2度目の人生を真剣に生きる   作:我楽多さん

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更新遅れまして申し訳ありません…
何とかペースを上げられるよう努力します。




源忠勝の日常▼平日編

 

 朝七時すぎ、一欠片の雲も見られない空の下、多くの学生が学校に向かい始める。通学路に近い多摩大橋の河川敷には、今日もそのあだ名に恥じない程の多様な人種が跋扈していた。

 近頃暑くなってきたというのに黒のトレンチコートを着た変態。惜しげも無くその筋骨隆々とした身体を晒す変態。道行く小学生に気味の悪い笑みを浮かべて声をかける変態。それを追い払うハゲ…最後のが知り合いなのは目を背けたくなる事実だ。

 

「おはよう!たっちゃん!」

 

 河川敷の半ばまで差し掛かった時、背後から一子の元気な声がかけられる。振り返ると川神姉妹がお揃いでこちらに手を降っていた。此方に駆け寄った一子が俺の右隣をキープする。

「よう、忠勝。」

「ウス」

 対照的に、ゆっくりと歩を進めて歩み寄ってきたモモ先輩。その身体からは本日も強者のオーラを振りまいている。彼女は挑戦的な目でこちらを見つつ、俺の肩ににやりと笑って手をかけると…

「なあ、一発…ヤらないか?」

「殺らないかの間違いだろ…朝っぱらから勘弁してくれ。」

「あらら〜?敬語を使わなくなったから忘れちゃいないかね?忠勝クン…?先輩命令だぞ?聞き入れないと武力制裁……だゾ?」

「どっちにせよ闘り合うじゃねえか!」

 いつもの事ながら目の前の武神先輩は闘争本能に忠実だった。折角整った容姿をしているのに、頭の中は物騒極まりない。アフガンも真っ青なバトルジャンキーだ。

 以前先輩に興味を持たれてからというもの、先程のように出会い頭に手合わせを申し込まれるのは日課のようなものだ。もっとも氣を絶っている今の俺の強さは、竜と変わらない程度であるから、そこまで強引に誘われる訳ではないが。

「お姉様、最近相手がいなくて不完全燃焼気味なのよね………唯一相手してくれる釈迦堂さんもちょくちょく院を抜け出しちゃうし。」

「そうだッ!釈迦堂さんならこの疼きも分かってくれるハズなのに!最近じゃふらっと出ていって飯時まで帰ってきやしない!爺もなにも言わないし!このままじゃ、誰が私の相手をしてくれるって言うんだ!」

「駄々っ子か!」

「まあまあ…今晩のチキンソテー、お姉様の分は少し多めによそってあげるから…」

 

「…!ホントか!ひゃっふーヾ(*゚∀゚)ノ゙✧*。ー!

  いやー、持つべきものは愛しい妹だな!」

 

「もう、お姉様ってば単純なんだから……」

 婆さんの事もあって料理好きが高じた一子は、川神院に迎えられて数ヶ月もしないうちに厨房を掌握した。恐らく、目の前で飛び跳ねているモモ先輩の胃袋も既に落としているのだろう。

 “食事でお姉様を支える!”と意気込んでいる一子の事だ、甘やかしてモモ先輩に頼まれればおかずの一品や二品は追加している事だろう…もちろん栄養面に配慮しながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 学校に近づくに連れて増えるモモ先輩のファンを避けながら昇降口に辿り着く。案の定モモ先輩の靴箱には手紙がところ狭しと入っており、一子と俺は苦笑いしながら靴箱から流れ落ちる手紙の滝を見ていた。

 ピンクの便箋の間にチラホラと挑戦状という文字が見える辺り、川神らしいと言える。モモ先輩は“モテる女は辛いなー”と言いつつ手提げ袋に手紙を全て仕舞いこむと、俺達とは別の階段へと向かった。

