超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
この三年の間にしたことといえば、ユウを探すことと鍛えること。
それ以外にしたことはなんだっただろうか。
今までにしたこと、思ったことを私は振り返っていた。
「ねえ、アンタ」
そんな私の耳に強気な少女の声が聞こえた。
声の主はユニだ。
「なんだ」
「アンタ、ユウを殺そうとしたんでしょ」
非難するように私を見る。
事実だが、なかなか痛いところをついてくる。
こうやって直線的に向かってくるのがユニのいいところでもあり、同時に悪いところでもある。
いいや、悪いところと感じるのは私に後ろめたいことがあるからだろう。
「……そうだ」
「アンタの記憶は見たし、感情も受けた」
ユニがぎゅっとこぶしを握る。
「ユウがしてきたこと正しいとは言えないわ。だけど、一緒に長く居た人を殺すだなんて思えるの?」
「思えるよ」
私は即答した。
「そう思うしかない」
ユニは唖然とした表情で私を見つめる。
「なんで…」
「エリカにユウは殺せない。だからと言ってあれだけの人間を殺したユウをそのままにしておくわけにはいかない」
だからこそ私は強くなった。
この道を選んだ。
「何もかもが手遅れになる前に、あいつを殺せるのは私しかいない」
ユウは言っていた。
今のユウとドゥームはともに不安定な存在。どちらかが死ねばもう片方は力を取り戻すと。
もしそのときにドゥームが表に出るようならば…。
私は腰に着けた鞘をなぞった。
血に染まるべきは私だ。
「それがアンタのやるべきことなの?」
「………」
正直、これが正解なのかはわからない。
ネプギアに否定され、エリカにも違うと言われ。
でも兄のようだと思っていた男はやはり殺人者で。
私にはもうなにもわからなくなっていた。
何をするべきか。
何をしたいのか。
「やるべきことだから、やろうとしたんだ」
自分に言い聞かせるように呟く。
考えることを停止して。
△
ひとしきりの情報整理をすませた私たちは、いままでの傷を癒すためにしばらくの休養をとることにした。
しばらくといっても、犯罪神が目覚めるまではそう時間はない。
だけど私たちはとくに、ユウさんに休んでほしかった。人を超えた力を手にして身体の傷を癒せたとしても、心には相当の傷を負ったまま。
どうしてもユウさんに落ち着くための時間を与えたかった。
夜。
捕らわれの身から救出されて、しかもすぐに戦いに参加したお姉ちゃんたちは、話が終わると糸が切れたように眠ってしまった。
いまではお姉ちゃんの部屋で四人とも寝ているだろう。
女神候補生はといえば、ラムちゃんロムちゃんはすでに寝ていて、ユニちゃんはオルガさんと話している。
ユウさんが来る前に、オルガさんとエリカさんがこの次元に来ていたという話は衝撃を受けた。しかし一番重要なのは、その空白期間。
オルガさんが言うには三年前、お姉ちゃんが捕らわれた直後にこの次元に来たらしいが、その三年の間にオルガさんとエリカさんに何が起きたのかが重要になる。
記憶を失い、戦い方がまだ手探りだったとはいえ、ユウさんを超えるほどの力を身に着けた二人が三年間にしたこと。
とくにエリカさんは、私が考えている通りならばおそらくは彼と同じ道を歩もうとしている。
「ユウさん」
いったん、エリカさんとオルガさんのことは置いておく。
みんなの集まる部屋から出て、バルコニーで一人たそがれるユウさんに話しかける。
「ネプギア」
どうした?というふうにユウさんが答える。
「聞いてなかったんですが、今までどこにいたんですか?」
お姉ちゃんたちに襲われかなりの傷を負ったと聞いたが、そのあとのユウさんの消息を私たちは知らない。
「偶然にもこっちのエリカに拾われて、そのまま村で養生してたよ」
なんでもないというようにユウさんが言う。
「ええっ!?エリカさんに?」
「ああ。なんだか久しぶりに見たような感じだったなぁ」
私は驚いた。
こっちの次元のエリカさんに会ったということもそうだが、それをさも当たり前のように言うユウさんにだ。
でもそれよりも気になったのは、「久しぶりに見たような」というセリフとユウさんの懐かしむような顔だ。
その目にはきっと彼の知っていたエリカさんが映っているのだろう。
「ん、どうした。ネプギア」
「その、なんていうか…」
私の目線にユウさんは違和感を感じたようだ。
「ゆっくりでいいよ」
そう言われて、私は心を整理した。
私がユウさんに聞きたいことは何だろう。
私がユウさんに対して感じていることはなんだろう。
「つらくはないんですか?」
ふとそんな言葉が口から出た。
「俺がそういうこと言ってる場合じゃ…」
「違うんです。そうじゃなくて」
私が聞きたいのはそうじゃない。
誰と比べてつらいつらくないだとか、罪を犯してしまったからどうだとかそういうことじゃない。
「ユウさん自身はつらいですか?」
「……」
