超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】   作:ジマリス

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44 滝空ユウ⑧ ―渦―

最悪だった。

点の如き希望でさえ潰された。

 

ユウの意思じゃないとか、暴走だとか、そんな思惑はいとも簡単に潰えた。

 

きっとなにか理由があるのだろうが、聞きたくなかった。

目の前で歪んだように笑うユウが恐ろしすぎて聞けない。

 

漫画やアニメでよくあるような、心からの叫びで目が覚めるような、そのような様子もない。

 

理由はわからないが、ユウの力はいまや私たちの力の届かないところまで膨れ上がっている。

 

もうこの世界に残された道は破滅しかないのだろう。

 

こんなユウは見たくなかった。

 

嫌だ。

 

もう嫌だ。

 

 

信じるものが、支えがなくなってしまった。

 

私はうなだれ、その場にへたり込んでしまった。

 

 

ゆっくりとユウが近づいてくる。

力なく座り込む私の前に、エリカが立った。

 

「ユウ、お願い。これ以上は…」

 

そんなエリカをユウは吹き飛ばしてしまった。

 

うつむいていた私にはどうやって吹き飛ばしたのかはわからないが、ユウはエリカを攻撃したのだ。

どこかでうぬぼれていた。女神は殺しても、私たちには手を上げないと。

 

 

ユウが刀を振り上げる。

 

 

私は目を閉じた。

死を覚悟したんじゃない。生への執着がなくなったのだ。

 

もうどうでもいい。

 

だがいつまでたっても痛みはこなかった。

その代わりに聞こえたのは何かを斬った音と、何かが倒れる音。

 

恐る恐る目を開けると、アイエフが血を流していた。

 

私をかばうように立ちふさがるアイエフが、斬られたのだ。

袈裟がけしたユウの刀には血が滴っていた。

 

イストワールのもとにいるはずのアイエフが何故ここにいるのか。

おそらく後をつけてきたのだろう。

 

「――――…」

 

何かを言っているようだが、私には聞こえない。

だがアイエフの言葉を聞いたユウの、ハッとしたような顔が見えた。

 

糸が切れたようにアイエフが倒れる。

身体を抱きかかえる。

 

顔からも生気が消えていく。

今の私も、こんな顔をしているだろうか。

それとも今からなるのだろうか。

 

だが次の攻撃は来なかった。

 

 

 

ユウはもういなくなっていた。

 

 

 

 

 

                   △

 

 

 

 

 

俺が身体を自分のものにできたのは、「オレ」がなにもかもを破壊した後だった。

なにもかもが無と化したこの世界で、ただ佇むことしかできなかった。

 

 

いまさら後悔していた。

 

 

「こんなはずじゃ…」

 

 

俺は破壊の道を選んだ。

 

しかしやっと、全てが手遅れなタイミングでアイエフに気付かされた。

 

『これがあの娘の望んだことなの?』

 

アイエフの最期の言葉がリフレインされる。

 

これは俺の望んだ道だ。

 

 

だけど「彼女」が望んだ未来じゃない。

 

 

 

なにもかもが遅すぎた。

 

 

『……まあ今さら遅い。すでにここには何もなくなった』

 

 

俺はただ茫然と、心の中にいる「オレ」の言葉を聞いていた。

 

 

『これからはオレが…』

 

 

その言葉を聞いて、俺は力を振り絞った。

 

 

「それは許さない!!」

 

 

「オレ」を放っておけば、さらに人を殺していくだろう。

どこかに隠れている人も殺して、「世界」というものも壊してしまう。

生命という生命がこの世界から消えてしまうことになる。

 

 

それは「彼女」が望んだことじゃない。

 

 

全てを憎んで、全てを壊す。

 

 

「彼女」の思いじゃない。

 

犯罪神の望みだ。

 

 

世界を憎むあまり、世界を望むあまり

 

 

 

俺は倒すべき犯罪神になってしまった。

 

 

だけどそれもここまでだ。

 

『お前、なにを…』

 

「わかってるだろうがよ!」

 

身体を「オレ」に渡さないように踏ん張りながら、俺は力を開放する。

 

この力も、「オレ」も封印させてもらう。

俺の中にある犯罪神の力があれば可能なはずだ。

 

 

『お前…』

 

