとした遭難者、もとい海賊の一味はゾロによってボコボコに粛正された。そして現在そいつらはゾロとクラウドの代わりにオールを漕がせている。
「ったく、テメェらのおかげで仲間を見失っただろうが」
ゾロが寛ぎながら文句を垂れる。船は現在あの位置では一番近いオレンジの町と呼ばれる町に向かっている。
「ねえ、なんで海賊が海に溺れてたの?」
ティファが三人組に尋ねると、三人は海に溺れてた経緯を話し始めた。自分達が襲った商船から奪った金品を、漂流者を装おってある女が騙し取った挙げ句、始めから計算されていたかのようなタイミングで現れた嵐に巻き込まれたらしい。
「へー、海を知り尽くしてるのねその女の子。仲間になってくれないかしら?ね、クラウド」
「やめておけ、泥棒なんて仲間にしたら最後には宝を持って逃げるに決まってる」
ティファの提案にバッサリと切り捨てるクラウド。そうしている間にいつの間にか船は島の船着場に到着していた。クラウドは先に陸地に足をつけるとすぐに船の舫綱を港に付けられた係留柱に掛けておく。
「なんだ、がらんとした街だな……人気がねえじゃねーか」
陸地に降り立ったゾロが言った。続いてティファも船旅に慣れていないためか少しよろめきながら上陸する。
「実はこの街、我々バギー一味が襲撃中でして…」
「どうする、バギー船長になんて言う?」
「そりゃあった事をそのまま話すしかねぇだろ!どうせあの女は海の彼方だ」
三人組の一人が事情説明をしている中、他の二人が口論している。そこでクラウドがため息をつきながら口を開いた。
「ならとりあえず、そのバギーというやつのところに案内しろ。うちのバカがそこにいるかもしれないからな」
「いくらルフィでもそこまでは…」
「いや、あのバカならやりかねないぞ」
三人は今日何度目かの深いため息をついた。
「人をおちょくるのも大概にしろ小娘!ハデに殺せ!」
クラウドたちはバギー一味が根城としているという酒場の屋上に辿り着いたのだが、状況は最悪だ。ルフィは縛られたまま鉄格子に閉じ込められ、正面には大砲が導火線に火がついた状態だ。大砲の前でオレンジ色の髪の少女が武器と思われる棒で海賊たちに抵抗していたが、導火線が大砲に着火する寸前、少女は戦闘を放棄し両手で導火線の火を消そうとした。そんな火を消そうとする少女の背後を海賊たちが襲っていた。
「クラウド!あの子危ないよ⁉︎」
「わかってる!」
ティファにそう答えると、クラウドは疾風の如き速度で海賊たちの間をすり抜け、少女と海賊の前に立ちはだかる。そして、背に吊るした大剣に手を掛けそのまま振り抜くと剣の風圧で海賊たちは吹き飛ばされていった。
「なにーーー⁉︎」
「え…」
突然目の前で起きたことにバギー一味と少女は唖然としていたが、檻の中にいたルフィはクラウドたちの姿を見つけると歓喜の声を上げた。
「クラウドォ‼︎ゾロにティファ!」
「大丈夫か?」
「…ええ、平気…」
「やー、よかった。よくここがわかったなァ‼︎早くこの檻斬ってくれよクラウド!」
ルフィが一人騒いでいる中、クラウドは少女に手を差し伸べ立ち上がらせると、そこへ来たゾロとティファがルフィに叱責を浴びせる。
「お前なぁ、なに遊んでんだルフィ!鳥に捕まったと思えば今度は檻の中か。アホ!」
「本当よ、すごく心配したんだからね!」
「あははっ、わりぃわりぃ!」
仲間との再会にルフィが喜んでるのを他所にクラウドは手にした大剣を振るい目の前にいる赤い鼻が特徴的な男、バギーを見据える。だが、その一方でバギーはクラウドの碧眼を見ると目を見開いた。
