「それも私だぁぁぁぁ…………!」
アダマトロンの爆発と同時にシュウの視界が白く染まる。
この空間を展開していたアダマトロンが滅した以上この空間は崩壊し、通常空間へと変わるはずである。
そして視界が次第に回復していくにつれ、通常空間であることを確認する。
しかし、すぐに異常に気づく。アダマトロンに転移させられたとはいえ、それ以前の戦闘は成層圏近くであったはずなのにここは洋上である。
(通常空間への復帰時に座標のズレが発生したということでしょうか。しかしバラルの結界も解かれた今一体なぜ…地上へ転移した際もズレが発生しましたが…)
「まずは現在位置の確認をするとしましょう。チカ座標はわかりますか?」
………
「チカ?」
自身と同乗していたはずの使い魔からの返答がない。あのおしゃべりな使い魔が返事をしないというのはおかしい。
念のため機内を軽く見回しても見当たらない。
(転移した影響でしょうか…しかし、そうなると私も座標のズレがあってもおかしくはないはず…これは……とりあえず情報が少なすぎますね、サテライトリンクへ接続して情報を得るとしましょうか。…!?サテライトリンクからの反応がない。…グランゾンやシステムに異常はないようですね……疑問を解消するための情報が足りませんね。周囲に陸地など存在しないか確認してみましょう)
グランゾンを上昇させていくと、9時方向に陸地を確認する。
地形照合の結果、部分一致で横浜と結果が示される。
(妙ですね、横浜地域の地形がここまで変化する程の攻撃を受けたという情報はありません。それに周辺一帯に重力異常…陸地に接近すれば軍に捕捉される危険性がありますか…隠形の術を使うとしますか……いえ、ここは敢えて発見されて何らかのリアクションを確認をしたほうが現状確認には速いかもしれません)
-同時刻 国連軍横浜基地 香月副司令室-
「……アイツが本物の白銀武だとして、持ってきた情報は……」
2001年12月24日、オルタネイティヴⅣ計画の中止と、オルタネイティヴⅤ計画への移行。
ということは、もう猶予はあまりないことが分かる。しかし焦っても結果がついてくるわけではないし、肝心の00ユニットの量子伝導脳に至っても今の理論で150億個の半導体を掌サイズにすることが出来ない。タイムリミットが確認できたからといって無茶をするわけではないが、ここは少しでも有利に状況を進める場を予め作っておくべきだろう。
もっとも、白銀武の話全てを信じているわけではない。
(何かあいつの情報を確定させれるような状況があればいいんだけど…当分は様子見か…)
情報を整理し終えてふと溜息をつき、次に行動すべきことを思案し始めた時、基地のアラートが鳴り始める。
(!?)
『香月副司令、至急司令室へお越し下さい!』
「ピアティフ取り急ぎ状況を説明して」
『現在、当基地へ洋上から高速で接近するUNKNOWNが確認されました!現在デフコン4を発令、戦術機を迎撃発進させました!』
「!?すぐに行くわ!」
(っと!その前に白銀にこの状況が発生したか確認すべきね)
呼び出しを行おうとしたところに、白銀が部屋に飛び込んでくる。
「はぁ…ちょっと慌てすぎよ、落ち着きなさいな」
「す、すみません!先生。急にアラートが鳴って訓練生は自室待機ってなって…何が起こったのかわからなくて…それで俺急いでここに…」
「そう、まっ手間が省けたわ。今のあんたを見る限りわかったようなもんだけど、一応確認しとくわ。現在UNKNOWNが接近中よ、あんた前の世界で今日こんな状況発生したか覚えてる?」
「い、いえ。俺が知っている状況で似ているのは、新潟にBETAが上陸した時や珠瀬事務次官がやってきた日にHSSTが落ちてきたことくらいで……」
(白銀の記憶にはない事象か…未来の事象を知った影響ですでに変化が起こり始めているのか、それとも…)
「そう…」
「すみません、俺…」
