超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
「また繰り返すのか。人のために戦って、傷ついて。いつかは心が崩壊する」
そうさせないためにオレは奔走した。
ずいぶん遠回りな方法で、バカげた方法で。
それを否定するようにユウは刀を構える。
ならオレのやってきたことはなんだったのだろうか。
人間を殺したのも無駄だったのだろうか。
無駄、ではなかったのだろう。
ユウの顔を見てそう思う。
途方もなく、終わりのない道を進もうとするこの男に障害はあれど諦めるという選択肢はなくなった。
選択肢をなくした。いや選択肢なんて元からないのかもしれない。
「それが滝空ユウだろ?」
そうだな。
否定されても、憎まれても、斬られたとしてもユウは戦い続ける。
それならば彼の望む通り全力で戦ってやろう。
「構えろ、ドゥーム」
抑えていた力を発散させる。
抑圧したぶんか、燃え盛るような黒い力が周りを包むように放出される。
オレの身体はもうオレの意志では動かない。
「ユウ……私は…」
オルガが混乱した表情でユウとオレを見る。
彼女にとっては何をどうすれば何を手に入れられるのか、もうわからなくなっているだろう。
「こんな複雑な話をしてすまない、オルガ。でもどうしても知ってほしかったんだ」
誰が何のために戦ったか。
ユウは何人もの「理由」や「目的」を否定した。
これからやることを否定するには、これまでやったことを否定するしかない。
ユウはそう思ってこれからを戦おうとしている。
「私は…戦えない。この男とは戦えない」
この男と言ったのは、まだオルガの中では整理がつかない証拠だろう。
「それでもいい」
ユウは刀を構える。
「この戦いを見ていてくれ」
オレもぐっと剣を持ち、構える。
「ユウウウウウウウ!!!!」
思い切り地面を蹴り、ユウへと剣先を向ける。
風を切る音さえ聞こえる突きは流すようにして避けられる。
オレはそれを見越していたかのようにその勢いを失うことなく、左肩を激突させる。
ユウは激突の瞬間、後方に身体を逸らしてダメージを軽減した。
双方が双方の戦い方を知り尽くしていた。
オレは踏み込み、魔剣を振り下ろす。強烈な一撃を、ユウはかろうじて受け止めた。
二人の力自体は互角であったが、八人もの女神の力を吸収した魔剣があるぶん、オレに有利だった。
ユウは追い込まれそうになるも、金属がこすれる嫌な音とともに刃を逸らした。
剣を振り切ったオレの隙を逃さずに真一文字に斬りかかってきた。わずかに身体を逸らすが、よけきれずに腹部に浅い傷ができる。
血がにじみ出てはいるが、苦しむような傷ではない。
戦いのさなか、笑みを浮かべてしまう。
ユウは人間の枠を超えたうえで、さらに強くなっている。
何かを、誰かを守ろうとする意志は彼を規格外の強さにまでしてしまった。
女神に匹敵するほどに、女神を超えてしまうほどに。
人の力を超えてしまえば、人ではなくなるだろうか。
人を人たらしめるものはなにか。
その哲学的な問題は、ユウにはさして重大なことではない。
これだけ力を持ち、これだけ非道な行いをしてきた滝空ユウを一人の人として見てくれる者がいる。
それだけでユウには十分だった。
それで十分と思えるほどにユウは成長したのだ。
自分の知らない自分の姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
もう一度オレは剣を振り下ろす。
再びユウは刀で防御した。
ピキキと音がする。刀にヒビが入ったのだ。
犯罪組織との戦いで酷使してきたツケがまわってきたのだ。
モンスターだけでなく、犯罪組織幹部の攻撃すら防いでみせた愛用の武器だったが、ここまでだった。
ユウは父親がオーダーメイドしてくれた刀を乱暴に振る。
オレは焦って防ぐが、交差した衝撃で刀が折れた。
信じられなかった。
刀が折れたこともそうだったが、それをなんでもないもののように扱ったユウの行動もだ。
その美しい刀身は見る影もなく無残な姿に映る。
そしてあろうことか、ユウは折れた刀を地面に落とした。
荒廃した大地に伏すその様を目で追ってしまう。
「ユウ!」
オルガが何かを投げつける。
ククリ刀だ。
オルガは自分の武器をユウへと投げた。
衝動的な行動だったのか、それともユウを理解したからこその行動だったのかそれはわからないが、とにかくオルガはユウを助けるためにそうした。
エリカとオルガ。
オレは長年ともに過ごした大切な仲間を傷つけた。
その彼女の武器にやられるのは、手向けとしては贅沢だ。
ユウはオルガのほうを見ずに、回転する刀を器用につかむ。
幾年使い続けてきたかのようにすっぽりとユウの手に収まった。
ユウは受け取ったその勢いのまま、刀を振りぬく。
「
幾度となく使用した技。
ネプテューを真似て己がものとした一閃がオレの身体を斬った。
