超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
「…あなただけが来るとはね」
「ふん。その剣で、わたし達も殺しに来たのね。やっぱり、あんたなんか悪いやつよ!」
「おにいちゃん…」
俺が向かうでもなく、ルウィーから少し離れた草原で、彼女たちは待ち受けていた。
ブランの茶色の髪と白の長袖ドレスが、風で少し揺れる。
「そうだな。俺は悪い人間だ。でも、今さらやめるわけにはいかない。ユニと、ノワールのためにも」
「事情は分かってるつもり。でも、だからと言って黙ってやられる気はないわ」
ブランが女神化し、戦斧を取り出す。
もう止まらない。
もう止められない。
それは彼女たちもわかっていたのだ。
「やっぱり、戦うしかないのか」
俺は刀を抜き、構えた。
「お互い納得するためにはそれしかない」
「ロム…ラム…」
「こんなの、いや…でも、お姉ちゃんとラムちゃんがいなくなるのは、もっといや」
「俺も、みんながいなくなるのは嫌だ。でも、他にどうしようもないんだ」
ロムもラムも、覚悟を決めたようだ。
二人も女神化し、俺に武器を向けてくる。
結果は、俺の勝ちだった。
コンビネーションは隙のないものだったが、シェアが減少していることもあり、ぎりぎりで勝つことができた。
「あなた達の勝ちね」
もう立ち上がれないほどにダメージを受けたブランたちは、その場にうずくまった。
「…そうだな」
ここまで取りたくない勝利というのもなかった。
勝ってしまえばそれはつまり
「それじゃ、約束通り、その剣で私を刺して」
そう、彼女たちを殺すことを意味する。
「これで良かったのかもしれない。あの子たちが、手を汚さずに済む」
ブランは最後まで、妹たちを案じた。
「…お姉ちゃん」
「お姉ちゃん…やだ…」
「泣かないで。私の次はあなたたちなんだから。最後くらい、一人前の女神らしくして」
安心させるように、ブランがロムとラムを撫でる。
「ブラン…」
「早めにお願い。あまり焦らされると、怖くなってくるから…」
俺は刀を収め、ゲハバーンを抜いた。
震える身体を抑えつけるように自身の身体を抱くブランへ、魔剣の先を向ける。
覚悟を決めたブランを、このまま置いておくわけにはいかない。
俺は
ブランを斬った。
「う…ぐっ…!思ってたよりは、痛くない…大丈夫だから……ね?」
そんな言葉は強がりだと示すように、ブランの身体から血が流れていく。
大量の血が、彼女の細い身体と白い服を染めていった。
貫かれた彼女の身体はゆっくりと、粒子となって消えていった。
残された妹たちは、互いに抱き合って、互いを励ましていた。
「お姉ちゃん…」
「ダメ、ロムちゃん!最後はちゃんとしなさいって、言われたでしょ…!」
ラムが、目に涙を浮かべるロムを叱咤する。
「う…うん」
「…さっさと、やりなさいよ」
ラムとロムは俺に向き直った。
「本当に、いいのか」
「今さら!…お姉ちゃんのことを…!」
「ラムちゃん…」
ラムの続きはわかってる。
「お姉ちゃんのことを殺したくせに」だ。
目の前で姉を殺されて、自制を保てるほど二人は強かった。
世界を救うために自分たちが殺されることも、彼女たちは覚悟していた。
俺なんかよりも、はるかに強い。
「いくぞ…」
俺も覚悟を決め、この二人の姉を殺した魔剣を構えた。
「や…いや…死にたく、ない」
「何言ってるの、ロムちゃん。ちゃんと決めたことでしょ!」
「でも…やだ……怖いよ」
「泣かないでよ!ロムちゃんが泣いたら、わたしまで…う…ぐすっ…」
二人は互いを抱き合ったまま泣き出した。
俺の覚悟が揺らいでしまった。
考えてもみろ、滝空ユウ。
この二人を見てみろ。
まだこんなに幼いじゃないか。
こんな子どもを殺すっていうのかよ。
すすんで殺すっていうのかよ。
ふざけんなよ。
俺が旅してきたのは、こんなことをするためなのかよ。
「怖い…怖いよ…お姉ちゃ…」
「わたしも、やだ…こわいもん…うわあああ…」
俺は手に持った魔剣を見た。
だけど俺は、諦めるわけにはいかない。
すでに殺してしまったユニとノワール、ブランのためにも。
俺にすべてを託した彼女たちのためにも。
「……くっ。うおおおああああ!!!」
重く感じていた魔剣を思い切り振る。
「あくっ」
「うううっ…!」
魔剣は二人の身体を切り裂いた。
苦しそうに呻く彼女たちを、俺はただ見ることしかできない。
「ロムちゃん…二人一緒だから、怖くないよね…?」
「ラムちゃん、ずっとこのままで…」
互いを抱く力がより強くなっていく。
「うん、絶対…離さない」
「ありがとう…」
血まみれになって消えていく彼女たちを、俺は見つめていた。
