バギー一味を撃破した一行はあの後、町長を心配してやってきた町の住人たちに町を襲った海賊だと勘違いされて逃げるハメになってしまった。結局、手を組んだこととなったナミも同行することになり、ナミはクラウドたちの船とは別にいつぞやのバギーの子分から盗んだ小船で共に海を渡っている。
「はぁ、ひどいわね。バギーから町を守ったのって結局私たちなのに……」
手を腰に当てているティファは海を眺めながらぼやいている。どうやら活躍したのに追い出されたことが余程彼女の不満を募らせていたようだ。
「一応海賊なんだ。仕方ないさ」
甲板にくつろぐクラウドはティファをなんとかなだめようとする。超人的な力を持つクラウドでも、やはりティファには頭が上がらないようだ。
「ねえ、そういえばバギーがあんたのこと『ソルジャー』って言ってたけど、それってなんなの?」
そこでバギーの小舟にてルフィの麦わら帽子を修繕中のナミが二人の話に入ってきた。先の戦闘でバギーによって穴を開けられたルフィの宝物といえる麦わら帽子をナミが善意で直すことにしたらしい。クラウドはナミの質問に少し黙ると、やがて口を開いた。
「……『神羅カンパニー』は知ってるか?」
「あ、聞いたことある!確か世界政府公認の巨大企業よね」
ーーー神羅カンパニー。ナミが言った通り神羅は世界政府に開発した兵器や技術を提供することで政府に活動を公認されている実質的に国家を超える財力、世界最高戦力である海軍本部と変わらぬ強大な軍事力を持つ巨大機関である。だが、神羅が本社としているのは“偉大なる航路”のため、辺境な海の“東の海”では神羅の名を知る者は大半ぐらいだろう。
クラウドは神羅について何も知らぬナミに神羅の実態についてその根本から語った。この世界において生物が死せるときその知識・エネルギーを持って星に還っていきやがて新たな命となって生まれ変わる。それこそが全ての理でありこの世界が繁栄してきた由来である。ライフストリームとはその知識やエネルギーを乗せて星に還るのだ。今や“偉大なる航路”での軍事兵器から生活技術まで手広く活動する神羅であるがその根底に存在する『魔晄』とはこの星の命であるライフストリームに流れていった知識やエネルギーを差す。それらを吸い上げ運用しているというのが神羅の活動その実態であるとクラウドは語る。
「ちょっと待ってよ!星の命を吸い上げるって星に還った人の魂も⁉︎」
「ああ、魔晄エネルギーとして神羅に利用されている」
「………」
「………どうした?」
クラウドの言葉を聞いたナミは、何故か怒りを抑えるように手を握りしめ小刻みに震えているように見えた。そんなナミの様子にクラウドは少し気になるがそれは置いておこう。クラウドに呼びかけられたナミはハッとすると、先ほどの様子を誤魔化すように話を戻す。
「な、なんでもない!で、それとソルジャーがどういう関係があるのよ?」
「大まかに言うと、ソルジャーとは神羅が生み出した強化兵だ。ソルジャーになれる者は特別な手術を受けることですべての身体能力が超人的になる」
「ふーん、じゃああんたも神羅にいたってことね」
「元ソルジャーだ。今は神羅とは関係ない」
クラウドはそう言うと、背にした大剣の柄を握りしめる。思えばこの大剣はいつから持っていたのか、クラウドも昔の記憶はあやふやになっているためよくわかっていないのだ。クラウドが知る限り神羅で“あの男”とともに戦場を駆け抜けていた頃にはあったはずなのだが、どのようにして手に入れたのかは全くわからない。それに関してはさほど重要ではないのでまあ気にしてはいない。
「なあなあー、まだ次の島つかねーのか?いい加減肉くいてーぞ!」
そんなクラウドの思考を邪魔するように船首でくつろいでいたルフィが子供のように騒ぎ始めた。こうなるのはよくあることだが、まだクラウドもルフィの高いテンションに慣れていないのだ。そんなルフィに続くように昼寝をしていたゾロもそれに乗る。
「俺も酒が欲しいな」
「それよりも、新しい船でしょ。“偉大なる航路”に入るなら船員の数の少なさとこんな小舟じゃすぐに沈んじゃうわ」
「それも考えて今から南に向かうと村のある島があるからそこで充分な船を手に入れられたらベストなんだけど…」
その後ろでは女性陣二人が今後の予定について会議中だ。こういうのは普通に船長も交えて行うものだが、当の船長があれでは、頼れるのはこの二人しかいないのだ。
「よーし!肉食うぞー!」
「酒も忘れんなよ!」
「あんたらねぇ!」
はしゃぐ二人に対してナミが叱責を飛ばす。そんな光景を眺めながらクラウドはこめかみに手を当てると、思わずため息が出る。
「……先が思いやられるな」
「フフ、でも楽しいじゃない?こうやってみんなで旅をするのも」
「……どうかな」
