樹は第三者としての感じですね。
第16話 妖怪の山 ~風神録前編~
暑く、青い空の下樹は人里に来ていた。外の世界から帰ってきて丸一日たった葉月十六日の
今日里の人間はこの猛暑の中でも賑わっている。本当なら樹も今日は哨戒の仕事があるのだが
なぜこうなったのかは朝にまで遡る。
樹はいつも通りの時間に起きて朝食の用意をしていた。仕上げにかかっていた時に、外から
ノックする音が聞こえ、樹は急いで仕上げる。文さんだったら待たせるのはまずいと思い能力
でドアの前に行き、ドアを開ける。ドアの目の前に立っていたのは見知らぬ烏天狗の女性だっ
た。樹は不思議そうな顔をして、
「すいません…どちら様でしょうか?」
女性は表情一つ変えずに、
「あぁ、そう言えばお主と初めてだったな妾は峰岸春美。天魔と言えば分かるか?」
天魔この山の№1の天狗で普段は7人の大天狗に任せているが、大天狗では手に負えない時のみ
天魔の判断に任される。その他には優れた天狗には陰密に危険な任務を依頼すると椛からかな
り前だが聞いていた。その天魔様が今樹たちの家にいるということは樹か椛に何か用があるの
だと悟った。天魔様は少し口元を緩めると、
「今回は水無月、お主に頼みたいことがあるのだ。それは哨戒の仕事ではなく妾の直属の部下
になってはくれぬか?」
樹は言っていることの理解するのに数秒かかった。そして天魔様は続けて、
「お主の仕事は妾から出す依頼を達成させることだ。もちろん難易度は高めだがな。受けてく
れるか?水無月よ。」
内容を理解できた樹は考え込む。
「俺より優れた天狗なんてたくさんいるのに何で俺なんですか天魔様?」
「それはお主が完璧に人間に化けることが可能だからだ。妖力ではなく霊力に変換することが
出来るお主が適任だと妾と7人の大天狗達で満場一致したからだ。」
「大天狗様全員もですか…なら拒否権が皆無に等しいじゃないですか…やります。天魔様の部
下として恥ずかしくないようにします。」
樹の質問に天魔様は即答された。本当なら天魔様だけの意見だったら断っていたが7人の大天狗
も携わったとあると断るにも断れなかった。
「すまぬな、よろしく頼むぞ。今日から任務についてもらうぞ?集合は酉の二つの時間に来ても
らえるか?時間まで自由にしてても良いぞ。」
そう言うと、天魔様は飛んで行った。
天魔様との時間になるまで暇だったので人里に降りてきたのだ。買い物の時だけしか来たこ
とのなかった人里、その商店街から少しだけ離れたところに簾に『鈴奈庵』と書かれた店(?)
らしき建物に入ってみることにした。暖簾を潜ると辺りには本棚がありびっしりと本が並んで
いた。ざっと見た感じでは貸本屋だろうか?辺りを見回していると、
「いらっしゃいませ~あら?ここに天狗の客とか初めてね?」
奥からオレンジ色の髪に鈴の髪留めをした少女が本を閉じながら樹に近寄る。
「私は本居小鈴、ここ『鈴奈庵』で貸本屋をしているの。であなたの名前は?」
すると、もう一人赤紫っぽい色をした髪をした少女は
「水無月樹さんですね?かなり前の新聞にも話題になった外来人だった妖怪ですよ小鈴。」
「流石阿求…覚えてるんだ…」
阿求が新聞の出来事を覚えていることに樹は驚かされた。小鈴はいつもながらって感じがわか
る。樹はそこから出た仮定を口にしてみた。
「阿求っていったか?それは能力か?」
阿求は平然と、
「そうですよ、私の能力は【一度見た物を忘れない程度の能力】です。そう言えば、あなたの
能力が有無か確認しておきたかったんですので丁度良かったです。良ければ答えてもらえます
か?」
唐突過ぎる質問に樹は一瞬戸惑ったがすぐに答える。
「俺の能力は【空間を操る程度の能力】だ。」
阿求はそれをメモに取ると、
「ありがとうございます。これであなたの情報を回収できました。ご協力ありがとうございま
した。」
「で阿求その情報は何に使うんだ?」
「私はですねすべての妖怪の情報を本にまとめているんですよ。妖怪の場合だと危険度や私達
人間との友好度とかも記しています。一応あなたのページが乗っている本があるので見てみま
す?」
「あぁ、良いんだったらお言葉に甘えて、」
阿求は懐から本を取り出すと本を開く。樹のページを見せると見開き1ページ分いっぱいに書か
