超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
マジェコン工場は崩れ去ったが、幸いにして周りに火災などが起こることはなく、後片付けを教会の人間に任せた。
俺たちは戦いの傷を癒すため、またいままでのことをまとめるためにいったんプラネテューヌの教会へと戻っていた。
各国の女神に女神候補生、教祖に他多数。気づいてみれば大所帯になっていた。
最初に話し始めたのはネプギアだった。
オルガと戦っていたドゥームの様子に、突如として現れたエリカ。
「なるほど。エリカが…」
何より気になるのは、ルウィー以降姿を見せなかったエリカが今になって現れたうえにドゥームをさらったことだ。
この次元で初めて会った様子からすれば俺を殺そうとはしてないようだが、エリカが何をしようとしているのかを推測するには、あまりにも情報が少なすぎる。
「え、えと……ユウ?ユウさーん?」
ネプテューヌが考え込む俺に恐る恐るといったふうに話しかける。
「おう、そういえばそっちの姿で会うのは初めてだったっけ?」
当然いまの女神たちは変身を解いている。
初見ならばそのギャップに驚くが、残念ながらすでに体験済みだ。
今になって考えれば、「ネプテューヌは姉に見えない」というのは撤回すべきだな。
「あ、そうだね。君と会うときは変身した姿ばっかりだったから……ってそうじゃなくて!」
「なんだ、ゲームしようってか?俺はドット時代のものしか知らんぞ。本当に最近の、リアルなやつはわからん」
最近になってから映像の進化というものは著しく、特にラステイションから出るゲームのグラフィックが大変なことになっている。
「ドット時代って……もうずいぶん前のゲームじゃない」
「十何年前の…下手したら二十年くらい前のやつじゃないかしら」
「私もときどきやりますわ。あの時の理不尽な難易度がたまらないんですのよね」
ノワール、ブラン、ベールがそれぞれの感想を言う。
あの時はお試しでやったことあるくらいだったけど。
「最近のはずいぶん簡単になってると聞いたが」
「昔が難しすぎたのか今が簡単なのかっていう……違ーーーーう!!」
隣で大きな声を上げるネプテューヌ。
すぐそばで受けてしまった俺の耳がキーンと鳴る。
「耳が痛い」
「私たちはあまり叫ぶことないからな」
耳をふさぎながらオルガが非難するような目でネプテューヌを見る。
「それだとまるで私がうるさいみたいじゃん!」
「そうだよ」
「あーーーーーーーー!!言った!言っちゃったよ!」
「はいはい。そんで?」
叫ぶネプテューヌを落ち着かせるために次を促す。すると先ほどまでの勢いが嘘のようにしゅんとなるネプテューヌ。
「それでって……だから一応、その…あの時言ったでしょ?どちらが悪かったか、何が悪かったかは後で話そうって」
マジック・ザ・ハードと戦うときに言ったセリフだ。
あの時はとりあえず目の前の敵に集中させるために言ったが、今でも答えは変わらない。
「謝ることはないよ。言っただろ。俺がお前たちの立場でも同じことをって」
「でも当の本人であるあなたに何も聞かずに襲撃したのは早計だったわ」
「何も聞かずに…か」
立場や思い。誰にだってそういうしがらみのようなものは存在する。
俺をそういうことにさせたのは自分たちに責任があると思っているのだろう。
ノワールの返答に一部納得しつつも、それでも俺は…
「それなら気に病む必要はない。俺は…」
「ユウさん」
言葉を続けようとしたところにケイが口を挟む。
「頼まれてたこと、調べ上げたよ」
「ありがとう。さて、情報整理といこう」
誰が悪いのかという話は今のままでは堂々巡りになってしまう。全部が終わってからにしよう。
それに事態はそう簡単なものではない。
少し不満げな女神たちだったが、すぐさま俺の言葉に耳を傾けた。
「まず現在残っている敵と敵と思わしきものはドゥーム・ザ・ハード、直に復活するであろう犯罪神、そしてエリカ」
「以前の通りだとすれば、犯罪神復活までにはそれほど時間は残されていない」
俺の説明にオルガが補足する。
敵と思わしきものにエリカの名前を出しても反論してこなかったのは、直接会って何かを感じ取ったからだろう。
