師岡卓也が椎名京を悪夢から救い出した後、正式にメンバーとして認めさせてしばらく経ち、季節は夏。
あの日、鉄心に目をつけられてから日増しに鋭くなる百代からの挑戦的な目線を避けるように、忠勝は板垣一家と共に河川敷で遊んでいた。
「天!取れるもんなら取ってみろやオルァ!」
「…ぐ、ぬおぁぁぁ…」
「フハハ、見たか俺のデストロイボール!」
「…ってぇな、このアホ!今はケンカじゃなくてキャッチボールしてんだぞ!」
俺と辰子さんは堤で一息入れて寝転んでいる。こちらにまで届くような音を立ててグローブに投げ込まれたボールは、やはり天使の手に多大なダメージを残したらしい。天使は怒り心頭と言わんばかりに髪を逆立て、地団駄を踏んだ。
「ハッ、知らねぇな!悔しかったらテメェも俺の心にヒビく球投げてみろや!」
「…上等だゴルァ!受けてみろ必殺、ブッ殺ストライク!」
天は空に向けて盛大に足を上げ、思い切り振りかぶってボールを投げる…淑女のしの字も見受けられないフォームから投げ出されたボールは綺麗な直線を描き…
「ちょ、これ顔面コース…ぐはっ」
「キャハハ、ウチの勝利だぜい」
先ほどのお返しと言わんばかりの凶悪なストレートは竜兵の顔面に直撃。頑丈な体を持つ竜兵といえども、流石に耐えきれず膝から崩れ落ちた。
「…なーにやってんだか、あいつ等は」
「……zzz」
弟たちが愉快なキャッチボールをしている最中、マイペースな辰子さんは斜面に寝転がった俺の腿に頭を載せて寝ていた。気づいたらこんな状況になっていたのだが、ここからどうすれば良いやら…
「ねぇ…」
「んあ?」
そんな時だ、遠慮がちな声が背後から聞こえたのは。
「あの、その…ボクも…いっしょにあそんでくれない…かな」
よく見ると“少しおかしい”位色白の少女がそこに立っていた。そこで遊んでいる天使も肌は白い方ではあるが、彼女は髪まで白い、先天性白皮症…いわゆるアルビノというタイプであった。
「あー…別に構わねぇけどよ、今ちょっとアホっぽい奴らと遊んでるんだわ、ソイツ等と一緒でも良いか?」
「…うん、うん!ボクなら…ぜんぜん、オッケー!…あの、これ…おちかづきの…しるし」
先ほどの弱々しい顔とは打って変わってパッと明るい笑顔になる少女。彼女はニコニコしながら握りしめたマシュマロを俺に手渡した。
「むぐ、これ潰れてんぞ。どんだけ握り締めてんだよ…まあ、ありがとよ。さて………竜!天!ちょっとコッチ来い!……あの、辰子さんも起きてもらえますか、いい加減脚痛いんすけど」
「えー…だって、ここ気持ちいんだもん…動きたくないなー…」
「いやいや、客来てんですから、起きてくださいよ」
「むー、しょうがないなあ…よっと…」
辰子さんは最後までグズりながらも、仕方ないと言わんばかりにため息をすると、横たわった体制から足を振り下ろした反動で身軽に立ち上がる。
「(…辰子さんさり気なく板垣家で一番能力高いよな)」
次いでグローブをつけたままの天と顔にボールの跡をくっきり残した竜兵が堤を駆け上って近づいてきた。
「こんにちは、私は辰子って言うんだー」
「オレは竜兵!」「ウチは天!」
「俺は忠勝、そんでお前は?」
「う、うん…ボク、ボクの名前は…小雪!」
まるで初めて友達と自己紹介をするかのように、照れくさそうに自分の名前を告げた小雪を加え、俺達は日が暮れるまで遊びに興じていた。
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「ってな事があったわけですよ」
「ふーん、あの子らにも新しい友達がねェ」
この年の子供は単純なもので、数時間遊んだだけで板垣三姉弟と小雪は仲良くなった。辰子さんに至っては“ようやく妹らしい妹が出来たー”と言って天の嫉妬を買った…たしかに天は竜に似て荒っぽいから妹らしさはないが。