れていた。
『水無月 樹(みなづき いつき)種族 白狼天狗 年齢 510歳 危険度 高
友好度 極高 2つ名《人間に近い心を持つ天狗》 能力
主な活動場所 妖怪の山
外来人ながら白狼天狗になった過程は不明。しかし戦闘能力は普通の白狼天狗よりは遥かに高く
その実力は天狗だけではなく多くの妖怪に認められている。元は人間だったため人間を襲うこと
はない。むしろ彼から人間にかかわることが多く見受けられるため里の人間は彼を快く受け入れ
ているとのこと。年齢に関しては人間の時は17歳だったと言うが、天狗の年齢は人間の30倍と定
義づけられて記してある通りである。剣術に関しては右に立つものはあまりいない。
外来人のためその世界についての知識は豊富である。稀ではあるが完全に人間へ化けるとのこと
しかし、それは霊力まで化けられ誰も気づかれないらしい。
目撃報告例
・あいつにだけは異変を起こさせたくないわね…退治できるか分からないわ。(博麗霊夢)
・樹と弾幕ごっこしてみたいぜ!あのレミリアを倒す位だからな!! (霧雨魔理沙)
・あの人には外の世界の料理をたくさん教えてもらってから繁盛したよ(食堂のおばちゃん)
・あの人とは良いライバルになれそうです!日々精進しなければ!!(魂魄妖夢)』
「へぇ~詳しく書かれてるじゃん。誰に教えてもらっているんだ?」
樹は一段落着くと何となくわかってはいるが聞かずにはいられなかった。
「もちろん、射命丸さんにご提供してもらいました。何か抜けでもありましたか?」
「いいや、特にはないぞ。こんなに情報が集まっていたからもしかしたら文さんかな~って
思ってさ。」
小鈴が樹のページを読み終えると、
「へぇ~あなた外の世界に詳しいんだ~じゃあ何か外の世界の本こっちでは外来本って呼ん
でいるんだけど持ってきてる?それだったらお願い!!ここに売ってくれないかしら?外来本家
ですごい人気で入荷待ちしているの!売ってくれたお礼にはここの本を無料貸し借りさせて
あげるから!!」
樹は少し考えると、
「まぁ、俺だけじゃなくて里の人たちにも読んでほしいからな~いいぞ、よっと」
返事をすると、空間から本を何十冊もの本を出す。阿求と小鈴は驚きはしなかった。が、小
鈴はすご~い、と目を輝かせている。樹は言い忘れていたことがあったことを思い出すと、
「あ、そうだ一応スキマも使えるからそれも書いておいて。」
「わかりました、付け足し部分も書いておきます。完成したらまた見てもらえますか?」
「良いけど、暇な時にしか降りてこないから、一応許可書いておくよ。小鈴、紙と筆あ
るか?」
小鈴はさっきまでいた机の中から紙と筆と硯を出すと、樹は机を借りて人間の字で許可
書を書いて阿求に渡す。
「これで犬走椛に出せば、通してもらえるから必ず出せよ!?」
「わかりました、では私はお暇しますね?」
そう言うと、阿求は暖簾を潜って鈴奈庵から出て行った。残された樹と小鈴は阿求を見
送った後、二人も外に出て近くの甘味処で一服しながら外の世界についての話を夕方に
なるまでしていた。
酉の三つ時、樹は天魔様の自宅へと足を踏み入れていた。天魔様は樹に椅子に座るよ
うに促すと、樹はゆっくりと椅子へと腰かける。
「では、余談はなしだ、水無月お主には近々博麗の巫女と共に人間の姿で地底へ行って
もらう。その目的は博麗の巫女と言えば分かる通り異変の解決だ。地底にいる怨霊は地
上の妖怪にも害を及ぼすやつもおるからな。」
「怨霊?幽霊ですか?」
「左様お主は確か除霊術を持っているとか射命丸の娘から聞いておるぞ。」
樹は除霊術と聞いて、天魔刀と月狼牙を取り出す。天魔様が天魔刀を見るや否、
「水無月お主それをどこで手に入れた?」
「これですか?これは紅魔館の吸血鬼の妹からもらいました。」
「…そうか…ではいったん妾に渡してくれ。」
樹はそう言われると、素直に天魔刀を天魔様に渡す。天魔刀が手に触れた瞬間、天魔様を
拒絶するように天魔刀が樹の元へと戻ってくる。天魔様は溜息をつくと、
「はぁ…やはり水無月のことを主人と認めているのか…水無月よ、この刀は歴代の天魔に
よって使われていた刀なんだ…しかし、これがお主の手にあるということは例外だ…それ
