超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】   作:ジマリス

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55 女神として 人間として

ドゥーム・ザ・ハードを相手にするユウさんとオルガさんを心配しながら、ギョウカイ墓場の奥にまでたどり着いた。

 

「いないじゃない」

 

最初に口を開いたのはユニちゃんだった。

ここにいるはずの犯罪神が、その身体のひとかけらも見えなかった。

 

「そんな…確かにここにいるはずなのに…」

 

「もしかしてもう目覚めて、どこかにいったとか」

 

「はっ!もしかして入れ違いでゲイムギョウ界に行っちゃったとか!」

 

ラムちゃんの予想に、お姉ちゃんがのっかる。

だけど私にはそうは思えなかった。

破壊の権化たる犯罪神が、その大きな力を感じさせないままにどこかへいくなんて考えにくい。

 

『いいえ、ゲイムギョウ界に来たという知らせは入ってきていません』

 

『こっちの情報網にも引っかかってはいないね。ギョウカイ墓場にいるとみていいだろう』

 

多機能端末であるNギアからいーすんさんとケイさんが話しかけてくる。

 

「おかしいわ。前に来たときのような、あの禍々しい力が感じられない」

 

ユニちゃんが首をかしげる。

以前、ユウさんと分かれたドゥームと初めて会ったときに、犯罪神の一部はすでに復活しており、それだけでも尋常ならない力は垣間見えた。

 

「禍々しい、ね」

 

その声は正面の黒い塔の根元から聞こえてきた。

 

「そう感じるのは、その力が犯罪神のものだからかしら?それとも自分とは違う異質のものだからかしら?」

 

元からそこにいたのか、それとも今現れたのか、彼女はいまそこにいた。

 

「エリカさん?」

 

「アンタがなんでここにいるの?」

 

突如として現れたエリカさんに武器を構える私たち。

警戒するのも当然だった。

 

「あらあら、血気盛んね。ここにいる目的なら、あなたたちなら少しはわかりそうなものだけど」

 

ユウさんたちとの話し合いで、エリカさんは犯罪組織に味方していたことがわかっている。

そうなれば、ここにいる目的は一つに絞られる。

 

「犯罪神の復活…」

 

「ま、半分正解ってところかしらね」

 

「半分?」

 

得意げになってエリカさんは口を開く。

ああやはり、あなたたちにはそのくらいしかわからないでしょうねと言いたげな、失望と嘲笑の表情が混ざり合っている。

 

「そう、半分。私がなにもせずに、犯罪神を暴れさせると思った?」

 

「どういうことですか…」

 

ただ犯罪神を野放しにするということは、さすがに否定した。

あるいはエリカさんが破滅願望者、破壊願望者であれば納得はいったが、それにしては何か先を見据えているようなそんな気がしてならなかった。

 

「こういうこと」

 

右手をゆっくりと開き、天へと掲げる。

 

美しく、そして儚く、しかし力強いその姿はまるで彫像を思い浮かばせる。

 

「変身」

 

黒い光の柱がエリカさんを包む。

この光景は見たことがある。「変身」と言いながら闇に覆われるその姿は、ユウさんの姿と一致する。

 

光が途端に消え、そこに現れたのはたった一人の少女ではなかった。

 

頭の左額には鋭い紫の角が生えている。

身体はマジック・ザ・ハードのような露出度の高い黒のプロセッサに覆われ、常に形の変わる紫に光るものが背に浮いているが、あれは翼だろう。

手には、柄の両端に魔剣ゲハバーンを彷彿とさせる大きな赤い刃がついている剣が握られている。

 

だが何よりも変わったのは、その威圧感だ。

ユウさん以上の明らかに普通の人間が出せるものではない。

明確な殺意が私たちに突き刺さる。

 

「そんな…」

 

「もしかして」

 

「犯罪神ならもう復活したわ。そしてその力はあなたたちの目の前にある」

 

一転、恍惚とした表情で自らの身体を撫でる。

この威圧感、そして彼女の内側からあふれ出る嫌な雰囲気は犯罪神のものだ。

 

方法はわからないが、エリカさんはユウさんと同じく犯罪神の力をその身に宿したのだ。

 

「長かったわ……とても長かった。だけどそれも今日でおしまい。ユウと同じこの力で、ユウを傷つけたすべてに反逆する」

 

「ユウさんはそんなこと望んでませんよ!」

 

「知ってるわ。私が人を殺すなんてユウは望んじゃいない。それでもユウがこれ以上傷つくのは見ていられないわ」

 

ユウさんが元いた次元の(ネプギア)の望みを理解しているように、エリカさんもユウさんの望みを理解している。

それでもなおエリカさんは彼女自身が思う救世を成しえようとしている。

彼女にとってユウさんが世界そのものなのだ。彼女にとってユウさんこそすべてなのだ。

 

他者(ネプギア)の願う世界のために戦うユウさんと自分の世界(ユウさん)のために戦うエリカさん。

 

それは、他者のためにしか戦わないユウさんがいるからこそあり得た状況。

そのユウさんを愛したエリカさんがいるからこそできてしまった状況。

 