それほどエリカの行動は不自然な点が多い。
「エリカの目的は不明だが、こちらもすぐに現れると考えていいだろう。おそらくはドゥームとともに」
「すでに殺されてるって可能性は?」
「ないだろう。俺とドゥームは今はあくまで「滝空ユウ」の半身だ。それぞれが不安定なものとして存在している。一方が死ねば、もう一方へ戻るはずだ」
ケイの言葉を即座に否定する。
エリカの性格や今までの行動からしても俺の半身であるドゥームを殺そうとはしないだろう。
「つまりユウに力が戻らない限りは、ドゥームは死んでないってことね」
ブランが簡単にまとめる。
どちらかが完全にいなくなり、力だけが取り込まれることになるだろう。
「エリカにユウを殺す意志はない。それだけは絶対にないはずだ」
「そうですわね。エリカとやらの記憶を見ましたけど、ユウを憎んでいるようには思えませんでしたわ」
ベールがオルガに賛同する。
「エリカの記憶……。やっぱり、お前たちに記憶を見せたのはエリカか。」
ネプテューヌたちが俺を襲撃した時に、彼女たちは「滝空ユウが危険人物である」と認識していた。
つまりは衝動に任せて俺を襲うようになるまで、鮮明に俺が起こした凄惨な事件を「見た」のだ。
もちろんそんなことができるのはエリカだけだと考えていた。
「ええ。あれだけあなたのことを想っている人が、簡単に殺すとは思えませんわ」
「ものすごい好き好きーって感じだったよね」
「こっちのほうが恥ずかしくなるほどにね」
「歯がゆい」
にやにやとこちらを見る女神四人から逃げるように俺は話を続ける。
「なんにせよ、エリカの目的がわからんな。何故ネプテューヌたちに記憶を見せたのか。私と別れてからも何をしていたのかわからんし、ドゥームをさらった理由も不明」
オルガが首をかしげる。
「それに犯罪組織に加担していた理由もな」
「犯罪組織に加担!?」
そこにいた全員が目を丸くした。
「ああ。記憶を映し出した結晶を作り出したのも、トリックを爆発させたのもそこらの魔法使いにできる芸当じゃないし、犯罪組織の中核にいなければできないはずだ」
あの記憶を見せる結晶をマジックが手にしていたことを考えると、エリカから奪い取ったかエリカが協力したのどちらかだが、エリカ自身に結晶を作り出すメリットが(今のところ)ない以上は後者のほうが正しいだろう。
「そうですね。記憶術なんて危険な術は知ってるだけでもごく少数なうえ、会得できるのも限られてきます。それに犯罪組織の幹部を爆発させるなんてよほどの魔力がないと…」
「でもエリカって人、マジック・ザ・ハードに勝てないくらいだったのよね?それがなんで短い間でトリック・ザ・ハードを爆発できるくらいになったの?」
イストワールの説明に、いままでの話を退屈そうに聞いていたラムが問いかける。
「なんだ、オルガの記憶も見たのにそこは抜けてるのか?」
「え、どういうこと?」
「逆だよ、逆」
「そういうことか…どおりで長い間見つからなかったわけだ」
俺の言葉に、オルガが納得したように頷く。
「え?え?」
「オルガとエリカがこの次元に来てから、後で俺が来たんだ」
「ええ~~!!?」
△
暗い。
ひたすら暗い。
ここはどこだ。
そこで目を瞑っていることに気づいた。
重いまぶたを開けると、見慣れたわけでもないが知っている景色が広がっていた。
荒れ果てた大地に黒い空。
おまけにすぐそばには不気味で悪趣味な黒い塔。
ギョウカイ墓場だ。
倒れている身体を起こそうとしたが、金縛りにあったように動かない。
何故ここにいるのかを思い出そうと記憶を探る。
ぱっと頭に浮かんだのは、エリカだ。
そうだ、オルガとネプギアを相手にしていたときに突如として現れたエリカが、オレを襲撃したのだ。
一瞬にして長時間身体の自由が奪われるエリカの電撃魔法。
オレが倒れてからどれだけの時間が経過しているかわからないが、そうとう経っていることだろう。
言いたくはないが、口から泡が出てしまうほどの電撃を受けていながら短時間で目覚めるということはないはずだ。
それとも時間というものはもう意味をなくしたのだろうか。
そう考えるほうが自然に思える。