だけお主はその刀に≪好かれている≫みたいだな…」
「好かれているですか?」
樹は好かれていると聞き返してみる。
「まぁ、そのことについてはまた今度話すことにしよう。で、話を戻すとなぜ近々と言っ
たかわかるか水無月?」
樹はこの質問についてはもう当然のように答える。
「それが天魔様の能力だからですよね?」
「左様、妾は【未来を見通す程度の能力】それで近いうちに地底で異変が起きることが判
明してな。妖怪は入ってはいけないのだが、お主は霊力にまで変換できるまで人間に化け
ることが出来ることを利点を利かせて巫女のサポートしながら怨霊を退治してほしいのだ。
やってはくれぬか?」
樹は興味津々な顔をして、
「ぜひ、やらせて下さい。地上の妖怪が入れない場所をこんな俺が入れるなんて光栄です。」
「そうか、それではよろしく頼むぞ?ちなみに日付は次の年の師走二日だ。それまではお主
の自由にしててよい。腕が鈍るようなら哨戒の仕事をしても別に構わないからな。」
「はい!!…えっ!?」
大きく返事をしたかと思うと拍子抜けした声を漏れていた。一年後の年末…妖怪にしたら
短い期間なのだと思うが人間だった樹にとってはとても長い期間に思えた。
「話は終いだ帰ってよいぞ。」
天魔様は樹に終了を告げると、樹はその言葉に従い、天魔様の家を後にする。
天魔様から任務を言い渡されてから一か月が経ち、長月13日の早朝珍しく2人が外で剣の
模擬戦をしていた。その途中、二人は突然気配を察知した。その場所は山の頂点からであっ
た。椛は哨戒の仕事があるため行くことが出来ないが樹はほとんどフリーに近いので行こう
とした。
「気を付けてね樹、危ないと思ったら戻ってきて。お願い」
椛はそれだけを言うと哨戒の仕事へと向かう。
「あぁ、言われなくてもそのつもりだ。」
樹もそれだけを告げると、山の頂上へと向かう。
頂上付近まで着くと、突然目の前にスキマが現れると、紫が出てきて樹を手招きをする。樹
はスキマに入る。出た先は紫の自宅だった。紫は樹に申し訳なさそうに、
「すまないわね、本当なら天狗として山を守るはずだったはずなのにこっちに来てもらって…」
樹は怪訝そうな顔をして、
「なぜ、俺を引き留めここに呼んだか説明してもらおうか!?」
紫は藍にお茶を二人分入れるように頼んだ後に、
「そうね、強いて言うなら霊夢に解決してもらおう思ったからね。あなたなら即座に解決でき
てもね…人間が解決するためにできたのが異変なのよ、あなたにはそこを理解してほしいのよ。」
「この姿でもか?」
樹は人間の姿をして妖力を霊力に変換して紫に見せてみたが、
「そうね、それでもだめよ。本質は妖怪なんだから。」
樹はうなだれると元の姿へと戻る。紫は藍が注いだお茶を一口含むと、
「今回呼んだのはもう一つ私とこの異変の一部始終を見届けてほしいのよ」
その答えは断ると言っても、相手は幻想郷の大賢者で妖怪では№1の実力を持つから断り切れな
かった。仕方なく頷くと、
「なら霊夢が頂上に着いたら私達も行くわよ。」
「わかった…」
樹は渋々返事をすると、お茶を口へと運ぶ。
一方その頃椛は霊夢と対峙していた。
「そこの白狼天狗そこを退きなさい。」
霊夢はお祓い棒を突き出し威圧をかけると、
「ダメです!!ここから先は行かせません!!」
椛は霊夢に斬りかかる。霊夢はすんなりと避けると、
「相変わらず頭の硬い奴らね…夢符【封魔陣】」
呆れつつスペル発動する。回避する場所もなく被弾する。椛は被弾しつつも、樹の心配をしてい
た。
(樹はどうしてるかな…ちゃんと頂上に着いてるかな?)
霊夢は溜息をつくと、
「まったく…どいつもこいつも面倒かけさせないでよ…でもあいつがいないのは疑問よね?あい
つも白狼天狗のはずならいてもおかしくないはずのにもしかしてあいつも頂上に?」
霊夢は樹が頂上にいることと思い込み超スピードで頂上を目指していった。その背後から追い
かける魔理沙は悔しがって、
「畜生!!霊夢のやつ相変わらず早いんだな~ところで樹のやつどこにいるんだ?まぁ別に構わな
いんだがな。」
魔理沙は少しだけ樹との弾幕ごっこを期待していた。しかし、できないことが残念だったが、今
は霊夢の後を追っていく。