先ほどの浅い傷ではなく、だらだらと血が流れるほどに深く刻まれていた。
斬り裂かれ、一部露出している身体からはエリカにつけられた稲妻の跡がちらりと見える。
痛みを感じるほど、意識ははっきりとしていなかった。
オレは負けて、ユウが生きている。
これはオレが目標としたことだったが、かなり回りくどいことをしたもんだ。
だがやっとたどり着いた。
全身から力が抜け、仰向けに倒れる。
視界の端から闇が迫ってきた。
目を閉じてしまえば、もうそこでオレの命は終わる。
あとは消えていくだけ。
「ユウさん…」
かすかに聞き慣れたはずの声が聞こえた。
「あ…」
思わず絶句する。
そこにはネプギアが、滝空ユウがその手で殺したはずのネプギアが笑顔でオレを見つめていた。
これはオレの頭が死に際に幻でも見せているのだろうか。
そうでなければ、ネプギアがこんな眩いほどの笑顔であるはずがない
「ネプギア…」
消え行く身体のどこにそんな力があったのか、オレは空へ、ネプギアへと手を伸ばす。
ネプギアはそれに応えるようにオレの手を両手で包んだ。
暖かく優しい感触が、目の前の女性がネプギアだと感じさせてくれる。
「ここまで傷ついて、倒れて、それでもわたしを想って戦ってくれてありがとうございます」
ああ、そうだ。
オレはこの言葉が聞きたかったんだ。
誰かが、ネプギアがオレを認めてくれるこの言葉が。
どれだけ戦っただろうか。
どれだけ殺しただろうか。
どれだけ失望させただろうか。
どれだけ絶望させただろうか。
そんな苦悩から解放してくれるこの言葉を聞くために、オレは戦い続けていたのだ。
ずいぶんと長く、長くかかったような気がする。
この言葉を聞くためにずいぶんと遠回りしたように感じる。
それはそうだろう。死者の言葉を聞くためには、同じく死者になるしかない。
あとは消えていくだけ。
だから。
このときは。
このときだけは。
このときだけはどうか、許してくれ。
罪も戦いも思いも、怒りや悲しみや憎しみも、人間も女神も犯罪神も。
背負うべきものをすべて忘れることをどうか許してくれ。
ただネプギアに触れられるほんの一瞬の、刹那のこの時だけは。
繋いだ手をぎゅっと握る。
ネプギアにぎゅっと握り返される。
悪くない。
俺は残った魔剣を拾い上げ、背中に装備する。
そこにドゥームがいたなんて信じられないような、なにも無くなった地面を見下ろす。
「……」
俺もオルガも言葉を発しなかった。
沈黙のなか、俺は腰の鞘を抜き、地面に突き刺す。
続いて、刀身が折れた刀を鞘の横に刺す。
それは墓標か、誓いの碑か、あるいは両方。いずれにせよ建てなければいけないと思った。
ここに「オレ」がいたことを忘れてはいけない。残さなければいけない。
彼を葬って、戻った力。
この力をもって、俺は…。
俺は…。
「いこう」
オルガの刀を返し、俺は歩を進める。
まだ終わってない。
やるべきことがまだ残っている。
△
私とユウはネプギア達が戦ってるであろう最奥部へと走る。
嫌な予感が胸を締め付けていた。
ユウもエリカも私の知らない人間になりつつある。
いやもうなっているのか。
その強靭な意志と悪魔的な力はとても同じ人間だとは思えなかった。
それでも私は信じたかった。
あれだけ必死に戦っていたユウたちは、私の信じていたユウと変わらないと。
だから刀を投げた。
私には、ユウの仲間である私には理解して見届ける義務がある。
どれだけ時間がかかろうとも、なすべきことだ。
長く走ったように感じられたが、やっと最奥部についた。
奥には私たちを見下ろす黒い塔がそびえたっている。
その前には…
「遅かったわね」
エリカの声だったが、それを言う人物は人間とは思えなかった。
マジック・ザ・ハードのようなプロセッサに、生えた角。
悪魔とも思えるその姿、その笑顔は邪悪に歪んでいる。
だけども、それは確実にエリカだった。
ユウと同じ、いやそれ以上の黒い力をその身から滲ませるエリカに驚愕した。
なんで。なんでエリカがその力を持っているんだ?
それは犯罪神の力ではないのか?
混乱する私はすがるようにユウを見る。
しかしユウはエリカの変わりようよりも、地に伏す者たちを見つめていた。
「ネプギア……みんな…」
息はあるようだが、みんなが倒れていた。
その様子を見て、ユウは絶句する。
女神だけでなく、他のみんなも傷ついて倒れている。
ただの犯罪神なら、こうも簡単にやられてはいないだろう。
あのエリカがやったのだ。この惨状を。
エリカが私たちの世界を彷彿とさせるような状況をつくりだした。
そこで私はハッと気づいた。
立ちすくむユウに何かが近づいてきていた。
ユウの後ろから影が迫っていた。
「ユウ!!」
とっさに身体が動き、ユウを押し出す。
完全に呆けていたユウは私のタックルで前へ転がった。
「オルガ!」
ユウはとっさに体勢を整えてこちらへ叫ぶ。
影は私の目の前まで迫り、目にもとまらぬ速さで伸びてきた。
黒い刃が私の身体を貫いた。