時は流れて、初夏が訪れ、蒸し暑い日が続いていた。しかし、幻想郷の初夏は外の世界の初夏より
は涼しいと樹は感じている。哨戒用の服も夏服が配られ、一層夏を感じさせる。人間だったら夏休
みという長期休暇が外の世界にはあったが、流石に幻想郷ではそういう概念はないらしく、スケジ
ュールを見た限りでも休みがお盆くらいしか見受けられない。樹はお盆休みに紫に会おうと決めて
いたが、どこに住んでいるのか見当もつかず天狗という天狗に聞いてみるが、確実という情報が得
られない中一番の情報通の文に聞いてみると、
「紫さんの自宅がどこにあるのかは知りませんが、その式の式の方の場所ならわかりますよ。」
「文さん本当ですか!?是非、教えてください。八目鰻あげますから。」
樹は頭を下げて頼むと、文は鰻を受け取ると、
「はい、これ地図です。まぁ、この山の近くにあるんですけどね。」
文から地図を受け取ると、お礼を言うと、哨戒の持ち場に戻る。持ち場で文からもらった地図を見
ると、図の方は雑だったが、どのような特徴まで書かれていてとても分かりやすかった。
隣にいる椛は樹が何を見ているのか気になり、後ろから覗き込み、
「これってどこの地図なの?」
「うん?紫さんの式神の式神のいる場所の地図だよ。何年かに一回は外の世界で一哉に顔くらいは
出さないとなって思ってさ。」
「ふぅーん、それは良いんじゃない?何年かより1年に1回の方が私が人間だったら嬉しいかな。」
「それも、そっか…天狗の寿命は人間よりも遥かに長いからな。行く頻度また考えないとな…」
「外の世界実は私興味があるの。どんな感じかは樹から聞いてるけど、百聞は一見にしかずって言
うでしょ?最初はいつくらいに行くの?出来れば私も連れて行ってほしいの!」
「そうだな~お盆休みに行くことにしてるからその前にはお願いしに行きたいんだ。だからまず、
式神に会って居場所を知らないといけないから情報収集してたわけ。」
興味津々の椛に外の世界に行くまでの過程を話すと、その日から行くのを楽しみにしていた。
それから1週間が経ち、そろそろ紫に会わないとという使命感を感じ、夜明け前に起きて、地図に
書かれている迷い家を目指した。早速、空を飛んで移動すると、山の反対側に迷い家を見つけ、と
りあえず、朝日が昇るのを待とうしたとき、ゆっくりと玄関の扉が開く。中からは本で見た九尾の
狐が出てきて、こちらの気配に気づくと、
「お前は確か紫様が言っていた白狼天狗…一応自己紹介しておくか、私は八雲藍だ。」
樹は紫という単語に反応して、
「あなたが紫さんの式神ですか?宜しければ連れて行ってほしいんですが…」
藍は顔色一つ変えず、いいぞと答えると、飛行をはじめ、そのあとをついていくように樹も飛行す
る。
――少年追跡中――
だいたい五分くらいでかなり大きい屋敷にふたりは降り立つと藍は迷いなくいつも通りに玄関から
入っていく。樹もそのあとに続いて、中に入り、お邪魔しますと小声で言う。
下駄を脱ぐと、上がって藍のあとをただついていき、藍が立ち止まると、
「紫様失礼します。今日は客人がお見えになられています。」
「あら、私に客なんて幽々子位しかいないんだけど…まぁ良いわ通して。」
そのやりとりは人間のときより敏感になった聴力で把握したどうやらOKらしい。藍は入れと言い
立ち去って行った。樹は中に入ると、お久しぶりですね紫さん。」
「あら、樹だったのね?どうかしらこっちでの暮らしは?」
「こっちでの暮らしはかなり快適です。能力持ちだと分かりましたし。」
「へぇ~どんな能力なのかしら?」
紫は興味ありげな反応したので、樹は簡単に
「能力は【空間を操る程度の能力】です。紫さんの使うスキマに似たようなものです。しかし、違
いは外の世界には移動できないんです。道具とかはできるんですけど…」
「何となく察したわ、外の世界に行きたいかしら?」
流石、賢者察しがよくて助かると、樹は思いつつ、話を進める。
