超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
やはり、と私は確信した。
目の前の男、ドゥームからは「殺意」というものが見えなかった。
混乱。後悔。
そんな彼の負の感情は魔剣を通じて伝わってくる。
それでも殺そうとする覚悟だけは剣からも伝わらず、鋭い眼にも見られない。
やはり、と私は確信した。
この人は「滝空ユウ」であると。
私が知る、何もかもを一人で背負おうとするユウさんと目の前の男とは一分の違いもない「人間」であることを。
「もう一人のユウさん」などではなく
「ユウさんの分身」などではなく
「ユウさんの負の衝動」などではなく
「悪魔」などではなく
「神」でもなく
そしてもちろん「
犯罪神の力を手に入れたことによって衝動的に生まれた存在であろうと、疎まれて認められない存在であろうと、彼はユウさんそのものだ。
もう一人の、もうひとつの、じゃない。
これがユウさんだ。
私が信じた、何があっても誰かを助けることを諦めない、お人好しのユウさん。
「ユウさん…」
「そんな目で見るんじゃない!」
交わる剣からは火花が散る。
ドゥームの目は鋭く尖っていた。
厳密にいえば、鋭く尖らせていた。
似合わない。
似合わないよユウさん。
睨むような真似をして、叫ぶふりをして、憎むそぶりを見せて、誰かに嫌われようとするような、そんなの似合わないよ。
そんな似合わないことをしてまで守るべき人がいたんだ。
幾億という屍を積んでまで守るべき人が。
私は魔剣を弾いた。
参戦しようとするオルガさんを手で制し、ドゥームを見据える。
「ネプギア…私がやる。私がやらなければいけないんだ!」
なおも溢れんばかりの殺気を放つオルガさんだが、私は首を横に振った。
「ダメです、オルガさん。あなたにやらせるわけにはいかないんです」
オルガさんはきっといつか気づく。
ドゥームの、ユウさんが守ろうとしたものを。その意図を。
そのときすでに「手遅れ」になってしまっているのはどうしても避けなければいけないことだ。
「何故だ!あいつを殺せば全てが終わるんだ!イストワールとの約束も果たせ…」
「違います!」
押さえつけるように、叫ぶ。
「そうじゃないんです…」
いーすんさんが言った「ユウさんをお願いします」というのは、彼を殺すということじゃない。
だけどそれは、今のオルガさんには届かない。
「そう、違うわ」
不意に聞こえたのは、私のでもオルガさんのでもない女性の声。
「あぐっ!?」
直後、ドゥームが痙攣してその場に倒れた。
「やっぱり弱くなったわね。思った通りだわ」
倒れたドゥームの後ろ、青い長髪を風になびかせるその人物はゆっくりとドゥームに近づいた。
「エリカ…」
オルガさんがつぶやく。
痙攣するドゥームを見下ろしているのは、ルウィー以降影も見せなかった篠宮エリカその人だ。
彼女はドゥームのそばにしゃがみ、背中に手を置く。
「あがあああああああああ!!」
エリカさんの手から電撃が流れ込み、ドゥームを容赦なく襲う。
より一層強い電流を流されたドゥームは白目を剥き、泡を吹く。
電撃。
オルガさんが得意とする名も知らない魔法だが、その特性は理解しているつもりだ。
身体に流れるダメージと麻痺。
特に、ほぼ確実に起こすことのできる「麻痺」という状態異常が強みだ。
魔法が得意な、まして「禁術」とやらをも手に入れているエリカさんの電撃の威力は、抵抗できずに痙攣するドゥームを見て察することができる。
「や、やめてください!エリカさん!」
私が言ってもエリカさんはやめない。
むしろ喜んでいるのか、その顔は笑っている。
「ギイイイイイアアアアアアア!!!」
ドゥームの叫びはまるで人のものではなく、獣が鳴くようなものだった。
オルガさんが使う電撃魔法よりもはるかに威力が高く、普通の人間ならばすでに死んでいるようなものだ。