「親父が仕事で汚ねぇおっさんの相手してる間に、息子は河原で青春…俺も年取っちまったな…」
「何言ってんだいこのマダオは」
「おい亜巳…頼むからその呼び名だけは辞めてくれ…胸にグサッと来る…」
「まあ、親父がダメなのは置いといて、そいつ小雪ってんですけど、妙に危ういって言うか、なんか事情があるっぽいんすよ、色白だし」
小雪は帰り際、家に帰る事に怯えている節があった。よく見れば捲った袖の下には痣があったし、時折足を止める場面が見られた。
「聞いた話だと髪まで白くなってるみたいじゃないか…苦労してるはずさ。辰達も気に入ったみたいだし、今度ウチに連れてきな」
「ウス」
亜巳さんは何だかんだ言って姉御肌の優しい人だ。親の事もあるし、俺達と年の差はあまり開いていないのに人生経験は亜巳さんの方が積んでいる気さえする。
「出た、亜巳のツンデレ。俺にはツンばかりでまったくデレない癖になァ」
「フン…雇われの身とはいえ、忠勝に隠れてさり気なく店通いしてる“マダオ”には、配慮の必要性って奴を微塵も感じないからねェ」
「やめて!強調しないで!てか息子の前でバラさないで!」
「やれやれ…親父のはもはや病気だな」
また店に行ってたのか、最近では“ここらで親の威厳を示す”とかで比較的まともな生活を送ってたと思ってたんだが…
「ダメな大人の典型的な例だね、全く…こんなんが上司だなんて嫌になるよ」
「こんなんでも仕事はそれなりに取り組んでるんで、許してやってください。」
親父は仕事に関してはマトモだ。依頼の受理から対応、アフターケアまでしっかりしている。そこん所もう少し性格面にも反映してもらいたいもんだが。
「息子と従業員が虐める…オジサン威厳出す為にヒゲでも生やそうかな…」
「…余計マダオになりそうだからやめとけ」
「無精髭なんて生やして出勤したらアタシは辞めるからね」
「救いは…救いはないのか!誰か味方してくれる優しい女の子は…」
宇佐美は癒やしを求め夜の歓楽街へと消えていく…こうして彼は止めることができない負の連鎖に囚われていくのであった。
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「おーい、タッちゃーん!」
あれから日を跨いで日曜日、小雪が声をかけてきたのは空き地で今度は風間ファミリーと遊んでいる最中であった。
「おう、小雪。元気か」
「うん、めっさげんき!」
「たっちゃん、その子はどなた?」
一子は俺の事を親しげに呼ぶ小雪が気になるようで、俺の隣に走り寄ってきた…対照的に人見知りの小雪は表情を固くする。
「最近つるみだした奴で、名前は小雪。まあ仲良くしてやってくれ」
「う、あの…私は小雪、忠勝くんの…ともだち、です」
「(そこは確り主張するのな…)」
「アタシは一子!岡本一子よ!たっちゃんのおさななな…?じみ?まあ、よろしくね!」
「うん、よろしく…!」
ぎこちないながら一子と握手をした小雪…この微笑ましい光景を辰子さんが見たら喜ぶに違いない。しかし一子よ、お馬鹿キャラは卒業したと思っていたんだが、幼馴染が分からんとは…たしかに(おさなじみ)か(おさななじみ)か分からなくなる時はあるが。
「んで、あっちに居るのがその他大勢」
小雪と一子のやり取りの最中も、こちらを伺っていた男衆をまとめて一括にすると、島津から抗議の声が上がった。
「おいおい、その他おおぜいとはザツな扱いじゃないか」
島津は風間達を一瞬ちらりと見やると、マッスルポーズで力こぶを作り、アピールをし始めた。
「オレサマ島津岳人、パワータイプ」
「ボクは師岡卓也。ずのうタイプ」
