超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
いままでの彼女からはかけ離れたイメージの恰好をしているエリカよりも、ネプギアたちに目を奪われた。
女神が八人。それ以外にもアイエフ、コンパ、RED、5pb.が倒れている。
どうやら普通に倒されただけのようだ。まだ死んではいないし、瀕死ってわけでもない。
だがその状況は異様だった。
これだけの戦力がありながら、勝つどころか短時間で敗北している。
茫然とした俺は隙だらけだった。エリカがなにかをしようとしているのも気づかなかった。
不意に何かが後ろから激突してきた。なんとか受け身をとり、体勢を立て直す。
振り向いた先には、もちろんオルガ。
だけどその身体は突如として現れた黒い刃に貫かれていた。
刃はオルガの足元の影から生まれ、そしてその影はエリカの足元から伸びていた。
「あ…っく…」
苦悶の表情に満ちた顔。
刺された胸からは血が溢れ、赤いコートを赤黒く染める。
刃は影に収まり、伸びた影も元へ戻っていく。
オルガは膝をつき、そのまま地面に倒れた。
「オルガァ!!」
すぐさま駆け寄り、オルガの身体を抱き起こす。
「オルガ!オルガ!」
嘘だ。こんな簡単にやられるはずがない。
エリカがこんな簡単に殺すはずがない。
刺された胸から血がとめどなく流れ、俺の手に付着する。
生暖かい血は、まるでオルガの命が流れていっているようでそれ以上流させたくなかった。
俺は乱暴に服を破いてオルガの胸に巻く。
簡素な包帯代わりはすぐに赤く染まり、気休め程度にすらならないことを伝えてくる。
ここで死んでしまうのか?
こんなにあっさりと?
「違う違う!そうじゃないだろ!これからだろうが!!」
頭を振ってこの考えを消そうとする。
だがぐったりと力が抜けた少女の身体は、死という一文字を俺の頭に残す。
俺にはにわかほども医療の知識はない。
頼りのコンパは倒れて意識がない。
「ユウ…」
力無く俺を呼ぶ声が聞こえた。
苦しみながらも、振り絞った小さい声だった。
「そこにいるか?」
もう目を開ける力も残ってないのだろう。
もう身体の感覚もないのだろう。
「ああ、いるぞ」
そんな彼女に届くように、俺はぎゅっと手を握る。
だが彼女から握り返してくることはなかった。
「ユウ…」
意識を手繰り寄せようとしているのか、それとも死ぬ覚悟を決めたのか。
ただ小さく、風にもさえぎられるような声だけが響いていた。
「いるぞ、ここにいる」
助からないなんてことはわかっている。
それでも、魂をつかんで離さないように力を強める。
「ユウ…」
さっきよりも手を強く握る。
ここにいる。
手を通じて伝えるように。
「……」
もうオルガの口は動いていないように見える。
もうオルガの声が聞こえないように感じる。
「オルガ…」
もう俺の声が届いていないように見える。
「オル…ガ…」
「……」
目の前の少女は答えてくれない。
「呼んでくれ」
もういない。
「呼んでくれ」
オルガの魂はここにはない。
それはわかっている。
次の場所へと移ったか、消滅したか。
身体から離れた魂の行方は誰にもわからない。
ゆえにつかもうとしてもつかめない。
だけども誰がその魂を別離させたかははっきりしている。
俺はその張本人をにらむ。
「正直にオルガを狙えば避けられる」
「だから俺を狙ったのか」
エリカはゆっくりと近づいてくる。
その一歩は華奢なその身体からは想像つかないほどの重さ。
「これであなたと私だけ。二人だけ。あの世界の凄惨さをこの目で見たのはたった二人だけになった」
「それが目的だったのか。自分の妹を殺すことが?」
「あなたもそうした。親も仲間もそれ以外も。何のために?」
「……救世」
振り絞るように答えた。
俺はいままでその行動を否定してきたが、その思想はまだ正しいと思っている。
人間は世界を混沌としすぎた。
結果は、秩序を保とうとした女神を追いつめ、破滅への一本道だ。
「そうよ、世界の救済!だけどあなたには精神的な荷が重すぎた」
エリカは実のところは世界すらも憎んでいるが、俺のために世界を救おうと、変えようとしている。
それがわからないほど、俺は彼女を理解していないわけじゃない。
艶やかな背中を見せるエリカの目には何億もの死体が映ってるに違いない。
エリカを止めないと、それは現実の光景となってしまう。
「だから!あなたの代わりに私が!自由と!平和を!あらゆる世界にもたらす!!」
俺は無言で首を横に振る。
「世界を救うのに必要なのは人間の殲滅である。そう思っているのに、同じ思いなのに、まだ女神に味方するの?」
「思っているからこそ、人間への許しがたい衝動を抑えなければいけないんだ。ネプギアと約束した」
「こっちのネプギア?それとも元の世界のネプギア?」
「両方だ」
俺はオルガの身体を静かに置き、立ち上がる。
「すでに世界を破壊して、約束もなにもないでしょう」
「確かに俺は取り返しのつかないことした」
命を奪った罪は消えることはない。
たとえ死んだ者が生き返ったとしても、許されるはずのない罪。
「…それでも取り返したいんだ」
この次元にたどり着いたのは偶発的な現象だ。
「俺」と「オレ」が反発しあって生まれた力が次元を越えるほどの力を生み出した。
運命とやらのいたずらか。一度だけチャンスが与えられたのだ。
