〜あらすじ〜
伝説の探偵シャーロックとの邂逅、そして別れから数週間後、日本各地で大量の怪盗アルセーヌ・ルパンーーではなくその孫、ルパン三世なる人物が軽重問わず犯罪を繰り返す事件が発生した。
あまりの人数から駆り出される武偵の遠山キンジ達。
破られた沈黙の十年間。
父親は死んだものだと思っていたルパン四世ーー彼女、峰理子は困惑する。何せ、ルパン三世と峰不二子の死に際を自分の眼に焼き付けている。偽物が本物を宣うことはあれど、蘇る筈がないのだ。
一体何処の誰が、何が為に、何故今更になって?真実を求めて焦る理子をキンジとアリア達は抑えながら彼らは様々なルパンと出会い、別れていく。
無能、優男、愉快犯、殺人狂ーーありとあらゆるルパン三世の贋作達が水泡の如く現れては消え、或いは別の存在に変質していく。
だがその短い旅は瞬く間に終幕を迎える。
“赤”と“緑”のルパンーー銭形幸一の目を以てして本物に違いないと言わしめた二人が、最後の偽物か本物となるはずの二人が、同時に現れたのだから。
◇
ルパン三世
本名不詳 生年月日不詳
国籍不明ーー日本の可能性強し
年齢不詳ーー推定26歳(xx年当時)
性別不詳ーー推定男性
推定IQ200以上
かの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫とされる世紀の大泥棒。
彼が現れてから早45年、彼に関する記録は増えれば増える程真偽というものが曖昧になってしまう。
だが、それでも彼に関して分かることが一つある。彼が何故怪盗を続けるかだ。貴方ならどう考えるだろうか?
極論すれば、彼は獲物が何であってもーーそれこそ、何の変哲もない路頭の石であっても彼は盗みに参上してしまうのだ。
金でも名誉でも女でもない。
真に欲するは快楽にも等しい「スリル」のみ。人生は暇潰しと宣う彼らしい理由だ。
其処に難攻不落の警備があるからとでも言うつもりか、かの有名な登山家の名言よろしく彼は犯罪を続けてきたのだ。
……ここまで言っておいて申し訳ないがこの簡易的な考察も一つの小さな意見に過ぎない。
ルパン三世という男がどのような存在か、完璧に言い表すには事例が多過ぎるのだ。
容姿、生い立ち、性格、手口においてまで全てがバラバラ。最早、おぼろげなイメージ像でしか彼の共通項は揃えられないのだ。
だが共通項が多くあっても、必ずしも全てが一致する訳ではない。
言うなればこの世が夢か現かを問う程度に哲学的で仕方ないが、ルパンたる所以は思考するのさえ馬鹿馬鹿しいものなのかもしれないーー。
◇
(あれが、ルパン三世ーー)
降りしきる雨の中、自身がずぶ濡れになっていくのも忘れて遠山キンジはその奇妙な光景に一人、否おそらくアリアや理子も息を呑んでいた。
脆い板の如く割られた橋の坂の頂上となったところにその男は佇んでいた。
ルパン三世。世紀の大泥棒にして、ルパン四世ーー峰理子の父親。
高い背に針金のような体躯。長いもみ上げと刈り上げの頭。不適な笑みを浮かべた猿に似た顔立ち。
その風貌は似て非なるもののかのシャーロックと相対した際と同様の気配を放っていたと言っても過言ではなかった。今まで出会った偽物のルパン達とはワケが違う。
問題なのはその覇気を飛ばしてくる者が“二人も”存在することだった。
まるで鏡写しだ。ただ一点、一方が赤の、もう一方が緑のロングジャケットを着ていることを除けばーーだとしても双子だと吹き込まれれば瞬く間に信じ込んでしまう代物だ、見分けが付かない。
そして、その二人は互いを睨み合っていた。さながら西部劇によくあるカウボーイの早撃ち勝負を思い起こさせる。
尊敬か畏怖か、羨望か嘲笑かーー或いは殺意か。
あの二人の視線の間に込められた感情はどんな色をしているのかは彼らには分からない。
一体これから何が始まるのかーーと、身構えていたその時だった。
ピシャピシャと水気を孕んだ足音が聞こえてきたのだ。
「ーーたくっ、あの野郎いきなり橋を動かすとか何を考えていやがる? 軽く死ぬかと思ったぜ」