「俺は風間翔一、スピードタイプ」
「俺は…直江大和、ぼうりゃくタイプ」
次いで彼らは陣形を組んでポーズを決める。するとその瞬間、背景に煙が舞い上がる…あれは風間特製の煙幕か。
「「「我ら!風間ファミリー!」」」
「…おい、ヤマトも乗れよ!」
陣形にはかけた部分があったが、どうやらそこは直江のスペースだったようだ…風間がノリの悪い直江に攻め寄る。
「やだね、俺にそういう明るいのはにあわない。」
「やれやれ、コイツもまだてれがあるよな…オレサマみたくビシッとしろよ!」
「あはは、ボクもじゃっかん恥ずかしかったけどね。でも今日は京もモモせんぱいも居ないし、ヤマトもここはノるべきだよ?」
「姉さんがいないからこそ、むちゃぶりはやめていただきたいものだ、姉さんはむちゃぶりがすぎる」
突然目の前の少年達が始めたコントに、小雪は着いていけずに固まってしまった…一子は後ろで苦笑いしていたが。
「悪い奴らじゃないんだがな…まあ男ってのは大抵馬鹿やってる生き物だ」
「…たっちゃんってきほんてきにこういうのノらないような…」
「俺は良いんだよ、別に」
年齢的に問題ないとはいえ、流石に恥ずかしくてこのノリについて行けない。
「しかしこの子の肌、真っ白だな」
小雪に近づいてジロジロ観察した後の最初の一言がこれであった。ストレートな物言いは風間らしいがあまり褒められたもんじゃない。
「ちょっ、キャップ…そこはデリケートなところでしょうに!」
「え?そうなのか?…わるい!」
悪気なくあっけらかんと言い放つ風間。たしかに普通であれば彼女を見て真っ先に眼に映るのはその異常な白さである。
「まあたしかにキャップの言うとおり、彼女は“ふつう”とはいいがたいな、かみの毛までまっしろだ」
「でもちょうカワイイじゃねぇか!オレサマそれだけでオッケーだぜ!」
「ちょっと!アンタたち女の子にたいしてしつれいよ!とくにガクト!後でおねえさまにみっちりしごいてもらうんだから!」
「「げぇっ」」
…この間は元からちょっとズレている板垣家の連中だからこそすぐに受け入られたものの、普通の反応は大体こんなもんだろう。むしろ一子の反応のほうが珍しい。俺の背後に隠れた小雪は少し悲しげにうつむいている…
「ったく、お前ら物珍しそうに…悪いが俺達、今日は用事があるからよ、帰るわ。迎えに来てくれてサンキュな、行くぞ小雪」
「あ…うん…」
「あ、おい、ちょっと待てよ…」
小雪の手を掴んで引っぱると、俺は空き地を離れた。風間達に悪気があったとは思えない。正直あれが小雪にとっての日常的な反応なのだろう。雪の様に白い髪と肌そして赤い瞳。好奇心旺盛なこの年頃にはこれ以上ない標的だ。
「悪いな、小雪」
「何でタッちゃんがあやまるの?何もわるいことしてないのに…むしろわるいのはボクのほう…」
「別にお前だって悪くはねぇよ、今日はちとタイミングが悪かったんだ…アイツ等何時もは気の良い奴らなんだが、今回は出会いが急すぎた」
「ううん、ボクを見るとみんなあんなかんじ。タッちゃんだけなんだ、さいしょからボクをうけいれてくれたのは…」
「バカ言うな、俺だけじゃねぇ、天も、竜も、辰子さんだって、受け入れてくれただろ?………そうだ、これから板垣ん家にでも行くか?」
「…!良いの?」
「勿論だ、ただ、少し危ねェ所にあるから、気をつけていくぞ?」
「うん!」
「お前はあった事ないが、板垣姉弟には辰子さんの上にもう一人、亜巳さんっていう人がいてな、昨日遅番だったし家にいるはずだ。」
「うぅ、ボク大丈夫かな…」
「心配すんな、姉御肌で面倒見が良い人だ。…多少性格は拗れてるけどな。」