「まずはあなたたちを殺す。ユウがやったように、その命を消滅させる。そしてそのあとにゲイムギョウ界を滅ぼして、崩れた世界をユウと歩く」

 

ユウさんの歩んだ道をそのまま再現しようとしている。

ユウさんの隣にいるために、少しでもユウさんに近づこうとしている。

 

「……」

 

「あら、狂ってるとでも言いたげな顔ね。だけど、誰もが裏切って理不尽に命を落とす、こんな世界で狂ってない人間のほうが稀でしょ?」

 

「ムダよ、ネプギア。もうあの人に言葉は通じない」

 

「あらなかなかな言いぐさね、ユニ。でも正解。私とあなたたちはもう、殺すか殺されるかしかないもの」

 

それしかないかはともかく、エリカさんはそれを望んでる。

屍を積んだユウさんに手を届かせるためには、自らも同じぶんの屍を積むべきだと。

 

「もしユウさんや私たちが最初から止めていたとしても、エリカさんはそれをしようと思いましたか?」

 

それ。

わざとそう言って濁す。

人を殺すことが世界を救うことだなんてことは、私は信じたくなかったからだ。

 

「これは私のやるべきことで、やり通さなきゃならないことなの。誰に否定されても、この道を変える気はないわ」

 

「そうですか…」

 

あなたにはきっとわからないわ、と言われてるような口ぶりに私はもう説得することはできないと悟った。

 

エリカさんは自分が人であることを諦めた。人でい続けることを諦めた。

いいえ、望んで人であることをやめたというほうが正しい。

 

たった一人の世界(ユウさん)を守るために、彼女は悪魔になることを決意した。

 

「それなら私は女神としてあなたを倒す。それが私のやるべきことです」

 

 

 

 

                  △

 

 

 

 

旅を続ける中で俺なりに出した結論を、本人がいる前でオルガに話す。

 

「この男は俺と自分が同一人物だと思われるのが怖いのさ」

 

いつ襲われてもいいように警戒しながら続ける。

 

「正確には、俺にそう思われるのが」

 

「は?」

 

「衝動的に生まれた、滝空ユウの負の感情。滝空ユウが犯罪神の力によって分離した別の人格。そう思わせたかったんだろ?」

 

ドゥームは憎むような目で俺を見る。だがそれは作ったような演技臭いものだった。その奥には恐れるような、そして少し期待するような感情が見え隠れする。

 

「実際そうだろう。犯罪神のような存在。それがオレだ」

 

「いいや違う。少なくとも、破壊なんて望んじゃいなかった」

 

「戯言だ」

 

瞳の中の感情がさらに揺れ動く。

だがその身体は動こうとしない。

犯罪神の力が暴走しているのも関わらず、それを一人の人間が押さえつけているのだ。

 

「ならなぜ俺が再び戦おうとするのを止めたんだ?」

 

ドゥームはハッと目を見開く。

 

「覚えてるぞ、ちゃんと」

 

あれはまだ俺が記憶を失っていたとき、この次元に来たばかりの話だ。

ネプギアたちと出会い、一緒に旅をすると決めたとき、彼はこう言った。

『いまならまだ引き返せる』

 

「封印されている身でありながら、自分を封印した男を気遣った」

 

「気遣う?オレが?憎むべきお前を?」

 

「いいやお前は俺を守りこそすれ、憎んじゃいない」

 

そうでなければ、ドゥームはあんなことを言ったりしない。

憎んでいるなら、わざわざ不自由な状態であんなことを言ったりせずに戦いの中へと放り込んだほうがいいはずだ。

そうすればいつかは犯罪組織との戦い、または交流を経て封印は解けるか弱まる可能性は高い。

 

「これが!これが守ってるように見えるか!?」

 

ドゥームは魔剣を振った。

いま俺に襲いかかっているこの状況。それが守っているように見えるかと彼は問うた。

 

「見ろこの身体を!この剣を!真っ赤に染まっているだろう!」

 

それは俺と彼にしか見えない色だった。

武器を含めて、頭の上からつま先まで赤黒く染まっている。

奪った命が流した多量の血が身体を染め上げている。

 

「お前とは違う」

 

「一緒だ。俺たちは等しく血に塗れて、同じ数の命を奪った」

 

俺は自分の手を見る。

目の前にいる男と同じ色に染まった自分の肌。

その手には、いままで奪った命の重さや感触、温度まで生々しく残っている。

 

「そんなことをして壊れそうだった、「滝空ユウ」の心を守ろうとした。「破滅(ドゥーム)」の名を名乗っておき、「人殺し」の汚名を自分がかぶることによって、お前は罪をすべて背負おうとした」

 

それは極限まで追いつめられた、俺の衝動だったのかもしれない。

生存本能というよりは防衛本能というほうが正しいだろう。

女神を殺してしまったことで無数にヒビが入り、今にも砕け散りそうだった俺の心は、もう一つの人格を作り出してさらに大きな罪を背負わせることで形を保とうとしたのだ。

 

「自らが封印されることに恐怖を感じながらも、俺が次元を超えた衝撃で記憶を失ったことは、お前にとって好都合だった。誰にも理解されず、誰の記憶からもいなくなる。それがお前のゴールだった」