「落ち込んでる暇があるなら、自分のできることを考えて行動なさい。時間は無限にある訳じゃないのよ?」
「はい……」
(いきなり記憶にない事象が発生したことで混乱しているようね、見立て通り精神的に未熟なのは間違いなかったわね…)
話すべきことは終わったのか、香月は白銀をおいて足早に司令室へ向かう。
-横浜基地司令室-
「遅れたわ、ピアティフ状況は?」
「依然UNKNOWNは接近中。先ほど侵入予想地域の海岸線へ迎撃機の展開が完了しました」
「香月博士、どう見ますかな?」
「米国、オルタネイティヴⅤ推進派の差金…と言いたいところですけど…」
「違うと?」
「恐らく。やり方が露骨でお粗末な上に特にあちらからアクションも起こしていない、何より目立ち過ぎですわ」
「ふむ、では一体…」
「そろそろ目標を視認できる距離ですわね。オペレーター!目標を捉え次第、光学映像をモニターにまわして頂戴」
「了解しました。え?これって」
「どうしたの?」
「…目標確認しました、そちらへ映像をまわします」
「「!?」」
「これは…」
映像には、青い戦術機らしき物体が映し出されている。
しかしそれにしては移動速度が速過ぎる。
「映像これで間違いないの?」
「は、はい。カメラに異常はありません」
「形状から見て、戦術機かしら…目標に該当する戦術機はある?」
「照合しましたが、該当なしです」
「UNKNOWNの大きさはわかるかしら?」
「お待ちください。…推定30メートル前後と思われます」
「30メートルか、だとすると旧型の試作機かもしれんな」
「いえ、それはあり得ませんわ。旧型…いえ新型でも、あの速度を出すことはできない。それに映像を見る限り相当な重装甲のようですわ」
「重装甲であの速度か…」
「!?UNKNOWNが、迎撃機近くで静止しましたが、こちらの最終通告にも反応がありません」
「攻撃を許可する、目標を撃墜せよ」
「ああ、それと撃墜した後の残骸を部隊に回収させて」
「了解しました」
-横浜海岸線-
「隊長目標が、空中で静止しました!」
「指示があるまで待機せよ!こちらから通告を行う」
『貴機は日本帝国の領地を侵犯している!速やかに転進せよ!繰り返す速やかに転進せよ!』
(予想通り迎撃機が出てきましたが、妙ですね。この通信手段はかなり古い形式です。加えてあの機体…データベースにありませんね。それに気になることを言っていましたね。"日本帝国"と…)
「目標から応答ありません」
「目立った動きはないようだが、撃墜許可が降りた。各機攻撃開始!」
「了解」
各機が同時に目標へ発砲を開始するが、弾丸がUNKNOWNに到達する少し手前で軌道を変え逸れていく
(た、弾が逸れてるだと!?)
常識外の現象に意識を奪われ指示を出すことが出来ず、全機弾切れになってからようやく我に返り各機へ近接戦闘の指示を出す。
(交戦の意志がないことを伝えるつもりでしたが、まさか即座に攻撃とはね…また攻撃される前に通信をいれますか)
司令室もまた写されている映像に驚愕していた。
(弾が逸れてる…てことはラザフォード場…ML機関搭載機をあそこまで小型化に成功したなんて情報入ってきていない…とはいえ、ラザフォード場を展開しているとなると無人機と見るべきね。目標近くまでリモート操作して臨海反応で自爆させる新規運用型のG弾かもしれないわ、厄介ね…)
「迎撃機を一旦後退させなさい、近接戦闘は無意味よ」
「り、了解しました!各機へ一時後退せよ、繰り返す一時後退せよ」
(さて、どうしたものかしら…ラザフォード場が展開しているんじゃ下手に手出しはできないし、もし攻撃に反応して臨海反応がスタートするよう設定されているとしたらまずいわね…)
「UNKNOWNから通信です!」
「!?」
『…えますか?こちらに交戦、侵略の意志はありません。繰り返します、こちらに交戦、侵略の意志はありません』
(っ!?無人機じゃない!?…ラザフォード場の多重干渉問題をクリアしてるっての!?)
