超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
逃げ続けたネズミを追い、ルウィーから少し離れたアイリス草原で、ネズミは止まった。
「し、しつこいっちゅ。こんなところまで追いかけてくるなんて」
「しつこいのはお前だ。この灰ネズミ、毎度毎度俺たちの前に現れやがって…」
ネズミも私たちも、長いあいだ走ったせいで息を切らしている。
それにしても、ユウさんはあの大剣を背負っているのに速かった。
それだけ必死なのだろう。
ミナさんに怒ったときも、大剣を扱っている時のような怖い顔になっていたし…。
「ネズミさん、マジェコンを渡すです!」
「…それはできないっちゅ。どうしてもイヤだって言ったら?」
「力ずくで取り上げるです!」
「…コンパちゃんとは戦いたくないっちゅ。でも、でも…ううっ。愛と仕事の両立は無理っちゅ!どうせコンパちゃんは振り返ってくれないし…だったらここは、仕事に生きるっちゅー!」
ダンボールを持ったままのネズミはヤケになってこちらに突撃してきた。
「はい、終わり」
あっけなく、ユウさんがネズミを踏む。
ネズミは抵抗しても意味がないとわかっているのか、無駄に暴れることはしなかった。
「愛にも仕事にも敗れたっちゅー…」
「それ以前な気がしないでもないが…まあいいや」
ユウさんはネズミから足を離し、ポイと遠くへ放り投げた。
ユウさんが段ボールの中を漁っている間、アイエフさんがコンパさんをじっと見た。
「なんか、コンパがもう少し悪い女だったら、あのネズミこっちに転がる気もするんだけど」
「え?わたし、悪い子になったほうがいいですか?」
「うん、まあ無理な話よね」
「コンパには是非そのままでいてもらいたい」
いつのまにかユウさんからは怒りの感情が消えていた。
「さてさて、あとはこれを壊すだけか」
ユウさんがダンボールの中に残っているマジェコンを指差し、REDさんがここぞとばかりに壊しだした。
「わーい。壊す壊すー!」
楽しそうだなあ…。
「なんだ、混じってきたらいいじゃないか」
ニヤニヤと笑ってユウさんは近づいてきた。
元通り、とはいかないけど少なくともさっきよりは落ち着いたみたい。
「これでしばらくは、シェアを奪われずに済みそうですね」
「ええ。今のうちに、教祖にクリスタル作ってもらいましょ」
教会にもどり、ミナさんにシェアクリスタルの精製をお願いするとともに、報告を済ませた。
「新型マジェコン?そんなものが出回っていたのですか…」
「大丈夫!ちゃんと全部壊してきたから!」
楽しそうに全てのマジェコンを壊したREDさんはえっへん、と胸を反らした。
「しばらくはシェアを奪われることはないと思うです」
「そんなことより!ロムちゃんは?ロムちゃんはどうなるの?」
「落ち着いて。これだけのシェアがあれば、小型のクリスタルならすぐ作れるから」
いてもたってもいられないラムちゃんを、ミナさんがなだめた。
こうして見ると、お母さんみたいだなあ。言ったら怒られそうだけど。
「じゃあ治るの?ロムちゃん治るの?」
「大丈夫、きっと治るよ」
「そっか…えへへ、よかったー…」
ユウさんはラムちゃんの頭を撫でた。ラムちゃんは嫌そうな顔一つせずに笑った。
「ふう、よかった…」
ユウさんは、誰に見聞こえないような小さい声で呟いた。
△
「…う…うーん…ううー…」
ロムとラムの共同部屋で、怪しい人影が動いていた。
窓から不法侵入してきたその一人は、下っ端である。
「よっこらせっと。へへっ、侵入成功!大丈夫っすよ、降りてきてくださーい」
「うむ!…む?ま、待て。体が引っかかって、上手く降りられない…」
巨大な身体を侵入しようとしているもう一人が、窓につっかえていた。
「あー、体大きいですもんね…ってゆーか、その体でなんで潜入任務なんてかって出たんすか?」
「アクククク…そんなことは自明の理よ」
巨躯の持ち主は窓につっかえたまま、得意げに笑った。
「ここに、この部屋に…愛らしい幼女が眠っていると聞いたからだ!」
