超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
四天王を倒してから三日経った。
犯罪神はいまだ目覚めることなく、しかしこちらは全員が好調だ。
エリカやドゥームが動くこともない。
ならば先手必勝。俺たちは再びギョウカイ墓場へと赴くことにした。
「さあいこうか。準備はいいか?」
俺は自分の装備が万全なのを確認すると、みんなに問いかけた。
「できてます!」
「アタシはどっちかというと、アンタのほうが心配だけどね」
「そうよ、力半分なんでしょ?」
「危ないかも…」
「いやあのね。君たち俺が戦った様子見てたでしょ」
元気よく答えてくれたネプギアと、俺を心配する女神候補生三人。
こいつらは俺の戦った様子を目の前で見ていたはずなのに、まだ気になるようだ。
「そうそうだいじょぶだって!マジック・ザ・ハードを倒したのだってユウだし」
「ええ!?私たちでも敵わなかったマジック・ザ・ハードを?」
「といってもあれは…」
ネプテューヌの言葉に驚くノワール。
それに補足を加えようとしたが
「ピンチの私たちの前に颯爽と現れたユウ……かっこよかったよね、ネプギア!」
ネプテューヌに阻まれてしまった。
「ええっ、私に言われても…」
「はいはい、そんな話は全部終わってからだ。先にパパッと片づけるぞ」
「パパッとって…簡単に言ってくれるわね。敵は犯罪神だけじゃないっていうのに」
「こういうのはあまり気負いすぎるとダメなんだよ。リラックスしていかないと」
少し呆れ気味に言うブランに向き直り、深呼吸する。
「そうそう!嫁のためにも勝たないとね。リラックスリラ~ックス」
「お前はリラックスしすぎなんじゃないか」
俺の真似をして、REDが深呼吸する。
お前は万年リラックスしてるようなもんじゃないのか。
「ケガしてもすぐ直しますぅ!」
「あれ、もしかしてボクの歌ってユウさんの邪魔になるんじゃ…」
「ここからサポートしますから、困ったことがあれば…」
「こういうのがキミたちらしいのかもね」
「き、気を付けてくださいね。犯罪神は伝承ではとてつもない力を…」
「そんなことより!お姉さまを傷つけたらただじゃ置かないわよ!」
「ええい!うるさい!ちゃんとみんなで帰ってくるから!」
口々に言ってくるメンバーを落ち着かせるために大きめの声を一つ。
狙い通りに静かになったが、横でアイエフとベールがにやにやと笑っていた。
「言ったわね、ユウ」
「みんなの中にはちゃんとあなたも含まれているのですわよね?」
「ん、まあ善処します」
ちょっとだけしまったと思いつつ、ため息をついた。
「大丈夫ですよ、ユウさん。私が守りますから」
「あ、アタシも一応気にかけてあげる…」
「ふふん、わたしたちにかかればユウなんて簡単に守れちゃうんだから!ね、ロムちゃん」
「こくこく」
「女神が守ってくれるなんて、贅沢ですこと。頼りにしてるぞ」
女神候補生が四方を守ってくれるんだと。
世の男どもが聞いたらどう思うだろうか。暴動でも起きるんじゃないですかね。
「あら、私たちは頼りにされてないのかしら?」
「してるしてる。ちゃんとしてるよ」
訂正。
女神が八方を守ってくれるんだと。
やっぱり暴動は避けられんようだな。
「ちゃんと全員そろって帰るぞ」
言い聞かせるように、再び宣言する。
「もし死んだら、冥界まで行ってひっぱたいて連れ戻してやるわ」
「そりゃどうも……」
アイエフによるアフターサービスまでばっちりだ。
どうやら意地でも帰ってこなきゃいけんらしい。
「よし」
両手のひらでパチンと頬を叩く。
頬がひりひりと痛むが、気合は入った。
「いこう!」
先ほどまでとはうってかわって、暗く黒く、そして重い雰囲気があたりを包んでいる。
また来てしまったのだ。
このギョウカイ墓場に。
「犯罪神がいるのは、この奥だな」
「はい。お姉ちゃんたちが捕らわれていた、すぐそばです」