約束を果たすためのチャンス。
詭弁だ。
でも割り切れない気持ちがある。
ドゥームが消える前、彼は何かに向かって手を伸ばした。
空ではなく、彼を満足させる何かに向かって。
彼が最期に見た景色を見てみたい。
それが許されるのは、俺が約束を果たしたと思えたときだ。
「そうやってまた傷ついて、否定されて、最後にはあなたは壊される」
「それが俺の道だ」
俺は即答した。
「いつか人間に殺されるとしても、俺がやらなきゃいけないことだ」
二つの次元を旅してやっとのことで手にした答えがこれだ。
もっといい答えがあるのかもしれない。けど俺が思いつくのはこれだけだ。
「なら私がやるべきことはあなたが望んだ世界を作るだけ」
エリカは持っているダブルセイバーを器用にくるくると回した。
「それをあなたが邪魔するなら、私はあなたを倒す」
「俺のために俺を殺すか?」
矛盾しているような理念に、俺は顔をしかめる。
本能と衝動と理念と約束。どれもが大切で捨てることのできないもの。それらが作り出す矛盾に納得できるほど俺もエリカも強くない。
だからこそこんなにも苦しんでいる。
「そうね。そうしないともう止まらないもの、あなたという人は。あなたもそうでしょ?私を殺すためにここまで来たのでしょう?」
「そうしないと犠牲者が増える」
「平和には犠牲が必要でしょう?それとも「犠牲のうえに成り立つ平和なんて意味がない」なんて綺麗事の世迷言の戯言を言うつもりかしら?」
「その綺麗ごとの世迷言の戯言が、俺に託された約束だ」
頑固に主張する俺に、エリカはため息をつく。
「……合わないわね」
「それは今に始まったことじゃないだろう」
「…そうね」
くす、とかすかに笑った。それを俺が認識すると同時にエリカは手に力を込めた。
ゆったりと話していたのが嘘のように、エリカは牙をむく。
瞬時に間をつめ、踊るように刃を振り回す。
魔法を主としていたエリカがこれほどすばやく動けるなんて、想像もしていなかった。
俺は魔剣を軽々と振って応戦する。
魔剣には以前感じられていた重さがない。
これ以上誰かを殺さないように抑えていた者は、もうここにはいない。
この世のどこにもいない。
△
「この次元なら少しはあなたのことを理解できる人がいるとは思ったけど」
私は剣で突き、それがかわされたのを視認する前に身体ごと剣を回転させた。
ユウはそれすらも防いで見せた。
「まさかあなたを攻撃するとは思ってなかったわ」
「なるほど。女神に記憶を見せたのは、最後の壁のつもりだったのか」
そう。だから私は当初の目的通りに犯罪神の力を手に入れることにした。
あなたに近づくために。
犯罪組織に近づいたのは女神が捕らわれてから少し経ってから。
そのときにはすでに膨大な魔力を持っていた私をマジック・ザ・ハードは快く受け入れた。
四天王の存在とその目的を知っていたから、違う次元から来たという私の話を簡単に信じてくれた。
記憶だけでなく、そのときの感情すらも相手に伝えてしまう禁術が大きく手助けをした。
記憶と助力の代わりに得たのは犯罪組織の力の活用法。
深くまでは教えてはくれなかったが、私には十分だった。
何度も思考し、何度も試し、狂暴化したモンスターがうろつくことになったが私には関係ない。
もちろん人間にも試した。一連の計画に必要な人選だった。
犯罪組織に与するものでない彼は、それに耐えられずに死んでいった。
彼の死体にかかわったすべての人間の記憶を、彼がモンスターに倒されたというように情報を残しておくように操作するのは骨が折れたが、気づかれるのは得策ではない。
何度も繰り返した実験は実を結び、私の身体は犯罪神をも受け入れて支配できる準備ができた。
その時点で邪魔になったのは、四天王だ。
ユウと同じ存在になるには、完全な犯罪神を目覚めさせてはいけなかった。
あくまで四天王が倒されたことで復活した、不完全な状態を私は欲した。
だからあらかじめ植え付けておいた魔力の種を爆発させた。
そのときに生き残っていたのは、トリック・ザ・ハードだけだったけど。
そのことから察するに、四天王は戦っている最中だったのだろう。
おかげで誰にも邪魔されることなく、私は犯罪神を手に入れることができた。
あと必要だったのは、二つに分かれたユウを元に戻すことだった。
犯罪神の力(とその純粋なる悪意)を求めたマジックの策略によって分断されたが、当の本人であるマジック含めて誰にとっても不十分な存在だった。
「まったくめんどくさい奴だな」
「それはお互いさまでしょっ」
手から電撃を放つも、剣で逸らされた。
剣と魔法を同時に扱うのはなかなかに難しい。
だからといって、スピードがあっていまのように魔法を防げるユウには同じ接近戦をしかけるか、それとも。
「これならどう?」
手を空へ掲げると、ただでさえ暗い空がさらに黒く染まる。
バチバチと威嚇するように電流が鳴る空を警戒するユウ。
そのユウへ雷の柱を落とす。
雷はまっすぐユウへ向かっていき、その身を灰にする……はずだった。
「変身」
雷が当たる直前、ユウはそうつぶやいた。
突然巻き荒れた衝撃波に、雷はかき消されてしまう。
風と光が一瞬視界を遮った。
その元にいる人物は、私の知っているユウではなかった。
目は赤く、左額に角が生えている。
全身に火傷の傷が生々しく刻まれ、黒い紋様が浮かんでいるその姿は、まるで悪魔のようだった。