超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
魔剣の名は、ゲハバーン
女神の命を奪うことでその力を増す呪われた剣。
その伝承を聞き、もちろん俺たちは魔剣を使うことを拒否した。
だが、魔剣を探すのにも相当な時間を使ってしまった。
早急に他の方法を探す必要がある。
一晩たって、俺たちはまた話し合いを始めた。
といっても、マジック・ザ・ハードに傷をつけられたオルガ達はまだ治療中だ。
話し合いの場にいたのは、各国の女神、教祖、そして俺だけだ。
ネプギアが考えた結論は、やはり魔剣の使用はできないということ。
それと、ゲイムギョウ界のすべてのシェアを一つの国に集めるというものだ。
その提案には、他の女神も教祖も反対だった。
それはそうだろう。
すべてのシェアが一つの国に集まれば、それは他の国を危うい状況にするということだ。
もしかしたら国が消滅してしまうかもしれない。
国だけではない。女神も危機にさらされることになる。
ラムとロムがほとんどのシェアを失ったときの彼女たちの苦しみは忘れていなかったが、ネプギアがやろうとしていることはそれ以上に危険なことだ。
反対を聞いても自分の意見を曲げようとしないネプギアに、女神と教祖は敵対の意を示し、各々の国へと帰っていった。
「どうして分かってくれないのかな…私は剣を使いたくないから…」
俺は他のみんなのように、ネプギアの作戦を取り消そうとできなかった。
俺もその方法しか思い浮かばなかったからだ。
俺とネプギアとネプテューヌは、その作戦を実行することにした。
これしか、世界を救う方法はないんだから。
プラネテューヌ内のシェアは、完全にプラネテューヌのものになった。
旅の途中で、もともと大半のシェアを得ていたことが功を奏した。
「どうだ、ネプギア、ネプテューヌ」
ネプテューヌとこうやって話すことはほとんどなかったように思える。
女神救出以降はドタバタしていたし、なにより俺自身に余裕がなかった。
俺は横を歩くネプテューヌをちらっと見た。
ネプギアよりも身長が低いのはまあ良しとしよう。しかし、度重なる空気ぶち壊し発言にぐうたら行動を見て、こいつが女神で大丈夫なのかと思える。
何しろあまり信仰とは関わりのない地域で生まれ育ったため、本人のことはメディア関連でしか見たことがないのだ。もちろん、そこに映っているのは「パープルハート」なわけだが。
しかし、薄紫色の髪とパーカーみたいなワンピースを着ているセンスを考えると姉妹に見えなくもない。
「んー、ちょっとは力ついたかと思うけど…あんまり変わんない?」
「うん…どうしよう。この程度じゃ…」
ネプテューヌとネプギアは困ったように眉をひそめる。
もともと大半のシェアを持っていたということは、相対的に力の上り幅が少ないことを意味する。
この程度じゃ、犯罪神を倒すなんて夢のまた夢だ。
俺は背中に装備した魔剣ゲハバーンを指でなぞった。
鞘がないため裸のままだが、どこかに置いて誰かに盗まれるよりかはマシだろう。
犯罪組織に奪われた日には目も当てられない。
誰にも使わせないために持ち歩いているが、いざとなったら…
いや、ダメだ。
これを使わないために、女神たちと仲たがいしてまでシェアを集めているんだ。
絶対に、ゲハバーンだけは使うわけにはいかない。
国内のシェアを得ることにも限界を感じた俺たちは、ついに他国のシェアを奪うことにした。
その第一の犠牲国は、ラステイション。
「これでラステイションのシェアもほとんど手に入れたな」
すでに多数のシェアの獲得を行ってきた俺たちは、効率よくラステイションのシェアを集めていった。
「はい…でも、まだ…」
「強くなった気がしないよ…まだ足りないのかな」
ラステイションのシェアを奪った。