「その眼…貴様、まさかソルジャーか⁉︎」
「元、だ。今は一応海賊だ」
バギーの言葉にクラウドはすぐに訂正をする。ソルジャーという言葉に聞き覚えのないオレンジ髪の少女、ナミは目の前の青年の纏う雰囲気が只者ではないということはわかった。
「で、その元ソルジャーが何しに来た?俺の首でも取りに来たか?」
「興味ないね。俺たちはそこのバカを迎えに来ただけだ」
「俺は興味あるねぇ。ソルジャーと海賊狩りを殺せば名が上がる」
バギーはそう言うと、その両手にナイフを持ち器用にクルクルとナイフを回してみせる。クラウドは前に出ようとした時に横から一本の腕がクラウドを遮った。ゾロだ。
「やめとけ、死ぬぜ」
「本気で来ねえと血ィ見るぞ‼︎ロロノア・ゾロ‼︎」
するとバギーはナイフを両手にこちらに駆け出して来た。
「……!そっちがその気なら……‼︎」
それに対してゾロがそれに応戦。三刀流でバギーの体を斬りにかかると、バギーの体はあっという間にバラバラに斬り裂かれ勝負がついた。
「え……?終わり…なの?」
「………うそ…」
「よえーな、あいつ!」
「……」
「……なんて手応えのねぇ奴だ…」
ルフィたちはあまりの呆気なさに呆然としていた。だが、それに対してバギー一味の面子は先ほどからニヤニヤとした笑みを浮かべていた。間違いなく、何かあるはずだ。
「おいみんな!早くここから出してくれ!」
「ああ、待ってろ」
戦闘を終えたゾロたちは鉄格子に閉じ込められたルフィのもとに向かう。鉄格子は頑丈な鉄で作られており、鍵でもない限り開かないようだ。
「ねえ、クラウドならこれくらい斬れるんじゃない?」
「任せろ。ルフィ、少し下がっていろ」
クラウドが大剣でルフィの鉄格子を斬ろうとしたその瞬間、
「ぐ……っ⁉︎」
突然、背後にいたゾロがその場に崩れ落ちた。見ると、ゾロの脇腹をナイフが貫いていた。血が溢れ出し、腹巻きが赤く染まっていく。だが、全員が注目したのは、ナイフを持つ『手』だった。
「ゾロ⁉︎」
「なに、あの手⁉︎」
「どうなってるの⁉︎」
「ぐっ、くそっ!何だ、こりゃ一体…⁉︎」
やはり全員は突然目の前で起きた出来事に理解が追いついていないようだ。だが、クラウドだけはそのありえない現象の正体に気がついた。
「まさか、悪魔の実…!」
「その通り…!」
ゾロに斬られたはずのバギーが、斬られたそれぞれのパーツとともに浮かび上がり、そのまま傷跡も残さず元の体へと合体し復活を遂げた。
「バラバラの実……それが俺の食った悪魔の実の名だ!俺は斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!」
「ひゃー!船長しびれるー!」
「やっちまえーっ!」
「斬りきざめー!」
不敵な笑みを浮かべながらバギーが告げた。それに合わせてバギーの部下たちも騒ぎ立てる。
「バラバラ人間って、あいつバケモンか!」
言っておくが、ゴム人間のお前もあいつと同類だぞ。
「仕方ない、一旦引くぞ!」
クラウドはそう言うと、大剣でルフィの鉄格子をいとも簡単に真っ二つに斬り裂き鉄格子はバラバラになった。ゾロもクラウドの意図を察したのか、迫り来るバギーの猛攻をなんとか凌ぎルフィの方に向いていた大砲の向きを反対側、つまりバギーたちの方に向けた。大砲を向けられたバギー一味はパニックになり、その間にナミが大砲の導火線を点火、砲弾はバギー一味を襲った。その際に起きた爆煙がバギーたちの視界を塞ぐ中、ルフィたち一行はその場を離れた。