「はい、その通りです。そのためには紫さんの許可とスキマが必要なんです。」
「いいわよ。人間だったあなただって名残はあるし、それに一哉君でしょ?それに向こうは怪異が
起きてるみたいだし、ちょうどいいわ。」
「ありがとうございます。では、いったんスキマを開いてもらっていいですか?」
「?それはどういう意味かしら?」
「まぁ、能力で試したいことがあるので、少しだけでいいんです。」
樹は頭を下げると、
「わかったわ、はい。」
紫は協力的にスキマを開いてくれ、その中に手を入れる。少しして、手を抜くと、自然に閉じ
て行った。そして、手を伸ばすと、スキマが現れた。紫は自分以外の妖怪がスキマを開いたこ
とに驚いて、
「あなた何をしたの!?15文字以内で答えなさい!!」
「能力でスキマを共有した」
と紙に書き紫に渡すと、
「へぇ~あなたの能力ってチートね…」
樹は苦笑いしながら
「能力だけじゃなく、妖力も異常なんですけどね…」
紫は溜息をつくと、
「で、用件はこれだけかしら?」
「はい、そうです。では俺はお暇させてもらいますね」
「ええ、また来てくれないかしら?あなたも歓迎するわ。この屋敷に来ることを」
「はい、またいつか来ますよ。」
そういうと、樹は急いで妖怪の山に戻り、空腹の状態で哨戒の仕事をすることになったのは言うま
でもない。
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その日の夜
妖怪の山麓
樹は一人でミスティアの屋台に入っていた。最近では樹が手伝っているためか妖怪の山に来るこ
とが多くなっていた。
「今日はどうされたんですか?一人とは珍しいですね?」
「まぁな…たまには一人で呑みたい時があるのさ…」
樹はミスティアの問いに、酒が注がれたグラスを口に運び少し含む。
「まぁ、わからなくはないですよ。私もそういうときもありますから…」
「そう言ってくれると嬉しいよ…外の世界で椛がやらかさなきゃいいけど…」
ミスティアは樹が言った『外の世界』に反応した。
「えっ!?樹さん椛さんと外の世界に行くんですか!?いつですか!?私も行ってみたいです!!」
「あのな…ミスティア悪いんだけどお前行ったら絶対人襲うよね?妖怪としての本能抑えられない
よね?それと、これは紫さんからの頼み事も含まれてんだ。椛はともかく幻想郷の料理人までいな
くなったら、それを慕ってきた人たちもがっかりするし、俺も困るんだ。いいか?帰ってきたらた
くさん教えるから待っててくれ。」
ミスティアは少しふくれっ面で
「むぅ~紫さんの頼み事なら仕方ないです…その代り絶対料理たくさん教えてくださいね!?」
「わかったよ女将…」
そういって樹は酒を少し含み溜息をつくと、背後からゾッとするような気配を感じた。そして、
「隣よろしいかしら?」
「は、はい…どうぞ…」
すると、右隣に背中に刀を携えた銀髪の少女が、左隣には扇で顔を隠している?何とも幽霊らしき
女性が樹を挟むように座ってきた。亡霊の女性がふふっと笑うと、
「こんばんわ、樹君私は西行寺幽々子、見た目でわかると思うけど種族は亡霊よ。妖夢あなたも自
己紹介なさい。」
幽々子が妖夢に自己紹介するように促すと、
「幽々子様の庭師兼雑用をしています魂魄妖夢です。ちなみに私は半人半霊です。」
自己紹介を済ますと、幽々子が樹の顔に自分の顔を近づけると、
「あなた、紫の話によると、剣士だそうね。それを見込んでのお願いなんだけど、うちの妖夢と
手合せしてもらいたいのよ。」
樹は紫に戦闘スタイルを見せたことがないのに、それを幽々子が知っていることに驚いた。
「まさか、ずっと俺のこと見てたんだな紫さんは…」
「えぇ、紅魔館でのできごとをずっと見ていたらしいわよ。」
「そうか、で手合せの件は受けて立つぞ。」
樹は能力で空間から月狼刀を取り出す。もちろん屋台から出て、すると、妖夢も屋台から出て、刀