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声をかけても、振り返ることなく去っていった忠勝を見つめ、一子は小雪に申し訳なく思う反面、忠勝の身内への甘さにため息を吐いた。
「行っちゃった…もう、ヤマトたちが変なこと言うからよ!」
「んー、俺は思ったこと言っただけなんだが」
「言っていいことと悪いことがあるでしょうが!たしかにボクも気にはなってたけど…」
「しかし、ゲンのやつももう少し話を聞いてくれりゃあいいのによお。」
小雪を庇ってか、ファミリーの意見をロクに聞くことなく去っていった忠勝に対して不満有りげな面々。
「んー…いつもひていするけど、たっちゃんってかほごなのよね、アタシがちょっとたたかれただけで直ぐに相手の子の頭をはたくくらいには」
「あー、わかるかも。ボクもゲンさんに助けてもらう時はゲンさん大抵一人でやっちゃうし…」
「ゲンは強ェから、一人で何でもかかえちまう。オレサマたちにだって任してほしいのによ。」
彼らが言うように、源忠勝という人間は、身内に甘く過保護であった、“前”の記憶のせいなのかは不明であるが、兎に角自分のテリトリーを冒されると心が乱れ、仲間を守るべく原因を排除したがる。
ファミリー結成時はそうでも無かったのだが、仲良くなってきたお陰…というべきなのだろうか、忠勝が身内のために動く機会は増えてきていた。
「…お前らには言ってなかったが、まえに俺たちの原っぱをうばった上級生グループがあったのはおぼえてるよな?」
「あぁ、オレサマがカレイに追い払ったやつらな」
「おねえさま“が”おいはらってくれたのよ!」
「まあそこは置いておいて、アイツらあの後ことごとく休みとってただろ?アレってじつはだれかにおそわれたからって話だ」
「モモセンパイが一度しょうぶのついたたたかいをほりおこすなんてなさそうだし…それってまさか」
「ワン子のはなしを信じるなら、たぶんゲンがやったんだと思う。たしかにてきたいそしきのせんめつはやっておくべきゆうせんじこうではあるが…」
「ゲンさんはやりすぎってわけか、ワン子がかほごだって言うのもわかるな」
「だからこそ、一度味方した小雪ちゃんの事をとやかく言ったのがゆるせなかった、そういうわけか…オレサマ少しハンセイ」
「でも俺たちは別に彼女をけなしたわけじゃない。ゲンはすこしかびんに反応しすぎな気がするぞ」
大和たちは小雪の肌に驚きこそすれ、貶すようなことはしていなかった。確かに普通とは異なる認識をしていたものの、京の件におけるモロの尽力もあり、偏見的な見方はやめよう、という考えになっていたからだ。
「たっちゃんの悪いところよ、思い込んだらいっちょくせんなんだから。わたしの意見も聞いてくれないの」
「…でも、ボクたちも悪いところがあるのは事実だから、次にあの子に合うときにはあやまらないと」
「京の一件もふまえ、ファミリーのぐんしとしてよりただしいはんたんができるようにと考えていたが…まだまだ甘かったようだ。“ふつう”とちがうのはコンプレックスだと、よく考えれば分かるはずなのに…俺も彼女にあやまらなければならないな」
「オレサマも…」
「いや、ガクトは色々オープンすぎるだけだからね」
「そんなんだから女の子から人気でないのよ」
「ぐはっ」
ファミリーの紅一点と親友にまさかのカウンターを食らった岳人は地面に倒れ込んだ。
「ま、なにはともあれ俺の言葉があの子を傷つけちまったのはじじつだ、ファミリーのリーダーとしてキチンとケジメつけないとな」
子供心に普通と違うものは珍しく映るものです
そしてそのまま虐めにつながる、と
小雪に関しては、逆に不気味がられて虐めはなかったのではないか、と考えていますが…
※ご指摘を受けて表現を変え、ファミリー視点を追加しました。