香月は信じがたい事態に我を忘れてしまうが、頭を振りすぐに思考を切り替える。
「私が通信に出るわ、回線回して頂戴。映像通信で入ってるかしら?」
「いえ、音声通信のみのようです。では回線回します、どうぞ」
「こちら国連横浜基地、副司令香月よ。聞こえるかしら?」
『ええ、聞こえています』
「とりあえず、いくつか質問に答えてもらいましょうか。そちらに侵略などの意志はないにしても、あんたは事実日本帝国の領地に侵犯してるわ」
『ええ、構いません。代わりと言ってはなんですが、こちらも質問をさせてください』
「?構わないわ。でもまずこちらの質問に答えて頂戴、あんた人間よね?」
『ええ、間違いなく人間ですよ』
「そう、それじゃあ名前と所属は?」
『シュウ・シラカワと言います。所属は…そうですね、一時的ですが鋼龍戦隊に身を寄せています』
(日系人…?ということは米国特務部隊所属の人間かしら?でも部隊名が米国らしくないわね)
「知らない部隊名ね、どこの国の部隊かしら?」
『地球連邦軍所属の部隊ですよ、秘匿部隊ではないはずですがご存知ありませんか?』
「地球連邦?そんな夢物語みたいなもんこの世界のどこにもないわよ、あんた何言ってるのかしら?」
(妙な事を言ってくるわね…)
(やはり、私のことを知らないようですね。それに地球連邦が存在しない…これはまさか…)
「ま、いいわ。それよりもあんたの戦術機についてだけど、動力源はML機関を搭載してるのかしら?」
『聞いたことのない機関ですね。この機体の動力源は仰るものとは別のものですよ』
(ML機関じゃないですって?…だとすると一体…)
現時点で副次的とはいえ力場を展開するほどの動力源は、ML機関のみのはずである。予想外の返答にしばし思考を奪われる。
『質問は以上でしょうか?こちらの質問に答えていただきたいのですか』
「え、ええ、今はそれだけよ。それじゃあんたの質問に答えるわ」
『それでは…グランゾンという機体名をご存知ですか?』
「グランゾン?いえ、知らないわね」
『今は、何年のいつでしょうか?』
「2001年の10月23日よ」
『では最後です、ここは日本の横浜で間違いありませんか?』
「ええ、間違いないわ。あえて訂正するなら日本帝国の横浜ね」
(なるほど…私の知る歴史では先ほどの年時点で日本帝国は消滅しているはず。もし情報が真実であるならば、ここは異なる歴史を歩んだ平行世界、それも私の居た時間軸から見ると過去の世界…なぜ飛ばされたかなど原因はまだ掴めませんが現時点では十分ですね)
(予想と全く違って状況確認の質問ばっかね…こいつの回答から得られたのは存在しない国家連合体と部隊名、それに恐らく未知の動力であること…こいつが狂人でないとして、そこから導き出せるとしたら信じらんないけど…アレ(白銀武)の事もある…私の因果律量子論が正しいのであれば…)
「そっちの質問は終わりかしら?」
『こちらからは以上です。』
「じゃあこっちも最後の質問よ。あんたBETAっていう生命体…知ってるかしら?」
無意識に意地の悪い笑みを浮かべながら質問する香月。
その質問に司令室にいた人間全てが疑問を浮かべる、何しろ誰もが知る当たり前の事を質問しているのだ。
そして、その回答に驚愕する。
『いえ、知りませんね。初めて聞く生命体です。もっとも呼称が異なるだけで知っている可能性も有りますが』
(BETAを知らない…!間違いないわ!)
「そう…ところで話は変わるんだけどいいかしら?」
『構いませんよ』
「一つ提案があるんだけど」
『ほう…提案とは?』
「あんた、私達に協力しない?聞いた感じ”ココ”では根無し草だと思ったんだけど?」
「香月博士!?」
突然何を言い出すのかと、ラダビノッド司令が身を乗り出すが、それを静かに手で制する。
「どうかしら?もちろん相応の見返りもするわ」
(どうやらこの香月という人物は私がこの世界の住人でないことに気づいたようですね…)
『一つ…条件があります』
「何かしら」
『いつでも協力関係を解消してもよい…ということです』
「いいわ、協力するに値しないと思った時点で貴方の好きにして構わないわ」
『わかりました。いいでしょう』
承諾の意を受け、ますます笑みを強くする香月。
(恐らく未知の技術との接触…こんな興奮することなんて生まれて初めてかもしれないわね)
「そう、ありがと。それじゃそこにいる部隊にこちらへエスコートさせるわ、誘導指示に従って頂戴」
『わかりました』
「オペレーター、迎撃部隊にアレをこっちまで連れてくるよう指示して頂戴」
「了解しました」
「香月博士…いいのかね?工作員の可能性も考えられる」
「心配ありませんわ、工作員ならもっとこちらの情報を手に入れようとするはずですわ。侵入するにしてもこんな手のこんだことする工作員はいませんわ」
「ふむ、しかし万が一もある監視をつけるなりはしておいたほうがよいだろうな」
「当然ですわね。オペレーター警報解除なさい」
「了解しました。デフコン4解除します」
「それじゃ、私は”シュウ・シラカワ”と接触してきます。司令申し訳ありませんが後処理をお願いしますわ」
「了解した。護衛などはどうするかね」
「伊隅にでも任せますわ。ピアティフ、伊隅にこっちへ来るよう連絡を入れて頂戴。ああ、それとわかってると思うけど、コチラへ向かってるあの戦術機は例の格納庫へ誘導しておいて」
「了解しました」
そうして、香月は未知なるモノへの接触を図るべく移動を始めた。
(さて、とりあえず社をシュウ・シラカワと接触する際の隣室へでも移動させてリーディング準備をしておきましょうか)
ここに、蒼き魔神とその操者が異世界への干渉を始めた、これが如何なる影響をこの世界に与えるかはまだ誰も予期し得ない。
シュウの戦闘干渉は3回に限定しようと思ってます。
~クーデター時はどうしようか思案中~
(新潟、甲21号作戦、桜花作戦)