を2本構える。
「へぇ~妖夢も二刀流なのか?」
それを聞いて、
「じゃあ、あなたも二刀流ですか?」
「まぁな、でも本気を出していい相手か、見極めさせてもらうぞ!」
そういうと、樹は能力で戦闘による物体の破壊を無効化する空間を半径500mで展開し、妖夢の懐
へと走りこむ。それを妖夢は攻めの構えで樹に斬りかかり、速さで勝負を挑む。それに加え、観
戦者の幽々子は妖夢頑張れ~と応援している。だが、二人はそんなことはお構いなしに一進一退
の戦いを繰り広げる。
10分位一進一退の状態が続き、お互いいったん距離をおくと、
「樹さん本気で来てください!このままじゃ埒があきません。」
「それもそうだな、じゃあスペルカードルールで決着をつけようか?居合の意味を込めてスペルは
1枚で」
「わかりました、それで行きましょう。それでは一斉の」
「狼符『月夜に浮かぶ狼牙』」「断想剣『草木成仏斬』」
二人は目を瞑ると、全神経を柄に集中させ、一気に抜刀する。
「へぇ~意外ね~」
幽々子が言葉の通りの顔でその一部始終を見ていた。立っていたのは、樹だった。それも左腕を失
った。樹は、刀を収めると、左手だったものから、天魔刀を拾い上げ、空間にしまう。そして、左
腕を止血していると、妖夢が肩の押さえてゆっくりと立ち上がる。
「なぜですか?貴方ほどの剣士なら無傷で勝てたはず。それなのになんでですか?」
「それはな…「それはあなたを傷つけないためなのよ。ね?樹君」…はい。」
そういうと、樹は簡単に説明する。
「実は当てる前に能力で俺の刀だけ斬れない空間にして、妖夢には傷をつけないようにしたん
だ。」
「そんな甘いことしてますと他の時で死にますよ?」
「まぁ、幻想郷の中だけにしておくけど、それ以外は気を付けるよ。」
樹は妖夢の忠告を聞くと、残った右腕で妖夢と握手をする。すると、妖夢は左腕を見ると、バツが
悪そうな顔をしたので、
「気にするなよ、妖怪は死ななきゃ体は時間かかるけど再生するだろ?この左腕も半日すれば元通り
になるから、な?」
そういうと、3人と別れた。もちろんミスティアの屋台での代金を払って。
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次の日の朝になり樹は昨日までの違和感を感じ目が覚めた。起き上がって違和感のある左腕を見
てみると、そこには何事もなかったように腕が生えかわっていた。さすが、妖怪だと樹はこの時改
めて感心した。もう寝る気も起きなかったので、朝食の準備をしようと部屋を出ると、そこには今
起きてきたらしく椛が眠そうな目を擦りながら部屋から出てきた。椛が樹に気付くと、
「おはよう樹…昨日は遅かったけどどうしたの?」
「いや、別にちょっと左腕ちょん切られただけだ。もちろん今はこの通りだけどな!」
大したことないように左腕を見せて言うが、
「全然大丈夫じゃないじゃん!!「ぐほっ!?」」バシッ!
樹の頬に強烈な椛の平手打ちが炸裂、そしてその威力で樹は後ろへと倒れ、椛は両腕を組むと、
「まったく樹ったら副隊長としての意地はないの!?誰を相手してたらそんなになるの!?」
若干説教気味な口調で話し、左腕を指して問いかけると、樹は頭を掻きながら、
「いやぁ~冥界の庭師と戦って気遣ってたらね?」
その説明を聞いて、椛ははぁ…と溜息をつくと、
「妖夢さんなら仕方ないなぁ…私と5分いや私以上だからなぁ…」
「へぇ~椛でも5分なのか~意外だわ」
「もうその話は良いでしょ!?さぁ、ご飯の支度して、哨戒しに行くよ!!」
「へいへ…「返事ははい!」…はい…」
樹は椛に威圧され、準備に取り掛かる。
(準備すると言っても俺能力ですぐ終わるし椛が早く準備した方が良いんじゃね?)
樹はそれを言おうとしたが、言ったら何をされるか安易に予想できたので言わないでおこうと
その言葉を心の奥にしまっておいた。