「だがあれは彼奴らの問答だ。我らが横槍を入れるべきではなかろうよ」
「誰が最もルパンたるか、か。さっきも言った通り、一緒にいて一番楽しめる奴でいいだろうによ」
「ーーえ?」
その声が聞こえた途端、憂いに満ちていた理子の表情が希望の光を見出したが如く一変した。
ぽつりと、理子は呟いた。
「次元の、おじさん?」
「あ? 誰だ、名前なんざ知られてておかしくはないがおじさん呼ばわりされる程俺は親しくなんぞーーって」
「次元おじさんに、ごえっち…⁉」
「……その呼び方は早急に訂正を求めたいでござる」
「誰? 理子、アンタは知って……い、るーー」
「ーーおい、マジかよ」
その光景にキンジとアリアは驚愕した。するしかなかった。
「次元おじさん、ごえごえ…!」
「まさか……お前、理子か⁉」
「だから、拙者の名をよく分からぬ代物にするなとーー」
生きる伝説が目の前にいる。
あのルパン三世の唯一無二の相棒にして凄腕の早撃ちガンマン、次元大介。
石川五右衛門の末裔、斬鉄剣の担い手。十三代目石川五ェ門。
キンジ達の目の前にはかのルパンと世界を駆けた相棒達がいたのだ。
そしてどうやら彼らと理子は周知の仲らしい。……相手は疫病神を見る顔をしているが。
「ねぇおじさん!お父様ーーどっちか分からないけどお父様は一体何をしているの、というか死んでいたはず十年もの間に何をしていたの⁉」
十年も前に彼女を残し妻と共に死んだはずの父親。最早天国か地獄でしか出会うことができないと考えさせられた父親。
眼と鼻の先ーーにはまだ早いがその手に触れることは叶うだろう。
是が非でも真実に迫りたい彼女には己が感情を抑えるのは今現在至難の業となっていた。
少しでも情報が欲しい、そんな言葉すら顔に書かれているのが幻視出来そうな程に焦る理子に彼、次元大介はーー
「悪い、話し合いの場所は設けるようあいつには口酸っぱく言っといてやるから今はここから離れとけ」
躊躇うことなく黙秘を選んだ。
「そんな、どうしっ…!」
反論しようとする理子を金属音が遮ったかと思えば、理子の眼前には次元の愛銃であるリボルバー拳銃S&WのM19カスタムの銃口がそこに元からあったかのように添えられていた。
「ーー悪いこたぁ言わねえ、理子。そこのお友達連れてとっとと逃げな」
ようやく口を開いた次元から出てきた言葉は警告だった。
「ーーだよ」
「……」
「何でだよ、何でだっ、何でお父様に会うことが駄目なんだ次元‼」
その対応に口汚く理子は叫んだ。
裏理子だ。彼女のもう一つの人格で、それを知っている人物は数える程度にしかいない。
しかし、今回ばかりはそれを知っていたキンジ達も困惑してしまった。
今までになくヒートアップしていることもあるが、その目に涙を貯めて遂に決壊に至ったと同時に吐かれる暴言も次第に弱々しくなっていることが更に彼らを困惑させていたのだ。
「なんっで、なんでだよ、なんでなんだよぉ…」
何時もは裏はあるものの、能天気ですこぶる明るい彼女も今では最早ただの少女としか言いようがない程にしおれていた。
「う、うぅっ…あぁ」
そんな彼女を前にして次元は重たく口を開き、言った。
「今いくとな、マジで危ねぇんだ。理子」
次元がそう告げた次の瞬間、空を裂く音が恐ろしい速度で響いてきた。
ふと天を仰ぎ見れば、ソレはーー
「み、ミサイル⁉」
巨大な鉄の塊が後部から火を吹いて迫っていた。
彼らがそれに気付いたのも束の間、緑のルパンがいる地点から派手な爆発音が爆風と共に広がった。
一方ーー
(やれやれ、隠していたとはいえ遂にバレちまったなぁ…)
赤のルパンは“緑”の動向を警戒しながら後ろの喧騒に耳を傾けていた。いや、正確には聞いてはいない。ただ容易に想像出来るだけだ、この後どうやって愛娘の気分を直してあげるかの考えなければならないという悩み事がおまけについてくるだけで。
(ーーま、後回しだな。今は)
思考を変えて再度鏡写しの“緑”を見据えた。
(こいつかルパン足り得るか否かを知る方が先だ)
赤のルパンはただ相手の動向を雨音の中、静かに予測していた。
ーーミサイルによる爆発が巻き起こるまで。