 

リーンボックスで彼はネプギアに言った。

『お前も俺を否定するのか』

 

ネプギアはそのときなにも知らずなにも言わなかったが、ネプギアがドゥームに向けた恐れるような表情に彼は絶望した。

自分の知っている、自分を知っているネプギアではなかったのはわかっていたが、心の中ではどうしても割り切れなかったのだ。

あのネプギアなら自分のことをわかってくれるだろうと、そう信じていた。

誰かのために戦ったことを。

 

たった一人でも理解者がほしかった。

それはついに叶ってネプギアは理解したが、同時に一番理解してほしくなかった相手(ユウ)に理解されてしまった。

 

「俺が記憶を取り戻したとき、つまり俺たちが二人に分かれたとき、最後のチャンスだと思ったはずだ。上手くいけば、破滅(ドゥーム)に全ての罪をなすりつけることができ、滝空ユウはその魔剣を持って犯罪神を倒してハッピーエンド」

 

それがドゥームの描いたシナリオだった。

これで俺は戦いを終わらすことができ、あとは平和になった世界を平穏に過ごす。

追ってきたオルガとエリカも、ドゥームという明確な仇を討つことができてそれで終わりにできた。

そのはずだった。

 

「簡単に説明してくれ、ユウ。私には、ドゥームがお前を守っていたかのように聞こえたんだが」

 

「間違っちゃいないさ」

 

女神を殺してしまい、壊れそうだった俺の心を繋ぐために民衆を憎ませた。

俺を説得するのは簡単だっただろう。俺はあの時も、そしていまでも世界を救うには人間を滅ぼすべきだと考えているからだ。

「女神を殺してしまった原因は俺ではなく、流されるままに破滅へと向かう民衆だ」。俺にそう思わせたうえで自分(ドゥーム)が「人間殺し」の汚名を被れば、滝空ユウは罪を感じなくなる。

「女神を殺したのは人間で、その人間は滝空ユウではない誰かが殺した」

それがドゥームの狙いだった。

 

しかし一方で自分のしたことが認められなくなるのが怖かった。

ドゥームは確かにここにいて、誰かのために戦ったと知ってほしかった。

たとえ衝動的に生まれた存在であろうと、「オレ(ドゥーム)も滝空ユウだ」と誰かに知ってほしかった。

彼の端々に見えるそんな行動が、結局はネプギアだけでなく俺にも知られることとなった。

 

「予想外だったのは、エリカの行動だった。」

 

俺とドゥーム、双方にとってエリカは規格外だった。

エリカはあまりにも滝空ユウという人間を知りすぎていたのだ。

 

「エリカは言っていたよ。オレと同じ罪を背負う、死を積んでこの世界を救済し、人間に反逆すると」

 

ドゥームがやっと口を開く。

今までの話を否定しないということは、俺の考えは当たっていたということだ。

 

「エリカにとって、滝空ユウが自分を守るなんて信じられないことだったんだろうな」

 

『人のために戦う』というのはエリカも知る、滝空ユウの根本にあるもの。

エリカはその『人』に滝空ユウ自身が入っているなどみじんも思っていなかった。

事実、それまで俺は自分が傷つくことをおそれずに戦っていた。

 

だからエリカは決めたのだ。

誰も、女神でさえ滝空ユウを守ろうとしないなら、救えるのは自分だけだと。

 

「死を…積む?」

 

「俺と同じ数以上のな」

 

罪を背負うためにエリカは力を欲した。

俺と同じ、あるいはそれ以上の。

 

そうすることでどうしても人間であることから脱却したかったのだ。

それが滝空ユウに近づくことに必要だから。少なくとも彼女はそう思っている。

 

「オレじゃあいつを止められなかった」

 

ドゥームはふり絞るように呟いた。

 

「俺が止める」

 

ドゥームは首を横に振る。

 

「また繰り返すのか。人のために戦って、傷ついて。いつかは心が崩壊する」

 

「それが滝空ユウだろ?」

 

我ながら酷い言葉だ。

つまり俺はドゥームという、自らを守ってくれた存在を否定しようとしている。

 

だがその守ってくれた事実と心に、滝空ユウの根本を感じた。

ならば背負うべきだ。

彼を理解し、彼を殺し、その力を得て、そのうえで彼を否定するならば、その罪も心も背負うべきだ。

 

いつか死にゆくその日まで

ぬぐえない罪を贖うその日まで戦い続けるべきなのだ。

他の誰でもない誰かのために。

 

それが「犯罪神の力」と「女神の遺志」を持った俺という存在だ。

それが滝空ユウという「人間」なのだ。

 

「構えろ、ドゥーム」

 

俺はドゥームに戦いの続きを所望する。

 

諦めたようにドゥームは剣を構える。

ここからはドゥームは俺を殺そうとするだろう。

ドゥームは、というよりその内側にある暴走した力が。

 

だがたとえ暴走していたとしても、望まぬ戦いであろうとも俺たちはぶつかりあうべきだ。

 

最後の最後まで。

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