ONE PIECE 海賊王とソルジャー   作:黒崎士道

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誇りのウソップ

「…行っちゃった」

 

「放っておこう。何か外せない用があるみたいだしな」

 

「みほよふあうほ!ほのひふふへーうへーぼ!(見ろよクラウド!この肉ずげーうめーぞ!)」

 

「まずお前は全部飲み込んでから話せ」

 

ティファはウソップが立ち去った際に開けっ放しにした扉を見つめながら呆然としていた。クラウドの方は大して気にすることもなくそのままコーヒーを飲み続ける。ルフィも肉を、ゾロは酒、ティファとナミは定食とウソップが居なくなっても一行の食事は続いていた。そんな時だった、

 

「「「ウソップ海賊団参上!」」」

 

突然飯屋の扉が勢いよく開くと、そこには三人の子供たちがおもちゃの剣を片手に突入してきた。店主は子供たちをチラッと見るだけでそのまま新聞を読み続けていた。子供たちはルフィ達の元に駆け寄るとそこで止まる。クラウドはよく見たらこの子供たちは先ほど海岸で見たウソップを置き去りにした三人だったことを思い出した。三人ともなぜか頭の形が何かの野菜に似ているような気がした。

 

「お、お前ら!キャプテン・ウソップをどこにやった⁉︎」

 

少年の中で頭がピーマンのような形をした少年がビクビクとしながらクラウドたちに叫ぶ。そんな中で食事を終え腹が膨れ上がったルフィが一言。

 

「ふぅ〜、食ったなー肉!」

 

「「「に、肉ッ⁉︎」」」

 

ルフィの一言をキッカケに少年たちは顔色を青くして震え上がった。多分だが、少年たちはクラウドたちがウソップを食ったのではないかと想像しているようだ。子どもらしい発想というか、なんだかいたずらをしたくなるような反応だ。ゾロもそれを察したのか、クラウドに目を合わせ口角を少し上げると、元々から人相の悪い顔がさらに凶悪になりながら少年たちに語りかけた。

 

「ああ、お前らのキャプテンならーーー食っちまった」

 

凶悪な顔をしたゾロの言葉を聞いた少年たちが涙目になり、側にいたティファに向かって、

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎鬼ばばー⁉︎」」」

 

「えぇぇぇぇぇッ⁉︎なんで私を見ていうの⁉︎」

 

完全に誤解をされ、とばっちりを受けたティファは少年たちに言われたことがショックだったのか、少し涙目になり、隣にいたクラウドを振り向いた。

 

「クラウド〜!私そんなに怖い顔してるの〜⁉︎」

 

涙目のティファにそう言われてクラウドは心臓がドキリと跳ね上がるのを感じた。元々ティファは可憐な容姿とスタイルも抜群ではたから見れば美少女の彼女の涙目に上目遣いはどんな男でも簡単に落ちてしまうほどだろう。クラウドは気恥ずかしさからか、ティファから目を逸らし少し頬を赤くしながら精一杯の言葉を出した。

 

「大丈夫だ。ティファはその、綺麗だ……」

 

「えッ⁉︎あ、ありがと…」

 

クラウドの言葉が以外だったのか、ティファも顔を赤くすると二人とも互いに恥ずかしそうに視線を合わせない。はたから見れば恋人にも見えるかもしれない。

 

「ちょっとあんたたち〜?場所を考えてしてくれないかしらそういうのは」

 

二人とも顔を赤くする中でナミのわざとらしい咳払いは意識をはっきりさせるのに充分だったのか、二人ともすぐにナミに向き直りティファが咄嗟に口論する。

 

「えっ、いや、その、違うの!私クラウドとはそういうのじゃなくて……⁉︎」

 

「はいはい。仲がよろしいのね」

 

「もー!ナミちゃんったら!」

 

ナミにからかわれているティファはナミに必死に言い訳をしている中、気を取り直したクラウドの隣にいるゾロが先ほどからニヤニヤとした面でクラウドを横目で見ていた。

 

「……なんだ」

 

「いや、お前もそんな顔するんだなーーってうおっ⁉︎おい!危ねえだろうが!」

 

最後まで言い切ろうとしたゾロにクラウドは隣に立てかけていたバスターソードをゾロ目掛けて振り下ろした。生憎なことに大剣はゾロの頭をギリギリ掠ったようで髪の毛が数本散っており大剣は床に突き刺さる。