「…まあ、たしかに眠ってますけどねー」
「真か!くう、見たい!今すぐガン見したい!おのれえ、なぜこんな時に体が引っかかる!?」
「…これ、絶対人選ミスだよな」
「ぬぅえい!まどろっこしい!こんな天井なぞ、粉砕してくれるわ!」
ガンガンと体を入り込ませえようとしたその者は、ついに我慢できなくなった。
「わ、わ!ダメっすよ!あんまデケエ音立てちまったら…」
△
「早く、早く!もー、ミナちゃんおそいー!」
「そんなに急かさないで。ほら、もうすぐできるから…えいっ」
ミナさんがシェアクリスタルを作り始めてからしばらく、ついに輝く結晶体がその姿を現した。
「できた!やったやったー!」
そのクリスタルをラムちゃんが掲げる。
これでようやく、ロムちゃんも元気になる。
「小さいけれどこれでも十分な力があるはずです」
「早くロムちゃんの所に持って…」
ロムちゃんの部屋に行こうとしたとき、何かが崩れるような大きな音がした。
「…何の音?私たちの部屋の方から?」
「天井が壊れる音、じゃないかな。多分…」
「よくわかるな。さすが歌姫」
「まさか、ロムちゃんの身に何か…」
△
「な、な、何やってんすか!こんな音たてたら見つかっちまうじゃネエですか!」
「幼女の前の小事だ!おお、これは愛らしい…!幼女の女神とはここまで…さ、触ってもいいかな?あわよくば、舐めまわしたりしちゃっても!?」
「ん、うう。え?誰…?」
「ふふふ、怖がらなくてもいいんだよぉ?さあ、この目を見るんだ。この目をじーっとよく見て…」
「目、を…?え?う、うう…うわああああっ!?」
下っ端の声と、なにやらねっとりした声が聞こえる。
なんにしても犯罪組織だ。
俺はすぐにロムの部屋に向かい、扉を開けた。
「ロム!大丈夫か!?」
「チッ、そりゃまあバレるよな。あーあ、面倒くせえ…」
下っ端ととロムがいた。
不思議なことに、ロムはぴったりと下っ端にくっついている。
「何をしているの?ロムちゃんから離れて!」
追いついてきたラムが下っ端へ叫ぶ。
「へへっ。まあ、離れてもいいんだけどよお。このチビガキのほうが、離れたがらねえんだよなあ」
「……」
最初は気絶していると思ったが、違う。
ロムは自分の意思で下っ端にくっついているのだ。
「ロムちゃん、どうしたの?そいつは敵でしょ!?」
「敵かあ。敵ねえ…じゃあ試してみるか。おい、チビガキ。テメエの敵に攻撃しろ!」
下っ端が命令すると、ロムは杖を振った。
それにより発生した魔法陣から小さな氷の塊がラムへと向かった。
刀を抜く暇もなかった俺は、拳でその氷を叩き割った。
氷の塊が小さかったおかげで、幸い傷はなかった。
「…ロムちゃんが、わたしを…」
攻撃を受けかけたラムがショックを受けた。
「へっへっへ!どうやら敵はテメエ等のほうみてえだぜ?」
「洗脳か…」
「ああ、そうだよ。信仰のネエ弱った女神様、簡単にコロっといきやがったぜ!」
ロムの目が怪しく光っている。
こいつ、ルウィーのシェアが弱っているときにロムを狙ってきやがったのか。
「女神を洗脳!?そんなこと、許されるはずが…」
「テメエに許してもらうつもりなんざネエよ!さあて、んじゃあこの国のなけなしのシェアももらいに行くか。ついて来な!」
「はい…」
下っ端に連れられ、ロムは崩壊した天井から去っていった。
「待って、ロムちゃん、ロムちゃーーーん!」
「アンタこそ待ちなさい!今追いかけても、何もできないでしょ!」
追いかけようとするラムを、アイエフが羽交い締めにする。
「離して!離してよ!わたしとロムちゃんは、いつでも一緒なんだから!」
「なにか手はないんですか?ロムちゃんを元に戻せる方法は?」
「わかりません…女神が洗脳されたなんて記録にないことですし…」
「王子様ことREDちゃんの愛の口づけで元に戻らないかな?お伽話みたいに」
「ダメ!ロムちゃんに乱暴したら許さないから!」
「うまく言えないけど、何かこう…心を揺さぶるようなことをすれば…」
議論していたネプギアたちをよそに、俺はさっきの下っ端の言葉を思い出していた。
