2度目の人生を真剣に生きる   作:我楽多さん

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少年の勇気と少女の願い

 師岡卓也が動き出して数ヶ月、椎名京の状況は急速に改善していった。ここに来てようやく教師達も虐めの状況を受け止め、動き出した事もあり、表立って椎名京を虐める者はほぼ居ない状況へと改善した。 

 同時に虐めの主犯グループは不満を募らせ、その矛先は師岡卓也に向けられる…そんな日々が続き、ある日遂に主犯グループは行動に出た。

 最近では“何があるか分からないから”と、卓也と椎名は一緒に下校することが多かったのだが、彼らは下校中の二人を襲撃して校舎裏まで連れこんだのだ。

 

「よう師岡くん、さいきんちょっと調子にのってないか?」

「てめぇ何で椎名かばってんだよ、オイ!そいつはインバイだぞ」

 

 ここ数日の不満をぶちまけたい少年達は、自分勝手に容赦ない言葉を投げかける。椎名は瞳に涙を浮かべて俯き、師岡卓也は怒りに肩を震わせ、唇を噛み締めていた。

 

「…」

「だまってねぇでなんか言えや!」

「こわくてこえもでませんってか?ギャハハハ」

 

 卓也は声も出せない程怯えていたわけではない。下品な笑いを浮かべて無責任に自分達を貶す少年達に、怒りを爆発させていたのだ。

 

「………さい」

「あーん?なんだって?ごめんなさい?よく聞こえないなあ」

「まあいまさらあやまっても遅いけどな!センコー共もごちゃごちゃ言ってきてるし、ホントに余計なことしやがって!」

「………るさい」

 

「そもそもあんなインバイがウチの学校にいること自体が………

「うるさいって、そう言ってるんだよ!このクズどもが!」

 

 卓也は怒りも顕に激しく咆えた。後ろで椎名が息を飲んで驚いている。日頃から温厚で怒ることのなかった卓也が、顔を怒りに染めて目を細める。今の彼は友人達ですら見たことが無い表情を浮かべているから、無理もないだろう。

 

「……ヒョロの師岡くんが…いまなんつったよ、オイ!」

「だまれ!お前らみたいなクズには、人の気もちなんて分からない!椎名さんが受けたいたみも、心のキズも!どうせ何も考えてなかったんだろ!」

「ったりめーだろ、俺たちは悪いことなんてしてねーし」

「俺たちは学校をおそうじしてやってんの、わからないかなぁ」

 

 反省の欠片もない言葉の数々。あくまで自分達は悪くないという愚かな考えを改めない彼らは、卓也には背中で震える少女より余程汚く写った。

 

「ッ!分かるわけないだろ!彼女は何も悪くないじゃないか!自分たちがイジメて遊びたいだけだろ!」

「…お前もうだまれよ」

 

 自分より弱い卓也の物言いに遂にキレたのか、リーダー格の少年が卓也の腹を蹴り飛ばす。

 

「…っぐ…」

「師岡くん!」

「……ハァ、…だいじょうぶ……ボクはだいじょうぶだから、椎名さんはアイツらのスキをみてにげて」

 

 卓也はズキズキと痛む腹を抑え、慌てて駆け寄る椎名を安心させるべく無理矢理笑みを浮かべる。椎名はそんな卓也の姿に胸が締め付けられるような痛みを覚えた。

 

「そんな、私のせいなのに…」

「なにブツブツ言ってんだよ!オラァ!」

 

 そんな彼らを見て、苛つきを隠さない相手の少年は更に容赦ない蹴りを叩き込む。先程貶された恨みと言うよりは、寧ろ加虐的な笑みを浮かべていた。

 

「ッ!…がはッ…………良いからはやく!」

「…!いや!私だけなんていや!」

「なに?インバイのくせににげようとしてんの?コイツはすてゴマですかぁ?ギャハハハ」

「…っちがう!そんなこと、するわけないでしょ!」

 

 椎名は近くに落ちていた石を牽制の意味も込めて投げつける。実は彼女は椎名流弓術という古武術を伝える家の生まれで、戦闘力はそれなりに高かった…が、この場においては多勢に無勢であり…

 

「ってぇな、そういやコイツちょっと強いんだったわ…忘れて…たッ!」

「…ギッ……」

「師岡くん!」

「そこのヒョロはあんま強くねーからな、お前ら、アイツからツブすぜ」

 

 少女は絶望に暮れた。“世界はなんて残酷なんだろう”と。自分を守ろうとしてくれた人さえ傷つけて、“自分は生きている意味があるのだろうか”とさえ考えた

 

「(私はどうなっても良い…でも、こんな私にやさしくしてくれた人がこれ以上キズ付くのは見てられない…だれか、だれか助けて…)」

 

 少女の願いは確かに届いた。

 

 聞き届けたのはどこかに居るような神ではなく、ちょっと不器用な、けれど誰よりも優しい不良だったけれど。

 

「いや、モロは強いさ…この場にいる誰よりもな」

 

「……!!誰だテメェは!?」

「…ったく、その台詞いい加減聞き飽きたわ」

 