皮肉にも犯罪神の力のせいでその攻撃からは解放されることはない。
「エリカ!!」
オルガさんの怒号で、ついにエリカさんは電撃を止めた。
殺すと意気込んでいたオルガさんが思わず叫んでしまうほどに、エリカさんの攻撃は非情なものだった。
こちらを見る目は冷たい。
ドゥームは完全に気を失っているようで、身体はピクリとも動かない。
「オルガ…。あなたは少し、思い違いをしているわ。」
エリカさんが立ち上がる。
「彼は殺すべきではないわ。それがわかるまで頭を冷やしなさい」
何をするか察した私とオルガさんはエリカさんを捕えようとするが、遅かった。
手を伸ばそうとした瞬間、なにかとてつもなく速く光る柱のようなものが、耳をつんざく轟音とともに私たちを遮った。
それはエリカさんとドゥームを囲うように何本も空から降り注ぐ。
柱ではない。もっと形の定まってないそれは、雷だ。
その電光は視界をも遮り、ついには二人の姿が全く見えないまでになってしまった。
そして次の瞬間、突如として雷は消え去った。エリカさんとドゥームとともに。
△
「うおおおお!!」
刀を一閃。確実にダメージを与えてはいるはずだ。
それでも目の前の男、機械の身体を持つブレイブ・ザ・ハードは倒れない。
マジック・ザ・ハードとの戦いからすぐ、ノワールとユニ、RED、コンパ、アイエフが相手するブレイブ・ザ・ハードとの戦闘に参戦したはいいが、これがまたずいぶんてこずっている。
強いのはわかっていた。だがこんなにもブレイブは強かっただろうか。
それとも俺が弱くなったか?
犯罪神の力を手に入れても、どうやら力が「半分になる」というのは相当に弱体化するようだ。
なにせ「半分」。全力を出しても「半分」だ。
ならばと俺はさらに力を引き出す。俺を覆う黒い紋様がさらに広がる。
犯罪神の力はあれどその意志は存在しない。
どこかの漫画やアニメである、身体を乗っ取られるようなことはない。
……そのはずだった。
「うわ…本当にアンタ、何者なの?」
ユニが俺の姿を見てつぶやく。
「人間。人間だよ」
なにも迷わずに言う。
ここからは迷うわけにはいかない。
「それより頑固だな、ブレイブ。諦めてくれないか。マジックも倒れたんだ。負けを認めろ」
「ムダよ。どれだけアタシが言っても聞かなかったもの。本当に、頑固でばかよ…」
「その通り、俺に負けはない。子どもたちのために負けるわけにはいかないのだ」
ブレイブは、貧乏でゲームができなくて死んでしまった子供たちの怨念をもとに生み出された存在だ。
だからこそ、娯楽の飢えを理解しているからこそ、だれでもゲームができるマジェコンを守ろうとする。
それが彼の正義であり、戦う理由だ。
対するユニは、面白いものを作り出そうとする競争心が新しいものを作り出し、それが子供のためであると主張する。
劣化コピーを子どもたちがタダで手に入れることのできる時代になれば、そんなものが蔓延してしまえば、新しく何かを作る者はいなくなる。
そうなれば、この世からゲームどころか娯楽そのものが消えてしまうだろう。
だが
「ユウ。貴様もその小娘と同じく戯言を言うか?子どもから娯楽を奪うと、そう言うつもりか!!」
「知らんわボケ」
俺ははっきりと言い放つ。
「俺は自分のことで精一杯なんだよ。この次元に来る前から悩んで悩んで、さっきも神か悪魔か人間かって問答してやっと自分なりに答えを出せたところなんだ」
刀をくるくると回し、俺は続ける。
「それをお前らなぁ、ゲームがどうのこうの子どもたちがどうのこうのって、俺だってあんまゲームしたことねえよ」
「ユ、ユウ…?」
「そりゃお前たちの戦う理由は様々だからそれに関してなんやら言うのは正直どうなのよってところはあるけどさ」
「う、うむ…?」
「たった一人の人間の俺を巻き込んでそんな難しい話すんなっちゅーの。お前らの話にアイエフたちも口挟んでないでしょうが」