つまり、四国のほぼ半分のシェアを手に入れたにもかかわらず、ネプギアとネプテューヌにはほとんど影響がないように見える。
「だがこれ以上は危険すぎる」
ラステイションから取れるシェアの、ギリギリのところまで取ってしまった。
これ以上取れば、本当に国が消滅してしまう恐れがある。
「だったら、この辺で止めてくれないかしら」
毅然とした態度で現れたのは、ノワールとユニだ。
プラネテューヌ姉妹に比べれば、こちらの二人は純然たる「姉妹」に見える。
黒のツインテールも、その毅然とした態度も、素直になれない奥底も。
「あ、ノワール」
「ユニちゃんも…」
「この国のシェアは、アタシ達ラステイションの女神のものよ。これ以上は渡さない」
自分の命のためではなく、自分の国を守るためにノワールは言った。
彼女らしい覚悟と強さを、その言葉から感じた。
「断る」
許されないことをしているのはわかっている。
それでも俺たちは、退くわけにはいかない。
「あなたの答えは聞いてないわ。返して、と言ってるんじゃないの。取り戻しに来たのよ」
ノワールは剣を、ユニは銃を構えた。
「力ずくか。だからお前たちには会いたくなかったんだよ」
会えば戦いになる。
思っていた通りの展開だったが、実現してほしくはなかった。
「ユニちゃん…私、ユニちゃんとは戦いたくないよ…」
「アタシはラステイションの女神よ。シェアを奪われて、黙ってられるはずないじゃない」
ユニは鋭い眼光で俺たちを見る。
「お前たちとは戦いたくない」
「…そんな中途半端な気持ちじゃ、ゲイムギョウ界を救うなんて無理ね。いいわ、アタシが代わってあげる。アンタの国のシェアも全部奪ってね」
「それは…ダメ!私がやるって、決めたんだから!」
辛いことを他人に押し付けるわけにはいかない。
俺たちが決めたことを他人に任せるわけにはいかないのだ。
「友達同士で戦うなんてイヤだけど、しかたないんだよね?ノワール」
「個人的には、あなたと白黒つけられて嬉しいって気持ちもあるけどね」
ネプテューヌの言葉に、ノワールは挑発するように返した。
戦いをやめる気は彼女たちにはないようだ。
仕方なく、俺たちは戦いに応じることにした。
といっても、ラステイションのシェアを奪われたことで、それほどの強さは彼女たちにはなかった。
得ても力は得られず、失えば力はなくなる。
シェアというのは、思っているよりも面倒くさいものだ。
「私たちの負け、か…」
「…ふん。シェアを奪われてなければ、負けなかったんだから」
激闘のすえに、黒の女神たちは武器を飛ばされて敗北を認めた。
「ごめんね、ユニちゃん」
「これで認めるか?俺たちを」
「それはできないわ」
ノワールがキッパリと言った。
「ど、どうして?わたし達が勝ったのにー!」
「そんなことをしても意味がないからよ。あなた達も、もう気づいてるんじゃないの?」
「そ、それは…」
シェアを得てもそれほど力が得られないのは、ネプギアたちがいま一番実感しているだろう。
犯罪組織が台頭してくる前に世界のシェアナンバーワンを誇っていたラステイションも、それはわかっているのだろう。
「こんなこと認めるのは、悔しいけど…」
ユニはぎゅっとこぶしを握った。
「ネプギア。アンタ達はアタシ達より強い…だから、アンタ達のほうが可能性は高いわ」
「何を……言ってるんだ…?」
とぼけてみせるが、その答えはわかっていた。
だがそれは、絶望への第一歩だ。
ノワールは、俺の背中の魔剣を指さした。
「その大事に持っている剣で、私たちの命を奪いなさい。そしてその力で、犯罪神を倒すのよ」
「ノ、ノワール!?」
「何を言って…そんなこと、できるわけが…!」
あっさりと言ってのけるノワールに、ネプギアたちは驚愕とする。
「持ち歩いてるってことは、少しはそういうつもりがあったってことでしょ。別に悪いとは言わないわ。私も、それしか方法がないと考えていたから」