 卓也は後ろから聞こえる力強い声に振り向く。そこには自分が知る誰よりも“強い”男の姿があった

 

「………ゲン…さん!」

 

 夕焼けの赤色を背負い、こちらに向けて笑みを浮かべる少年。源忠勝の登場は、卓也に絶対的な安心感を与え、希望の炎を灯した。

 

「おうモロ、一子から一部始終聞いたぜ…やるじゃねぇか」

 

 ポンとこちらを見上げる卓也の頭に手を置くと、忠勝はそう告げた。卓也は少し気恥ずかしそうにしながらもそれを受け入れる。

 

「ははっ…ボクにはこれくらいしか…けっきょく、また助けられて…」

「んな事ねぇよ、お前はしっかりその子守ってんじゃねぇか。お前は確かに自分で動いて、結果周りがついてきた。認めろよ、モロ。お前自身の強さをよ」

 

 忠勝の言葉は心に染み入るようであった。卓也は、あの忠勝が認めてくれているなら、自分も少しは強くなれているのだろう、と考えることができた。

 

「あはは、嬉しい…な」

「あとは任せろ、モロ。五分もかからねぇからよ」

「うん、任せた」

 

 拳を付き合わせると、緊張の糸が切れたようにその場に座り込む卓也。慌てて椎名は肩を支えたが、卓也の顔は安心しきっていた。

 

「ってな訳でテメェ等、覚悟は出来てんだろうな。俺の親友傷モンにした罪は重ェぞ」

「るせぇ!ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ…コッチは六人もいるんだ、負けるはずねえ!」

「やってる事は小物丸出しの癖に、口だけは一人前だな。約束通り五分で終わらせるから…とっととかかってこいや、クズ共…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 二分後、主犯グループのメンバーは全員腹を抑えてうずくまっていた。忠勝は二人と共に校舎裏を抜けると、今回の騒動の発端となったイジメの終結を告げた。

 

「お前らの学校の教師には、川神学園学園長様から有難いお話があるだろうよ、こいつらはまぁ、多転校だな。これで一見落着って訳だ」

「流石、頼りになるね。っていうかもう全部ゲンさん一人で良かったんじゃないかな」

「それはねぇな、俺はこの学校の生徒じゃねぇしよ。お前が動かなきゃ、俺だって動くつもりは無かったぜ?」

「…あ、あの…」

 

 あまりの急展開についていけなかった椎名だったが、ここに来てようやく状況を飲み込むことが出来たようだ。

 

「あ、ごめんね、椎名さん。この人は源忠勝くん。違う学校だから知らないと思うけど、ボクの…親友…だよ」

「今回は災難だったな、椎名京。話はモロ…卓也から聞いてる。コイツに感謝しとけよ…?」

 

 その言葉と共に実感が湧いてきたのか、ぽつぽつと涙をこぼす椎名。卓也はあたふたしていたが、忠勝はそんな彼らを優しげな眼差しで見守っていた

 

「……ありがとう、ホントにありがとう…私、ずっと一人だったのに、師岡くんが助けてくれて……いま、こうしていられるのが夢みたい…」

「ボクはそこまで大したことは…

「モロ、いい加減認めねぇと殴るぞ」

「あ、あはは…ゴメンなさい」

「……ふふ」

 

 そんな二人のやり取りを見てクスリと笑う椎名。彼女は今までの悪夢の様な状況を打ち払い、救い出してくれた卓也達に心から感謝していた

 

「源くん…も、ありがとう。ケガとか…はないよね」

「あんな奴らの拳なんて掠りもしねぇよ、むしろモロの方が怪我してる位だ」

 

 忠勝はおらおら、と冗談混じりに拳で軽く卓也の腹を小突く…卓也は本気で痛がっていたが。

 

「まあ、ボクはせんとうりょくゼロだからね…」

「とりあえずお前は保健室行って痣に湿布貼ってこい。椎名、悪いがコイツ連れてってやってくれ」

「…うん!」

 

 忠勝の提案にすこし嬉しそうな顔をする椎名。やはり彼女も乙女であるのだろう。このような状況ともなれば、恋に落ちるのも当然である。

 

「いや、ボク一人でも…

「モロ…お前空気読めねぇ奴だな…二人きりにしてやるから行けっつってんだよ」 

 

「んなっ!?」

「…」

 

 互いに顔を見合わせ、赤面する二人。忠勝は呆れ半分、冷やかし半分で二人の背中を押す

 

「さっさと行け、俺は後処理しとくから。ってか邪魔だ、散れ散れ」

「扱い雑になってない!?それ怪我した親友に対する態度じゃないよね!?」

「ウルセェ…椎名、早く連れてけ」

「…師岡くん…!早く…!」

 

 恋する乙女は強い。卓也の腕をグイグイと引っ張り、保健室へと足を進める。未だダメージが残る卓也はさり気なく痛がっていたが

 

「あ、ちょっと待っていたいいたい…分かったよ、ゲンさんまたあとで!」

「ああ……ったく、俺が恋の天使って柄かよ。面倒な役割押し付けやがって…」

 