「信仰がないから簡単に洗脳が出来たって言ってたな」
「それが、どうかしたですか?」
「逆に言えば、信仰があれば簡単には洗脳されないってことだろ?」
洗脳という手段があるなら、今までにも使っていたはずだ。
それが今になって使おうとするのは、ロムが予想以上に弱っていたからだと推測する。
「信仰…じゃあ、シェアクリスタルを使えば、もしかして?」
「敵の言葉をそのまま信じるのもどうかと思うけど」
「他に方法もない。やってみるだけやってみよう」
「決まりね!じゃあ早く追いかけないと!」
「今更追いかけても遅いわよ。どうせ向こうもすぐ行動を起こすだろうし、情報を待ちましょう」
情報を待っているあいだ、俺たちはみなそわそわしていた。
女神が洗脳されたことが心配なのだ。特にラムは先程から落ち着きなく教会のあちこちを歩き回っている。
「ユウさん……あの…」
座って待っている俺に、ネプギアが話しかけてきた。
「どうした?」
「ユウさん、なにか悩んでますか?」
漠然とした質問だったが、内心ドキリとした。
最近、俺は自分でも焦っていると思っている。
リーンボックスのあの一件以降、俺は、俺という人間を信じられなくなっていた。
明らかにおかしくなっている俺を察して、こんな事を聞いてきたのだろう。
「俺は…」
「みなさん、いま情報が入りました!情報というより、正確には苦情ですが…女神が街中で暴れているから、何とかして欲しいと」
何から話そうかと思っていた俺だったが、ミナの呼びかけに立ち上がる。
「早速動いたわね。みんな、準備は出来てる?」
「はい、ばっちりです!」
「ロムちゃんにひどいことさせて…ぜったいぜったい許さない!」
俺は装備をしっかりと確認し、ネプギアを見た。
「あとで話そう」
「はい…」
ネプギアは心配そうに俺を見ていた。
「いいぞ、その調子だ!壊して壊して壊しまくりやがれ!」
「…壊して、壊して、壊しまくる」
街では、女神化したロムが下っ端の命令通りにそこらじゅうを破壊していた。
「へへっ、いい眺めだぜ。女神が自分の国を破壊してやがる!最っ高の見世物だぜえ!」
「見つけました!」
派手な音を聞きつけ、俺たちはロムたちの元へと急行した。
「…チッ、やっぱり来やがったか。せっかくの余興をジャマするなんて、野暮な連中だぜ」
「こんな悪趣味なこと、余興とは言わない…!」
「ロムを返しやがれ…」
「お?なんだよ、力ずくか?いいぜえ、かかってこいよ。もっとも、手ェ出してきたら、全部こいつがかばって受け止めることになるけどな!」
ロムが下っ端をかばうように前に出る。
「ひきょうだよー!正々堂々戦えー!」
「言うだけムダよ。ネプギア、いける?」
「はいっ!えええい!」
ネプギアがシェアクリスタルを掲げる。
その瞬間、暖かい光があたりを包んだ。
「ぬあっ!眩しっ!…ん?光っただけ、か?」
「お願い、ロムちゃん…元に戻って!」
「…へ、へへっ。ただのこけ脅しかよ!そんなんで戻るほどのチャチな洗脳じゃ…」
「う、うぐっ…うああああっ…!」
なんの害もない光を下っ端がバカにしようとしたとき、ロムが苦しみだした。
よし、やはりこの方法で合っていたみたいだ。
「へ?お、おい、何苦しんでやがりますか?まさか、洗脳が解けるとか、つまんねえオチは勘弁しろよ!?」
「効いてるな、もうすこしだ」
シェアクリスタルのおかげで、あとひと押しで洗脳が解ける。
「ラムちゃん、なにか声をかけてあげてください!」
「ロムちゃん、わたしだよ!分かるでしょ?ロムちゃんってば!」
「ああ…ラム、ちゃ…?」
「ま、まずい…洗脳が解けたりしたら、ぜってえ怒られる…あんなに楽しみにしてたし…お、おい!ずらかンぞ!早くしろ!」
「うぁ…は、はい…」
これで一安心、と思ったところに下っ端が再び命令を下した。
まだ残っていた洗脳の影響で、ロムは下っ端とともに逃げ出した。
「ああ!待って、ロムちゃん!」
「あとひと押しだ。絶対に逃がさん!」
絶対に元に戻してやる。
洗脳を解くため、俺たちは下っ端を追った。