「そこで私たちの名前出すのね…」
狼狽するブレイブとユニと他多数だったが、実際自分のことで頭パンパンな俺にはこれ以上の答えは出せない。いや答えになってませんけど。
先ほどまで一緒に戦っていたノワールもネプテューヌもぽかんとしている。
「あ、ちょっと待って」
ゴホン、と咳をして喉の調子を整える。
「何が正しいとか間違ってるとか、俺には荷が重すぎる」
「あ、声変えた」
「ちょっと真面目トーンです」
「でもさっきので台無し…だよね」
REDとコンパ、5pb.が口々に文句を言ってくる。
はいそこうるさいですよ。
最近の、というかこの作品のシリアス路線に合わせてるんだから。
「ここは昔からの決め方でいこうじゃないか」
刀の先をブレイブに向ける。
「勝ったほうが正義、ということだな」
「わかりやすいだろ?」
「望むところだ。子どもたちの娯楽を守るため、貴様たちをここで切り捨てる!」
ブレイブに合わせて再び武器を構えるノワールたちだが
「ちょっと待って」
ユニが止める。
「これはアタシとブレイブの問題よ。だからアタシ一人でやるわ」
「それは断る」
今度もすっぱりと俺は言う。
「再戦の約束をしたのは俺も同じだ。戦う権利は俺にもある」
以前戦ったとき、ブレイブはこう言った。「次に会うときは、こちらも本気だ…それ相応の覚悟を持って向かってくるがいい!」と。
今がそのときだ。
覚悟を見せる時だ。
「二対一だが文句はあるか?」
「異存はない」
その言葉が合図になった。
俺とブレイブが互いの距離を一気に詰める。
超合金でできた身体を相手に体格差といっていいのかわからないが、なんにせよ二人の間には覆すことのできない大きさというものがある。
だが勝機がないというわけではない。
ブレイブは俺たちが合流する前からユニたちと戦っていたせいで疲弊が見えるし、傷だってついている。
それに前述した体格差もある。大きすぎる体格差は有利にも不利にも働く。
ブレイブが剣を振り下ろす。
その大振りを俺は避け、股の間をスライディングでくぐる。
後ろを取ることができたのもつかの間、ブレイブはすぐに振り向いて剣を構える。
「ぬぐっ」
ブレイブの背中で爆発が起きる。
いま俺とブレイブが向き合っているということは、背中をユニに向けていることを意味する。
現にユニの徹甲弾が無防備なブレイブを襲うことができた。
「アタシを忘れてもらっちゃ困るわ!」
さらに三発。ユニは徹甲弾を打ち込む。
敵の気をそらすために、俺も攻撃の素振りを見せる。
「ぬうっ」
ブレイブが選んだのは俺だった。
ドン!ドン!ドン!と直撃した榴弾が背中で煙を上げるのも構わずに横薙ぎをする。
「メガスラッシュ!」
「デュエルエッジ!」
応えるように刀で一閃。
剣と刀はぶつかり合い、互いが弾かれるように
重い。
あまりにも重い。
彼の覚悟をそのまま表すかのような剣の重さに、腕がしびれて刀を落としてしまう。
おそらくはそれもブレイブの想定内だったのだろう。
「ブレイブソード!」
ブレイブが自身の名を冠する技を仕掛けてきた。
一、二、三。三本。
ブレイブが持っている剣は一本のはずなのに、あまりの速さに同時に三本の剣筋が見えた。
とっさに刀を拾って防御姿勢をとるが、防げたのは一本のみ。
鋭い一閃、いや二閃が左手と右足を襲う。
「うああっ!」
千切れるほど、とまではいかないがかなり深く斬られてしまった。
だらだらと赤黒い血が身体を伝う。
奥義を防いだ衝撃と痛みに思わずあおむけに倒れてしまう。
「これで終わりだ」
ブレイブが剣を振り上げる。
油断、というものはなかったのだろう。
だが華々しく散らせようとしたその「振り上げる」という行為が隙を生んだ。
刹那に生まれる隙が文字通り命取りであると、理解している。
「終わりにはまだ早い!」