「じゃあ、またな!」

「お姉様ー!今日は寄り道せずに帰ってきてね!仲見世通りでおかし食べちゃダメだからね!」

「ははは!それはその時次第かなー!」

「…行っちゃった…もう、お姉様いっつも女の人と食べ歩きして帰ってくるんだから…」

「ま、モモ先輩はモテるから仕方ねえな。」

 この中学で女生徒の人気を独占しているのが、他でもないモモ先輩なのだ。風間やその他イケメン達を差し押さえ、堂々の一位の座を勝ち取っている。放課後は数人の女子を侍らせ、仲見世通りや金柳街を練り歩く様子がよく見られる程だ。

「うーん、晩ごはんもしっかり食べちゃうから、栄養面じゃ問題ないのよね…カロリーも鍛錬ですぐに消費しちゃうし…」

「まるで専属トレーナーみたいな語り口だな?」

「うん!アタシの目標は、お姉様を隣に立って支えることだもの…!武術はちょっとダメだったけど、お料理なら誰にも負けないわ!」

 

「……そうか、夢があるのは良い事だ。」

 

 川神院に引き取られる上で武術と関わらない選択肢はない。一子は引き取られると同時に武術の稽古をつけられ……その才能を測られたそうだ。

 下された結果は“才能なし”…という残酷なものであった。たが、そもそも武の頂点として名高い川神院において、“才能なし”の評を下されるものは掃いて捨てる程存在する。その中で新たな夢を掲げ前向きに取り組む一子の、なんと眩しいことか。

「その為にもスポーツ栄養士の資格をとらなくちゃ!でもその為には管理栄養士の資格が欲しくて、その為には試験に受からなくちゃいけなくて…」

 頭から湯気を出して考え込む一子…栄養学から始まり、食品学、調理学、生化学、エトセトラエトセトラ…彼女の夢の前に立ちはだかる壁はとても大きいようだ。

「…管理栄養士って確か国家資格だったな。お前の熱意は大したもんだが、やれるのか?」

 

やれるのか(・・・・・・・・)?じゃなくて、やるのよ(・・・・・・)!」

 

「(……眩しいな、一子の奴。…なんだろうかこの気持ち、娘が嫁に貰われていくような気分だ…)」

「じゃあたっちゃん、アタシはここで!」

「お、おう、じゃあな」

 片手を上げて駆け出して行く後ろ姿は、手塩にかけた愛娘が手元を離れていく姿を……もう止めだ、俺はこの気分をあと何度味わうのだろうか。

「(一子の教室は2組……あそこには直江と島津と………いや待て、直江か?お相手は直江なのか?…最近集まる時はあの二人がペアになる事が多いが……許さん、直江だけはこの俺が許さんぞ……)」

「何やってんのさ、早く行かないとチャイム鳴るよ!」

「いや待てモロ今俺は娘の一大事に…」

「現役中学生が何言ってんのさ、今日の一限は“大佐”だよ?遅刻しようものなら…フルボッコにされかねない!…あと京に小言を言われかねない!」

「最後私情じゃねえか!」

 

 卓也に腕を引かれながら、最近男子の間でも人気の出てきた妹分の身を案じる忠勝。とある大企業の御曹司が彼女に恋をし、子飼いの従者と波乱万丈の遣り取りを繰り広げるのはまた別の話である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 放課後、多摩川上流にある人通りの少ない河川敷にて、俺は釈迦堂さんに稽古をつけてもらっていた。組手は今のところ62戦0勝60敗2引き分け(うち時間切れ2試合)だが、釈迦堂さん曰く氣の使い方は“以前よりマシ”だそうだ。今は半月蹴りのノルマをこなしている。何でも知り合いに恐ろしい足技を持つ漢が居るらしく、その漢の蹴りを参考にした鍛錬とか何とか。

