超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
以前の電車のように乗り遅れることはなく、俺たちは無事にラステイション発リーンボックス行きの船に乗ることができた。
俺たちが乗った船はそれなりに豪華だったが、俺にはそんな余裕がなかった。
「よ、酔う…」
絶賛船酔い中である。
少しでも酔いを紛らわすために、外が一望できるデッキに出たが収まる気配はない。
みんなは船内を冒険したいというREDの付き添いをしているらしい。
そんなぼっちな俺のNギアが鳴った。
Nギアを取り出し、相手の名前を見る。
やっときたか。
通話ボタンポチっと。
「やあ、待たせたね…って大丈夫かい?」
Nギアの画面には、イストワールとラステイションの教祖ケイが映し出された。
情報の共有をするために連絡を頼んだのだ。
「吐きそう…」
「大丈夫ですか、ユウさん?なんなら後でも…」
「いや、何かしゃべってたほうが楽だ」
じっとしているよりかは何かしていたほうが酔いを忘れられる。
俺は空を見上げながら話を促した。
あ~気持ち悪い。
「え、ええ。では今までの情報の整理をしましょう」
「ユウさんの経歴については、渡した資料の通りで合ってるんだよね」
「合ってるね。えーと…」
いま文字を読んで余計に酔うのは嫌だ。
のでファイルを見ずに思い出そうとする。
「ヴァティ村出身の旅人」
「そうそう、それで意味が分からないのがあの…」
深呼吸する。
幾分か落ち着いてきた。
「死亡ってとこだな」
「それについては真実だね」
「ええ。私も調べましたが、同一人物ということで間違いないです」
少し気持ち悪いが、必死に考える。
俺が生きているのに、もう一人存在する滝空ユウは死亡している。
「本当に同一人物か…?」
「どういうことだい?」
「「俺」が生きているってことは、「もうひとりの滝空ユウ」は一緒の経歴と特徴を持つ別人…ってことだよな」
デッキの手すりに身を預けるようにして座る。
「それに俺の記憶と、この「滝空ユウ」の経歴は若干ずれているみたいだし…」
「しかし、滝空ユウは特に特殊な技を持っていたという記録はありません。分身したりということはしていないみたいですね」
分身って…。
そんな忍者みたいなこと確かにできないけど。
じゃあ、誰かになにかされたか?
でもそんなことできるやつなんて見たことも出会ったこともないし…。
「ずれている、というのは?」
「そういえば」
ああそうか。思い出したあとは誰にも言ってなかったな。
二人に俺が思い出したことを伝えた。
経験したはずの俺の過去を。
その過去と、もらったファイルの経歴が若干ずれていることも伝える。
もうちょっと早く村を出ているはずなんだよな、確か。
オルガやエリカとも出会っていないみたいだし、旅の経路や期間も俺が覚えているのとはずれている。
「………なるほどね」
「そのオルガとエリカという人たちと一緒に旅をしていて、アイエフさんとコンパさんと一緒にネプギアさんを救出した…と」
「確かに、それをしたはずなんだ」
「だけど、実際にはネプギアさんを助けに行ったのはアイエフさんとコンパさんだけでした」
それはわかってるんだけどなあ。
バーチャフォレストで出会った時、あいつらも俺のことは知らないみたいだったし。
「時間が巻き戻ってたりしてるのか?」
自分でも突飛な考えだとは思ったが、思いついたことを言ってみる。
「それだと、君が二人いる理由にはならないね」
「あーそうか…」
「もしかして」
はっとしたようにケイが考え込む。
「お、どした」
「……いや、確証はないね」
「いいから言ってみろよ。気になるじゃんか」
「…やっぱり裏が取れてからにするよ。気にしないでくれ」
「気にしないでくれってお前、もしかして…まで言って気にならないわけがないでしょおおお!?」
お前これがラブコメだったら恋の勘違いが始まるところだぞ!
「ふふふ」
ケイは笑って通話を切った。
「あいつすげえいい性格してんな」
「あはは、まあケイさんのことですからすぐに調べてくるとは思いますけど」
「そうだな。リーンボックスの問題を解決しながら待ってるよ」
「ええ、お願いします。……あら?」
イストワールが何かに気づいたように自身のNギアをじっと見た。
「どうした?」
「……いえ」
「え、なに。お前も嫌がらせするの?」
イストワールも意外とSなの?