ケイのような冷静な物言いに対して、俺たちは動揺しっぱなしだった。
あれだけ反対だと言っていた魔剣の能力を、認めるというのだから。
それしか方法はない。
きっとこれは彼女の本心だろう。
先ほどの戦いのときの、諦めたような、少しばかりの希望を灯したような眼が脳裏に焼き付いている。
「違う……これは、誰にも使わせないために…」
「…まだ、そんなこと言ってるの!?」
背を向けないようにする俺に、ノワールがつめかかる。
「どうしてもできないと言うのなら、私たちがやるわ。その剣を渡しなさい!」
「や、やめろ!」
ノワールがおろおろする俺の隙をつき、背中の魔剣を抜いた。
「やらなきゃゲイムギョウ界が…私たち全員が、命を落とすのよ!さあ!」
「この剣だけは、誰にも渡すわけにはいかないんだ!」
ノワールにタックルし、衝撃で落ちた魔剣を奪い返し、威嚇のために構えた。
思えばこのとき魔剣を収めなかったのは、心の奥底ではこれしかないと思っていたからなんだろう。
「わかってくれ、ノワール!!」
偽善的な言葉を並べて、やるべきことから目を背けようとした。
「…そのまま、剣を離すんじゃないわよ」
「え…?」
ノワールは、俺が構えた魔剣に自ら飛び込んだ。
「く…ぐっ…!?」
魔剣に貫かれた腹から、大量の血が流れ出す。
剣から、彼女の肉を刺した感触が生々しく伝わってくる。
「ノワー……ル…」
「ノワール!」
「…お姉ちゃん…っ!」
がくっと崩れ落ちるノワールの身体を、俺は抱きかかえた。
女の子らしく軽いその身体に、どれだけの思いがあるのだろうか。
俺には想像もつかなかった。
「…あんまり、手間かけさせないでよね……それと、ごめん。辛い役を、押し付けるわ…」
息も絶え絶えに、ノワールは俺の頬をなぞる。
「ノワール……ノワールっ!!」
「ブランも、ベールも…きっと、似たようなこと考えてるわ…誰かが、この剣を使わなきゃって…」
にっこりと、ノワールがほほ笑む。
「だから、気にしないで…ゲイムギョウ界のためだものね…」
言い残して、ノワールは消滅した。
「ノワール!ノワールーーー!!」
「消え、ちゃった…」
「俺が…ノワールを…」
殺してしまった。
仲間が大切だとか
みんなで帰ろうとか
丁寧で綺麗な言葉を吐いておきながら、俺はノワールを殺してしまった。
「ユウ…」
「ユニ…違う…これは間違いだ…」
「そんなこと言わないで!」
姉が死んだ悲しみで涙を流しながら、ユニは叫んだ。
「お姉ちゃんは、自分の意思で剣に命を捧げたのよ。お姉ちゃんの覚悟を、間違いだなんて言わないで」
ユニはすっと、俺に近づく。
「次は、アタシの番」
「ユニちゃん…」
ネプギアが止めようとするが、ユニに目で制されてしまった。
「アタシはお姉ちゃんみたいに、自分から刺されてあげたりなんかしない。だから、ちゃんとアンタの意思で…アタシの命を奪いなさい」
「できない……そんなの無理だ」
「ここまで来て、甘ったれたこと言わないで!」
「っ!」
「早くして。アンタの意思を、アタシに見せて」
俺は魔剣を持ち、構える。
断固として退こうとしないユニに、俺も全力で応えなければいけない。
「ゲイムギョウ界を救うんでしょ?」
魔剣をもつ両手に力を込める。
「アンタにしかできないの……だから、お願い!お願いだから!」
「ユウさん…」
自分でやろうと思ったのか、魔剣を持とうとするネプギアを、手で下がらせる。
「これは、俺がやる」
ユニを殺す。
それが俺にできる、全力の応えだ。
「うあああああああああ!!!」
迷いを振り切るように、あらんかぎりの叫びをあげて、俺はユニを斬った。
「ありがと、ユウ」
ユニの最期の顔は鮮明に覚えている。
悲しそうに
申し訳なさそうに
ほほ笑んでいた。
「ごめんね…」
ユニも、消滅してしまった。