 

「………ちっ」

 

「おい今ちっ、って言ったか⁉︎お前絶対ワザとやっただろ⁉︎」

 

「………何も言うなよ。何か言ったら殺すぞ」

 

「お、おう…」

 

クラウドのとにかく何も言わせぬと言わんばかりの絶対零度の視線にゾロは思わず顔から血の気が引いて身震いをした。もしかしたらこの一味で一番怒らせてはならないのはクラウドかもしれない。

 

それから子供たちに先ほどのは冗談だと改めて伝えると、すっかり本気にしていた子供たちに突然飛び出していったウソップの居場所を聞いてみるとそこに案内してくれると言ったのだ。食事も終えたことでルフィたちは子供たちに村の高台に建つ大きな屋敷へと案内された。だが屋敷の門には屈強な体格の門番が門を守っており、ルフィたちは屋敷の裏手に回った。

 

「うほー!でけぇ屋敷だなー!」

 

「キャプテンがこの時間にいないならここですよ」

 

「因みに何をしに来てるんだ?」

 

「嘘つきに来てるんだ!」

 

聞いてみたクラウドに人参のような頭の少年は当然のように答えた。これには流石にクラウドもどういうことかわからない。ウソップはわざわざ門番がいるようなこんな厳重な場所に忍び込んでまで誰かに嘘をつくのだろう。余程の目立ちたがり屋か、何か深い理由があるかのどちらかだろう。

 

「ダメじゃない!そんなの」

 

「ダメじゃないんだ!立派なんだよ!」

 

「うん、立派だ!」

 

「どういうことだそりゃ?」

 

ナミの言葉に少年たちが反論すると、逆にゾロも聞き返すと少年たちはウソップがこの屋敷に来る理由を話してくれた。

この屋敷にいるカヤというお嬢様は病弱で、その上1年前に両親が病気でこの世を去ったことで塞ぎ込んでいたらしい。そこでウソップがお得意の嘘話でお嬢様を笑わせているらしい。おかげでお嬢様の体は随分元気になってきているようだ。

 

「よーし!なら船がもらえないか頼んでみよー!」

 

「ルフィ、お嬢様の病気が治ってるのはウソップのおかげなんだからね!そこ分かってる?」

 

「よし、頼んでみる!ゴムゴムの……!」

 

ティファの言葉など全く聞いていないルフィ。ルフィは柵に登ると腕を伸ばして地面に足をつける。確か以前もこのような光景を見た気がする。あれは確か…そう、ルフィが鳥を捕まえようとして空に吹っ飛んだ技だ。

 

「お、お前まさか!」

 

「「「腕が伸びたー⁉︎」」」

 

ルフィの意図を察したのか、ゾロ、ナミ、ティファはルフィの体に掴まりついでに子供三人組もルフィの体に掴まった。

 

「お邪魔しまーす!」

 

『うわああああああああッ⁉︎』

 

ルフィがゴムの反動を使って掴まっていたみんなと共に空に打ち上げられた。全員の絶叫が木霊する中、唯一ルフィに掴まっていないクラウドは空に消えていったルフィたちを見上げながら一言。

 

「……なにやってるんだ」

 

クラウドはルフィの行動に呆れながら言うと、クラウドは少しかがみ、足元に力を込めると一気にその場から常人ではありえないような高い飛躍力を見せた。大剣を背負っているにも関わらずクラウドの体は屋敷の全高をはるかに超えている。クラウドはそのまま屋敷の上から庭のような場所にルフィたちの姿を確認するとその場に向かって軽やかに着地をした。

 

「うおおおっ⁉︎お前どうして空から降ってきたんだ⁉︎」

 

上空からのクラウドの登場に驚いたのかウソップは口をあんぐりと開けながらクラウドに聞いてきた。

 

「普通にジャンプをしただけだ」

 

「いやありえねぇだろ!お前人間かよ!」

 

失敬な、普通とは違うがこれでも一応人間だ。そう言ってやろうと思ったら、屋敷の方から一人の人影が現れる。

 

「君たち!そこで何をしている!」

 

現れたのはいかにも執事というような男だった。しっかり整えたスーツに黒髪、眼鏡をかけた堅物そうな男だ。

 