「694…695…696…697…698……」

「ギャハハ!何だアレハムスターの回るやつかよ!」

「いやー、凄いねー…なんか速すぎて車輪状のナニカにしか見えないねー」

「699…700ッ………ハァ、終わりッス。」

「んじゃ、しばらく休憩ー。ところで…おうおうオメーラ!見せもんじゃねーぞ!冷やかしなら帰ってもらおうか?」

「冷やかしじゃねえよ…師匠!俺にも新しい修行させてくれ!」

「ウチも!ゴルフクラブぶん回すだけとかいい加減飽きてきたんだけど!」

「俺が鍛えんのは忠勝だけだっつーの!ったく、兄妹揃って血気盛んなこった。そんなお前らは取り敢えず身体動かしとけや!」

 

 あの日以来月水金曜日の放課後は、釈迦堂さん、俺、何故か流れで参加するようになった竜や天、見張り役として後ろで二人を見守っている辰子さんを加えた五人で稽古をつけてもらっている。

 河川敷をフィールドに見立て、“川神院の技は教えない(使わないとは言っていない)”という良くわからない設定の下、釈迦堂さんがアレンジした川神流の技を実践形式で文字通り“襲”わる。

 俺と竜は拳闘術を、天は棒術(棒ではなく何故かゴルフクラブ:PINGアイアンG20)の指導を受け、基礎作り、型稽古、見取り稽古、模擬戦闘など、顔に見合わない丁寧なスケジュールに沿って稽古を行う。

 

「……ふー…あいも変わらず騒がしい奴らだ…こっちだって今まで型稽古しかやってねーのに。」

「天ちゃんも竜ちゃんも堅苦しいの大っきらいだからねー…はい、タオルとお水だよー。」

「お、ありがてえ。」

「でも…良くやるねー、流石は男の子だー。…自分を潰した相手に鍛えてもらうって聞いた時はちょっと心配したよー。」

 辰子さんは俺に歩狩水を手渡しながら笑った…青空闘技場での一戦の後、彼女に釈迦堂さんに会いに行くと告げた時は目を細めて心配されたものだ。結局辰子さんも付き添って河川敷に向かう事になり、釈迦堂さんには“女連れかよ、モテるねぇ”とからかわれた訳だが。

「まあ、向こうから声かけてくれたんだし、強くなれんなら悪い話じゃねえなって思ったんだ…初っ端から“現時点でどれだけ出来るか試す”とか言って襲って来られた時は軽く後悔したがな。」

「源ちゃんいっつも傷だらけだけど、あの時は酷かったねー…ここからウチが近くて良かった良かった。」

「亜巳さんにも迷惑かけちまったし…」

「体動かなくて晩ごはん私が食べさせてあげたもんねー。可愛かったなー、あの時はヤンチャな弟がもう一人増えたみたいだったよー。」

「…忘れてくr「無理だねー」……はぁ」

 恥ずかしい事に、最初から全力で挑んできた釈迦堂さん相手に氣力を振り絞って迎撃した結果、俺の体はガス欠を起こしてまともに動けなくなってしまったのだ。辰子さんはそんな俺を背負って家まで連れ帰り、看病してくれた…ご丁寧に夕食まで。大爆笑しやがった天と竜を全勢力を駆使してボコボコにしたのはその翌日の事だ。

「おい忠勝!師匠と竜がバトってる間ウチの相手しろや!今日こそリアルで勝ちを貰ってやんよ!」

「別に良いけどよ、お前負けた腹いせにゲームでボコボコにしてくるじゃねーか…」

「ゲームとリアルは話がちげーんだよ!もー良いから辰姉といちゃいちゃしてねーでさっさとコッチ来い!」

 天は特徴的なツインテールを靡かせ、両手をバサバサと振ってこちらを睨んでくる…最近の天は俺と辰子さんが一緒にいる場面を見ると機嫌が悪くなる。女は男に比べて精神が早熟すると聞くし、そういうお年頃だからだろうか?

 

 ステゴロの殴り合いを続ける竜と釈迦堂さんを横目に見ながら、仕方なく俺は天と対峙した。

 





 中学生で院に入った一子に下された、川神院の判決は厳しいものだった……しかし一子は挫けない!彼女の物語に影を落とす事は何者にも出来ないのだ!

天使戦?あぁ、ctrlキー押しちゃいましたね。

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