泣くよ俺。
「いえ、そういうわけでは…」
「冗談冗談。もうすぐで着くみたいだし、また連絡するよ」
「はい、どうかお気をつけて」
「ありがとさん」
女の子にはいろいろあるんでしょうな。
俺は通話を切り、遠くに見える大陸を観察した。
遠くを見たら酔いが軽くなるって本当なのかなあ。
「ユウー!見えてきたよー!」
「分かってるよ」
いつの間にかデッキに出て、はしゃいでいるREDに手を振る。
後からネプギアたちも出てきた。
息を切らしているところを見ると、REDはかなりはしゃいでたみたいだな。
その後も酔いと戦いながら俺は船の旅を楽しんだ。
「着きましたね。リーンボックス」
緑の大地リーンボックスについた俺たちは早速町の様子を見て回った。
「街の様子は…そんなに変わった様子はないわね」
「そうですね。治安はちょっと悪そうですけど」
「女神様たちもいないからね」
リーンボックスには女神候補生はおらず、女神も囚われたこの状況じゃ治安の維持は難しいのだろう。
「とりあえずは教会へ行きましょうか。ネプギアに急ぎの用があるみたいだし」
「そうですね。……ユウさん?」
ネプギアは息を荒くしている俺に話しかけた。
「だ、大丈夫だ」
「ものすごく顔色が悪そうに見えるんですけど」
「気のせい……オウッ」
コンパはえづいた俺の背中をさすってくれた。
「しばらく休んでたほうがいいです。病み上がりですし」
「そ、そうだな。じゃあお言葉に甘えて」
「なにかあったら連絡しますね」
今の俺がついていっても足手まといになってしまうからな。
教祖に会うために教会へ向かうネプギアたちを送った。
さて、適当な公園でも見つけてベンチに座ろう。
△
時間が経ったにも関わらず、私の体は震えていた。
リーンボックスの街をただ一人、あてもなく歩いていた。
「なにをやっているんだ、私は」
自分のすべきことをしたはずなのに、それを悔いている。
あの時のユウは、かつて見た破壊の化身そのものだ。
「ちょっとは耐えてみろよ?」
背中に装備していた大剣を手に持ったユウがニヤリと笑う。
その一瞬後、近くにいたキラーマシンの身体が真っ二つに斬れた。
私たちがいくら攻撃しても仰け反るだけだったキラーマシンを斬ったのはもちろんユウだ。
真っ二つにされたキラーマシンは動くことなくその場に沈黙した。
「そんな…」
「たったの一撃で…」
ラムとロムは驚きの表情でユウを見る。
無理もない。
あのキラーマシンをたった一撃で葬ったのだから。
ユウはさらに寄ってくるキラーマシンを屠っていく。
「こんなもんかよ?」
その顔は、破壊を楽しんでいるように見えた。
やはりこいつだ。
女神たちを殺し、私たちの仲間を殺し、世界を崩壊させた悪魔。
「シレットスピアー!」
ユウは魔法陣を宙に描き、そこから巨大な槍を出現させた。
「貫け!!」
巨大な槍は鋭いスピードで残る数少ないキラーマシン全てを貫き、消滅させた。
唖然とするラムとロムに比べて、私とエリカは冷静だった。
「見ていたか、エリカ」
「ええ」
エリカは肯定しつつも、ユウから目をそらした。
「もう言い逃れできないぞ、エリカ」
「……」
黙るエリカの気持ちはわからんでもない。
ここに来るまでずっとユウを信じていたのだから。
「これ、は…」
カランカランと音を立ててユウの持っていた大剣が落ちた。
まるで信じられないものかを見るように、私たちを見る。
「オルガ……エリカ……ここ…は?」
今の拍子に記憶を取り戻したのか、ユウは混乱している様子だった。
「俺はオルガたちと旅をしていて、ネプギアたちと出会って……」
だがもう逃しはしない。
私はユウにククリを向ける。
「やっぱりお前がやったんだ……お前が…ネプギアたちを殺したんだ!」
「何を言ってるんだ、オルガ。俺はお前たちと旅して……」
「うるさい!」
戯言はもうたくさんだ。
もうこれ以上喋らないでくれ。
これ以上私を惑わさないでくれ。
気の変わらないうちにこの男を殺す。
そう決めた私は武器を構えた。
「待ってください!」
私の前にネプギアたちが立ちふさがる。
「何かわからないけど、ユウに何かするつもりなら私たちが相手するよ!」
「っ!黙れ!!」
私はお前たちのために言っているんだ。
この男に殺されないように、私がこの男を殺すんだ!