彼個人として、「滝空ユウ」という一人の人間として、今この状況はどうなのか。
「つらいよ」
つらい。
その一言は、言う資格だとかそんなものに目をつむり、自分と向き合ったユウさんの静かな叫びだ。
斬り裂かれて、砕かれて、すり減らして。
ユウさんはそんな道を進んでいった。
時には望んで、時には託されて、時には間違った道だとわかっていながら。
だけどその道がつらくないわけがない
特にユウさんのような人間にとって、いままで歩んできた道はどれほどのものか想像がつかない。
「ずっと思ってたんです。ユウさんが人のために戦おうとするなら、誰がユウさんのために戦おうとするのか」
ユウさんの腕をなでるようにして触れる。
シャツの上からなぞるだけでもその深く刻まれた傷跡がわかる。
「こんなに傷だらけになっても、それを知っている人は少ないですよね」
これはユウさんが人を守ってきたという証。
それと同時に自身をないがしろにしている証拠であると物語っている。
傷ついて傷ついて。
だけどそんなユウさんを守ろうとする人はいたのだろうか。
「もっと、自分を大切にしてください」
すがるように、
「お願いです…」
願うように訴える。
人を想うからこそ、そして自分を傷つけるからこそユウさんなのだろう。それでもこれ以上傷つくことをやめてほしかった。
「…できない」
答えは望んでいないものだった。
「それはネプギアもわかってるだろう?」
「わかってます。ユウさんがそういう人だっていうのは…わかってます。だけど…」
少しだけずるい手を使うことにした。
「だけど、そんなの私は……ううん、「ネプギア」は望んでいません。あなただけが何もかも背負って、あなただけが傷つく。そんなことは私も、みんなも望んでいません」
ユウさんの次元の「私」、それに「みんな」。
ユウさんの想う人たちを盾に訴えてみる。
すると、ユウさんは私の頭をわしゃわしゃと乱暴になでた。
「わっ、わっ」
「知ってるよ」
「え?」
「俺に背負わせるのは望んでない。そんなのはわかってる」
ユウさんはぎゅっとこぶしを握った。
「それでも俺がやるべきことなんだ」
ああ、ユウさんはこういう人なんだ。
「滝空ユウ」という人間の底の底には「誰かのために戦う」という心が根付いている。
ユウさんは、誰かを斬り裂くことにも繋がりかねない危うさを秘めたその想いに侵食されているといってもいい。
これからもユウさんは自ら傷ついていくことをいとわない。そんな未来を予想して、私はうつむいた。
「前にもこういうふうに喋ったな」
ユウさんはそんな私に優しく話す。
「お姉ちゃんたちを救う前日ですか?」
「そのときネプギアが言ってくれた言葉に、俺は救われた」
私はまたしても驚いた。私の言葉がユウさんに届いていたことに。
あのとき私はなんて言っただろう。
ああそうだ。
『私は、今のユウさんを信じています。何があっても誰かを助けることを諦めない、お人好しのユウさんを』
そういうことを言った。
過去がどうであろうと、私が見てきた、人を助けるユウさんを信じると。
そうだ。私は知っていた。
ユウさんは人を見捨てられない人だということだと。
「ユウさん」
私はぎゅっとユウさんの手を掴んだ。
「私はあなたを、「滝空ユウ」を信じています。真実を知った今でもそれは変わりません」
ユウさんが自分の信念を変えないのなら、傷ついていく道を選ぶというなら。
ユウさんを守るのは私たちしかいない。
「だから安心してください。ユウさんには仲間がいますから」
ユウさんに迫る刃をはじくのは、私たちがやるべきことなんだ。
「仲間ね…」
ユウさんはふふ、と笑ってみせた。
「不思議なもんだな。ネプギア達とまた仲間になるなんてな」
「最初に会った時のユウさん、ちょっとカッコ悪かったですね」
「言うな言うな。今でも少し後悔してるんだから」
ユウさんは照れくさそうにブンブンと手を振る。
「『なんか知らんがうじうじしてるみたいだけどな。そんなんじゃ誰も守れやしないぞ』でしたっけ」
くすくすと、少しからかうようにして私は言った。
「よく覚えてるな、そんなこと」
「覚えてますよ、ちゃんと。あのとき自信をなくして、戦うことを怖がっていた私には一番必要な言葉でしたから」
それがたんに口をついて出た言葉だったとしても、すっかりおびえていた私に、ユウさんのはっきりした物言いは響いた。
止まってる場合ではないのだと気づかされた。
「必要だった?」
「はい」
「なら、きっと誰かが言うはずのことで、誰かが言うべきことだったんだ」
「その「誰か」はきっと、ユウさんだったんですよ」
「そうか?」
「はい!」
「俺たちは互いに、言うべきことを言い合えたってことか?」
「はい!」
女神救出作戦の前夜のような、すっきりしたユウさんの顔を見て、私も必要とされていると感じてうれしくなる。
ユウさんも同じ気持ちだろうか。
微笑むユウさんを見て、私はそうだと思うことにした。