「困るね、勝手に屋敷に入られては」

 

「クラハドール!」

 

屋敷の二階の窓から身を乗り出していたお嬢様にクラハドールと呼ばれた男はそう言うとこれはまた奇妙なメガネの上げ方をしていた。だがその眼は明らかに木の上にいたウソップに向けられていた。それを見たカヤがクラハドールを宥めようとする。

 

「あ、あのね、クラハドール。この人たちはーー」

 

「今は結構、理由は後できっちりと聞かせていただきます。さあ君たち、もう帰ってくれ。それとも何か言いたいことがあるのかね?」

 

「あのさ!俺たち船が欲しいんだけどさ!」

 

「ダメだ!」

 

ルフィの頼みをクラハドールは一刀両断。船を手に入れることはこれで出来なくなったようだ。だがクラハドールの目は未だにウソップのみを見据えていた。

 

「ウソップ君、君の噂はよく聞くよ。村で評判だからね。いろいろ冒険をしたそうだね、その若さで大したものだ。ついでに、君の父上についてもね」

 

「クラハドール!やめなさい!」

 

クラハドールが何を言おうとしているのかを察したのか、カヤはクラハドールを諌めるが、クラハドールは言葉を止めずにそのまま続ける。

 

「君は所詮、薄汚い海賊の息子だ!何をやろうと驚きはしないが、うちのお嬢様に近づくのはやめてもらえないかな!」

 

「う、薄汚いだと……!」

 

「君とお嬢様とは住む世界が違うのだよ。目的は金か?いくら欲しい?」

 

「言い過ぎよクラハドール!ウソップさんに謝って!」

 

父を侮辱されたことに体を震わせているウソップを他所にカヤの叱責を受けたクラハドールは未だに反省の色も見せない。

 

「こんな野蛮な男になぜ謝る必要があるのです?私は真実を述べているだけです。君には同情するよ。君も恨んでいることだろう、君たち親子を捨て、村を飛び出した家族より財宝が大好きな大馬鹿親父を!」

 

「てめえ!それ以上親父を馬鹿にするな!」

 

流石に今の言葉は無視できなかったウソップは木から飛び降りてクラハドールの前に降り立つ。

 

「何を熱くなってるんだ?こういう時こそお得意の嘘をつけばいいのに。本当は親父とは血の繋がっていないとかーー」

 

「うるせえッ‼︎」

 

クラハドールが言葉を言い終える前にウソップがそう叫ぶと、クラハドールの体が宙に浮いた。目の前には拳を突き出したウソップの姿、クラハドールがウソップに殴られた光景はその場にいたほとんどの人間にとっては信じられないものだった。殴られた頬を抑えながらクラハドールはウソップを睨みつける。

 

「ほ、ほら見ろ!すぐに暴力だ。親父が親父なら息子も息子というわけだ!」

 

「黙れ!俺は親父が海賊であることを誇りに思ってる!勇敢な海の戦士であることを誇りに思ってる!お前の言う通り、俺はほら吹きだから、親父が海賊であるその誇りだけは偽るわけにはいかないんだ!」

 

ウソップはそう言うと、父を侮辱したクラハドールの胸ぐらを掴み今にも殴りかかりそうだった。そこでカヤがウソップを止めたことで何とか騒動はそこで収まったが、ウソップがしてしまったことは取り返しがつかない。

 

「出て行きたまえ!二度とこの屋敷に近づくな‼︎」

 

クラハドールがウソップを鋭い目つきで睨みつけながら叫ぶ。

 

「……ああ、わかったよ。すぐに出て行ってやる!もう二度とここには来ねえ!」

 

ウソップも鼻息を荒くしながらそのまま屋敷から出て行く。

 

「……行きましょ。船は諦めるしかないよ……クラウド?」

 

若干クラハドールを睨みつけながらティファが出て行こうとしていたが、その場から一歩も動こうとしないクラウドの碧眼はまっすぐクラハドールを捉えていた。

 

「……」

 

「君たちも出て行きたまえ」

 

「あんた……何者だ」

 

「何を言っている。私はお嬢様にお使えする執事のクラハドールだ」

 

「……目は口ほどに物を言うぞ」

 

クラウドはそう告げると、クラハドールは何も言わずに独特の眼鏡の上げ方をしてクラウドを睨みつけた。


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