場所に関しては、俺のほうがネプギアたちよりも詳しい。
なんせ一度戦っているんだからな。
だがあの時と違うのは、仲間がいることと俺の力が半分であること。
少しだけ身震いし、心も震える。
ついにここまで来た。まさかまた犯罪神と会うことになるなんて。
震える手をぎゅっと握る。
これは武者震いかそれとも恐怖か。
「ユウ」
「オルガ、いまのところ一番強いのはお前か女神候補生だ。危なくなったら…」
心配そうに俺を見るオルガに、必要なことを伝える。
「わかってる」
「頼むぞ」
昔のように頭をぽんぽんと叩く。
少し恥ずかしげな顔は、俺が手を離すと何か物足りなさげな顔に変わった。
「帰ったら、また…」
一瞬だけ何かを期待するような目をしていた。
そこには強靭でしなやかな刀技を披露した戦士はおらず、ただ一人の少女がいた。
無理もない。
二十と少ししか生きていないその身には、今まで起きたことはあまりに余りすぎる。
いいやそれは女神たちにも言えることだ。
何年生きてきたのかは知らないが、何十年何百年あるいは何千年何万年生きていようが、世界の命運というものは大きすぎる。
いまここにいる誰もかれもが、小さな身体に合わないものを背負っている。
それを知っているはずなのに、俺はまた重いものを背負わせようとしている。
「いや……いい。いくぞ」
オルガはすぐに鋭い目つきに変わり、歩を進めた。
「何を言いたかったんだと思う?」
先を進むオルガの背を見ながら、ユニが問いかけてくる。
その目は、オルガを敵として見てはいなかった。
ユニとオルガは何度か話す機会があり、そのなかでなにか彼女なりに思うところがあったのだろうか。
「さあな。それを知るには、俺たちはあまりにも離れすぎた」
「待て」
しばらく歩いて、犯罪神がいる再奥部まで距離的には残り半分といったところで、俺はみんなを止めた。
人影が見えたからだ。
「待ってたぜ……ユウ」
「ドゥーム…」
俺と同じ顔をもつ、魔剣を背負った男。
ドゥーム・ザ・ハードが道を阻むようにしてたたずんでいた。
ネプギアとオルガの報告によれば、エリカにさらわれていったらしいが、そのあと何かされたのだろうか。
その顔には、幾本もの重度の火傷の跡が稲妻のように走っている。
俺自身、オルガの電撃を受けたことがある。あれでも相当な痛みが走り、身体が動かなくなる。
だがそれでも、少しばかり内臓が痛めつけられるような感覚が残るくらいで、体表に傷が残るようなことなんてなかった。
つまり、雷に近いほどの威力の電撃をその身に受けたことになる。
身に着けている黒のコンバットスーツの内側はもっと深い傷があるだろう。
そしてなにより、それをしたのはエリカをおいてほかにはいない。
「エリカはどこだ」
「さあな……どっかいっちまったよ。だがそんなことはどうでもいいだろう?」
さも当たり前のようにドゥームは言う。
「さあ決着をつけよう」
ドゥームは背の魔剣を抜き、構える。
傷ついているはずなのに、以前対峙したよりも禍々しく強大な力を感じる。
有無を言わせずに戦う気だ。
「ユウさん、私も力になります」
変身しようとするネプギアを制する。
「頼らないってわけじゃない。だけどこれは俺が決着をつけるべきことなんだ」
ネプギアはしゅん、と落ち込む顔を見せる。
「そんな顔すんな。お前が
四天王と戦ったとき、俺はネプギアをドゥームのもとへ向かわせた。
そのとき、俺自身がドゥームのことを理解している自信がなかったからだ。
だがネプギアならドゥームを理解してくれていると信じた。
ネプギアの言葉はきっと、ドゥームに届いている。そして、こんどは俺が俺なりに「オレ」へ言葉を届ける番だ。
「それに、あの剣に触れさせるわけにはいかないしな」
魔剣の存在もある。
万が一にもあれで女神が殺されることは誰も望んじゃいない。
「ユウ、私は残る」
「オルガ」
「これは私が決着をつけるべきことでもあるんだ」