彼女たちを殺した血まみれの魔剣を持ったまま。
「ようこそ、ルウィーの教会へ。いいえ、もう教会とは呼べないでしょうね」
ルウィーの教会には、もうミナ以外にはいなかった。
ラムとロムが使っていた小さな机も、絵本も、ブラン愛用の小説も、なにもない。
女神を思い出すものは、すべて処分してしまったのだろう。
「心は、痛みませんか?あのような、小さい子まで手にかけて」
俺は何も言えなかった。
長らく不在だったブランに代わって、双子の保護者だったミナの悲しみは俺の想像を超えているだろう。
この三年間、まるで我が子のように育てていたはずだ。
「でも、仕方ないのですよね。ゲイムギョウ界を救うという、使命のためなのだから」
使命
それはミナも理解していたことだろう。
「私は、あなたのように割り切ることはできません」
世界を救うため
滅亡を回避するため
そのために女神を殺す必要がある。
理解していながらも、納得しながらも、ミナはそれを認めることはできなかった。
「お引き取り下さい。私がこれ以上、酷いことを言わないうちに」
ぼろぼろになった身体と心を引きずりながら、俺はリーンボックスへと到着した。
「これで最後だ。ベールを…」
「殺せば終わり、と続くんですの?」
街から離れた人気のない埠頭に、ベールはいた。
こんなところで気品あふれる緑のドレスに長い金髪というのは、思った以上に目立つ。
俺がしていることもすでに知っているのだろう。
他の女神と同じく、覚悟を決めたような目で俺を見る。
「目が据わってますわね。無理をしているんじゃなくて?」
「無理しないとやってられないさ」
実際、寄せてくる不安や罪悪感を押しのけてここまできたのだ。
俺がやるべきだと信じて。
「あなたには荷が重かったのですわ。代わりなさい。私がやってあげますわ」
「断る」
バッサリと、ベールの申し出を断る。
「私たちの目的は犯罪神を倒すこと。それが果たせるのであれば、誰が、なんて些細な問題ですわ」
「いいや、違う」
俺は首を振る。
「みんなに託されたんだ。それを、途中で誰かに任せるなんてできない」
俺は刀を抜いた。
ベールも殺す。
それが、いま俺がすべきことなんだ。
「私は死ねない…死にたくないの。妹のような子を一人残してなんて、ね」
チカのことを言っているのだろう。
チカもベールのことを好いていたな。
候補生がいないぶん、彼女たちは他の国よりも深い絆で結ばれているのだろう。
それも、俺が断ち切ることになる。
「く…さすがにやりますわね」
ベールは、自分が殺されることもわかっているのだろう。
減少したシェアの下では俺に勝てないことも。
それでも全力で向かってきた。
ベールなりの意思を見せるために。
俺も限界寸前だったが、ベールが倒れるほうが早かった。
「ベール……もう諦めろ」
肩で息をしながら俺は魔剣を抜く。
「私を諦めさせたいなら、その剣で私の命を奪いなさい」
「最初からそのつもりだ。今さらやめる気もない」
最後まで毅然とした態度を取るベール。
「あなたを信じていますわ。ユウ、絶対に世界を救うんですのよ」
それほど面識もなかったベールが、俺を信頼している。
チカやケイブ、5pb.から俺のことを聞いたのか。
ベールははっきりと、俺を見据えていた。
その表情は柔らかく、そして悲しいものだった。
優しく語りかけてくる彼女へ近づく。
「それと、チカのことを、よろしく頼みますわ。あの子は…弱い子だから…」
それが、ベールの最期の言葉だった。
「何を、しに来たの」
キッと俺を睨むチカ。
無理もない。
俺がここに来たということは、ベールの死を意味している。
ベールを実の姉のように慕っていたチカにとって、一番見たくない顔だっただろう。
「ベールが、最期にお前をよろしく頼むと」
「最期にですって…」
我慢できなくなったチカが俺の胸ぐらを掴んだ。
「どの口が言うの!?お姉さまの言葉を最期にしたのはどこの誰なのかしら?ねえ!?」
いままでの教祖とは違い、感情を爆発させてくるチカ。
それほど、チカはベールを愛していたのだ。
「すまない…」
「いま謝ったわよね?じゃあ、自分が悪いと思ってるのね」
チカは俺の身体をゆすった。
「だったらお姉さまを返してよ!ねえ!」
チカの頬を涙が伝う。
「お姉さま、やっと帰ってきてくれたのよ?三年ぶりに!」
ビンタこそしなかったが、チカから感じられる憎しみと怒りと
「それは辛かったけど、まだ我慢できた。きっと帰ってきてくれると信じていたから…」
悲哀が俺を叩いた。
何よりも響いて、刺さって
痛かった。
「返して…返してよ。お姉さまを…う、ううう…うわああああああああ!!」