俺は斬られて痛む左腕で、ソフトボールほどの光るものを投げた。
ブレイブは剣でそれごと俺を斬り裂こうとするが
「ぬぐあっ!?」
その光るものが剣に触れた瞬間。
文字通り瞬きする間だが、ブレイブの動きが止まった。
剣から身体へ、びりびりと音をたてながら電撃が流れる。
エリカ直伝の電撃魔法だ。
麻痺が解け、再び振り下ろされる剣だったが、先ほどの勢いはもうない。
寝転がったまま刀で受け止める。なんとか顔の数センチ上で止まってくれた。
「ブレイブ!!」
ユニが叫ぶ。
その怒号にブレイブが振り向いた瞬間、その顔に榴弾がヒットする。
それが起こす爆発はブレイブの視界を一時的にふさいだ。
「むうっ!!」
刀から剣が離れ、ブレイブがよろめく。
「パラライズフェンサー!!」
このおおきな隙を逃さずに、俺はすぐに立ち上がり、そして跳びあがってブレイブの身体を突く。
「ぐうううっ!!」
麻痺効果を付与させた一撃は超合金の身体を貫き、穴をあけた。
空中で一回転、きれいに着地する。
「ユニ!」
「わかってるわ!!」
ユニのライフルにエネルギーが充填され銃口が輝く。
「
ユニが叫び引き金を引くのと、ブレイブが麻痺から解けるのは同時だった。
ライフルから白く光る極大の光線が発射されたが、ブレイブは間に合わすことができなかった。
ユニの決死の攻撃は直撃し、ブレイブの身体に開けた穴をさらに広げた。
「ぐあああああああっ!!!」
超合金の巨体がついに膝をつく。
その手から剣はすり抜けるように落ち、地面を転がる。
開いた穴からは内部が見え、バチバチと怪しげに電気が走る。
ブレイブはそんな身体で前へ前へと手を伸ばす。
俺たちのほうへと手を伸ばす。
だが、俺とユニは武器を下げた。
「……負けた、か」
決着はついた。
俺たちの行動と自身の身体を見て、ブレイブは悟った。
ところどころに傷がつき、剣は手放され、胸には穴。誰が見ても戦える状況ではない。
「ええ。アタシの、アタシたちの勝ちよ」
「何故だ…力が及ばなかったのか…思いが、足りなかったというのか…」
答えを乞うようにブレイブがユニを見る。
犯罪組織にいるとは思えないほど、犯罪神から生み出されたとは思えないほど、目は純粋。
根本には、たとえそれが「負」のものであろうと人間の感情があるように思える。
「子どものためにって思いは、アンタもアタシも同じよ。でもアンタは、方法を間違えた」
「一つ、問おう。お前のやり方で、本当に子どもたちは救われるのか。娯楽に満たされるのか」
ユニがブレイブに近づく。
「約束するわ。絶対に、そういう未来を作ってみせる」
胸を張って答える。
高く、厚く、堅く。たとえそんな壁でも壊してみせるという意思を感じさせる目をブレイブに向けて。
「……小娘。まだ名を聞いていなかったな」
「ユニよ」
「ユニ…か。貴様の覚悟、見せてもらった」
納得か妥協か。それについては彼は答えず、しかし満足そうに笑う。
「ユウ、貴様の覚悟もだ」
ブレイブは顔をこちらに向ける。
その身体は端々から粒子と化し、ゆっくりと虚空へと消えていく。
「人ならざる力を得、人の道を外れた貴様が、人として生きようとするその覚悟。このブレイブ・ザ・ハードがしかと見届けた」
静かに、それでも力強くブレイブは俺に向かって言う。
「間違いを犯し、それでもなお進もうとするその覚悟。誇れ、ユウ。貴様は人であると俺が認めよう」
その言葉が耳に届いた瞬間、崩れるようにブレイブの身体はすべて粒子と化した。
多量の光る粒子は次々と消え、その輝きを失っていく。
「今更、誰に認められる必要もなかったが…」
自分が、滝空ユウが何者かという答えを、たとえたった一人にしか認められなくてもそれで充分だと思っていた。
だけどこうやって、敵にも認められるというのは
「悪くないな」
一つ、また一つと消えていく粒子に向かって俺はつぶやいた。