 二人の姿が見えなくなると、忠勝はため息をついた。今回の一件における卓也の働きに免じて許してやろう。そう考えた忠勝は後処理のために校舎裏を目指して…

 

 

「ほほっ、青春じゃのう」

 

 

 

 勢い良く振り返る忠勝。

 視線の先には袴を着た老人が立っていた。忠勝は突然の登場に内心かなり驚いていた。なぜなら彼こそ生ける伝説、“武神”川神鉄心であり、今回の事を相談していた相手であったからだ。

 

「…鉄心さん、いつから居たんすか…」

「勿論最初からじゃよ、若人が持て余す力を振るいすぎないように、な」

 

 片眉を上げてこちらを見やる鉄心。忠勝は自分の心の中まで見透かされている気さえした

 

「俺だって加減ぐらいしますよ、あのバカ共だってまだ子供だ」

「お主も十分子供なんじゃがの、まあ良いわい。源…今回の事、報告ご苦労じゃったな、教育者として、親として見逃せぬ一件であった」

 

 実は、卓也が一子達と動き出していた頃、忠勝もまた鉄心に働きかけていたのだ。自分の孫の通う学校の、しかも孫の友人と同じクラスで虐めが見過ごされている。という話を受け、鉄心は教育者として、一人の人間として心に怒りを抱いた。

 故に小学校に働きかけ、今回の騒動の収束に乗り出していたのだ。結果として主犯グループが暴走してこのような結果となった訳だが。

 

「矢面に立ってたのは師岡で、俺は特に何やるでもなく、鉄心さんに面倒事押し付けただけなんで」

「全くじゃい、綺麗に水月だけ打ち抜きよってからに、交渉の余地は…まあ、残って居らんかったがのう」

「アイツ等は師岡を蹴った。師岡は椎名京を守っていて動けなかった。だから俺が代わりに殴り返した。何の問題もありませんね」

「フォッフォッフォ…その理屈が通る親なら良いがのう…最近の親御さんは過保護でいかん」

「ウチの親父なんて超放置主義ですんで、そこら辺よく分からんすね」

 

 忠勝の脳裏には、最近加齢臭を亜巳に指摘されて体臭を無駄に気にするようになった親の顔が浮かんだ。

 

「よく言うわい…まあお主らにはモモも世話になっとるようだし、ここは一つ恩を売っておこうかの」

「何言ってんすか、教育者なら無償、見返りを求めないのが普通でしょうよ」

 

 “武神に一つ借りなんて、絶対に返せないに違いない”そう考えた忠勝は苦い表情を浮かべて反論する。

 

「ん?何か言ったかの?最近耳が遠くなってイカンな…」

「…ッチ、老人キャラお得意の難聴詐欺かよ」

「何か、言ったかの?」

 

 都合の良い所だけやけに鋭い耳である…流石の源忠勝を以ってしても、武神を相手に掛け合いを挑むのは難しい事であった。

 

「いえ、別に何でもないっす」

「お主には荒々しいながらも光る武の才があるようじゃし、一度モモと闘ってみんか?」

「あんなおっかないの御免被ります、ありゃ“普通”なら敵いっこない存在でしょうよ」

 

「源忠勝、幼少期より親不孝通りで闘争に明け暮れ、我流の武術で幼いながらも大人と渡り歩く強さを誇る…どう考えても“普通”の範疇は越えとると思うがの」

 

「……アンタの所の釈迦堂って人の戦いを見た事がある、ありゃ生きてる世界が違うでしょう、なにか特殊な“チカラ”がなけりゃ、あれには届かないですよ」

「…ほう、お主“見た”のか…」

 

鉄心は眉根をあげて忠勝を見やる。忠勝は訳が分からない風に眉根を寄せた。

 

「…?なんの事っすか?」

「分かってないのか、惚けているのか、お主年の割に何考えとるのかよう分からんのう」

「はは、よく言われるっす」

 

 鉄心の鋭い視線を避けるように苦笑いを浮かべる忠勝。“年の割に”というフレーズは、もはや聞き慣れたものであった。

 

「まあ、暇が出来たら院に来るがよい、総力をあげて歓迎するぞい。」

「文面から不穏な空気しか感じないんすけど、まあ気が向いたら“遊びに”行きますんで。」

「フォッフォッフォ、善き哉善き哉…モモをよろしく頼むぞい。」

 

 最後にそう呟くと、武神川神鉄心はその場から掻き消えた。その場の空気が緩み、思わずため息を一つ。

 

「やれやれ、厄介な連中に目ェつけられちまったかもな…」

 

 これから襲い来るであろう面倒ごとを思うと嫌な気しかしない。すぐに思考を放棄すると、“良い雰囲気”になっているであろう保健室へと向かった。

 

 




「あ、この一件はしっかり風間にもチクッてあるからよ、多分椎名もファミリーの一員になれてると思うぜ」
「「な、なんだってーー!?」」
「まあ、島津に関してはモロが自分でなんとかしろや。直江は恐らくモモ先輩がみっちりお仕置きしてるからよ」
「え?何で?」
「か弱い乙女の危機に救いの手を差し伸べないとは何事か…だとよ」
「あ、あはは…がんばれ、ヤマト…」

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