「オレ」は最後まで抵抗してきた。

 

俺と「オレ」が持つ力が反発しあい、混ざり合い、それはついに外へと漏れ出た。

地面が揺れる。いや地面だけじゃない。空も、世界そのものも揺れている。

 

空間自体が悲鳴を上げているのだ。

 

『待ってくれ!』

 

今この身体の主導権を握っているのは俺だ。

封印できるはずだ。

 

やらなきゃいけないんだ。

 

『「俺」にまで裏切られたら、オレは……オレは!!』

 

 

強大な犯罪神の力を全力開放したせいか、目の前の空間が歪んだ。

 

 

 

 

 

                   △

 

 

 

 

ユウがこの世界を壊しに壊した後、絶望にうちひしがれた私と生きていたエリカは、なんとかイストワールを連れ出して逃げ出すことに成功した。

だが、このまま隠れてもすぐ見つけられてしまうだろう。

 

そして殺されてしまう。

 

今までのように運よく生き残るなんて奇跡はもう起こらない。

 

「もうどうしようもない…」

 

「ユウ……ユウ…」

 

弱音しか出てこない。

心の支えだったユウが、仲間も世界も破壊してしまったのだ。

 

身も心も悪魔になってしまったんだ。

 

 

地震が起きた。

近くの残骸がさらに崩れる。

 

ユウが恐ろしい力を使うたびに揺れが起きるため、それほど地震というのは珍しくなかった。

だが、この揺れはこれまでとは違う。まるで空間ごと揺れているような、未知の振動。

 

あまりの揺れに立っていられず、しゃがみこむ。

 

「なんだこの揺れは?」

 

「これは…」

 

イストワールが訝しむように空を見た。

 

「ユウさんの力が消えた…?」

 

「どういうこと?」

 

「最後にユウさんがいた場所に次元の渦ができています。おそらく、別の次元に移ったのかと」

 

強力すぎる力は、わたし達にもユウの場所を知らせてくれた。

だが、今はその威圧感がない。

 

「そんな…あんな力を持ったユウを野放しにしていたらあらゆる次元が壊されてしまう!」

 

「止めないといけないわね」

 

 

かなうとも思わないが、指をくわえてみてるわけにもいかない。

 

なにより、ユウをあの状態したままではいけない。

あれがユウの望んだ結果だったとしても、どこかで必ず彼の心を蝕む。

 

いままでのユウからして、それはわかりきったことなのだ。

 

「だけど、どうやって他の次元に行くんだ?その次元の渦に飛び込めばいいのか?」

 

「いいえ。いま次元の渦は不安定になっています。このまま飛び込んだらどうなるかはわかりません。安定させるには、本来次元を移動するのと同じ莫大な量のシェアが必要になります」

 

「だけど女神がいないこの世界じゃ、シェアなんて…」

 

私たちは落胆した。

女神がいないこの世界じゃ、次元を移動するためのシェアはいまやゼロだ。

 

つまり、ユウを止めるのも絶望的だということになる。

 

「ええ、なので……私の命を使います」

 

 

イストワールの言葉に、私たちは驚愕する。

 

 

「ユウさんが残した大きな次元の渦と、私の力があれば、あなたたちをユウさんが行った次元へ移動させることができます」

 

「待て、他には方法はないのか!?」

 

私はどうにかして、イストワールが犠牲にならない方法を考えようとするが、もともと管轄外のことだ。そうそう思いつくはずがない。

 

「…仕方ないわね。お願いするわ、イストワール」

 

落ち着いた様子で、エリカが言う。

 

「そんな……なにか…」

 

「これしかありません」

 

 

イストワールが私の言葉を遮る。

 

「時間もありませんし、私には記録するものも守るものももうありません。そんな私にできるのは、あなたたちをもう一度ユウさんに会わせることくらいです」

 

 

イストワールは後悔したように、そして一筋の希望に縋るかのように私たちを見た。

 

 

「どうかユウさんをお願いします」

 

イストワールの覚悟を決めた目に、私は腹をくくった。

 

分からないことはたくさんある。

だがそれでも命を賭してでも止めなければいけないのだ。

それがユウを知っている者の、この世界の生き残りの役目だ。

 

 

絶対に、ユウを止めてみせる。

たとえユウを殺すことになろうとも。

 

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