こんな複雑な状況のなか、オルガの心中はわからない。
だがいまはやるべきことを決めたオルガを無下にすることはできない。
それが誰のためであるかわからない。
それでもネプギアを信じたように、オルガも信じるべきだろう。
オルガがどんなことをするにしても、彼女にはそれをする権利というものがあり、俺はそれを見守る義務がある。
「……わかった。みんな、先に行っててくれ。あとで追いつく」
みんなからは特に反論はなく、敵の横を通り抜ける。
ドゥームも追いかける様子はない。その目は明らかに俺しか見ていない。
「絶対に追いついてきなさいよ」
去り際、ユニがそんなことを言った。
それは俺たち二人ともに投げかけられた言葉。
「わかってるさ」
みんなで帰る。
約束はこれ以上破るわけにはいかない。
みんなが先へ行き、この場には三人だけになった。
俺とオルガも武器を抜き、構える。
臨戦態勢が整った瞬間、待ってましたと言わんばかりにドゥームが向かってくる。
「おっと」
足を払うように振られた魔剣を、跳躍することでかわす。
俺の着地を待たずに、代わるようにしてオルガが刀で突く。
しかし見越していたかのように、突かれる前にドゥームは一歩引いていた。
それほどリーチのあるわけではないオルガの武器であるククリ刀は、いとも簡単に避けられてしまった。
「むっ」
ならば、とオルガは手から武器を通じて幾度となく使用してきた電撃を放つ。
刀の先端から一直線に、目にもとまらぬ速さでドゥームへと直撃する。
それはドゥームの身体を一瞬のうちに駆け巡り、麻痺させる。そのはずだった。
「オルガ!」
俺はオルガの身体を、後ろから抱き寄せるようにして引っ張る。
刹那、オルガのいた場所に一閃の刃が通った。
魔剣の一撃は身体にこそ命中はしなかったが、伸ばしていたままのオルガの手に握られていたククリを弾き飛ばす。
「この身体にはいまさらそんなものは効かんぞ、オルガ」
ニヤリ、とドゥームは笑う。
オルガは弾き飛ばされた刀は諦め、腰に差してあるもう一本のククリ刀を抜く。
オルガは信じられないものを見る目でドゥームを見た。
あの電撃でいままで麻痺が起こらなかったことはない。それがたとえ一瞬であれ、その一瞬を活かす素早さと経験を彼女は会得しているはずだ。
だがその一瞬の隙すら、ドゥームは見せなかった。
「どうなってる」
「こいつの中の犯罪神の力が暴発してるんだ。前にもあった」
それはリーンボックスでのこと。
教祖に化けていたことがバレ、追いつめられた下っ端が黒いディスクを用いたときだった。
犯罪神に与する者の力を増幅させるものだったそれは、俺の中の力にも作用した。
あのときは一切身体を動かすことがかなわず、一つの衝動、すなわち「破壊」のことしか考えられなくなった。
「暴発だと?」
ビキビキと青筋を立てるドゥームがその剣を縦に一振りする。
すでに離れていた俺たちに当たりはしないが、ドゥームの周りの地面は抉れた。
「この力が暴発だと?」
「暴発にしか見えんな。エリカに何をされた?」
「黙れ!」
エリカがドゥームに何かしたのは間違いない。
マジック・ザ・ハードからなにかしらの技術を教わったか、それとも自ら習得したか。
なんにせよこの先に待っているであろうエリカが目的を持って俺たちを戦わせようとしたのは疑いようはないだろう。
「しかし自分が相手だとはやりづらい」
「オレは!」
俺の言葉にドゥームは鋭く反応した。
距離を詰め、再び魔剣を振り下ろす。
「
その攻撃はあまりにも雑すぎた。
俺たちはその一撃をいとも簡単に避けることができた。
激しい衝撃とともに、俺の足元にまで地面に亀裂が入る。だがしかし、その攻撃で俺は確信した。
この男が放つ言葉には、だがその挙動は一切の殺意が見られない。
厳密にいえば、俺に対する殺意が見られないのだ。
「そう言うと思ったよ」
俺の、いやネプギアと俺の考えは合っていたのだ。