隣に立つティファの言葉にクラウドは答えを濁すと、そのまま海を眺める。だが、クラウド自身も自分の中で何かが変わり始めていることにはなんとなく感じ取っていた。
それから数分後、一行の船は航海を終え岸壁が立ち並ぶ中に一本の坂道が伸びる海岸に上陸した。長い間海の上に揺られていたからか、陸地に足をつけたクラウドは少し体制がくずれそうになったが、なんとか踏み止まる。
「よーし!着いたー!飯屋に行くぞー!」
陸地についた途端ルフィは威勢良く飯のことばかり。だがいくらクラウドが航海術を少し持っているとはいえ、ナミの見事な航海術がなければこんなに早くもこの島にたどり着けなかっただろう。
「流石は航海士というだけあるな」
「はいはい、褒めてもお酒しか買ってあげないわよ」
「ナミ……流石だな」
クラウドが純粋にナミの航海術に賞賛を送ると、ナミの言葉を聞いたゾロが凛々しい顔でいきなりナミを讃え始めた。手のひらを返すようなゾロの反応ににナミはジト目でゾロを見る。
「現金な奴ね……そんなに買ってほしいならもっと私を敬いなさい」
ナミはそう言って片手でシッシッ、とゾロを追いやる。そしてそのまま地図を片手にティファとクラウドの元に行き今後の作戦会議を開く。
「ナミ、この海岸の奥に村があるの?」
「ええ、小さな村みたいだけど…」
「なら一先ずそこで情報収集だな」
「ならそこに飯屋あるよな!肉!肉!肉!肉!」
「少しは肉から離れろ。鬱陶しい」
会議中に三人の話に割ってきたルフィはクラウドに駆け寄ると、口からよだれを垂らしたままで肉を連呼する。クラウドそれに顔をしかめながらもルフィを押し退けると、先ほどからクラウド達を見つめている気配に視線を向ける。人数は約四人ほどだろうか。
「おい、ゾロ」
「ああ、あそこに四人だろ?」
ゾロも気配に気づいていたらしく、岸壁の上の茂みに指を指すと、
『見つかったーーーーーッ‼︎』
「あっ、お前らー!俺を置いてくなーー‼︎」
ゾロが示した茂みから三人の少年たちが飛び出し、その場から一目散に逃げ出した。その中で一人の青年だけがその場に取り残され無残な叫びをあげていた。特徴というなら、とにかく鼻が長かった。というかそれしか思いつかない。やがて一人呆然としていた長鼻の青年は突然大声を出し始めた。
「お、俺はこの村に君臨する大海賊団を率いるキャプテン・ウソップ!こ、この村を襲うならやめておけ!俺の八千万の部下が……」
「丸見えのウソをつくな」
青年の必死で考えたらしい嘘はクラウドの指摘でアッサリと終わった。嘘がばれた青年は口を大きく開きながらそのまま固まっている。誰がそんなウソを信じるのか。
「ええぇぇぇぇ‼︎嘘なのかーー⁉︎」
……前言撤回。うちの馬鹿がその一人だった。
「お、お前ら…何しにここに来た?」
「安心しろ。俺たちは船を探しにーー」
「あと飯屋‼︎」
「……ついでに何処か飯屋に案内してくれないか?」
おどおどとしながら尋ねてくる青年、ウソップにクラウドは下に来た理由を述べる中、ルフィの強引な要望によって渋々と飯屋への案内を彼に頼んでみた。
「いいぞ、ついて来いよ」
なんと、アッサリと承諾してくれた。信用してくれたからなのか、それともただ単に無警戒なだけか。どちらにしてもこれで村の中に入れるわけだ。ルフィたちはウソップの案内で彼が住むシロップ村に足を運んだ。
ウソップが案内してくれたシロップ村はのどかなところだった。その風景はどこかクラウドたちのいたルーリオ村と似ているように見える。そして一行はウソップの案内によってウソップ曰くこの村で一番の飯屋にて食事を取っていた。テーブルの上にはたくさんの食事、ルフィは肉をガツガツ食いながらウソップと楽しく談笑している。なんでも、ルフィは幼い頃に自分の村に訪れた海賊の中にウソップの父親と出会ったということでその息子である彼に昔の話をしていた。ゾロは昼間から酒を飲みご満悦の様子、ナミとティファは女性陣だけで盛り上がり、クラウドはのどかな村の風景を眺めながらコーヒーの入ったカップを口に運んでいた。
「ね、ところでこの村で航海術を持っている人と大きな船を調達できないかしら?」
「あー、見ての通りここは小さい村だ。残念ながらご希望には添えないな」
ナミの言葉にウソップは少し視線をずらしながら決して目を合わせぬようにしているのか少し挙動不審に見えた。そこでクラウドは少し追い討ちをかけてみた。
「なら、あの丘の上にある大きな屋敷はどうだ?多分金持ちの家だと思うんだが」
「あ、あそこは駄目だ‼︎」
クラウドの言葉を聞いたウソップは真剣な表情でクラウドに怒鳴った。それに全員の視線がウソップに集まると、ウソップは突然何かを思い出したような仕草をしだした。
「あ、あー!そういえば用事を思い出した!ここは俺の顔がきくから、存分に飲み食いしてってくれ!そんじゃ!」
早口にそう言うと、ウソップはそのまま店から駆け出していった。