「あ、あ…あああああ…っ!」
感触が残っていた。
ノワールを刺した感触が
ユニを斬ってしまった感触が
彼女たちの死の感触がこの手に残ったまま、俺は涙を流した。
だけど、もう決めたことだ。
もうやってしまったことだ。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
ユニとノワールの死を無駄にするわけにはいかない。
彼女たちの遺志をなかったことにするわけにはいかない。
「来たのは君か。それはつまり、ノワールとユニはもうこの世にいない、ということだね」
虚ろに呆けるネプギアたちを置いて、俺は独りでラステイションの教会に来た。
前来た時のようにせわしなく働いている人は一人もいなかった。
ただケイだけが変わらずに俺を見ている。
「ああ、俺がやった」
「気に病む必要も、謝る必要もないよ。世界を救うために、剣を使う。わかりやすくて合理的だ」
合理主義であるケイはそう言ったが、その目には明らかに怒りの感情が見える。
「……」
「ただ…なんだろうね、この気持ちは」
ふう、とため息をついたケイが、俺に背を向けた。
「自分勝手なことは承知しているけど、君とはあまり長い時間、同じ部屋にいたくないと感じているんだ」
「そう、だな。報告に来たつもりだったが…必要ないみたいだし」
いままでのことや、現在の冷静さを見るに、事前に報告を受けていたんだろう。
それでも隠し切れない感情が、ケイからにじみ出ていた。
「他に用事があるわけでもないんだろう。君の罪悪感に付き合ってあげるほど、僕も暇ではないからね」
「…失礼する」
逃げるように、俺は教会を去った。
プラネテューヌの教会は珍しく、静かだった。
救出直後に、ネプテューヌがあれだけ遊んでいたゲームやテレビも、いまや音を発していない。
当のネプテューヌは沈んだ顔で椅子に座っていた。
「ネプテューヌ……ネプギアは?」
「部屋で寝込んでるよ。調子が悪いって…」
友達が死んだのだ。
真面目なネプギアは罪悪感につぶされる直前なのだろう。
他の誰かが悪い、という逃げ道も彼女にはない。
「お前は…休まなくていいのか?」
「えへへ、お姉ちゃんの私がへこんでちゃ、ネプギアがもっとへこんじゃうでしょ?」
姉らしい発言をするネプテューヌだったが、身体は震えていた。
こいつもこいつで、友達を失ったのだ。
なんだかんだ言いつつ悲しんでいることは、いつものおふざけもない様子から見てとれる。
「いいんだぞ、ネプテューヌ。ここには、俺とお前しかいない」
ネプテューヌだって一人の少女。
知っている者がいなくなれば、泣きたくもなるだろう。
女神だからって、それを我慢させるのはあまりにも酷だ。
「女神だからって、姉だからって、弱いところを見せちゃいけないわけじゃないだろう」
「ユウ…」
ついに我慢できなくなったのか、ネプテューヌは俺の胸に飛び込んだ。
「う、うう、うああああああ!」
感情を吐き出しながら、ぎゅうっと俺の服を掴む。
「ユウ!ユウウウウ!!ノワールが……ノワールがああああああ!!!」
その感情を受け止めることしか、俺にはできなかった。
「ネプテューヌさんは落ち着きましたか?」
「ああ、泣き疲れて眠ってるよ」
ネプテューヌを部屋に寝かせて戻ってくると、イストワールが俺のほうへ寄ってきた。
「ユウさんは、これからどうするんですか?」
世界を救う。
犯罪神を倒す。
思えば、人間なのに大したところまで来てしまったもんだ。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
誰かに押し付けることもしてはいけない。
たとえ女神であっても、これを任せるわけにはいかない。
「俺は」
こんな思いを背負うのは、俺独りだけでたくさんだ。
「ただ地獄に堕ちるだけだよ」