なにせここは「墓場」だ。
ここにいるということは、つまり……。
そこでオレはあることを思い出した。
そうだ。辻褄が合わないことがある。
「起きたのね」
頭上から声が聞こえた。
麻痺している身体をなんとか動かし、仰向けになるとそこには読み通りエリカがいた。
「エリカ…」
憎しみを込めた声でつぶやいた。
「そんなに睨まないでほしいわね」
エリカはオレのそばでしゃがみ、愛おしそうにオレの腹をなでる。
「ねえドゥーム。いえ、ユウ」
言い直して、手を離す。
「あなたの辛さはわかった、なんて軽く言うつもりはないわ」
エリカの手に電流が流れる。
もちろんこれはエリカの魔法によるものだ。
オレの動きを縛った脅威の電撃。
「だから」
「あぐあっ!?」
エリカはその手をなでていた腹にそっと置く。
気絶する前と同じ威力の電撃がオレを襲う。
頭が真っ白になり、身体が勝手に痙攣する。
「今度は」
「うああっ!!」
エリカはさらに威力を上げた。
身体がびたんびたんと跳ねるが、そこにオレの意思は介在しない。
眼球の動きが定まらず、どこを見ているのかもわからない。
数秒、果てしなく長く感じた数秒が過ぎ、やっとエリカは手を離した。
止まっていた息が吹き返され、電撃でぼろぼろになった臓器が再機能する。
ぶれていた視界ははっきりとしたものに変わり、三重に歪んでいたエリカの顔がひとつになる。
息をするたびに胸が大きく上下するが、そのぶん痛みが走る。
「私が受け継ぐわ。あなたの意志を」
「オレの意志…だと?」
痺れている脳にエリカの言葉が響くが、何を言っているかわからない。
「ええそうよ。あなたが成し遂げようとした世界の救済を、人間への反逆を私が受け継ぐ。今度は私が死を積む」
その目はかつて絶望と失意の底にいた俺と同じ目だった。
「そのために、そのためにお前は…」
「何でもしたわ。そのために魔法の腕も磨き上げたし、犯罪組織とも組んだ。この次元に来てからあなたを見つけるまでの三年の間を私は無駄なく過ごしたわ。まさかあなたが私たちより遅くこっちに来たとは思わなかったけど」
エリカは深呼吸した。
「次元を移動する手段が違ったからかしらね。なんにせよ、その長い年月のおかげで私はあなたの意志を継承するに必要な力と覚悟を手に入れた。その第一歩が、「殺す」ということがこんなに凄惨だとはわからなかったわ」
一人でさえ、たった一人相手でさえ「殺す」という行為は心を蝕む。
それがどんな悪人であれ、「殺す」ということは自らの精神を斬り裂くことに等しい。
一人、また一人と殺していくうちに自分が「人」というものから離れていくような感覚に陥る。
エリカはそれを経験しておきながら、さらに踏み外すことを決めている。
「あなたがこれを、死の辛さを幾度繰り返したかわからないわ。だけど私は同じ罪を背負ってあげる。あなたのそばにいる。あなたの罪は私だけが理解できる」
今度はオレの頬をなでる。
優しく、今にも壊れそうなものを触れるように。
「だから私だけをそばにいさせて」
そしてオレに抱き着いた。
だが柔らかい感触を得たのもつかの間。
「ぐうあああっ!!」
抱き着いたままエリカは電撃を放った。
「ぐうううううっ!」
「あうううううっ!」
この密着した状態ではもちろん、エリカ自身にまで感電してしまう。
しかし悲痛な叫びをあげながらもエリカはやめない。
「痛みを感じるわ、ユウ。あなたと同じ、あなたが感じているのと同じ痛み」
不意に電撃がやむ。
「あなたを糾弾する自分勝手な人間なんて必要ないでしょう?
あなたに苦しみを残していった女神なんて必要ないでしょう?」
このときを待っていたというように自慢げにまくしたてる。
「私もそう。あなたさえいればあとは何もいらないわ。だから、二人で分かち合う一生を過ごしましょう」
ふふ、とエリカが笑った。
「あなたが成す救世をそばでずっと支えてあげる」
そう笑うエリカはいまは俺を見ず、その視線はある一点に収束していた。
「ずっと、ずっと、ずっと、ずっと」
その先はオレの後ろ。
ギョウカイ墓場の黒い塔の根元に眠る禍々しい巨躯。
今にも目覚めそうなオーラを放つ犯罪神マジェコンヌ。
「ね?」