頭に血が上った私はネプギアたちと刃を構えた。
彼女たちを殺すつもりはない。少しばかりおとなしくなってもらうだけだ。
アイエフのカタールをかわし、蹴りを腹に浴びせる。
腹を抑えたアイエフに追撃しようとした私の前に、REDがけん玉を振り回した。
飛んできた玉をククリで弾き飛ばし、REDに詰め寄るがネプギアが進路の邪魔をする。
「邪魔だ!」
ククリで突くも、とっさに武器で防がれてしまう。
「喰らいなさい!」
「覚悟するです!」
回復したアイエフとばかでかい注射器をもったコンパが私の後ろから近づく。
振り向かずに手のひらを後ろに向け、電撃魔法を放つ。
「「きゃあっ!」」
二人は私の魔法をもろに食らったみたいだ。
そんなにダメージのある攻撃ではないが、これでしばらくは二人は動けない。
続いて私は前にいるREDとネプギアを注視した。
この正直者に効く戦い方は…。
「はっ!」
私は斬る、と見せかけてククリをくるんと一回転させた。
このフェイントに騙され、ネプギアとREDはガードの姿勢を取ってしまう。
「もらった」
ガードの面積が狭いREDを蹴り、吹っ飛ばした。
一旦離れ、深呼吸する。
「やめてくれ…そんなの間違ってる…」
ぶつぶつと呟くユウをちらっと見る。
もうすぐだ。
もうすぐでみんなの仇がとれる。
ネプギアは女神化した。
どうしてもユウを守りたいみたいだな。
かつて、私もそうだった。
危なっかしいユウを守り、ともに世界を救おうとした。
その結果、全てを失ってしまった。
女神も
仲間も
世界も
信じていた「滝空ユウ」も
私は武器に力を込める。
私たちは互いに向かって走り出し、武器の先を相手に向ける。
「やめろおおおおお!!」
攻撃が当たる。
そう思った瞬間、目の前にユウが飛び込んできた。
私たちの手は止まらず、彼を刺してしまった。
ユウはその場に倒れた。
血が大量に出ている。
死ぬ…のか?
ユウが死ぬ?
「こ、これでいいはずなんだ。これで…これで…」
そう、これで終わるはずなんだ。
これが私のやるべきことだったはずだ。
なのになぜ私の体は震えているんだ?
なぜ私はこんなにも後悔しているんだ?
なぜ私はユウを心配しているんだ?
私はこの瞬間のためにここに来たんじゃないのか?
ぐるぐると回る思考から逃げ出すように、たまらず走って去った。
「オルガ!」
そう呼ぶエリカの声も振り切って。
目を開ける。
やはり私は後悔している。
彼を刺したことを。
「焼きが回ったかな」
はあ、とため息をつく。
頭を冷やす必要があるな。
エリカともはぐれてしまったし、連絡手段はつかないし。
「どうするかな……うん?」
頭を整理するために公園へと足を踏み入れた私は、ベンチに座る男に気づいた。
「うへえ、まだ気持ち悪い…」
ユウがいた。
空を見上げていて、私には気づいていないようだ。
気持ち悪い?
ああそういえば、乗り物に弱いんだったなユウは。
リーンボックスに来るには定期便に乗らなければいけない。
乗り物に弱いユウは、前にも乗るのを嫌がっていたな。
「ふふっ」
おもわず笑ってしまった。
「………」
彼に対するこの気持ちがなんなのか。
私にはまだ決着がつけられないみたいだ。
いい機会だ。
彼に対するこの矛盾した気持ちに整理がつくまで、彼を尾行するとしよう。